−遊撃宇宙戦艦セリオン・第三十一話『レプリカワールド(開放)』− 投稿者:紫炎

「ぐうっ!!!!」
 一瞬よろめいた後、大志は下がった。
(今のは…)
 紛れもなく砕けた自分の腕、それだけは事実だ。
絶対的な恐怖、それを持つ者が今確かに『ここ』に現れた。


−遊撃宇宙戦艦セリオン・第三十一話『レプリカワールド(開放)』−


『砕けた拳…それは誰のものだ』
 それはまぎれもなく自分の拳、もはや使いモノにならなくなった
自分の拳。
「今のは…」
(吾輩の攻撃をそのまま返しただと、そんな技を…)
 気を体外に張ることでダメージを受け流すことは出来る、その論理で
いくならば受け流したダメージの流れを反射させて返すことも出来うる…
がそれはとてつもなく高度な技である。九品仏大志と言えど実戦段階では
まだ使用できないでいるのに、それを…
『ふん、続きをするかい?』
「………」
(バケモノが…)
『どうした、怖じ気づいたか?』
「…別に吾輩はアニメと漫画が見れればそれでよかった…強くなる意味など
特になかった。だが…」
『……』
「男であるからには最強を目指さねばなるまい…」
 九品仏大志はわずかに呼吸を整え、構えた。
「龍生流 免許皆伝 九品仏大志…いざ参る!!」
『来い!』

 タンッ…

 音が後から来る…そう思わせるほどの速度で大志は前進した。
(もう、抑える必要は…ない)
『速い…』
「ふんっ!!!!」
 大志の拳が飛び出す。だがそれは当たらず宙を切った。
(いない?)
 グインがいない…視覚では捕らえきれない動き、そうヤツは…
「後ろっ!?」
『!!?』
 大志の声とともに床が粉砕される。
(もう後ろか…わずかによけられたが、コイツは…)
 反射的にグインの攻撃をよけた大志だがそのあまりの威圧感に
押されそうになった。
(強い…だけじゃない、存在そのもの…のレヴェルが違うとでもいうのか?)
「だが姿は『人』、対抗できないモノではない。むしろ…」
(同じ土台(人)の上ならばこちらの方に一日の長がある)
「負けんよっ!!!」
『どうかな?』
 グインと大志の拳が交差する。二人は同時に吹き飛んだ。
「くっぅぅぅううううう!!!?」
 衝撃を堪え、大志は痛みを耐えた。そして自身が感じるすべての感覚を前に向け
グインの気配を探った。
「!?」
『ふんっ!!』
 
 ヒュンッ!!

「うぁっ!!!」
 わずかな差で大志はそれをよけた。しかしそれは耕一との戦いのときの『差』
とは違う。もはや二人の差はかぎりなく等しくただの一撃で決着がつくだろう。
いや、そうではない…
『遅いよっ!!』
 
「!?」
(さけられな…)


 ただの一撃で終わるのは大志だけであった。グインの一撃で大志は吹き飛び
その身体は壁に叩き付けられた。
「ぐぁっ!?」
「九品仏さん!!」
『さて…』
 グインは拳を下げると浩之の方に向き直った。
「!?」
『我が剣<ネルフ>は貴様に呼応した。故に貴様をエルクゥへと
昇華せねばならない』
「浩之をエルクゥに…?」
『すでにリネット、アズエル、エディフィル、ダリエリ、柳川の魂はタリスマンに
宿った。残りのタリスマンは二つ…』

(タリスマンに宿る……柳川さんが………?)


『でもなんで急にエネルギーが回復…ううん、以前よりも上がったんで
しょう?』


(そうだ…あのとき、柳川さんの死を感じたとき、セリオンの出力はあがった)
 あのとき、エルクゥの千鶴を打ち負かした時セリオンの出力は急激にあがった。
そしてセリオンのエネルギー源はタリスマンから得ている。
(タリスマンに魂が宿る…セリオンに柳川さんが宿ったと…なら)
 そして矢島はある考えに辿り着く。
(まさか…コイツの目的は……)
「雅史っ、そいつを浩之に近づけるんじゃないっ!!!」
「矢島?」
『…………』
「ソイツは浩之を『殺す』つもりだっ!!」
「なっ!?」

『出でよ我が剣<ネルフ>よっ!!!!』


 …ィィイイイイイン、ザシャッ!!!

