−遊撃宇宙戦艦セリオン・第四十話『月島の保険』− 投稿者:紫炎 投稿日:8月16日(水)01時15分
 カッカッカッカッカッ…



 薄暗い通路の中を走り続ける4人、抱えられてるマナを

含めて5人の女の子たちは目標に向かって進んでいた。

「そこを左、その次は右に…」

「了解ッ!」

 はるかの言葉に彼女らは進んでいく。そして辿りついた先は…

「ここって…最初の倉庫じゃない?」

「あ、間違えた…」

「「「はるかぁぁああああああ!!!」」」





−遊撃宇宙戦艦セリオン・第四十話『月島の保険』−





 一方、月島と香奈子はマナの電波を頼りに進んでいた。

「なんで戦艦にこんな隠し通路なんてあるんだ?」

「この戦艦『フィルスノーン』は元は50年ほど前に建造された

船を改修した戦艦ですから。使われてない通路がいくつもある

そうですよ」

「50年前のね、よくそんなロートルなモンを探し出せたモンだ」

 月島は呆れたように呟いた。

「タリスマン2個分ものエネルギー出力をあますことなく使い切る

ことの出来るよう設計された戦艦なんてこの太陽系にこの船一体

だけなんですよ。新しく設計する時間もなかったので仕方なくこの

船を使ったようですね」

「なるほど、それで香奈子…あの子の電波がもう感じなくなって

しまってるんだがここはどこだ?」

「さぁ、さきほども言ったようにこの船は50年前のロートル艦

ですから。こんな細かい通路の資料までは残ってなかったんです」

「つまり…」

「迷子になったみたいです」

「困ったな」

「困りましたね」

 二人は頭を抱えて悩みこんだ。

「…まあアレだ、とりあえず進むか。どこかしら出口はあるだろう」

「そうですね」

「あ〜あ、はるかのせいで完全に分からなくなったじゃない」

「仕方ない。ここの地図はないから…」



「「ん?」」



 月島は声の方に振り向いた。

「あれ、あんたは?」

「キミは?」

 そこにいたのは理奈たち一行だった。

「………?」

「………?」

 そして同時に頭の中で疑問符が浮かぶ。

(なんで女の子がこんなトコに?)

(どこかで…見たような顔ね?)

「えっと…どちら様で?」

「ああ私、月島拓也と申します。今はこの艦のゲストって扱いに

なってるハズだけど?」

「月島…拓也…?」

(ますますどこかで…?)

「あれ拓也さん、そこの女の子の抱えてる子ってもしかして…」

「理奈ちゃん、この人あの幹部の…」



「「あっ!?」」



「さっきのヤツらか!?」

「電波推進委員会の月島拓也っ!?」



 バッ!



 その場にいた全員が一斉に構える。いや一人だけ動かない人物が

いた。

「…戦う必要はないよ」

「はるか?」

「?」

 理奈たちも月島たちもはるかに対して注目する。

「この人からは緒方英二の匂いがする…」

(犬か、アンタは…)

