えるくぅ家族カシワギ 投稿者: 七草武光
日曜日。
もうご飯の時間。
・・・でも、誰も呼びにこない。
どうしたのかな。

とたとた。
「・・・。」
茶の間に来てみると。
あれ?
ご飯の支度、してない・・・。
もう食べちゃった?
だとしたら・・・・タダジャオカナイ・・・
「・・・」「・・・?」「・・・!」
あ・・・。台所で話し声。
・・・ひょい。
「あの・・・、」
「あ、楓お姉ちゃん。」「楓ちゃん。」「楓。」
あ、初音。耕一さんに、千鶴姉さんも・・・。
「どうしたんですか?」
「いやね、今日は梓のやつ部活で遅くなるから、お昼は冷蔵庫の作り置き
レンジで温めて食えって、言ってたじゃない。」
と、耕一さん。
「あ、そう言えば、そうですね。」
「・・・でもね、」
初音が困ったように言う。
「でも?」
「冷蔵庫が開かないの。」
・・・え?
がちゃがちゃ
ほんとだ。開かない。
「・・・あ、そう言えば。」
「なに、楓ちゃん?」
「ひょっとしたら、あの事に関係しているのかもしれません。」
「あのこと?」
「ええ、昨日・・・」

(回想シーン)=======

「おなか、空いたな。」
そう思った私は、夜食を探しに台所へ行った。
「おせんべ、あるかな。」
戸棚には何もなかった。
「冷蔵庫には・・・」

鮭・・・
お豆腐・・・
しめじ・・・
「・・・。」


くつくつ・・・
「お鍋・・・。」

・・・あ、味付け、忘れてた。
調味料は・・・。
確か流しの下の棚に。

醤油・・・
みりん・・・
純米酒・・・
「・・・。」

くつくつ・・・
「熱燗・・・。」

やっぱりこんな寒い日は、コタツに入ってお鍋と熱燗が・・・。

どたどたどた・・・・・!
「未成年が(だんっ!)、酒を(がしっ!)、飲むんじゃ(ぎゅる!)、
なーーーーーーいっ!(ずだぁん!!)」

・・・梓姉さん、ツッコミにフランケンシュタイナーはやめて。
鬼でも痛いものは痛いんだから。

「梓姉さん、胸に似合わず健全なんだから。」
「誰の胸が不健全じゃ!って、ごまかそうとしたってそうはいかんぞ!
ちょっと目を離すと冷蔵庫の中荒らしてくれて、この女食いしん坊万歳が!
・・・ああーーーっ!明日の朝飯にするつもりの材料、全部食っちまいやがったな!
こうなったらもうかんべんならん!!」

ずだん!

「あれ?新しい冷蔵庫。梓姉さん、それどこにしまって・・・。」
「細かいことは気にしない!これぞあたしが来栖川のお嬢さんに頼んで密かに
開発してもらっていた、対エルクゥ用展性チタン製強化冷蔵庫「零」!!」
「どこがすごいの?」
「ふっふっふっ、この冷蔵庫はそれ自身が主と見とめた相手、つまりあたしにしか
開けられないのだ!」
「・・・じゃあ壊す。」
そう言って私は鬼の力を解放し、
ずがん!!
思いっきり殴った。
・・・ぶおん!
一瞬思いっきり形をゆがめたと思ったそれは、
・・・ばん!
次の瞬間にはもう元の形に戻っていた。
「!!」
「ふはははは!見たか!これぞ超展性!この金属にあるまじき歪みと伸び!
変形によって衝撃を分散してしまう!この耐久性!耕一が鬼の力を全開にしてもひびを
入れること極めて至難!今後二度とつまみ食いなどさせないからそう思え!」
「くっ・・・!」
私は敗北を認めた。
「ふっ、あきらめたようだな。・・・まあそれはそれとして、作っちまった
もんはしょうがないから、はやいとこ食っちまいな。」
「・・・。」
くつくつ・・・
「・・・。」
くつくつ・・・
「どうした?早いとこ・・・。」
「私、猫舌だから。」
「だったら鍋なんぞ作るなーーーーーーーっ!」

==============

「と、いうようなことがあったから。それが一つの遠い原因ではないかと。」
「いや、楓ちゃんそれダイレクトにそのまんま原因。」
・・・そうでしょうか?
「そうか。梓お姉ちゃんそのこと忘れて出かけちゃったんだね。」
「ご飯どうしようか、初音ちゃん。楓ちゃんの話だと壊すのも無理だし。」
「どうしよう?」
「・・・耕一さん、材料買出しに行けば・・・あ。」
そのとき、今まで沈黙を守っていた千鶴姉さんの目がきゅぴーん!と
輝いた気がした。・・・まさか、
「じゃあ私がお昼作りますね。メニューもまとまったことだし。」
・・・!今まで台詞がなかったのは作者が忘れていたからじゃなくって、
ずうっと何を作るか考えていたから!?
「いやあの千鶴さん・・・!」
しかし止めるいとまもあればこそ。
からから・・・
千鶴姉さんは買出しに行ってしまった。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・私、友達と約束があるから・・・。」
とたとた・・・。
・・・がしっ!
「「逃がさん。」」
・・・耕一さん。初音まで(泣)。


