−遊撃宇宙戦艦セリオン・第二十七話『意志』− 投稿者:紫炎
 思えば…罪悪感から始まったのかもしれない…あの時何も出来なかった
自分を認めたくない、だからすべてを捨ててここにいるのかもしれない、と…
「認めたくはないんやけどな…」
「どうしました?」
「いや…」
 上り続けるエレベータの中で保科は考えていた。自分がここにいるわけ、ただ
取り戻したかったモノがここにいれば取り戻せるのでは?…そう思ってここに来た。
最近ではそう考えるようになっていた。だからこそ今思う…
「なあ姫川さん…」
「はい?」
「これでええんやな…」
「…後悔してるんですか?」
「そりゃ、花の十代、二十代とこんなとこで過ごせばな」
「私もです」
 保科の問いに琴音は笑って答えた。
「…嘘つき」
「人のこと、言えないんじゃないですか?」
「そうやな…」
 『開放』…そうなのかもしれない、自分たちには今、力がある…仲間もいる、
そしてあの時は恐怖でしかなかったアイツが目の前にいる。これで自分を取り戻せる、
だけど、その後は?…願いを果たした自分は役立たずになってしまうのではないか?
今、横にいるモノたちとまた離れてしまうのではないか…そんな気持ちがあった。
だから問いを投げかけた。
「後悔はない…ただ……」
「思えば一番可哀相だったのは松原さんですね」
「…?」
「ずっと責任感じてましたから、身代わりに倒れた藤田さんのことを…」
「そやな、それに比べれば私らなんか大した責任感なんてあらへんもんな、
あの時、私らに何か出来たなんて思えへんもの」
 だからこそ辛い…
「そうですね…あ、着きます」
 エレベータのランプは目的のF23のところで点滅していた。
「さて、鬼退治といったろうやないか!」


−遊撃宇宙戦艦セリオン・第二十七話『意志』−


「ふぅ…ふぅ……」
 兵士たちの死体の山の中心、そこに梓はたたずんでいた。その瞳は恍惚そうに
周りを見ている。
「あははは、血の匂い…」
 前回、柳川との戦いから梓はすでにおかしくなっていた。本来、勝るべきであるハズの自分の
意志が女性を捨てたことによってエルクゥの本能に負け始めているのである。元より人間の部分で
ある精神がかねてより壊れ始めていたことも原因の一端ではあろうが…

「…あ、うぐっ…」
 一瞬、嘔吐をもようする。わずかに残った人間の部分はエルクゥとは完全に分離し、死体を
拒否していた。その人間らしさが余計に梓を苦しめる。

 キィ…ガシャンッ……

「ぐっ…?」
 わずかな音が奥から聞こえた。
「なんだ?…今の音は…敵か?」
 瞬間、


 ッキュゥゥウウウウウウン……


 ズシャッ!!!!!!


「うぁぁあああああああっ!?」
 突然、梓は壁に叩き付けられた。肩を撃たれた衝撃でそのまま持っていかれたのだ。

「ONE…」

「くっどこだぁぁああああ!!!」
 梓が見回す、だが今の銃弾は壁を貫通して撃たれたものだった。辛うじて方向だけは
掴める。
「そっちか!!!」

 ドッ!!!

「ぐあっ!?」
 わずかに梓の足をかすめる。だがそれだけでかなりの肉が持っていかれた。

「TWO…」

「何者だぁぁああああああああああああ!!」
 梓は吠えた。そしてそれが梓の中のタガを外す。その身体に破壊が満ちて
その本質が異質へと変わる…

 瞬間的にその右腕が壁に振り落とされた。

 ベキッバキィィイイイイ!!!!!

「くっ、ばか力がっ!?」
「見つけた!」
 そしてそこには保科と琴音はいた。そして…

「THREE!!」


 キィィイイイイイイン…

「!?」

「Fire!!!!」

 ドッォォオオオオオオオン!!!


 琴音が持っている狙撃銃から大質量のエネルギーが放出された。
「ぐっぁぁああああああ!!!!!」
「イケェェエエエエ!!!」

 その場が光り…白に染まり視界がゼロになる。
「やったかっ!?」
「多分…」

ォォォオオオオン…

 そして閃光の光が消え、残像もなくなっていく。
「最大出力…それでこんだけのパワーが出せるんや…」
 保科は目の前にある風景に愕然としていた。その目に見えるところはすべて瓦礫の山
と化していた。
「サイコスナイプ…対人用にセーブしてあるとは言えブースター(増幅器)が弱いから…」
 琴音は息をついて話した。威力はあったがそれに見合うだけの疲労を課せられたのだ。
「ようやったな、アンタはゆっくりしとき。」
「はい…」
 保科の言葉に琴音はゆっくりと膝をついた。今まで目標としていたモノを仕留めたのだ…
張り詰めていたものが一気に吹き出してもおかしくはない。
「でも…なんか……」
「拍子抜けやな」
「はい、でもこんなモノなのかもしれんませんね」
 狩る者と狩られる者、その立場の違いがここに現れた。梓はその違いに気付かなかったから
こそ深手を負ったのだ。時には引き、戦況を見極められなくては『狩人』とは呼べない。

