マルチロード 投稿者: 七草武光
今日は土曜日、一週間で二番目に素晴らしい日だ。
一番目はもちろん日曜日だが。
なんか喉が渇いたので中庭の自動販売機でいつものカフェオレを
買った俺の足は、いつの間にやら二階へと向いていた。
理由はない。・・・いや、あるか。

「とおおおおおっ!」
ここは二階の廊下。
今日もまた、俺が二階に足を運んだ「理由」が元気なおたけびをあげていた。
「おー、今日もやってんな、マルチは。」
・・・ちゅー
俺はカフェオレをストローですすりながらマルチの仕事っぷりを見物していた。
「たぁぁぁーーーーーーーー」
をや?
そのとき、俺は妙なことに気がついた。
今日に限って、何故かマルチはモップを二本持っていたのだ。
能率をあげるためか?
でもなんかよたよたしてかえってスピードが落ちているような・・・
・・・まぁいいか。掃除が一段落したら聞いてみよう。
「てやーーーーーーーーーー」
・・・ずずーっ
「とりょーーーーーーーーー」
・・・ずこここっ・・・
「うにょーーーーーーーーー」
・・・・・
「のべっちゃらーーーーーー」
「ひっさぁぁつ!電動ホップアップ(可変)投法!!」

ひゅるるる・・・・・・るるるるっ!ぽぺんっ!!「あう」

(この辺でホップしている)

気がつくと、俺はカフェオレの空パックを
見事マルチの後頭部にくりいんひっとさせていた。

「い、痛いですぅー。」
「・・・いや、そんなに痛がるもんでもなかろう。」
所詮紙パックだ。しかもマルチはロボットだろーが。
「ああ、浩之さん!」
ようやく俺の存在に気づいたか。
「よお、マルチ。」
「あの、ひょっとして、今の・・・。」
「おう、俺だ。」
「・・・ひどいですぅー。」
「そんなに痛かったか?」
「ものが当たったら痛いに決まってるじゃないですか。」
「・・・悪かった。」
どっかのロボット三等兵か、おまえは。

「ところでマルチ」
「はい、何でしょう。」
「おまえ、何でモップ二本なんだ?」
「二天一流です!」
「・・・・・・は?」
とんでもないことを即答したな。
「やはりヒロインたるもの、流派のひとつも極めねばなりません!」
と、むやみにいきり立つマルチ。
・・・・長瀬のおっさんだ。絶対あの馬面道楽主任の入れ知恵だ。
「そしてテーマソングです!」
おいこらまて。
「・・・もしかして、作ってもらったのか?」
「はいっ!」
「・・・・・聞いてほしいんだろ?」
「はいっ!!」
「わかった、歌ってみな。」
「はい、ではまずはナレーションから!」
「・・・凝ってるな。」
「ぽちっとな」
いつの間に耳カバーにラジカセ仕込んだ、おまえは。

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時は戦国乱世の時代
からくり人の住むリーフ国では
あまたのヒロインが群雄割拠していた。
だがしかし、その中にあって無敵の人気を誇る一人のメイドロボの姿があった。
その名はマルチ!
からくり人マルチ!!

「マルチ、けんざんでござるだすぅぁーっ!」
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マルチはポーズを決めていた・・・。



「やめれぉぁーーーーーーーーっ!!」
「ひ、浩之さん?」
「いつのまにか、おまえの声、野沢○子になっとるじゃないかっ!!
しかも、よりにもよって風○左衛門!」
「・・・。」
「ぜぇーっ、ぜぇーっ・・・。」
「・・・。」
「・・・・・。」
「では、オープニングテーマ、スタート!」
「ごまかすなぁあああああああーーっ!」
「・・・でござるだすぅぁーっ!!」
「『ござるだす』って言うなぁあああああーーーーーっ!!!!」

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オープニングテーマ 「マルチMUGEI伝」(歌:子門○人)

乙女は誰でも舞台の真ん中で
一番人気とる日を Ah! Ah! 夢見て
心のモップを大空に振りかざしゃ
ふきふきの夜が幕を開ける
浩之求めさすらうメイド
その名はからくり人マルチ
To! Heart!!
つまずき転ぶけれど 楽しい人生
ときめき昨日よりも今日強い
MUGEI! 「ひどいですーーーっ」 MULTI!!
明日は輝くぞ!
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じゃじゃん♪

「・・・・・終わったか?」
「はい!」
「マルチ」
「はい?」
「二度とするな」
「ええーーーーーっ!?」
「『ええーーーーーっ!?』じゃないっ!!!とにかくするな絶対するな一生するな!!!!」
「ううーーーっ」
すねるな。野沢の声で。



その日、俺はマルチといっしょに帰った。
帰り道でセリオに会った。
・・・セリオは背中にモップをしょっていた。
・・・長い長いモップをしょっていた。
「こんにちは、浩之さん」
そう言ってお辞儀をするセリオの声は、伊倉○寿だった・・・。