−遊撃宇宙戦艦セリオン・第三十九話『すれ違う猟人と雪うさぎ』− 投稿者:紫炎 投稿日:7月23日(日)00時49分
「なるほど、あの緒方艦隊で主力となっていた艦か」

「はい千鶴様、以前使用された対エルクゥ用のエネルギー砲も

改良されているようで…」

 ここはジローエモン内部、中央司令室に位置する部屋では

千鶴とその副官の足立による分析が行われている。

「だが戦略性もなくただ突っ込んでくるだけというのはどういうこと?

ヤツらが無能なだけ?」

「さて、ただ無能なだけならばよいのですが…いずれにせよ今は防御に

徹しておきましょう。あのエネルギー砲はシールド型ヨークならば

ある程度防ぐことは可能です。奴らの戦力が疲弊しきった時を狙って

向かい撃ちましょう」

「そうね、ジローエモンとリズエルが動ければよかったのだけれど…」

「耕一様がいらっしゃらぬジローエモンは動かせませんし、

リズエルは…」

「セリオンとの戦闘での傷はまだ癒えていないもの、実戦には出せない」

 梓のアズエルもない今、エルクゥ側は決め手に欠けていた。

それゆえに戦局が消耗戦に入るのも仕方のないことだと言えよう。



 西暦2337年12月24日/クリスマス・イヴ…そこに

聖夜を祝う者はいない。







−遊撃宇宙戦艦セリオン・第三十九話『すれ違う猟人と雪うさぎ』−







「待ってください拓也さん!」

 旗艦フィルスノーン内、急いで先を行く月島にようやく香奈子は

追いついた。

「香奈子…」

「突然司令室を飛び出したりしてどうしたんですか!?」

「長瀬君に何を言っても無駄だろうからね、僕がケリを着けて

やるのさ」

 月島は怒りに満ちた表情で香奈子に言った。

「拓也さん…?」

「香奈子、オズで迎え撃つ。手を貸してくれ」

「待って下さい、オズはこの数日間飛び続けたせいで現在エーテル機関が

不安定で動きません。とてもじゃないけど戦闘なんてできないですよ」

「ならばオムを使うまでだ。あれもこの戦艦にあるハズだからな」

「長瀬君の専用機を!?」

「自分で動こうとしない者にオムなど必要ないさ」

 そう言って月島は格納庫に向かおうとした、が立ち止まった。

「拓也さん?」

「あれは…」

 月島はある方向に向かって視線を向けた。そこには作業服を来た

小さな女の子が歩いているのが見える。

「なんだと思う?」

「さあ、作業員にしては小さ過ぎると思うんですけど」

 というか小学生くらいにしか見えない。

「この世界、みんな小学生くらいにしか見えませんしねえ」

 どの世界だろう?

「しかしあの身のこなしは…」

 月島が気になったのはそこだった。そして香奈子もそれに気付いた。

「素人じゃないですね。少なくとも作業員じゃない、戦闘訓練を

積んだ人間…に私には見えます」

「やはりキミにもそう見えるか」

 だが『それらしさ』が漂っていることから一流ではない…

そう月島は判断した。

「…二流だがプロには違いないな。とりあえず仕掛けてみるか?」

「そうですね」

 二人は気配を消し少女の後を追い始めた。









 ピッピピ…



 そこは薄暗い艦内の倉庫の一つ、その中に4人の少女がいた。一人は

扉の前に立ち、後の3人は倉庫の角に集まっていた。そしてその中の

一人、緑色の髪をした少女がそのとぼけた顔とはうらはらに高速で

今でいうノートパソコン型の端末に何かを打ち込んでいる。

「パス…」

「"The world for the electric wave by the electric wave."よ」

 となりの気の強そうな女が手に持っている紙を見ながら答えた。

そのスペル通り緑髪の少女は端末に打ち込んでいく。そしてそれを

打ち込んだ後いくつかの設定を終え、ENTERを押した。

「ん、繋がった」

 言葉とともにモニターにいくつかのコマンドが現れる。

「これが電波推進委員会の電脳の中枢ね。はるか、『緒方英二』の検索

までにどれくらいかかる?」

「ダミーの情報も同時に流すから7分はかかる」

「分かった」

「理奈ちゃん、見つかるといいね」

 まだ幼い風貌の女の子が隣の理奈という少女に微笑みかけた。

「そうね由綺…兄さんのことだからきっと生きてるハズ」



 コンコンッ…



「「「「!?」」」」



 言葉をさえぎった突然の音に四人はいっせいに扉に目を向けた。

「ボソ…(美咲先輩)」

 由綺が扉の前にいる女の子に目でサインを送った。

「コクン…(わかってる)」

 美咲先輩と言われた女の子は軽く頷くと視線を扉に向けた。

「…白い」

「粉雪…」

 美咲が一言呟くと扉の外からも声が聞こえてきた。それは彼女らが

決めていた秘密の暗号。

「マナちゃんね」

「うん、開けていいよ美咲先輩」

 

 ガチャンッ…



「…お姉ちゃん」

「マナ…ちゃん?」

 扉は開き、そこにいたのは先ほど月島たちにマークされた作業服の

小さい子マナであった。だがマナの様子は明らかにおかしい。

「…お姉ちゃん…?」

「…マナちゃん、どうしたの?」

「私…」

「まさか…」

 理奈の顔が緊張でゆがんでいく。

「ん、どうしたのマナちゃん?」

「みさ…き…センパ…イ?」

「美咲さん、離れてっ!!」

「!?」

 理奈の叫びとともにマナが飛び出す。一瞬のことに美咲は

声すらあげられず取り押さえられる。

「マナちゃん!?」

「電波よッ!」

 そう叫んだ理奈はマナに対して走り出した。

「リ…奈!」

 瞬時に間合いに入った理奈の当身にマナが吹き飛んだ。

(電波に操られた人間は瞬時の反応が鈍い…)

