「これは…」 そこは地球と月の間に位置する空間、その場にいる月島拓也は 水からの眼下で行われている状況に絶句した。 「ひどい…ですよ。これが長瀬君の…やり方なの?」 香奈子も同様にその光景にひどい憤りを感じていた。エルクゥと 電波推進委員会の戦闘、軍隊すら勝てなかったエルクゥたちに 対抗するために長瀬祐介が実行した作戦とは… 「電波で操った人間を次々と敵陣に特攻させるなんて…作戦も何も あったものじゃない、正気か長瀬君!?」 −遊撃宇宙戦艦セリオン・第三十八話『フィルスノーンの風』− 地上よりはるか高く、凄まじい数の戦艦がそこには存在していた。 そしてその中央にまわりの戦艦とは大きく異質な雰囲気を放つ 巨大な戦艦があった。電波推進委員会の旗艦『フィルスノーン』である。 「ようこそ月島さん、僕の城へ」 そこの中央に位置する司令室、そこに月島拓也と太田香奈子はいた。 「長瀬君…」 「どうですか僕の兵隊たちは?」 彼らの前にいる長瀬祐介は恍惚とした表情でモニターを眺めていた。 「…大したものだな、 緒方英二の艦隊の2倍はある…」 「来栖川のラインを最大で使わせてもらいましたから、しかも 我々の戦艦アクアプラスDCは緒方さんの戦闘による経験も得て 完全な対エルクゥ艦隊になりました。芹香お嬢さんと緒方さんには 本当に感謝していますよ。ククク…」 「………」 「そしてこの僕の戦艦『フィルスノーン』は『あの』ジローエモンと 同等以上の力を持っています。かつて建造された外宇宙航行用宇宙船に セリオンとマルチザードの戦闘データを元に再設計されたこの船に 勝てるものなど存在しません」 「…確かに…タリスマンを2つも動力源としたこの船に勝てるモノ などは存在しないだろうな。だが…あの戦場はなんだ?」 「なんだ…とは?」 怒りに震える月島拓也に祐介は冷やかな目で返した。 「なぜ、その『最強』の艦隊にわざわざ特攻などという無茶をさせる! なぜ無駄に殺す!?」 「…簡単なことです。考える頭を持たない人間に作戦などできないん ですよ。だから単純に特攻を仕掛けてるわけです」 「…まさか」 「彼らは僕の試練に耐えられなかった不適合者ばかりですから」 電波で操られた人間にはもはや正常な思考はない。長瀬祐介は 重度の電波被害者を使い、特攻を仕掛けているというわけである。 「君は…自分で壊した人間たちを…ゴミのように……」 「月島さん、僕はね」 長瀬祐介はゆっくりと微笑みながら月島を見た。 「アナタを尊敬している」 「な…」 「だからアナタのやり方に見習ってやらせてもらってるだけですよ?」 「!?」 月島拓也の脳裏にかつての高校時代の光景が浮かび上がる。 あの自分の狂気が今の惨状を招いた… 「…拓也さんは『それ』が間違っていると分かったから『こちら側』に 戻ってこれたのよ!」 「香奈子…」 気付けば月島の前には太田香奈子がいた。 「ふん、君にしてみれば人事ではないんだろうがね。彼らの犠牲が なければ生き残れる可能性は薄いんだよ? それとも君は正義感ぶって エルクゥに滅ぼされるのを待つ?」 「そういうことを言ってるんじゃっ!?」 「よせ、香奈子…」 「拓也さん!?」 「こいつに何を言っても無駄だ」 もう『扉を開いた人間』なんだ…と月島拓也は直感した。以前… そう最後に会ったときはまだマトモだった。だがその間にかなりの時間 がたった。唯一彼を止められる人間だった月島がいなかったのだ…いや 邪魔な存在だからこそセリオンにスパイとして入れられたのだろう。 その間に長瀬祐介は扉を開いてしまった… 「…どうやらセリオンの中はよほど心地よかったと見える。あの月島さん がこんなにも甘くなってしまったのだから…」 祐介は勝ち誇った目を月島に向けた。だが月島の目からは軽蔑の 眼差ししか浮かばなかった。 「……君に瑠璃子を預けていたのは失敗だったよ」 そうはき捨てると月島は踵を返し外に出るため扉に向かった。 「あっ拓也さん」 香奈子も急いで月島の後を追う。 「……月島さん」 「………」 月島はその言葉を無視して扉を開ける。 「瑠璃子さんは僕を選んだだけです」 「……」 「あなたではなく僕をね!」 ガシャンッ!! 「…行ってしまいましたな」 「ああ…」 「追いかけますか?」 「気にするな、どうせあの男は戦うしかないんだ。『僕』の 瑠璃子さんのためにね」 僕という処を強調して長瀬は横にいる八塚に言った。 「それより現状はどうなっている?」 「…はい、くまの報告によるとジローエモンの位置は確認できたのですが 柏木千鶴のヨーク、リズエルの姿が見えないらしく…」 「リズエルはジローエモンと違い『艦隊』そのものを転移させることが できるヨークだ。早めに潰しておかなければならない」 「厄介な相手ですね…」 「だが…芹香お嬢様の情報によればリズエル艦隊はセリオンに敗退した らしい。そしてジローエモンも耕一がいない以上動くことはない。今が チャンスなんだよ!」 月島の前にいるときとは違い、かなり焦り気味で八塚に言った。 「いいか、一刻も早くリズエルを探せ!アレを殺らない限りこちら側の 勝ち目は薄い。