鬼神祭(4) 投稿者:ざりがに
鬼神祭 あらすじ

 機械知性には機械知性の思惑があるのか?

  鬼神祭     ・予告編
          ・デビルマンエルクゥ
  鬼神祭(1)  ・釘入りマルチ爆弾
  鬼神祭(2)  ・シム松原
  鬼神祭(3)  ・『セリオ』

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「千鶴姉、後ろっ」
目の前の鬼に集中していた千鶴の耳を、梓の緊迫した声がつらぬいた。
 千鶴は咄嗟に両手を地面につくと、逆立ちの要領で足を跳ね上げ、後ろから襲ってきた
鉤爪を受け流した。
 挟み撃ちに失敗した二匹の鬼は、身の毛もよだつ咆哮を上げ、もう一度千鶴に向かって
襲いかかり……

「……千鶴姉」
五分後、千鶴と梓は足下に転がる二つの死体を見下ろしていた。
 場所は老朽化により取り壊しが決定した団地跡。いまやまったく人気のないこの場所で、
先ほどまで人外の者どもの戦いが行われていたのだ。
 梓が何を言いたいのかはわかっていた。千鶴は黙って死体を調べ、表情一つ変えずに首
を振った。
 姉が示した無言の答えを、梓は誤解しなかった。梓は怒りと焦燥が混じった思いで、拳
を手のひらに叩きつけた。
「くそ、……もうこれでぶっ殺した鬼は五匹目だ。どいつもこいつも耕一じゃない。一体、
何が起きてるっていうの?」
 返事を期待していなかった梓の問いに、千鶴はゆっくりと面を上げた。そして……
「耕一さんは、鬼を、増やしているんだわ」
太陽が東から出るのと同じぐらい当然のように、そう言った。



 綾香から浩之のもとに召集がかかったのは、坂下が行方不明になって一週間が経ってい
た、いつもの、土曜の放課後だった。
「男だろ?」
 坂下が何か事件に巻き込まれた可能性があるという綾香の考えを、最初、浩之は一蹴し
た。
「あいつにもやっぱ男がいてさ、なんか、逃避行がしたくなったんだよ、若気の至りで」
 それに対する綾香の答えは、「いなくなったのは、あの、坂下好恵よ?」というものだ
った。浩之は少し考えた……。
 どこぞの安いラブホテル。裸でベッドに横になった坂下が、上掛けをあごまで引き上げ
て、期待に満ちた表情で、シャワーを済ませた男を待ち受けている……。
 なるほど、ないな、こりゃ確かに。
 浩之が綾香の言葉に納得している横で、葵が何か言いたそうな顔をしたが、結局、何も
口にはしなかった。
 というわけで、第一回坂下好恵失踪対策会議が開かれた。
 場所は、駅の近くのファミリーレストラン。
「じゃ、紹介するわね。こちら、週刊レディジョイの記者の、相田響子さん。前に、エク
ストリーム優勝のときに、インタヴューを受けてるの」
「ええと、こいつは、長岡志保。馬鹿。でもゴシップ気味の情報には強い」
「ちょっとお、誰が馬鹿ですってえ?」
 学校帰りの中高生あふれるファミレスに、浩之達は集まっていた。
 集まったのは、坂下が失踪した日に直接、坂下に会っている、浩之、綾香、葵の三人に、
綾香が連れてきた相田響子という雑誌記者、浩之がなんかの役に立つだろうと連れてきた
同級生の長岡志保、『お嬢様のご友人が行方不明』で、お嬢様にも何かあっては大変と心
配している馬面の執事セバスチャンの計六人だった。
 お互いの自己紹介がすんだ後、事実の再確認と有無を言わさず引っ張ってきた志保への
事情説明を兼ねて、この集まりが現在行方不明の坂下好恵を見つけるために情報を集める、
あるいは情報を元にして実際に坂下を探し出そうというものだということが綾香によって
語られた。
「坂下さん? ああ、今失踪中の。んなの、男に決まってるじゃない、他に女が失踪する
のにどんな理由があるっていうのよ、はい、決定。男よ、オ・ト・コ」
「……」
「……」
それを聞いた志保の反応は、浩之のものとまったく同じだった。
「な、何だよ」
浩之には、綾香と葵の視線が痛い。いきなり場に気まずい空気が流れ始めた。
「ちょっと、いいかな」
その場の雰囲気が悪くなりかけたとき、とりなすように話題を振ってきたのは、セバスチ
ャンを除いてこの場で一番年上の、雑誌記者の相田響子だった。
「綾香さんからこの話を聞いたときに、ちょっと、気になることがあったんだ」
響子は言った。目が真剣だ。どうやら場の空気を察して口を挟んだのではなく、何か大き
いことをつかんでいるような声と口調だった。
「最近、このあたりでほぼ同じ時期に二つの事件が起きてるんだ」
響子はいかにも重要なことを言うように、声を潜めた。自然、浩之達も居住まいを正す。
「ひとつは、その坂下さんもそうなんだけど、このあたりで最近急に行方不明者が続出し
ていること。これは行方不明者に横のつながりがないことでお互いにわからないんだけど、
ちょっとこれを見て」
響子はかばんからハードコピーを出して、浩之達に回した。
「これは……」
浩之達は驚いた。自分達の周りで、知らない間に、こんなにたくさんの人間がいなくなっ
ている……?
「それが、ひとつ。もうひとつは、最近、このあたりで噂になっていること」
「あ、それ、知ってるぅ」
志保が素っ頓狂な声を出した。
「ねえ、それって狼男の話じゃないですか?」
「なんだよ、狼男って」
「あんた、知らないのお? 最近、このあたりで、夜、人ん家の屋根の上を走る狼男を見
たっていう噂」
「そう、その話。それで、これ、おんなじ出版社の月刊アトランティスの編集部から借り
てきたものなんだけど……」
相田はこの場にいる全員に見えるようにテーブルに写真を置いた。
 セバスチャンを除いた皆が頭を寄せるようにしてそれに見入る。
「……なに、これ……」
綾香が言った。
 薄暗い照明のもとで、望遠レンズで撮ったのか、その写真は半ばぼやけ、被写体は完全
にシルエットになっていた。
 一見、それは人間に見えた。胴があって、手が二本、足も二本。だが、これは、本当に
人間だろうか。ごつごつとした、岩を削ったかのような四肢。舞い広がる、獅子の鬣のよ
うなこわい髪。脇に抱えているのは、身体のバランスから見て大人のようだが、それを抱
えるシルエットとの体格差から、まるで、子供のように見える。
「これ、好恵さん……?」
葵が言った。

 写真には、月をバックに、坂下好恵を抱えた異形の『何か』が写っていた……。

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ども、ざりがにです。最近アル中です。人生だらだらやってます。
ss、なんか結構感想とかもらえて嬉しかったり。

> 里茄野のわく さま
> 爆弾はしょり込まされたメイドロボのとこ すごいスキでした。
そうなんだ! 俺が本当に書きたかったのはそれなんだ! (魂の叫び)
せんきゅーです。

> 狗福 さま
> 『○神』
これ書いたとき、俺は
『グッドラック 戦闘妖精雪風』
を読了した直後だったっす。

> UMA さま
> 3話で終わりなんすか?
すんません、一応もうちょい続くかと。あるいは俺がだるくなってばっくれる?

んでは、今回はこんなもので。