二十世紀も終わりに近づいたある年のことだ。 この俺、柏木耕一には悩みがあった。 それは、なぜ皆が千鶴さんのことを年増というのか、だ。 千鶴さんはいまだ二十代前半のぴちぴちである。 たしかに、梓は千鶴さんとは違う意味でぴちぴちだったし、初音ちゃんなんかはプレぴ ちぴちという感じだったし、楓ちゃんに至ってはぴちぴちどころかぴちゅぴちゅだったが、 それでも千鶴さんだってぴちぴちなのだ。 それなのに何故……? 「耕一さん」 そうやって夜も眠れずに悩んでいる俺に、ある日、千鶴さんが言ってきた。 「悩み事があるのなら、話して下さい」 千鶴さん、俺は…… 「ちゃららぁ〜、らぁ〜らら〜、らぁ〜らららら〜」 「あ、マカロニのテーマですね。懐かしい……」 年若い読者諸氏のために説明しよう。 マカロニとは、刑事ドラマシリーズ『太陽にほえろ!』の最初の殉職者、早見淳巡査こ とマカロニ刑事のことである。 ちなみに手元の資料によると、マカロニの殉職は1973年、当時はまだ「ベ平連」と いう言葉が通じ、テレビがモノクロだったように記憶している。 「千鶴……さん?」 今、懐かしいと言わなかったか……? 俺は足下で何かがガラガラと音を立てて崩れていくのを感じた。 千鶴さんも自分の失敗に気がついたらしい。 一瞬だけ、顔が「あなたを殺します」モードになった後、まるでそんなことは無かった かのように普段の千鶴さんに戻り、可愛らしくチロっと舌を出して 「てへっ」 と言った。 エルクゥ1999エンディング曲『愛のテーマ』 (『太陽にほえろ!』メインテーマのスロウバージョン)