ぐつぐつ・・・。
地獄の釜が煮えている。
「ふんふんふん♪」
トントントン・・・
千鶴姉さん、楽しそう。
その姿は、今まさに獲物を食わんとする鬼婆の・・・・、
(「楓、何か言った?」「・・・!(ぶんぶんぶん)」)

「・・・でさ、千鶴さん。」
「はい?なんですか耕一さん。」
「き、今日は何作ってくれるの?」
千鶴姉さん、にっこり笑って
「はい、今日はビーフ・カタストロフを・・・、」
「「「ストロガノフ」」」
三人の声が見事にハモった。
・・・でも、カタストロフ(破局)で正しい気がする・・・。
「そ、そうとも言うかな。」
・・・そうとしか言わない。
「で、まずは豚肉を・・・、」
「千鶴さん、千鶴さん!」
「はい?」
「ビーフって言ったら牛でしょ、牛!」
「そう言う場合もありますね。」
「牛ったら牛です!」
・・・・。

ぐつぐつ・・・
だいぶ仕上がったみたい。
「ち、千鶴さん、ちょっと・・。」
「何でしょう?」
「ちょっと味見、いいかな?」
・・・!耕一さん!なんて恐ろしいことを・・・!!
「お、お兄ちゃん!?」
ほら、初音も驚いてる。
「まあ、待ちきれないんですか?くすっ・・・、いいですよ。」
「じゃ、じゃあ・・・。」
そう言うと耕一さんはスプーンにひとすくいすくって・・・。
ああ、耕一さん、命を粗末にしては・・・。
あ。耕一さんいつのまにか金魚鉢抱えてる。
そうか。耕一さんははいわゆる一つの古典的な毒見法を試そうと。
で、金魚が浮いたら千鶴姉さんに文句言って食べずに済ませられる、と。
ぽちゃん。
耕一さんがスプーンの中身を金魚鉢にたらすと。
ぼこぼこぼこぼこ!!
!!!!
「沸いた沸いた沸いた沸いた!」
耕一さんパニック。
しゅう・・・
あ、金魚骨だけ。
「溶けた溶けた溶けた溶けた!!」
初音もパニック。
「ガラス器は平気ですぅ」
いや、千鶴姉さん、そう言う問題じゃあ。
「千鶴さん、鍋!!鍋は・・・!!」
「ホーロー引きですぅ(にっこり)」
姉さん、威張ることじゃない。
「無敵の浸触力!」
「・・・で、それをどうやって食べるの?」
私が聞くと、
「・・・えーと」
「・・・。」「・・・。」「・・・。」
「石灰で中和を・・・。」
「「「食えるかそんなもん」」」
とりあえず中和してからポリバケツ行き。


とりあえず千鶴姉さんの料理という最悪の事態は免れたけど。
結局買い出した材料全部無駄にしちゃったし。
「どうしようか。」(耕一さん)
「どうしよう。」(初音)

「・・・しかたありません、最後の手段です。」
「「「え?」」」
私はそう言うと、
ひゅうううううううううう
鬼の気を冷蔵庫に叩き付けた。
ひゅうううううううううう・・・・・・
・・・・・やがて、
ききぃん!
冷蔵庫の外側が凍りついたのを確認すると、
「えい」
ずどん!・・・ばきぃん!!!
冷蔵庫の扉ははあっさり壊れた。
「こんなこともあろうかと、この冷蔵庫の攻略法は考えておきましたから。
凍らせれば展性も殺せますし。」
「「「・・・。」」」
「さ、食べましょう、耕一さん。」
「楓ちゃん・・・。」
「楓お姉ちゃん・・・。」
「?」
なぜか耕一さんはとても怒ってた。
初音もなぜか反転してた。
身の危険を感じたのでとりあえず逃げた。
・・・なぜでしょう?


「そうか、それは悪かったな。あはは。」
「梓、笑い事じゃないって。」
「まあ、それにしても楓のやつ。どこへ逃げたんだか。今夜は家に
入れてやらないぞ。」



甘い、梓姉さん。
逃げる前にトイレの窓の鍵を開けておくくらいの準備は・・・
・・・それにしてもおなかが空いた。
台所には・・・
あ、あった。テーブルの上、料理、残ってる。
パク。



ぶぴ。
「ななななななななな」
次第に意識が遠のいていく私が最後に見たものは、
『千鶴特製・地球にやさしいリサイクル料理(楓、味わって食べてね)』
とかかれた紙切れ。
・・・・・・・。
千鶴姉さん、それって『残飯』・・・・・・・。

                                                               (破局)