不思議の国のス○ードセリカ  投稿者:七草武光


文化祭、高校生ならば誰でも通る必須イベントだ。
いつものようにリムジン待ちの日向ぼっこをしている芹香を見つけた浩之は、
これもまたいつものように隣に腰掛けてのどかな会話を楽しんでいた。

「だいぶ肌寒くなってきたなあ」

そうですね。

「先輩、今年の文化祭は何か出展するのかい?」

はい、お店を出そうと思います。

「へえ、店出すんだ、おまじないグッズの店かなんか?」

いえ。

「え、じゃあなんの?」

お薬屋さんです。

「薬屋…って薬局? ……そんなの良く許可がおりたな」

はい、準備委員会の方や先生方にはためしに薬を飲んでいただきました。

「……」

そうしたら皆さん『はらしょー、とても……

「…もういい分かったみなまで言うな」

そうですか……

願わくば、未来の人類が平和でありますように。
浩之はそう思わずにいられなかった。



いよいよ文化祭当日。一般会場間際の学校である。
浩之は万感の期待と一抹の不安を胸にオカルト研の出展場所に向かった。
……そこには

「ほう」

そう、そこにはパステルカラーの無邪気にまるっこい文字でこう描かれていた。

『まじかる+ドラッグ』

ちなみに真ん中の『+』は緑十字だと思っていただきたい。
さらにその下にはこう書いてあった

『あなたの健康と幸せをお祈りします』
『よろず相談承ります』


実際こんな薬局があったら入りたくはないよな。


「ちわー」

中に入ると、上機嫌で大釜をかき回している芹香の姿があった。
どうも浩之の訪問に気づいていないらしい。
なにかつぶやいている。
何だろうと、浩之が耳を済ますと、


♪わたしセリカ 17歳
魔道のエンジェル
闇色の笑顔を
そっと あなたにド・ー・ピ・ン・グ♪


おお、こ、これは!
実に久しぶりの魔女っ子アニメでありながらまったく人気が出ず、
売れ残ったおもちゃが『ビュー○ィーセ○インアロー』と名を変えて
後番組である某赤頭巾魔法少女に無理やり使用されたという
伝説の……!!


くるり……

振り向いた芹香。

……詳しいんですね。

……浩之は、芹香のジト目を初めて経験した。


かくして、薬局『まじかる+ドラッグ』は開店した。
以下にその就業記録を記載する。

10時37分
お客第一号現る。
見るからになよなよした喫茶店のバイトで平凡な味のケーキでも作ってそうな
感じの大学生くらいの男だった。
「あの……」
声もしゃべりも軟弱だった。
「僕……もっと男らしくなりたいと思ってるんだけど……できますか?」

了解です。

「え……できるんですか!?」

はい、少々お待ちください。

2分後、再登場した芹香はなぜか看護婦姿だった。

「え……あの……」

この注射で一発です。

「いや……あの……ぼく、注射は……」

ぷす

問答無用だった。

3…2…1…ふぁいあ

べきべきべきべきべきっ……!!

おおっ!
腕が、脚が、胸板が、全身の筋肉が不自然な勢いでぐんぐんと盛り上がって行く。

「きんにぃぃぃぃぃぃぃぃくううううう、ぶあんちょぅうおうおうおうおう!」

意味不明の奇声をあげながらその「元」軟弱男は猛烈な勢いで駆け去っていった。
大成功である。


11時55分
お客第二号。無口でおとなしそうで暗そうで怪しい画風の同人漫画でもかいてそうな
女の子である。

「……」

……。

「…………」

…………。

そっ

なにやら小ビンを手渡す。
どうやら意思の疎通ははかれているようである。

「あ……その小ビンは」
そう、それは浩之にも見覚えのある小ビンであった。

にやり

口元にかすかに笑みを浮かべて、その女性は去っていった。
大成功……らしい。


12時19分
お客第三号。
まあ基本的に3人目は落ちと決まっている。
そして予想どおり落ちにふさわしい人物が現れた。
「あ、あの、ちょちょちょちょっといいかしら?」
とやってきたのは年の頃は22、3くらいのひ……いやスレンダーな女性だ。

何でしょう?

「あのね、あのあのあのあのあのあの」

方舟?

「そそそそそうじゃなくて、あの……」

はい?

「む……胸を大きくする薬あるかしらっ!?」

ありますよ。

……あるのかっ!?

「ほほほほほほんとっ!?」

はい。ですが……

「ですが……何?」

これは塗り薬なので……奥へどうぞ。

「は……ハイッ、先生!」

高校生相手に先生もないもんだ。
2人はそのまま奥へと消え……

……ほどなくして。

「これで大きくなるんですねっ!」

はい、2、30分もすればぼんばぼんです。

「ぼ……ぼんばぼん……うふふふふ」

不気味な薄笑いを浮かべながらその女性は去っていった。
まさに大成功である。




「すごいな先輩」

何がですか?

「胸を大きくする薬、なんていつの間に作ったんだ?」

作ってません。

「え?」

簡単に手に入りますから。

「…………あの先輩?」

何ですか?

「あの薬って……何?」

……漆です。





あんぎょうぇわああああああああああぅ

魂を震わす咆哮が聞こえたのはまさにその時であった。
天を蛾が、地をダンゴムシが埋め尽くし……そして……





1999年11月、人類は、絶滅の危機に直面していた。
核兵器をはるかに超える超エルクゥ兵器が、世界の半分を一瞬にして消滅
させてしまったのだ。
地球は、大地殻変動に襲われ、地軸は捻じ曲がり、
5つの大陸はことごとく引き裂かれ、海に沈んでしまった……。