鬼神祭(2) 投稿者:ざりがに
鬼神祭 あらすじ

 暴走する最強にして最凶の鬼、柏木耕一。彼は、自らの生存のために、世界を削る。

  鬼神祭     ・予告編
          ・デビルマンエルクゥ
  鬼神祭(1)  ・釘入りマルチ爆弾

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 ……土曜の放課後の部活を終えて、胴着から制服に着替えたところで、坂下好恵はふと
後輩の松原葵を訪ねてみようという気になった。
 葵の空手部入部を賭けた、あの、浩之と綾香立会いの野試合の後、坂下は時間を見ては
葵の格闘技同好会に顔を出すようになっていた。
 格闘技同好会の練習場は、学校裏の小さな山の、さびれたお堂の敷地にあった。
 だらだらと長い階段を上って行くと、お堂の脇の林の中から、葵がサンドバックを蹴っ
ているらしいばしん、ばしんという快音が、木々の匂いと共に漂ってきた。
 坂下は思わず微笑を浮かべ、葵に声をかけようとして、そこで葵の練習を見る寺女の制
服を着た来栖川綾香を見つけた。
「……」
 どうやら今日は日が悪いようだった。どうも綾香は苦手なのだ。葵に会うのはすっぱり
諦め、坂下はその場で反転をした。瞬間、
「あれ、坂下じゃん、なんで帰んの?」
「……」
 そこには、葵の格闘技同好会仲間の、藤田浩之がビニール袋を手に立っていた。


「好恵もひどいわねぇ、私を見たら帰っちゃうなんて」
「うるさいわね」
「あ、あの、好恵さんも綾香さんも喧嘩しないで……」
「いやいや葵ちゃん、あれがあの二人の愛情表現なんだって」
 葵が練習を終えてから、四人はお堂の境内で浩之の買ってきたソフトドリンクを片手に、
雑談モードに入っていた。
「なによ、その愛情表現って」
坂下の声には険がある。こめかみのあたりに微妙に血管が浮いていた。
「そうなのぉ、私好恵を愛してるのよぉ」
逆に綾香の声は華やかだ。顔には坂下をからかうのが楽しくて仕方がないという表情が浮
かんでいる。
 坂下は頭を抱えてうつむいた。さっきからずっとこの調子で綾香と浩之にからかわれて
いるのだ。それを見て浩之は更なる軽口を叩こうとしたが、顔を上げた坂下の目がマジだ
ったので話題を変えた。
「それにしてもさあ、綾香といい、坂下といい、こんだけ葵ちゃんの面倒を見てやろうっ
て連中がいるのも、やっぱ葵ちゃんの人徳だよなあ」
「せ、先輩……」
いきなり矛先を向けられた葵が少し慌てる。さっきから年上の人間が余りに友好的でない
空気を発しているため、一人口を挟めないで焦っていたのだ。
「葵ってなんだか、母性本能をくすぐるというか、『育てたいっ』って思わせる雰囲気を
持っているのよね」
浩之の意図を察知した綾香が口を合わせる。綾香も坂下の発する暴走前の人型決戦兵器の
ような空気を敏感に感じとっているようだ。
「葵っちって感じ?」
浩之が言った。
「わ、私、下の世話まではしてもらっていませんっ」
「すくすく犬葵ってのは?」
綾香が言った。
「わ、私、それのもとネタ知りませんっ」
 そのとき、それまで不気味な沈黙を守っていた坂下が、ぼそりとなにかをつぶやいた。
「え?」
と、思わず聞き返す三人。
 坂下は言った。
「シム松原」

「……」
「……」
「……」
「な、何よ」
 どこかでカラスが鳴き声がした。あたりには非常に気まずい空気が満ちていた。
 その沈黙を打ち破り、
「シム……ですか」と、葵が言った。
「……渋いわね」と、綾香が言った。
「…………アニキ」と、
「なんで女の私がアニキになるのよっ」
 ばきぃ!
「はうっ!!」


 帰り道。
 いつのまにやら日は落ちていて、あたりは暗くなっていた。
 一定の間隔でつづく街灯の下を、坂下は普段より足を速めて歩いていた。
 あの後、気絶した浩之の処遇をめぐってしばらく論議をした結果、結局三人の中で唯一
浩之の家を知っている葵が送って(運んで)いくことになった。
 綾香はヤクザか馬にしか見えない執事の運転する高級車を迎えに来させ、坂下を家まで
送ろうかと提案したが、坂下はそれを遠慮した。
 あんな風に馬鹿をやるのは、いったい、何年振りだろう、と坂下は思った。
 普段から、坂下はどうも真面目で堅物すぎるきらいがあり、それに空手が加わって、い
まや坂下に軽口を叩こうなどという人間は皆無に近い。
 それなのに、と坂下は思う。
 それなのに、連中は平気で自分をからかってくる。馬鹿で、愛すべき連中だ。
 そこまで考えて、坂下はこの自分らしくない考えに苦笑する。坂下は、自分があの葵と
の野試合に負けてから、周囲に以前より丸くなったと評されている事実を知らなかった。
 坂下は、以前よりいい顔で笑うようになったと。


「……高校生か」
突然、それまで人の気配もしなかった方向から声がして、坂下は反射的に振り向いた。
 坂下が目をこらす中、暗がりの中から出てきたのは、人好きのする顔をした、二十歳そ
こそこの、まだ、若い男だった。
 坂下の背筋に悪寒が走る。男は、特に敵意のある態度をとっているわけでもないのに、
まるで野生の大型獣のような空気を自然にその身にまとっていた。
 まさに、鬼気、としか言いようのない気配。
 坂下は思わず構えを取った。恐怖による自己防衛反応だった。
 だが、男はひるんだ様子も見せず、
「……しかも格闘技をやっている。同族に迎えるのにおあつらえ向きだ」

 そこには、かつて、柏木耕一の名で知られていた鬼がいた……

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ざりがにです。

鬼神祭(1)で段落の頭をひとつ下げるのを忘れてました。読みにくくてすみません。

今回、ベルセルクにならって悲劇の前の喜劇を書こうとして、
自分にはライトな話が書けない事を思い知らされました。
でも話の進行上必要なので投稿してしまう。

あ、いしをなげないでっっ