サービスデー2ndイグニッション  投稿者:七草武光


そう、その計画は深く静かにその時を待ち、

……そして唐突かつけたたましく始まった。

「浩之ちゃん浩之ちゃん浩之ちゃん浩之ちゃん浩之ちゃん!」
「落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!」
(※)「んもう、浩之ちゃんったら『おちつけ』なんてエッチ…」

べしっ!

「あう」
「だまれえっ!!」

ぴた

「おすわり」

したっ

「まて」

うー

「…………よし」

「浩之ちゃん浩之ちゃん浩之ちゃん浩之ちゃん浩之ちゃん!」
「だから落ち着けぇ!!」(※)

(※)〜(※)以下3回繰り返し


「…で、結局何なんだ」
「これを見てっ!」

びしぃ!

「これは何!?」

いや、何といわれても……

「かれんだー」
「そうじゃないの!」

いや、どう見てもカレンダーにしか見えないんだが。

「カレンダーじゃないのか?」
「カレンダーはカレンダーだけどカレンダーのここ!!」
「……この赤い丸印か?」
「そう! この日が何の日だか知ってるのっ!?」
「え? え?」

な、何の日だったっけ? ――あかりの誕生日じゃないし。
んー
んんーーー
んんんーーーーー


「わからん」
「……ほんとに?」
「な、なんだよ。いったい何の日だ?」
「……この日はね」
「お、おう」

「『浩之ちゃんサービスデー』なのでしたぁ!」

げしっ!!

「ふぎゅ! ……なんでぶつのぉ?」
「反論不許可」
「というわけで」
「何がだ」
「今日はごちそうです」
「人の話しを」
「お楽しみに」


かくして、


テーブルに並ぶ二人前の食器。

ひとつはもちろん俺の。
そして台所から流れる楽しげな二つの声。

……計算が合わない?

そんなこたぁない。

「マルチちゃん、これ電子レンジ入れて」
「はぁい」
「時間は5分ね」
「はぁい」

……な。

しかしまた

「くぅーっきん、くぅーっきん、くぅうーっきぃん」
「せっせせっせ」
「あなたにぃ届けっ、恋の味っ」

……合いの手担当ってのは、ありなのか?
…あ、いやなんでマルチが

「くぅーっきん、くぅーっきん、くぅうーっきぃん」
「せっせせっせ」
「あなたにぃ届けえー

(ちーん)

恋の味ぃー」
「「できたぁーっ!」」

今の『ちーん』は計算か? 計算なのか?
…いやだからね、俺んちの台所で夕食の支度をしてるかという……

「どうしたの? 難しい顔して」
「いやな、何でマルチがいるのかなぁ、と…」
「あ、そのこと? それはね……」

3、2、1、きゅー

「お待たせしました。私が炎の料理人、三つ星シェフの神岸あかりです」
「あなたのプリティーエンジェル、アシスタントの雨宮マルチですぅ」

分かったような分からんような……だがまあ、

「マルチ」
「はい?」
「いいのか? 降板させられるぞ」
「えええ!? あかりさん、そうなんですかぁ!?」
「………マルチちゃんたら、そんな訳ないじゃない」
「今の1.2秒の間は何ですかぁ!?」
「さ、浩之ちゃん今日はご馳走でしょ?」
「ああっ、今日のあかりさん話の進め方が強引ですぅ!」

だよなあ、何かあるのか? …気になる、すごく。

「はぁい、浩之ちゃん」
「お、おう」
「ご飯と」
「おう」
「おみおつけと」
「おう」
「んなぁんまぁんたぁんまぁんごぉ」

……。

「……なんだって?」
「…だから、ご飯と、おみおつけと、んなぁんまぁんたぁんまぁんごぉ」
「……ああ、生卵か。しかしなぜに鼻濁音?」

もぐもぐ

「うふふぅ」
「だからな」
「で、きんぴらごぼうと」
「おい」
「ふろふき大根と」
「こら」
「んなぁんまぁんたぁんまぁんごぉ」
「いや、生卵はもういいって」

もぎゅもぎゅ

「サーモンのポテト包みと」
「…」
「和風ハンバーグと」
「……」
「んなぁんまぁんたぁんまぁんごぉ」
「だからもおええっちゅうねん!!」

ばくばく……

「ええい、こんな小ネタでは埒があかないわっ!」
「何の話だっ! …って言うか研ナオ子にあやまれ!」
「マルチちゃん!」
「は、はいっ!」
「って……おわあっ! 何でいつの間に裸でテーブルに乗ってるっ!?」
「女体盛りっ」
「何も乗ってないぞっ」
「今から盛りつけっ……ていっ!」
「!!」

ずだんっ!………ごろごろごろ……げすっ

あー……

「あかり」
「なに」
「女体盛りでな」
「うん」
「てんぷらは普通しない」
「……ああっ」
「そう」
「クッキングペーパー敷くの忘れた!」
「そうじゃないっ!」
「ええいこうなったらわかめ酒を……」
「それもマルチか?」
「うん」
「ないぞ」
「……」

ががーーーーーーーーん

「盲点だった……」

しかし今日のマルチは『ガ○の使い』の山崎某並みのヨゴレっぷりだな。

「こうなれば……」
「まだあんろはっ……っれあれ?」
「ふふふ……風下に立ったがうぬの不運よ」
「ら……らり(何)?」
「こんなこともあろうかと、食事にしびれ薬を盛っておいたんだよ」
「からむひはらんれえらひ(風向きは関係ない)……」
「さあ、食してもらおうか、あかりと!」
「マルチの!」
「「あかマル丼!!」」
「しかも『どんたれ』はちょっと塩味強め!」
「はわわわっ! ただのきれいなミネラル水ですうっ!!」
「ひいいいいいぃ!!」


一輪挿しが ありました
くすんだ竹の一輪挿しに 牡丹の花が揺れていて
悲しい悲鳴の そのあとに
牡丹の花が 落ちました
ぽとりと静かに 落ちました




3ヶ月後―――

「浩之ちゃん、……できちゃった」
「あはは…あの赤丸…あー…生んでくれ生んでくれ……」

めでたしめでたし


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