炎のさだめ 投稿者: 七草武光
たったったっ・・・
ふぅっ。

もう陽はとっくに沈んで、半分よりちょっとかけた月が雲間に見え隠れ。
ロードワークを終え、一息入れる。
流れ落ちる汗をタオルでぬぐって。
いよいよ明日は・・・・・

葵はあたしの想像を超えて強くなっている。
ちょくちょく浩之のところに遊びに・・・こほん、
葵の様子を見に行ってあたしはつくづくそう思った。
もしかしたら、実力は、もう・・・。
でもね、葵。
あたしもそう簡単に負けてやるわけにはいかないのよ。
・・・・・そう、ゆずれないの・・・簡単には。

・・・・・・。
さぁて、ひとっ風呂浴びたら今日は早めに寝るとしますか。

姉さんの部屋の前。
そういえば、姉さん最近よく笑うよね。
・・・ふふ。
ひょっとしたら、姉さんが最大の敵、かもね。
・・・・・壊せるのかな、あたしに。
葵との、姉さんとの、・・・・。
・・・でも、それでも・・・
「浩之・・・。」


ちりーん
「・・・・・。」
「うひゃらうぇらひぃぃいぃぃ!ねねねねね姉さんっ!!」
いつのまにか背後に姉さん。それにしても・・・。
「ちょっと姉さん!白装束に鈴もって何してんの!!」
「・・・・・。」
「最近は東洋魔術も研究してるぅ!?・・・はぁ。」
どっちかって言うと四国八十八ヶ所巡りよ、それ。
「で、あたしに何か用?」
「・・・。」
「え?・・・うん、明日試合だけど。」
「・・・・・。」
「お風呂?ううん、これから汗流そうと思ってたところだけど。」
「・・・。」
「姉さん特製のお風呂?あたしのために沸かしてくれたの?」
特製ねえ。薬草湯かなんかかしら。ちょっと面白そう。
「うん。ありがとう、姉さん。ありがたく入らせてもらうわ。」
姉さん、優しいね。・・・・本当に。

お風呂場にはなんだか不思議な香りが立ち込めていて。
でもあたしの予想に反して湯船には薬草の類は浮いていなかった。が・・・、
「ふーん、なんかほわほわ青白く光ってるみたいだけど、入浴剤かなんか
入ってるの?」
「・・・・・。」
「え?もっと良いもの?反応速度と運動能力が飛躍的に増大する成分、ねぇ。
まあ話半分に受け取っとくわ。じゃあ光ってるのはその成分のせい?」
「・・・。」
「そうなんだ。・・・でもこれ血液検査とかに引っかかったりしない
でしょうね。」
あたしは冗談混じりにそんなことを聞いてみた。正直ちょっと怪しげだ。
「・・・・・。」
「絶対大丈夫?まあ確かにお風呂につかるだけなんだから血液検査なんか
には引っかかんないわよね。・・・・え?ドーピングなんかしない?
お風呂の効能で潜在能力を目覚めさせるだけ?まあそう言えばそうなんだ
ろうけど・・・。」
でもこう言うのはなんか気が引けるって言うか・・・・・。
「・・・。」
「・・・え?早く入れって?はいはい、分かりましたよ。」
せっかくの姉さんの厚意、受けないわけには行かないわよね。
まあお風呂の効能なんてたかが知れてると思うし。
気休めと思って入りますか。

ざぶぅぅぅぅん

「んんんんんっ・・・。これ結構気持ち良いわね、姉さん。なんか体中に
あったかさがしみ渡るって言うか。」
「・・・・・。」
「『芹香特製ジジリウム風呂、たっぷりお楽しみください』?・・・ああ、
ジジリウムっていうんだ、この成分。・・・はいはい、たぁっぷり楽しませて
もらいますよー。」
姉さんは満足そうに微笑むと湯気の向こうに消えていった。


「・・・・・ふぅ。」
ちゃぷん


・・・・・・。


「いっやぁぁぁぁぁぁ!ジジリウム風呂なんて冗談じゃないわよってなんで
ドアに鍵がかかってんのよちょっとちょっとちょっと姉さん姉さん姉さんっ
開けてやめて出してとめてゆるしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」



来栖川の家には、酸の雨が降る。
綾香が『完璧な戦士』になれたかどうかは、定かでない。