そのために…」 「はい、それでは私も艦隊を率いて出陣しましょう」 「そうだ、電波で探すには前線に出るしかない。そしてお前は人造の 電波使い…その力を僕のために使っておくれ」 「分かりました」 「そして…すべてを僕のものにしないとね。でないと瑠璃子さん…僕 から離れてっちゃうよ。僕が上だと証明しないと…どこの誰よりも… 月島さんよりも……」 続く… 〜うんちく〜 最終地球防衛型戦闘艦HMXー14 名称:フィルスノーン 識別番号がHMX−14とマルチザード、セリオンの後継艦と なっているがそれは便宜上のことで元々は50年ほど前に建造され 廃棄された巨大な外宇宙航行用宇宙船を再建造したものである。当時 この宇宙船を維持する原動力が開発出来ず建造は中止されたが タリスマンを原動力とすることで50年たった今日の目を見ることと なった。その性能はセリオンとマルチザードや緒方艦隊の戦闘データに より現段階において最高の戦艦となっていると言っても過言ではない だろう。なおこの艦にはセリオンのブランニューハートと同性能の エネルギー兵器があり、それぞれティリア、サラ、エリアと呼ばれて いる。 最終地球防衛型戦闘艦HMー13B 名称:アクアプラスDC 対エルクゥ用として緒方艦隊に配備された戦艦を設計から見直して改良 した戦艦。前回は軍との建前上、建造そのものは別会社のSONYに よって造られたが今回は来栖川傘下のSEGAによって製造された。以前 エルクゥに波長を同調され、まるで役にたたなかったフィルニオン砲だが 今回波長を微細に変化させ同調をさせないようにする仕組みがなされている。 ちなみに作中に月島がこのアクアプラスDC艦隊が緒方艦隊の2倍以上は あると言っていたがこれは大きな誤りである。実際の数は緒方艦隊と同数の 1500艦、おそらくフィルスノーンの周りに集中的に艦隊が集まって いたために数を読み違えたのだと思われる。 来栖川グループ: 現在太陽系全土において最大勢力を誇る財団、軍事産業から 果てはつまようじまで作っているが5年前の黒竜戦役の際、責任問題 から軍事産業は表面上は撤退していた。また3年前に現社長と 社長婦人(芹香たちの両親)が原因不明の事故死を迎えている。それに より会長(芹香たちの祖父)も精神的に崩れ退陣し、代理として セバスチャンが社長として、会長職は不在となっていたがが実際には 死亡とされていた芹香が就いていた。つまり3年前から来栖川グループは 芹香の私物とされていたことになる。 来栖川芹香の計略: 3年前、エルクゥ来襲の時に浩之は瀕死の重傷を負った。もはや 助からないと宣告された芹香は当時研究まもないエルクゥの細胞を 浩之に移植した。浩之はエルクゥの再生能力により一命をとりとめたが その後エルクゥ細胞に侵食され精神の安定を損なうと暴走してしまう。 そこで芹香は捕獲したエルクゥなどからの情報を得て7つのタリスマン を集め始めるとなる。7つのタリスマンはエルクゥの力を増幅 すると同時に吸収する作用があり、すべてを揃えたならば共鳴に よって浩之の身体にあるエルクゥ細胞も吸収しきることができると言う のだ。それを信じた芹香はタリスマンを手に入れるために奔走する。 そして宇宙連合軍、電波推進委員会、エルクゥがそれぞれタリスマンを 所持していることが分かった時、芹香は行動を開始した。 最初に宇宙連合軍と手を組み、軍事産業を再開。同時に太陽系 全域で布教とゲリラ活動をしていた電波推進委員会のパトロンにも なった。これにより一時期太陽系全域においてゲリラ活動が活性化、 宇宙連合軍は黒竜戦役の際の軍縮で規模の減った軍を太陽系全土の 警備にまわさなければならなくなる。エルクゥはこれを好機ととり 行動を開始するが、これも芹香がエルクゥを表に出させるための策略 であることは言うまでもない。宇宙連合軍を敗北に追い込ませ、軍との 戦いで消費したエルクゥを電波推進委員会が倒す。芹香はそうして タリスマンをすべて手に入れるという筋書きだった…が、セリオンが 登場してから計画が崩れ始める。現段階に至っては浩之は廃人状態となり 計画は完全に破綻した形だ。なお現在のタリスマンの所在は下の通りで カッコで閉じられているのは宿っている魂の名前である。 セリオン2(柳川)(ダリエリ) エルクゥ3(初音)(梓)(なし) 電波推進委員会2(楓)(なし) ---------------------------------------------------------- ども紫炎です。今回は月島と祐介の話っすね、ゲーム上での二人の関係 が逆転した…というような感じでしょうか? まあそんな感じ…それと なんか約半分がウンチクなんですが…とりあえず今までの芹香の複線の 全貌みたいなもんですわ。来栖川グループの複線はまだあるんですが(笑) 破綻した部分もあるかもしれませんが気にしないように(^^ ちなみにアクアプラスDCは無論こみパの影響っすね(謎) でわ〜〜♪http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5164/