 エルクゥの『血』がそう言っていた。

(殺す…)

「えっ!?」

 ズシャッ…

 一瞬、何かが飛び出した。そう琴音が知覚したときにはすでに銃は飛んでいた。
「まさか直撃やったやないか!?」
「甘いよ…」
 保科と琴音の前に再び立った者、それは全身を血に染めた梓だった。返り血ではない…それは
正真正銘の自分の血、かなりの深手である。
「鬼と化した部分は通常、外骨格のような形成になっている…貴様らが壊したのはソレだよ」
 そう、一瞬の判断で梓はよけることに成功した。相当の痛手は受けているが…
「ふん…そやけどなぁ、その身体でどう闘…!?」
「黙れ人間!!」
 保科が言葉を続けようとしたとき、すでに目の前に梓が立っていた。通常の人間では視覚すら
できない早さをまだ梓は持っていた。だが…

 キィイインッ!!

「ぐっ…」

 振り下ろした梓の腕の先には何もなかった。
「上や…」
「!?」

 グサッ!!

 梓が上を向こうとした瞬間、背中に熱いものを感じた。
「お前はっ!?」
「うぁっ!!!」
 梓の振り払おうとした腕が保科に直撃し、その身体を吹き飛ばした。
「保科さんっ!?」
「イッタァ…くく、さすがにキツイわ…でも」
 苦痛であるハズの保科が笑った。梓の背中に刺さったナイフを見て笑っていた。
「どうしたんやアンタ、なんか痛そうなツラして」
「黙れっ!!」
「さんざん人をゴミ呼ばわりして、勢い勇んでやられてるんやから世話ないで」

 シャッ…
 
 保科が腰から2本ナイフを取り出す。この3年間、死ぬ気で特訓したナイフ術…
自信と力がみなぎるのを感じる。だがそれでもエルクゥとの差は大きい。
「そんなもので私と殺り合おうってのか?…正気とは思えないね」
「援護します…」
「ええって…姫川さんは下がってるんや」
「でも…」
「もう『力』は残ってないんやろ…アンタは生きておかんとな」

思えば…罪悪感から始まったのかもしれない…あの時何も出来なかった
自分を認めたくない、だからすべてを捨ててここにいるのかもしれない。

「保科さん……アナタは…」

そう思ってここに来た。

「アンタ、佐藤君が好きなんやろ?」

でもそれは昔の話…

「えっ…」

3年という月日は人を変えた。

「そういうことや!」

私は私が信じたミンナを守りたい、姫川さんも藤田君も佐藤君も…

ミンナ、ミンナ、私の大切な…


「大切な仲間、私はそれを守るために今ここにいる!!」

 そしてそれが私の生きた意味になる。



続く…


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>川村飛翔さん
>ホントに起こったお話 こみっくパーティー編
 ああ、よくありそうですね。
例えば………………
……………
……
犬彦ユダヤ…
いるのか分かる人?(笑)
><遊撃〜セリオン>
>やっぱタイトルの元ネタって・・・麻宮先生のあれですか?(謎)
 タイトルはアレです。中身は最初っから途中でクウォヴァディス(ラジオ版)風に移る予定でしたが
アディラの父親役が見つからんかったんでオリジナルで進んでしまいました。
「あの子は英雄などではない。私の娘なんだっ!!」
ってのがやりたかった(元ネタ知ってる人いるのか?(笑))

>フェスティバル
>里茄野のわく さん
むう、落ちがわかんない…(涙)
初音のマイナス部分…反転ダケ食わんと悪人にはなれないこと?(笑)
むしろそういう逃げ口があるからしにくいのかも(^^

>『おまえらのモノは俺のモノ』 
>久々野 彰さん
なんかレズに走りやすいなぁ…あの4人は(笑)
いや…なんとなく(^^



>ギャラさん
>痕拾遺録第九話「鬼が巡って」 
 エルクゥの家族構成…四姉妹は皇族で、ダリエリが長…するとダリエリも
皇族なのか、また役割が違うのか……セリオンが終わったら(終わる前に書くかもしれんけど)
次郎衛門の話書いてみたいですねえ。
>……果てしなくイヤなマルチですね……(汗)
 元ネタの課長バカ一代はさらにイヤな方々が揃ってます(笑)
>うわ……葵ちゃん、重いですね……(汗)
カノンの影響ということで(笑)
最初から考えていた話だったが書いてたら偉く重い話になってしまった(涙)
も〜〜ちょいこの路線で続きます。ちなみに後一度ほど出てくるタイトルのレプリカワールド
は天使禁猟区から抜粋したもの(^^

でわでわ!

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5164/