−遊撃宇宙戦艦セリオン・第三十六話『エルクゥ』− 投稿者:紫炎 投稿日:5月12日(金)02時38分
 2337年、12月20日…それが現在の日付である。
だが実はその五年前、惑星国家同士の戦争『黒竜戦役』終結からこの
物語は始まる。この戦争終結後、国家の政治力と軍事力そのものを
分散させ出来たのが宇宙連合軍と中央政府となった。
 また『黒竜戦役』は惑星間の戦闘に限定されていたということもあっての
民間の被害はほぼ皆無であったとは言われているが皆無そのものではなかった
ようだ。その戦争によって唯一被害を受けた都市が存在していた、
それが隆山市…すべての始まりである。


−遊撃宇宙戦艦セリオン・第三十六話『エルクゥ』−


『後2つ…』

『後2つで…すべてが…』

『7つのタリスマンが揃えばすべてが…』

『終わる…』



 ドクンッ




「…様、耕一様!」
「う…うう、あ…うん?」
「目…覚められましたか耕一様?」

 ガバッ

「…ッ…ここ…は?」
「ここは私のヨークの一室です耕一様、今地球に向かっています」
 耕一の目の前には日吉かおりがいた。
「…ヨークの?」
(なぜ俺はここに…いるんだ?)
「目、覚められたのならもう大丈夫ですね。それでは私は操船があるので
これにて失礼します」
「あ、ああ…」
 かおりは耕一に頭を下げ部屋から出ていった。
「今のは梓の副官の…俺は…一体」

『本当に遅かったよ。私ずっと待ってたんだから!』

(梓…梓に俺は会いに…)

『そっか…あの時……初音もアンタが殺したんだっけ…』

「あ…」
 まるで突然夢から覚めたように耕一はすべてを理解した。
「殺ったの…か? 俺はまた…」
 耕一は自らの手を見る。血が…まだこびりついている。
「また…俺は……」
 記憶の後を追うように感覚が蘇る。自分の手でたしかに梓を
殺した。肉を絶つ感触…忘れることはできない。
「俺は…俺は………」
 そしてそれ以上の言葉は続かず耕一はしずかに泣き出した。もはや
彼の中にグインの姿は消えた。今彼はただの小さな人間だった…
大切なモノを踏みにじり続けたことに怯えるただの小さな人間だった。


「つまらない男…」
「何か言いましたかおり様?」
「別に…」
 ヨーク『ジルエル』のブリッジ…
「つまらない男に仕えていたんだなって…考えてただけ」
 ESPの問いにかおりはそっけなく答えた。それでも柏木耕一を
拾ったのはグインの命令だからだ、それだけの理由で耕一はこのヨークに
乗せられている。彼の価値など今の彼らには虫けらに等しい。
「やはり柏木耕一にはもう真なるレザムは宿っていない?」
「真なるレザム、母なる星にして偉大なる王『グイン』…
もういないわよ。王は彼を最後の生贄にすることを決めたの」 
「藤田浩之の代わりに?」
「そう、結局の処彼はあのエルクゥ殺しの次郎衛門にはなれなかった。
だからもう彼には道は残されていないの」
「タリスマン…後二つですか…」
 横でvladが呟いた。
「柏木初音、柏木楓、ダリエリ、柳川裕也、柏木梓…そして
柏木千鶴、柏木耕一…そして何が起こるナリ?」
「新しい世界が出来るの…」
 アクシズの問いにかおりは答えた。
「エルクゥの魂付きのタリスマン…7つ揃えば互いに共鳴し合い
膨大なエネルギーを生むのよ、ビッグバンって知ってるでしょ?」
「まさか…」
「そしてヨーク、これでは無理だけれどリネットのヨーク…『セラフ・ヨーク』
ならその爆発にも耐え抜ける。エルクゥはそうやって宇宙を破壊し創造してきた…
らしいわ」
 本当の処はかおりにも分かっていない。ただエルクゥの記憶にかすかに
そうしたイメージが残っているだけ…すべての記憶を有しているのはグイン
のみである。
「しかし、なぜそんなことを?」
「多分宇宙におけるリセットなんでしょ、私達の存在そのものが…」
「リセット…」
 すべてのものには何かしらの役割が用意されている、エルクゥとは
つまりそういう役割を持つ存在なのだろう。
(だけど…)
 かおりの中に狂暴なものが現れる。
(だけど…そんなことはもはやどうでもいいの、柏木耕一…)