 理奈は一瞬思ったがすぐに月島に視線を向け直す。

「緒方英二? キミらは一体連合の大将とどういう関係なんだ?」

「…それは…」

 理奈は返答に困った。

「理奈ちゃん、この人…戦う気ないみたい」

 緒方英二の名前が出てから目の前のこの男から殺気のようなものは

消えていた、一種親近感すら芽生えているようだ。

「分かってる…けど」

「無駄な戦いは避けたいからな。お前たちの目的が我らに対して

敵対行動をとらないということなら協力してやってもいい」

 その月島の言葉に理奈は不快感をあらわにする。

「そんな言葉が信用できるワケないでしょ、委員会の幹部の貴方の言葉

なんて!」

「彼女を使って殺し合わせることもできた」

 月島は美咲の背負っているマナを指差した。

「それにジャマーを使用してたとしても電波使い相手にこの距離、

勝ち目などあると思うかい?」

「…くっ!?」

「それにオレたちはすでに電波委員会を脱退している、まあ…それは

長瀬君にはめられたせいなんだが」

「…………」

「…理奈ちゃん?」

「…あ〜〜もう、分かったわよ。たしかに殺す気ならとっくに殺られてる

ハズだしね」

 理奈は両手を上げて降参のポーズをした。

「そういうことだ」

「で、何が知りたいのよ?」

「まずお前たちが何者なのかってことだな」

「White Albumって言えば分かる?」

「ホワイト・アルバム?」

 香奈子はその名前に聞き覚えがあった。

「…それって施設潰しの破壊部隊の…」

 だが月島はそんなことも気にせず質問を続けた。

「次は目的だ、お前たちがわざわざこの船に乗った目的が知りたい。

スポンサー(宇宙連合軍)も潰れた今、まさかこの戦艦を落とすつもり

じゃあるまい?」

「…宇宙連合軍指令緒方英二の消息…を調べるために」

 理奈は伏し目がちにそう答えた。

「…なるほどな。だがなぜ、お前たちがそんなことを調べる?」

 月島の言葉に理奈の表情は一変する。

「なぜ…なぜですって?」

「ん?」

 月島はさきほどとは違う理奈の強い口調に多少驚きを覚えた。

「妹が兄の消息を調べるのがおかしいの?」

「…兄?」

 一瞬、何の話か月島は分からなかった。

「…それってまさか?」

「理奈ちゃんは緒方さんの妹さんなんです」

 後ろの由綺が2人に説明する。

「緒方君の妹だって、それじゃあ…」

「私の名前は緒方理奈…兄の緒方英二とはちゃんと血の繋がった妹よ。

で、今度はこっちが質問したいけどいい?」

「………いいだろう」

 月島は少し考えた後、答えた。

「兄さんの行方…貴方知ってるんでしょ?」

「と…いうかな。なあ香奈子?」

「ええ、知ってるも何も…この間までずっといっしょでした

から」

 香奈子が率直に答える。

「いっしょ…それじゃあ兄さんやっぱり生きてるの!?」

「あ、ああ…」

 月島は輝きだす理奈の目に少し戸惑いながら答えた。

「どこ? 兄さんはいったいどこの施設に!?」

「電波推進委員会にはいませんよ、緒方さんはおそらく今セリオンにいます」

「セリオン!?」

 今度は理奈たちが驚く番だった。

「緒方君は連合が敗北してからずっとセリオンにいたんだ。オレたちも

その間はセリオンのクルーだったからな、ある程度は面識もある」

「…兄さん……」

 月島の言葉を聞いた理奈から緊張の糸が切れる。

「生きて…たんだ」

 その場で理奈は崩れ落ち、目に涙を浮かべていた。

「理奈ちゃん…」

 由綺は理奈の後ろ姿を見て安堵した表情になった。

「ま、そういうことだ。キミの兄さんは今も元気にやってるハズだ」

「あの…緒方さんの乗っているセリオンはいまどこにいるんですか?」

 美咲がそう後ろから質問をする。

「動いてなければ火星の来栖川の衛星『クルス』にいるハズですけど…」

「クルス…ですか?」

 香奈子の言葉に今度は由綺が声を上げる。

「あ、あのそこに藤井冬弥という人はいませんでした?」

「藤井冬弥? そんな人は知りませ…」

「そいつなら見たよ。特別病棟にいるただ二人の患者だからな、名前を

覚えている」

 香奈子の言葉を遮り月島がしゃべり出した。

「冬弥君、元気でやってるんですか?」

「問題はなさそうな感じだったが…」

「そう…ですか」

 その言葉を聞いた由綺は嬉しそうな、だけど寂しそうな複雑な表情を

してうつむく。

「……冬弥君…」

「キミの恋人かい?」

「…はい」

 月島の問いに由綺は素直に答える。

「そうか…ではクルスにいることを知っているということはエルクゥ細胞

のことも?」

「ええ…」

 藤井冬弥、3年前の来栖川エンストラードホテル事件における藤田浩之、

藤田あかり、佐藤雅史、松原葵、姫川琴音、保科智子、来栖川芹香に続く

八人目の死亡者として当時の記事に名前が載られている。偶然現場に

居合わせた彼は浩之同様、エルクゥの細胞に頼らざるを得ない身体になって

いた。

「冬弥君はエルクゥ細胞を移植されて命はとりとめたけど、その身体を

動かすことがほとんどできなくなってしまったんです」

(エルクゥね、本来自分の身体とは異なるモノに肉体が維持されてる

んだ。拒絶反応がでてもおかしくない…な)

 だが本当に藤井冬弥がエルクゥ細胞に頼らざるを得ない身体だったのかは

月島には疑問だった。男一人のために連合を滅ぼした女だ、来栖川芹香ならば

藤井冬弥を藤田浩之のための実験体に仕立て上げることに対してなんの

ためらいもなかったのではないか? 

(まあ、この少女にそれを告げるのも酷というものか)

 月島はそう思い、そのことを考えるのを止めた。

「それでもう、お前たちがここに来た理由もなくなったわけかね?」

「はい…」

 月島の問いに美咲がゆっくりと答える。

「なるほど…ね」

「拓也さん?」

 一瞬月島の瞳に今までとは違うものが浮かんだのが香奈子には

感じられた。

「まあいいさ、用事がすんだんならさっさとここを離れた方がいいな。

とりあえずキミらとは…敵同士の関係だからな」

「………」

 美咲はじっと月島を見た後、一礼して4人を連れこの場から去って

いった。

「…拓也さん、よかったんですか?」

「なにがだい?」

「あの悪名高いホワイト・アルバムを逃がしたりして」

「この船が破壊されるかもしれないと?」

「その可能性がないわけじゃ…」

「ないね」

「えっ!?」

 月島の返答に香奈子は思わず声をあげた。

「少なくともエルクゥとの戦闘が終了するまでは彼女らは動かない」

「なんでですか?」

「香奈子、来栖川芹香は何を求めて行動していた?」

 月島は愉快そうに香奈子に質問する。

「何って藤田浩之のエルクゥ細胞を除去するために、タリスマンを……

あっ!?」

 月島の言わんとすることがようやく香奈子にも理解できた。

「そういうことだ、電波推進委員会とエルクゥのタリスマン…両方とも

狙ってるんだ彼女たちは。あの藤井冬弥という男のためにね」

「ですが、それではこの戦いが終わった後は!?」

「戦闘が終わった後でこの船が機能停止になったくらい問題じゃない。

せいぜい長瀬君がくやしがるくらいさ」

(もっとも…エルクゥに勝てれば…の話だがな)

 こちらの負けが確定した時点でも彼女らは行動を開始するだろう。

だがエルクゥにタリスマンが渡るくらいならそのほうがいい…

そう月島は判断して彼女らを見逃したのだ。そしてこの判断は後の戦況

に大きく左右することになるとはまだ誰も知らなかった、少なくとも

現時点では…







 続く…



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 すっげー不定期なせリオンです(謎)

夏コミ…疲れた…今までの話は全部ウチにあるんで
見に来てくれると嬉しいカンジ。



ではまた〜〜♪

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5164/