−遊撃宇宙戦艦セリオン・第二十八話『死』− 投稿者:紫炎
「みんな、浩之を助けるために来てくれるって…」
「そうか、なら私もやる。どこまで出来るか分からんけどな」
「うん!」
 その日、私らは今まで生きてきたすべてを捨て藤田君のために
生きると誓った。絶望がミンナを繋ぐ鎖だった。
 
 そして3年、まだその鎖は千切れていない。




−遊撃宇宙戦艦セリオン・第二十八話『死』−



「うわぁぁああああ!!!!!」
 保科が飛び出した。両腕のナイフがわずかな軌線を描き、梓に
向かう。
「くっ!?」

 右足が鈍い…左肩が動かない…呼吸が乱れる……

 梓のコンディションは最悪だった。だがそれでも保科の攻撃を
避けることはできる。
「ふんっ!!」
 梓はわずかな体さばきでナイフをよけていく。
「ちっ、あたらへんやないかっ!?」
「雑魚っ!」
 梓が右腕を振り上げる。保科はそれを見てさらに深く歩を進めた。
そして梓の右と保科のナイフが交差し、鮮血が宙を舞った。

「保科さんっ!?」
「かはっ!」
 琴音の目の前に保科が倒れる。わずかな差で梓の拳が保科に
ヒットしたのだ。だがそのわずかな差は闘いの中では極めて重要な
差となる。
(…肋骨…いったか…内臓も持ってかれた)
 肺に刺さっていないのが唯一の救いだろう。
「無駄だよ…アンタらはここで私に殺されるんだ!!」
 一方、梓はそのエルクゥの回復力でわずかながらペースを取り戻して
きている。すでに勝ち目はなくなった…それは保科が一番分かってる。
「保科さん…どうせ最後です。それなら私も……」
「駄目やっ、アンタは生きるんや。たとえ何があろうと諦めたらあかん!」
「でも…」
「アンタが生き続けてくれるなら…」
 保科はニコリと笑って琴音を見た。
「それが私の生きた証になる。そうやろ?」
「えっ?」

 タンッ…

「保科さっ!?」
 そして保科は琴音を突き飛ばし梓の元に走っていった。
「ふん、玉砕か!無駄なことをっ!!!」
「梓っていうたな…残念やけどな、私たちは…」
「はあっ!」
 梓の剛拳が飛ぶ、だが…
「いない!!」
 一瞬の瀬戸際だった。梓の疲労によるわずかなブレが保科を捕らえる邪魔をした。
「あんたらだけには…あんたらにだけは負けるわけにはあかんのやぁぁああ!!」
(上!?)
 梓が上を見る。そして驚愕した、梓には分からなかったのだ。自分の言葉が正しかった
ことに…そう保科は死ぬ気だった。その身に範囲限定型のCCS爆弾を背負っていたのだから…
「やっ止めろぉぉおおお!!!!」


『大丈夫、あんたなら他所の学校いっても友達出来るて!』

「母さん…ホンマやな……」

 突然、あの転校前…励ましてくれた母の顔が浮かんだ。

 ちゃんと笑ってくれてた。


 そして起爆スイッチが押される。


 カチッ…


「止めてぇええええええええぇぇ…・・・…」

 琴音の声が聞こえたかと思うと一瞬で光りが視界を支配し、

 そして意識が蒸発した。



 ッドォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!






『藤田君…』


「えっ?」
「どうしたの浩之ちゃん?」
 教室に向かう廊下、突然浩之は誰かに呼び止められたような気がした。
「いや委員長の声が聞こえたから…」
「そんなハズないよ保科さんなら教室で待ってるもん!」
「そうだな」
「ほら早くいこうよ浩之ちゃん!」
 あかりが浩之の手を引っ張る。
「でも…聞こえたんだ」
「気のせいだよ!」
「………」
「ここにいれば辛いことなんてないんだよ?」
「それでも…」
 あかりの言葉に心がゆらぐ。
「もういやなんでしょ?…悲しい思いなんてしたくないんでしょ?」
「………いやだ…」
「だから、いこうよ浩之ちゃん!」
「それでも行かなきゃいけないような気がするんだ…」
「私を…また無くしたい?」
「……それは…イヤだ」
 そしてゆっくりと浩之はまた夢の中に戻っていった。



 
「保科さん…」
 琴音は呆然とその場に立ち尽くしていた。目の前の瓦礫が現実の
感覚を加速させる。
「私だけ残っても…仕方ないじゃない…ですか…」
 涙が頬を伝う。言葉が喉を通らない、ただ焦燥感で胸が埋まる。

