−遊撃宇宙戦艦セリオン・第四十二話『戦場(そら)へ』− 投稿者:紫炎 投稿日:11月16日(木)00時43分
 そこは白い牢獄だった。

 この2年(いや3年?)私はここから1歩も出てはいない。

 だがこの牢獄は私のためにあるものではない、ここはこの場には

いない長瀬ちゃんの牢獄だ。私はただ長瀬ちゃんが壊れている

のを見ていくだけだった。

「うん、そうだね。私もそう思うよ…」

 今はただ虚空にいる本当の長瀬ちゃんと話してあげること

だけが救いになると信じている。流れ出た電波はいつしか形を

作り、ここにとどまった。

 電波が魂と同一のものであったことを気付けず、長瀬ちゃんは消費し

続けた。もはや抜け殻である肉体はただ狂うだけ…それでも私は

ここにいる長瀬ちゃんの電波に話し続ける。

 いつかその魂が肉体に帰ることを祈って…



『どうしたの? どうして瑠璃子さんはそんなに悲しい目を

してるの?』





−遊撃宇宙戦艦セリオン・第四十二話『戦場(そら)へ』−





『月島さん、聞こえてますか! ただいま長瀬様からの了承が

出ました。機体のシステムをベータに移行しつつ、オゾム電波パルス

の同調をレベルFに設定して下さい』

「了解した。香奈子どうだ、行けそうか?」

「基本はSKOD−08A<OZ>(オズ)と同じです。ただこの

SKOD−08B<OM>(オム)は長期航行も出来るオズとは違い、

攻撃力重視の強襲型です。スペック自体はオズよりも高いですが稼働時間

は並の機体と同じです」

「了解だ。すぐにでも出撃しよう」

 沙織、瑞穂たちと再会した月島はそのままデッキに上がり、電波使い用の

機体であるオムに乗り込んだ。

「しかし、長瀬君がよくこの機体を貸してくれましたね。絶対断られる

と思ったのに」

「いや、そうでもないさ」

(瑠璃子と僕を離すためなら、あの男はなんでもやるだろうよ)

「?」

「なんでもない。それより…」

 月島は後ろを見る。

「彼女らも来るのかい?」

 そこにいたのは瑞穂ら親衛隊らの機体ODP−01<雫>が12機。

「ええ、瑞穂たちいっしょに来てくれるって言ってました」

「あの機体、初め見るが?」

「一般人でも人工的に電波を発生させられるシステムを組み込んだ最新型

だそうです。それ抜きでも私たちの乗っていたクマデバリスのスペック

よりも高いですよ」

「性能は折り紙つきか、こりゃますます宇宙連合軍の立場ないな。来栖川

の最新鋭は全部こっちに流れてたわけだ」

「緒方さんが知ったら絶句するでしょうね」

 緒方の名前が出たとき月島は緒方理奈の顔を思い出した。

(…気付いたときにはもう…連合はなかったわけか)

「月島さん?」

「ん、いや…そうだな」

『システム、オールグリーン』

 その時、モニターから音声が届いた。

『パイロット<ツキシマタクヤ>、<オオタカナコ>ヲ認証。戦闘パターン

ヲSKOD−08Aト同期シマス。起動後、5分ホド動作ニブレガ生ジマス

ノデゴ注意クダサイ』

 それはオムのコンピュータからの応答だった。

「どうやら発信できるようだ、香奈子頼む」

「はい。こちら形式番号SKOD−08B。ブリッジ、3番ゲートを開けて

ください」

『ブリッジ、了解しました』

 

 ガコンッ



 目の前の扉が開く。

 室内の空気は外に流れ、デッキは真空で満たされた。

 そして目の前には宇宙、そここそが彼らの本来の戦場だ。

「宇宙戦は随分と久しぶりのような気がするな…」

「カンは鈍ってませんよね?」

「さあな」

 機体が電波と共鳴し、月島はある種の恍惚感を感じた。

 世界と一体となる、そんな感覚が月島を支配する…事実

月島は範囲を広げた電波によって周辺10KMにおいての

すべての事象を把握していた。



「くすっ」



「笑ってやがるかよ」

 月島はブリッジにいる長瀬祐介を見ていた。

「だが、今はノッてやる。瑠璃子はその後で返してもらうさ」

「拓也さん?」

「いくぞ、この機体なら耕一のいないジローエモンを叩ける」

「ジローエモンを!?」



『ジローエモンを!?』

「…本気かしら?」

 新城沙織はオムでの通信音声を聞きながらぼやいた。

「どうでしょうか、現在は両軍とも動きはありません。わずか

13体で特攻かければ奇襲にはなると思いますが」

 瑞穂は冷静に戦況を見ながら答えた。

「ですが、この戦力でジローエモンを落とすというのは…」

「無理だと思うけど…」

 実際の戦闘経験のない2人は機体のスペックでしか戦力を測る

ことしかできない。さらに月島の戦闘能力も彼が委員会を去る前

までのものしか知らないのだから、月島の決断があまりにも無謀だと

感じざるを得ない。だが月島とてセリオンでの戦闘で大きく成長

していた。そしてこの機体、オムの能力も考慮しての決断だった。



「さて行くか」



 月島は不敵に笑いながらスロットルをあげる。

 そしてジェネレーターの音がまるで獣の咆哮のようにこだます

ことに満足しながらゆっくりとアクセルを踏んだ。

 



続く…





〜ウンチク〜



SKOD−08B

名称:OM(オム)

 銀のカラーリングをしたオズと同系の電波使い用機動兵器で長瀬祐介

専用機。初期段階よりかなり改良されていてSKOD−08A<OZ>

よりもスペックが高くなっているがその分、ただでさえバランスの悪い

機体がさらに扱い辛くなってしまった。当然、機体の操作などロク

にしたことのない長瀬祐介が扱えるはずもなく現在まで使用されること

はなかった。無論この機体にもODPフィールドを装備しており

防御に関しては完璧を誇る。

 また、戦場においての電波の使い方は通常のソレとは違い、自身で感知

するレーダーとしての役割が多い。この機体は電波使いの能力を増幅する

ことでそのレーダー能力も広げられている。



ODP−01

名称:雫(しずく)

 連合軍が壊滅後、正式採用された電波推進委員会の親衛隊の機体。

この機体はSKOD−08から枝別れしたシリーズで一般人でも人工的に

電波を発生させられるシステムを組み込んでいる。またSKOD−08

で電波使いに感知されたデータをフィードバックして使用することも

可能で、量産型としては驚異的とも言えるスペックを誇る。



------------------------------------------------------------
 アップする感覚がだんだんと長くなっていくような…お久しぶりの
紫炎でございます。次のアップはいつになるやらわかりませんが
またいつの日か〜〜♪

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5164/