「!?」
 一瞬の光の後、グインはその右腕に剣を出現させていた。
『ふふ、この剣は高位のエルクゥの魂をタリスマンに送り付ける力を
秘めている…もっともそれに値しないエルクゥの魂などは霧散してしまう。
故にエルクゥ殺しとも呼ばれているが…』
 グインは剣を浩之へと向けた。軌線にしたがいわずかに光の帯ができる。
「浩之を…」
『ほお?』
 一瞬の躊躇もなく雅史が浩之の前に出た。
(2度とあんな思いには…)
「あかりちゃんのようにはさせない!」
 

 


『諦めろ…』






「…ちゃん、浩之ちゃん!!」
「ん…ンン・・・あか…り?」
 
 ガバッ…

「あかりっ!!!」
「きゃっ!?」
「あ…あれ?」
 気が付くとそこは教室…
「もおどうしたの、浩之ちゃん?」
「いや、今変な夢を…」
 何気ない日常、普通の日々、
「もお放課後だよ、浩之ちゃんお昼からず〜〜〜〜〜〜〜と
寝てたんだから!」
 いつもの通りコイツがいて、俺をちゃん付けで読んで、
「ふぁ…雅史は?」
「もお部活いっちゃったよ、今日は一緒に帰るって約束だったよね」
「…そだっけか?」
「う〜〜〜ヒドイよ浩之ちゃん、私たち一応付き合ってるんだからね!」
「ああ、冗談だって…そんじゃ帰るか」
 そうだ、あかりとも恋人で…毎日が楽しかった…
「うん!」

 ガラ…

「ん…」
「あ、保科さん」
「アンタらか、教室もう戸締まりするからさっさと出てってや」
「委員長…?」
「なんや藤田君?」

 声が聞こえたような気がするんだ…

「いやなんでもない、じゃーな委員長!」
「ほな、さいならな!」





 
           浩之………





「ん?」
「どうしたの浩之ちゃん?」
「今雅史の声が…」
「え〜〜〜この公園、雅史ちゃんの家と正反対だよ」
「気のせいか」
「ねえ浩之ちゃん…」
「なんだよ?」
「平和だねー」
「…そうだな、でも…イヤなことだってあるさ」
「何かあったの?」
 遠い記憶…
「夢、いやな夢を見たんだ」
「夢…?」
「そう、辛くて悲しくて、酷くリアルな夢…」
「でも夢は夢だよ…」


        浩之……


「…それは今よりも少し先の夢、俺はお前と結婚式を
挙げようとしてたんだ……」
「それは…いい夢だよ」
「でも…突然、窓が割れて…何かが飛び込んできた…」
「何かって?」
「分からない…鬼…そんなもの、そして……」
「浩之ちゃん?」
「白いウェディングドレスを纏ったお前が…」


6月…俺が死んだ日…
結婚式…みんな死んだ日…
教会…血まみれの花嫁…
神のいる場所…あいつにした最後のキス…
惨劇の舞台…終わりなき永遠の悪夢…


「白かったドレスは赤く染まって…お前は……」
「でもそれは夢、私はここにいるよ」


  浩之…


「もう浩之ちゃんが悲しむ必要なんてないんだよ?」
「それでも……呼んでるんだ」
 夢はもう終わり、
「ずっと楽しい時間、一緒にいよう」
「待ってるんだ、みんな…ずっと待ってた。俺は逃げるべきじゃなかった」
「浩之ちゃん…」
「分かってた…逃げて逃げて…そんなことで逃げ切れるわけないのに」


『私と会えなくなってもいいの?』


「…………」
「いつまでも浩之ちゃんと一緒に………」
「それでも、待ってるんだ。これ以上俺はっ…」


    浩之っ!!!!


「言わないでっ!」
「ここにはいられない…夢の残骸に埋もれたまま、生き続けられない。」

「でないと…」

「浩之ちゃん…」

「もう2度と…本当のお前に顔向けできないから…」






それは夢の終わり…









 ドサッ!!!

「うぐぁっ!!」
『しぶといな…』
「止めてっ、止めてよ。もう十分じゃない!!」
「駄目だ、近付かないでっ!!」
「雅史…」
 雅史の言葉に志保の足が止まる。
「浩之…君は……君だけは…」
『どけっ!!』

 バキィッ!!

「うあっ!!」
 グインは再度力を込めて剣を振り下ろした。しかしエルクゥでない
雅史相手ではその威力はほとんど無効化されてしまう。だがそれでも
雅史にとっては意識が断絶されるほどの痛み…
『邪魔くさいぞ、貴様っ!!』
「君だけは僕が守るよ…そう約束したんだ。それに…」
『これで…』
 グインが剣を振り上げる、渾身の力を込めて…
『終わりだっ!!!』

「僕は二度と大切な人を失うわけにはいかないんだよっ!!」


ドスッ…

「…………あ…れ?」
『剣がかわされた…だと?』
 そう、剣が振り下ろされた先には誰もいなかった。雅史も浩之も…
「たく…そんな物騒なモン、寝起きにワリーぜ」
「ひ…ろ…ゆき?」
『く、目覚めたのか』
「おかげさまでな…もう俺は幻に逃げたりはしない」
『……』
「…俺は俺を取り戻す!」


 3年と6ヶ月と26日、かつて少女を追って永遠に消えた少年がそこにはいた。
また再び歩き出すために…






続く…

 

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 ふう、疲れた…もう少しで一区切りつきそうですねえ。
んでもまたセリオン自体は出てこないのよねぇ…矢島も(笑)
 でわ〜〜〜〜♪

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5164/