そんな感覚…

「生きろって、諦めるなってアナタが言ったんですよ。勝手すぎます!!」

 ガラ…

「えっ!?」
 わずかに離れた処から音が聞こえた。
「保科…さん?」
 ゆっくりと琴音はそちらに目をむけた。だがそこに保科の姿はなく…
「アナタは…エルクゥの……」
 梓がそこにはいた。すでにほとんど動ける状態ではなかったが辛うじて
生きていた。
「…ここは…?」
「なんでっ!?」
 琴音は回りを見渡し、自分の銃を探した。
「あそこかっ!!」
「耕一…どこ?」

 タッ

 瞬時に琴音が飛び、銃を掴み銃口を梓に向けた。
「?…」
 その様子を不思議そうに梓は見ている。そしてそれは琴音にも
違和感として伝わった。
「何…?」
 梓は琴音のことを見ながらゆっくりと立ち上がった。
「うっ動かないで!?」
 琴音が叫ぶ。自分は撃つべきなのだ…保科の仇をとるべきなのだ…
そうは思っても今目の前にいる梓を撃つことは琴音には躊躇われた。
少なくとも敵意のない相手を撃てるほど琴音は腐ってはいない。
「ここはどこ?…私はなんで…」
「何を言っているの?」
「あっ…」
「!?」
 梓がウシロを向く。そしてそこには耕一が立っていた。
「エッエルクゥの王!!!」
 迷わず引き金がひかれた。

 ッドォォオオオン!!!

「やったっ!!」
「ふんっ!!」
 耕一が手をかざす。すると一瞬で琴音が放ったモノはかき消された。
「…児戯だな、この俺には聞かんよ…」
「!?」
「耕一…」
「梓、遅くなったな」
 耕一は優しく微笑んで梓を見た。
「ったく、本当に遅かったよ。私ずっと待ってたんだから!」
「ワリィ…」
「それで耕一、私なんでここに……」
 
 ドスッ…

「えっ!?」
「本当に悪いな…梓」
 梓は静かに自分の胸に突き刺さるモノを見た。
「耕一?」
「でも、もうすぐ終わるから…」
 ゆっくりと剣が抜かれる。その様子を梓は、琴音は不思議に見ていた。
「なんで…」
(なんで耕一が私を?)
「後…2人…」
「そっか…あの時……」
 そして梓は思い出す。エルクゥの本能に目覚める前、あのすべてが狂ってしまう
前のことを…
「初音もアンタが殺したんだっけ…」


 ズル…


 剣が抜けたと同時に梓は力なく倒れる。
(そうだ…私は耕一が初音を…そのときからずっと……)
 意識が消えていくのを感じながら梓は思った。


(アンタを救いたいって…だからアンタの代わりにこの手を…)



 魂が霧散する…そして今まで殺してきた多くの人に謝りながら梓は
『消えて』いった。


「なんで…」
「……………」
「なんで殺したんです!!!」
 その場を見ていた琴音はただ叫んだ。
「アナタの仲間なんでしょっ?…それをなんで………」
「俺はすべてを救うために今、こうしてる」
「殺すことが救うこと?…そんなの馬鹿げてる!!」
 この目の前の男に激しい憎悪を燃やして琴音は叫んでいた。
琴音にとってなにより仲間を裏切るという行為そのものが『許せる』
ことではなかったのだ。
「そうだ、馬鹿げてる…こんな馬鹿げた話はないさ。いや、そもそもその
『馬鹿げた行為』を許してるこの世界そのものが間違っているとは思えない
のか?」
「何を言ってるんですか?」
「…ただの独り言だよ」
 そして耕一は後ろに振りかえった。
「あ、待っ…」
 琴音が呼び止めようとしたとき、すでに耕一の姿はこの場から消えていた。
さきほどの大志のときと同じように…



     『この世界そのものが間違っているとは思えないのか?』




続く…





〜うんちく〜

長距離銃SPSIX−04
名称:サイコスナイプ
 機動兵器用のPSIX−02を人が扱えるまでに小型化したもの。もっとも
PSIX−02がPSIを媒体としてマナを放出するのに対してこちらはPSIそのものを
弾丸として扱うために、使用者に負担がかなりかかってしまう。なお、PSI兵器の特徴
としては放出されたエネルギーの指向性が付くことが上げられる。つまり目標物に向かって
ホーミングに近い形で発射することが可能なのである。銃弾ですらよけるエルクゥがかわせな
かったのはこのため。

名称:CCS爆弾
 粉塵爆弾を応用した範囲限定型の爆弾、可燃性のガスを噴出してその範囲のみで
燃焼を起こさせることが可能。なお、作中に使われていたモノは大きさが全長10cmと
小型で範囲は中心から2M程度の威力だった。


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 以前予告編というのを出したことがあったんですが、ようやく話が追いついて
きました。つっても今回の話は性急にやり過ぎてる気もするが、もう少し掘り下げて
話書きたかったですねえ…ん〜〜次回へ続きます。

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5164/