−遊撃宇宙戦艦セリオン・第三十五話『対峙する二つの傷跡』− 投稿者:紫炎 投稿日:5月8日(月)01時16分
 西暦2337年12月20日、長瀬祐介がエルクゥに
対し本格的に戦闘を開始した同時刻、火星上にある来栖川の
機動衛星ではエルクゥとの戦闘も終結していた。


−遊撃宇宙戦艦セリオン・第三十五話『対峙する二つの傷跡』−


 機動衛星クルス、その中心部に位置する司令室。そこに
いるメンバーはほとんどが量産型メイドロボマルチによって構成
されている。そしてその部屋の唯一の人間にして指令塔である来栖川
芹香がそこにいた。
『お疲れですかな?』
 モニターごしのセバスチャンが心配そうな顔で芹香を見た。
 
 フルフル…

『そうですか、分かりましたお嬢様。ただ無理はなさらないで
下され』

 コクン…

 芹香は素直に頷いた。
『それと佐藤雅史からの報告です。藤田浩之…が目覚めたと』
「………!?」
 セバスの言葉に芹香は驚きの表情を見せた。
『それと大変申し上げにくいことですが…』
 それ以上は言わなくても分かっている。7つのタリスマン、それ無しに
浩之を覚醒させたならばどうなるか…それは芹香がもっとも危惧していたことだ。
そして今、すべてが虚偽と幻で作られた海賊ToHeartは意味をなさないシロモノと
化した。もう浩之の助かる道は残されていない…緒方英二は敗北によって戦いの
終わりを告げられた。そして…
『……藤田浩之、もはや助からない…とのことです』
 セバスの言葉によって宇宙海賊ToHeartもまた敗北したと言えよう。
すべては藤田浩之のために作られた組織だ、そのために芹香は緒方を欺き
長瀬祐介と手を組み、エルクゥとも戦った。そしてその行動は目的を達成する
ことなく終わりを告げた。
「そう…」
『はい、ですがまだ意識は残っています。せめて…お会いに』
 
 フルフル…

『お嬢様…』
 もとより芹香は浩之が完治しようと会わないことに決めていた。
例え間接的にとは言え、自分は多くの人の命を奪った。自分の殺意が
仲間を、今回の戦闘でも保科智子という大切な仲間を奪ったのだ…そんな
自分が藤田に会うのはふさわしくない…そう芹香は思っていた。
『お嬢様…あなたが……あなただけが悪いのではありませんぞ』
「………」
『誰もが悪いのです。誰もが自分のエゴのために戦っていた…それを自分の
責任と考えるのは死んでいった者たちに対する侮辱です』
 「………」
『さあ行くのです、お嬢様。そしてお会いになって下さい…それが生きている
者が死んだ者たちに対する義務だと…私は考えます』
 セバスは逃げるな…と、そう言っている。今目の前にある現実から
逃げるなと…

 カタ…

 そして芹香は立ち上がり、ゆっくりと藤田浩之のいる部屋へと向かう。
(それでいいのです、お嬢様。強くなりましたな…)
 