(梓様を殺したのは貴様だ、貴様だけは………許さない)

(怯え、苦しみ、もっとも惨めたらしい死に方をさせてやる…)


 かおりは決意をその胸に固めた。思えば次郎衛門も憎しみによって
エルクゥを滅ぼした、柳川も憎しみによってグインに立ち向かっていった…
そして新たなる因果がここに生まれた。


続く…


〜ウンチク〜

名称:エルクゥ
 エルクゥ…我々がそう呼んでいる異星人、エルクゥとは彼らの言葉で
魂と同じような意味を成す。エルクゥの本質はその肉にあらず魂にあり、
転生という形を持ってエルクゥに適合する肉体に移り行く存在であると
言える。それゆえ他惑星に移り住もうが彼らは肉体そのものを変え
生き続ける。生き物を狩る習性はその星の生態系に潜り込むための副産物
に過ぎない、もっともこれは本能レベルでの問題であって彼ら自身の
意思によるものではないということは伝えておこう、彼らは狩人としての
自分らに誇りを持ち生きているのだから。また種族を増やす手段も交わりでは
なく次郎衛門にしたように他の種族の魂を血によって感染させる以外の道は
ない。(それ自体の確率も大変低く、また交わりのよって生まれた子供は
エルクゥの魂を入れる単なる器に過ぎない。)
 そうして彼らはいくつもの星々を渡り自身らの種族を微量に増やしつつ
存在し続ける。他の生物に寄生するエルクゥには進化する手段もなく
ただ存在し続けるしかない、彼らはただ変わらず時に準じて生き続ける
だけである。王たるグインの指示を待つために…

名称:ヨーク
 本来皇族の中でも巫女である者だけが心を交わし動かすことができる
星船で、その実態はエルクゥの変体した姿と言われていてる。意思を持ち 
自分で行動することもできる。またヨークは狩人としての本能から開放
されているため非常におだやかな性格をしている。
 今現在のエルクゥたちが使っているヨークはリネットのヨークを元に
作り出されたマガイモノでそれ単体に意思はなく操船するエルクゥの細胞を
媒介として作り出されている。またオリジナルとの違いは操船者の肉体の死が
ヨークの死と繋がるということである。楓の死に感応してエディフィルが腐敗
していったのはそのため、ただ唯一の例外は旗艦ジローエモンで、これは
オリジナルであるリネットのヨークを媒介としタリスマンによって動いている。
そのため耕一の身に何があったとしてもジローエモンが死に絶えることはない。
またジローエモンを動かしているタリスマンの中には当初より初音の魂が昇華
されていた。同じタリスマンで動きながら出力がセリオンより上回っていると
言われたのはそのためである。




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 ども紫炎です、36話UPっす。

>関西同人コンビ超生物に敗れるの巻 
>takatakaさん
 青姦って漢字、初めて知った21の春(笑)
南さんはやっぱりそっちの人間なんだなあと痛感しました(^^

>学習機能 
>MIOさん
 三才なみのマルチ…法規制から逃れようもないですな(笑)

>天にも登る……
>水方さん
 SFで美少年でガイアギアを思い浮かべたが違うようで…分からんです。
多分声は塩沢兼人さんでしょうか? なんか突然の話で驚いてるんですが…
ご冥福お祈りします。 

>疵口
>東海林ハリセンさん
 耕一さんは親父殿を憎んでいた。どうもSSだけ書いてると
痕のそういう冒頭の設定とか忘れがちで(笑)
 なんか原点に返ったようなそんなお話でした。
次回作期待してるっす(^

>宮内さんのおはなし その二十九(VER2.02) 
>AIAUSさん
 いつも読むの楽しみにしてるっす(^^
セリオがなんかいい感じでしたが怒ってる綾香がなんか
かわいかったです。

ああ、感想なんてスゲー久しぶり…SS書いてなかった間ほとんどSS
読んでなかったけどやっぱSSっていいね。

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5164/