 続いて理奈は扉の前に立ち、急いでドアを閉め鍵をかけた。

「…これって一体!?」

 取り押さえられていた美咲が呆然と呟く。

「電波使いよ、美咲さん。私たち見つかったの!」

 理奈は声を荒げて言い放った。

「理奈ちゃん、それって!?」

 由綺の表情も強張る。

「はるか、脱出ルート!」

「ん、ここ」

 理奈がはるかを見るとすでにはるかは床にある隠し扉を空けていた。

「美咲さん、マナちゃんの様子は?」

「今薬を打って完全に眠らせたわ。これでしばらく電波に操られる

ことはないと思う…」

「そう、それじゃあ逃げましょう!」

(…マナちゃんの髪止めには電波を防ぐジャマーが装備されていた

ハズ、それが効かなかった電波使いということは…まさか!?)

 この船にも電波使いは何人もいる。だがジャミング装置をモノとも

せずさらに電波に耐性のあるマナを操れる電波使いとなると…

「長瀬祐介…か、教祖直々のねずみ狩りってワケ?」

「理奈ちゃん、行くよ!」

 すでに隠し扉の中に入っている由綺が遅れがちな理奈に声をかける。

「あ、うん」

 理奈はもう一度扉の方を見る。外から強引に入ろうとする様子も

ない、だが気付いてないハズはないのだ…だとすれば遊んでいるのだろうか?

(なら、そこのスキをつけば…逃げ切るチャンスもあるということね)

 そう考えながら理奈も隠し扉の中に入っていった。







 ガチャンッ



「ふむ、なかなか手際のいい連中だな」

「あのマナという少女、電波でも情報を引き出すことが出来ませんでしたし

あのジャマーといい、電波対策専門の部隊のようですね」

 理奈たちが逃げ出そうとしている時、扉の鍵を壊し中に入ってきた月島たち

はノンキとも言える雰囲気で会話していた。

「しかし電波対策専門っていうと連合の中でも数部隊しか存在してないハズ

だが?」

「英国の抹殺機関『ヘルシング』、テンプルの系統を持つ『騎士団<ナイツ>』、

施設潰しの『White Album』、東洋の『紅竜社』や異能者部隊

『キタブ・エル・ヒクメト』などがありますが連合が崩壊した今どこも

活動できる状況じゃないハズですがね」

「いずれにせよ、捕まえてみれば分かるか。香奈子、奴らの位置は?」

「さすがにあの子に仕掛けた探知機はすでに壊されてます。それにこの倉庫

から続く非常用の通路は複雑ですから、そう簡単に見つかるかどうか…」

「あのマナって子だけで簡単にカタが付くと思ったが甘かったということか、

しかしこの件を長瀬君に言うのも失敗したからそっちで頼むって言ってる

みたいでシャクだな」

 月島は多少イラついた口調で言った。

「見つからなかったとしても私たちが気にするような問題じゃないですし」

「ん…そうだな、こんなトコロに潜り込まれた長瀬君の失態だし…と、これは

なにかな?」

 月島は角に置かれているノートパソコン型の端末を発見した。

「端末…ですね、船にアクセスしてるみたいですけど」

「まさか自爆コードとか送ってるわけじゃないよな?」

「それは不可能ですよ、重要なコマンドは長瀬君の特殊な電波の波長で

ないと実行されませんから。えっとアクセスレベルはB+…か。何かを

検索かけてるみたいなんですが、これはOGATAEIZI…おがた

えいじ?」

「…おがた、緒方英二か…だがなんであの男のことを?」

「公式発表ではすでにエルクゥに殺されていることになっています。

生きていることをしっているのはセリオンや来栖川のトップなどごく

わずかのハズ…」

「来栖川がわざわざここに調べに来る理由こそないだろう」

「ですね、まあなんにしても捕まえてみないことには始まりません」

 香奈子は冷静に指摘し、わずかに開けた後のある隠し扉を見た。

「あのマナという子からまだわずかに月島さんの電波が染み出てる

ハズです、それを辿っていけば…」

「ふふ、まるで犬だな」

 月島は苦笑した。だが気分を取り直し隠し扉を開ける。

「だが仕方ない、行ってみるか」

「はい」

 そして二人は扉の中へと入っていった。





 続く…





〜ウンチク〜



小規模範囲型オゾム電波パルス遮断装置

名称:ジャマー

 宇宙連合軍が密かに開発した電波を遮断する装置。擬似的に

命令志向のないオゾム電波パルスを発生させ他の電波を受け付けない

ようにすることができる。だが一定以上の電波は遮断できないために

長瀬祐介などの発する強力な電波を防ぐことは出来ない。



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 ども前回投稿からすでに一ヶ月以上たってますがセリオン39話

です。んと、ウチのHPでサークル情報なんぞ始めましたわ。ジョジョ

とかベルセルクとかのkanonモノですな(謎)

 著名なSS作家さんたちが多く参加しているLeaf Visual Novel+ Fun Book

の方もよろしくです。そっちではマンガ描かせてもらってますです(^^

 

出羽〜〜♪

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5164/