 
 その頃の医務室では…

 シュル…
「っつう!?」
 シュルシュル…
「痛い、痛いぞ松原!!もっと優しく!」
 シュルッ…ギュッギュッ
「ぎゃぁああああああ!!!」
「藤田先輩…」
 師である九品仏の手当てをしている葵の表情はすぐれず
どこか虚ろであった。
「吾輩のことも心配しっ」
 ギュムッ
「………ッァ!」
「あっ師匠!?」
 声ならぬ悲鳴にようやく葵も自分が包帯を思いっきりきつく
縛っていることに気付いた。
「気付くのが遅い」
「す、すみません」
「まあいい、それより…気になるのなら行ってくるがよい」
「……いえ、師匠の手当ての方が先です」
 グインとの戦闘によって九品仏の腕を含めあらゆる個所に致命傷を
負ってしまった。
「私がもっと早く着いていれば…」
「…………」
「また私は何もできなかったんです、また…」
「……吾輩がまるで歯が立たなかった。貴様が来た処で何も
変わらなかったに決まっておろう?」
「でも…私は……」
「それにだ、むしろお前が来るのが遅くよかったと思ってるよ」
「………」
「人生の中でももう二度とない闘いだった…最高だった」
「師匠…」
「満足だ、貴様の邪魔が入らなくて本当によかったさ」
「………」
「だから吾輩はこれでいい、十分なんだ」
「…私は…」
「だがお前は違うのではないか?」
「!?」
「アイツのためにできること、今ならあるんじゃないのか?」
「でも師匠の手当てがっ…」
「ふん、こんなものっ!」
 バキッ!!
 九品仏は自らの拳を壁に叩きつけた。
「師匠っ!?」
「…ッ…こんなもの痛くもなんともない」
「でも師匠、血が…」
「気にするな、痛くない…ツウッ!?」
「ほら、やっぱり…」
「大丈夫だと言っておろうに、いいか松原…」
 九品仏はゆっくりと葵の顔を見た。
「人には成すべきことが必ずある。人生の半分はそれを見つける
ためにあるんだ。そしてもう貴様はその半分を見つけたハズだ」
「私が…見つけた?」
「そうだ、成すべきことはある。だから今度はそれを果たさねばならん。
もう二度と同じことは繰り返すな…分かるな?」
「…師匠」
「だったら行け、吾輩の心配などはいらん!!!」
「…………はいっ!」

 タッタッタッタッ…


「ふう…」
 葵の足音が聞こえなくなると九品仏はゆっくりと膝をついた。
「我ながら無茶苦茶な説得だったとは思うが…うまくいったかな?」
 だが九品仏は知っている。あの少女の心が完全に晴れてはいないという
ことを…3年間あの少女を鍛えている時自分がどれだけ歯がゆかったか…
どれだけ無力さに打ちのめされたか…九品仏の心中は計り知れない。
「柳川といい、松原といい…どうして吾輩の弟子はこうも一本筋じゃ
いかないのか…」
 九品仏は今だ血の流れつづける両腕を見た。
「お前くらいだ、うまくいったのは…和樹、こんな吾輩を見て
お前はどう思うだろうか?」
 その千堂和樹は今や太陽系全土にその名が広がる漫画家になっている。
大の漫画好きだった…いや愛しているといってもいい九品仏には
哀しいことに漫画を描く才能はなかった。だからこそ自分の身近にいて
才能と努力を持ち合わせた和樹に夢を託したのだ。そしてその夢は
適っている。それが九品仏の一番の自慢だった。
「まあ…悪い人生ではなかったな。松原に言った言葉だが…確かに
満足だった………」

 ズル…ズル……
 
 ゆっくりと九品仏の身体は沈んでいった。
「ようやく…眠れ……」






     ドサッ

















「グゥ…グゥ………」








 いびきだけが部屋の中に響いた。なんと九品仏はその場で寝ていた。
実はこの男ここ最近自分の気に入ったアニメの部分のみをカット編集した
『俺ビデオ』の作成に夢中になりろくに寝ていなかった。その上この戦闘で
疲労はピークに達し、ともかく眠くて仕方なかったのだ。ちなみに
腕の血ももう止まってる。九品仏大志この男、やはり普通じゃない。


続く…

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 かなり遅い踊る大捜査線ネタ、それとリーフ図書館にある33話とウチの
HPに置いてある33話だと芹香の会話に変更があります。今回の話が
かぶってたんで変更したわけですがちと苦しいですな。

>犬丸さん
 感想どうもっす、シャアは究極のお人だが
 ガトーは至高の軍人だとワタシャ解釈しております(笑)
 0083はいいですな〜〜♪	  

出羽〜〜〜〜〜〜♪

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5164/