えるくぅ家族カシワギ2〜『大特訓』の巻〜 投稿者: 七草武光
「おーい、耕一。」
まったく、あの野郎どこほっつき歩いてやがる。
醤油が切れたから買ってきてもらおうと思ったのに。
まったく、いっつも家でごろごろしてるくせに、肝心なときにいやしない。
初音も楓も家にいないんだ、こんな時ぐらい役に立て。

・・・あん?

千鶴姉の部屋で話声がするな。耕一かな?

がちゃ

「おーい、千鶴姉、耕一、いるか?」
「きゃっ!」

・・・・・な。

「ちょっと梓、ノックくらいしなさい!」
・・・・・テニス・・・・ウェア?

「よう、梓。」
耕一はジャージの上下。

・・・。
「いめくら?」
「ちっがーーーーーーーう!!」
「耕一はこういうのが・・・」
「だから違うと言うとろーが!!」
「それで・・千鶴姉を・・・毒牙に・・・」
「だーーーかーーーらーーーっ!人の話を・・」


打擲【ちょう・ちゃく】
     打ちたたくこと (類)殴打


「あ・・・・が・・・・ぐ・・・」
「聞く耳持たぁぁぁぁぁぁん!!!この変質者がぁぁ!!」
耕一は反論しない。自分の罪を認めたのだろう。
「違うの、梓、本当に違うのよーー!」
「あ?」
「耕一さんが、特訓するにはまず形からって・・・。」
「特訓だあ?」
「うん。」
「いったい何の。」
「・・・・・お料理の。」
「料理。」
あたしは思わず反復した。
「だから、俺がさっきから違うと・・・」

ごすっ

「お・・・ぐ・・・」
「料理の特訓で何でテニスウェアになるんじゃ!」
「・・・特訓と言えば、」
ちっ、結構しぶとい。
「言えば?」
「古来より、このスタイルが伝統!そう、千鶴さん、いやさ千鶴!これからは
俺のことを『コーチ』と呼ぶのだ!そして自らは『エルクゥ夫人』と・・・」

ずずい

「『夫人』?」
「ああああごめんなさいごめんなさい。ただの言葉のあやで。」
なるほどねえ。
耕一め、そうきたか。しかしなあ・・・。
「耕一、お前料理のコーチなんかできんの?」
「ふっ、問題ない。」
肉じゃがに涙流して喜んでたくせに。
「確かに細かい技術的なことを教えるのは無理。しかし、これから教えるのは
基本中の基本!」
「基本中の基本?」
何だろ?目玉焼き?それとも野菜の切り方?
「いくぞ!千鶴!!」
「はいっ、コーチ!」
千鶴姉もノリが良いな。

すうううう
こういちは、静かに深呼吸。そして、
「塩はぁぁぁぁ、しょっぱぁぁぁぁい!!」

・
・・
・・・
・・・・え?

「砂糖は、あまぁぁぁぁい!!」
「酢は、すっぱぁぁぁぁい!!」
「茶は、しぶぅぅぅぅぅい!!」
「薬は、にがぁぁぁぁぁい!!」

ふらっ
あたしは本気で立ちくらみがした。
・・・基本って。おいこら。
千鶴姉も、真剣にメモとるなよ・・・頼むから・・・。

「とりあえずこれが基本だ。いいかー、先生これからテストするぞー。
ノートは閉じろー。」
「はいっ」
「では・・・、砂糖は!?」
「・・・・にがいっ!」
「ばかものぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉ!」
ぱしぃぃぃぃぃぃん!!
「あっ」
「もう忘れたか、砂糖は、甘いだっ、分かったか!!」
「はいっ、すみません、コーチ!」
・・・うああ。
「さあ、どんどん行くぞ!」
「はいっ」

・・・・・・

結局、基本をマスターするのに2時間かかった。
・・・あたし・・・こんなのの・・・妹・・・

「ぜぇ、ぜぇ、こ、これで基本はマスターしたな。」
「はぁ、はぁ、は、はいっ、コーチ!」
「では、次は応用行くぞっ!」
「はいっ、お願いしますっ!!」
まだやんのおおおおお!?
「では・・・これはどんな味だっ!?」

ずばんっ!!!!

レモン。

「・・・。」
だからおい・・・悩むなって・・・
「さあっ!!」
永遠とも思える数瞬の後。








「・・・・・・・・かゆい」



「俺は千鶴さんを幸せにすることはできなぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
「ああっ、待って、コーチィィィィィ、みすてないでぇぇぇぇぇ!」

・・・あたし・・・出てく・・・こんな家・・・。

(終末)