−遊撃宇宙戦艦セリオン・第三十四話『砂の城』− 投稿者:紫炎 投稿日:4月26日(水)01時05分
 地球…緒方英二率いる宇宙連合軍の敗北以来、この星の
混乱は日々増していった。宇宙連合軍は事実上崩壊し、また地球に
降りたエルクゥ軍は地球を統治している中央政府に降伏を勧告した。
組織的には連合軍と中央政府は二分しているとはいえ政治を主と
する中央政府の軍事力は微々たるものでエルクゥ軍の要求に従うほか
なかった。エルクゥという未知の存在が支配する星、人々は恐怖し
流言蜚語が飛び交い暴動が起き、そして心の支えがなくなった人々
が求めたもの…それが宗教だった。長瀬祐介を長とする『電波推進委員会』
はこうして着々と自分らの力を増していったのである。



−遊撃宇宙戦艦セリオン・第三十四話『砂の城』−



「北ヨーロッパ全域における重要拠点の制圧完了しました」
「オーストラリア東部制圧進行中、ホワイトファング部隊より
核施設の確保の報告が入ってきております」
「ニューヨーク侵攻作戦発動、突入開始まで後3時間」
「オデッサ駐留軍、核により被害甚大。拠点としての使用不可です」
 ここは電波推進委員会中央教会『パルス』、その中の作戦司令室
である。
「エルクゥがいかに巨大な力を持とうと所詮絶対的に兵隊の数に差があるんだ。
分散して奪った領地の守りを固めようと数の暴力には勝てない…
例えヤツラが化け物だろうとね」
 そしてその司令室の中央に座し、命令を下しているのがこの『電波推進
委員会』の教祖である長瀬祐介。彼の扱う電波によって大衆は正常な
思考を失い、ただ盲目的にエルクゥとの戦いに投じている。非武装勢力
すら戦闘に狩り出しその疑いを持たない狂信者の犠牲によって勝利を収める、
これが武装教団『電波推進委員会』教祖の長瀬祐介の戦い方だった。
「さて…くま、現在地上の約何割を制圧できた?」
「はっ、現在侵攻中の地域を抜かしましても1.3割ほどの地上を
奪い返すことに成功しています。」
 祐介にくまと呼ばれた男は感情のない顔で事務的に答えた。
「思ったより…ことが楽に運んでいるな。ふむ…」
「何か?」
「ヤツの気配…が感じないというのは間違いではないということか」
「……ヤツ?」
 くまと並んで対称の位置に立っている男が祐介に聞き返した。
「柏木耕一…八塚、貴様には感じないのか?」
「我らは調整され生まれた電波使いゆえ…」
 八塚と呼ばれた男はしずかにそう答えた。この男もくまと
同様感情のない表情をしている、その顔はまるで人形のようだ。
「ふん、まあいい。だが柏木耕一がこの局面で戦場を離れたということは
どういうことだ?」
「目的…があるから…」
「瑠璃子さんっ!?」
 祐介はとっさに後ろを振り向いた。
「長瀬ちゃん、お兄ちゃんから電波が届いたよ」
 そこにいたのはこの教団の巫女である月島瑠璃子だった。
「月島さんから?」
「うん、今火星の起動衛星『アクア』のなかにいるって…」
「来栖川の…セリオンもそこにあるということか?」
「…タリスマン…そして生贄たる者、でもそれは使えなくなった。
彼は人としての道を選んだから」
「瑠璃子さん?」
 長瀬祐介はこの時点で衛星における戦闘に関して来栖川の施設に
エルクゥの一部隊が攻め込んだという認識しかなかった。彼は緒方英二
がその衛星にいたことは知っていても彼がセリオンに乗って逃亡していた
ということも無論その戦闘によって柏木梓が死亡したことも知ってはいなかった。
そして瑠璃子の言った生贄たる者、エルクゥ細胞に侵食されて死に瀕している
『藤田浩之』についても知るハズもなく、そして…
「柏木耕一もそこにいたって言ってたよ」
「柏木耕一が…今火星に?」
 祐介の言葉に瑠璃子はうなずいた。
「戦闘はさっき終わったらしいから、戻ってくるとは思うけど」
「転移を繰り返したとしても…あの男が帰ってるのにはまだ時間が
かかる…」
「うん、お兄ちゃんたちもOZに乗って地球に向かってるって。
だから狙うなら…」
「…今…」
 祐介はゆっくりと呟いた。
「とすれば今エルクゥ艦隊を指揮しているのはおそらく柏木千鶴と柏木梓の二名と
いうことですな」
「そして柏木耕一がいない以上、やつのヨークであるジローエモンは動けない」
「絶好の好機、今を逃してエルクゥを撃つ道はない…か」
 八塚とくまの言葉によって祐介のなかの確信はより確かなものとなった。
このまま制圧を続けるのならばいずれ地上はエルクゥより勝ち取れる。
だがそれはアクマで地上での話、今現在この地球の周りはヨークたちに
包囲されているのだ。それらを撃破しなければ勝利とはいえない。
いずれ通らねばならぬ道、そしてその道には今を逃せば必ず『あの』連合軍を
ほとんどわずか1隻で消滅へと導いたジローエモンがいる。だからこそ躊躇う
必要などはない。
「緒方さん、あなたには悪いがこの地球もエルクゥもすべて僕がいただくよ」

 ニヤ…

 わずかな微笑みを見せ、長瀬祐介はその場に立ち上がった。



続く…



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「ソロモンよ、私は帰ってきた!!」

 ああ、ガトー様はカッコええなあ…どもみなさまお久しぶりorはじめまして♪
久しぶりの図書館投稿です、漫画の方でやり直そうと思っていたセリオンですが
やはり活字での再開となりました。(HPにおける漫画セリオンはまったく別の話
となる予定です。漫画LeafFight97終了後になってしまうとは思いますが…)
 とりあえず初めて見て興味が沸いてくれた方、図書館に今までのが収録されて
いるのでよろしかったら見てくださいな♪

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5164/