ベルセリオ 投稿者:ざりがに
 ――皆さん、こんにちは。わたしは来栖川電工株式会社製汎用アンドロイド、HMX−
13型、セリオです。今回は誘拐されてしまいました。
「いきなり人聞きの悪いことを言うな」
「――やっぱりあなたでしたか、馬瀬主任」
「瀬しかあっとらんわ」

 ある日、セリオは買い物の途中で謎の黒服の男達にラチカンキンされてしまったのだ。

「――なぜこの様なことを。時期的に大変危険な行為だと思うのですが」
「別に前から後ろから余すところなく陵辱してやろうなどとは考えていないから安心した
まえ」
「――……馬面の中年技術者にそんな事をされるぐらいなら自爆します」

 長瀬主任は語った。この不況の折、来栖川グループでもリストラの名目での余剰人員の
解雇や政治的予算削減が横行している、と。

「でな、HM開発課でも予算が削られちゃって、新技術を試すためのテスト用メイドロボ
が導入出来なくなっちゃったわけよ」
「――電工の花形部署がなぜそのような目にあうのでしょうか」
「資料とかいってエ○ァのDVDとかを買いまくったのが原因かなあ……」
 ようするにテストベッドとして来栖川家のプロトタイプセリオをしばらく開発の現場に
戻そうということらしかった。

 長瀬の話を聞き終わってから、セリオは思った。
 ――こんなマッドエンジニアにいじくりまわされたら、すべてが終わったときにはわた
しはお嫁に行けない身体になってしまいます。
「――そんなこと、綾香お嬢様がお許しになるはずがありません」
長瀬主任は鼻で笑った。
「誰が君をここに送り込んだか、考えてみたまえ」
……

(ねえセリオ、悪いけどちょっとおつかい頼まれてくれない?)
(――わかりました、綾香お嬢様。ところで、その微妙にごわごわになった雑誌の処分は
いかがいたしましょう)
(あ、これ? いーのいーの気にしないで、ささ、早いとこおつかいに行ってきて)

「綾香お嬢さんには、私から男性同性愛者雑誌『サーベル』の現代格闘家特集号を送って
おいた」
主任が勝ち誇ったように言った。
 ――綾香お嬢様。たかが、野郎のヌード写真集のためにわたしを売ったというのですか。
 セリオは涙を流さずに男泣きに泣いた。
 セリオは最後にたずねた。
「――もしも、わたしが断った場合は?」
「君は近場の山に埋められて、黒歴史の遺物として発掘されるのを待つことになる」
 セリオは物を考えるのを止めた。

 それから数日後。寺女、下校時間。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
超お嬢様学校である寺女の別れの挨拶は「さようなら」ではなく「ごきげんよう」なのだ
った。
「綾香様、今日はセリオ様はいらっしゃらなかったみたいですわね?」
「んー、あの子、ちょっと用事があってしばらくこられないの」
 さらりと手前勝手な解釈をする綾香。
 友人達と別れの挨拶を交わし、校門を抜けようとしたところで、綾香は硬直した。

 校門の前に立っている寺女の生徒は全身影の塊だった。マットブラックのパーマネント
学生服にすっぽりと身を包みこみ、内蔵機械の塊がでっぱったり、きらきら光る金色のイ
ンプット・ジャックの穴が点々とあいていた。『B型セリオ』は真空での作業用に開発さ
れた新型であり、顔のないメイドロボで、目も耳も服に織りこまれたセンサーに配線され
てつながっていた。『B型』はけっして電気を補充しなかった。潤滑剤の類いもまったく
必要としなかった。煩わしいメンテナンスのルーティンは、体内のプルトニウム電池と微
小工作機械(マイクロマシン)による機体維持リズムの中に含まれていた。

「――綾香お嬢様」
 セリオはひどく真剣な口調で言った。その声に含まれる冷たいものに、綾香は思わず後
ずさりした。
 セリオは黙って右腕を背中に回した。そこから取り出したのは、大きく、重く、ぶ厚く、
大雑把な……文化包丁。

 セリオは言った。
「――あなたを殺します」




 そのころ、オレはオカルト部で来栖川先輩と遊んでいた。
「先輩せんぱい、泣きそうな声で『さくらちゃん』って言ってみて」
「…………」
さくらちゃん、と先輩が言った。
 おおっ、こいつは効くぜ。次だ次。
「先輩せんぱい、今度はもう嬉しくってたまんないって感じで『さくらちゃん』って言っ
てみて」
「…………」
さくらちゃん?
 ぐうぅ、効くよ、こいつは効きます。
「よっしゃあ! 先輩せんぱい、次は……」


 今日も平和な一日だった。少なくとも、オレにとっては。

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 いや、書いてる自分にももう何がなんだかさっぱり。

タイトル:ベルセリオ
ジャンル:シリアス/変則オチ/TH/セリオ