−遊撃宇宙戦艦セリオン・第二十六話『痕』− 投稿者:紫炎
「うぁああああああああ!!!!!!!」
 vladの悲鳴が辺りに響く。
「葵、アンタいつの間にそんなに強く…って葵!?」

 バキ…グシャッ…

「うあっ、や…止め…ぎゃぁぁああ!!!」
 勝負は決まった…頭部の損傷に片腕の骨折…vladに闘う力が残ってないことは明らか
だった。だが葵は攻撃を止めない。
「止めなさい、葵!!」
「ふう…あは…見て下さいよ綾香さん」
 今だ葵はvladをなぶり続けている。だがその行動よりも綾香にはその葵の表情に戦慄した。
笑顔で昔と変わらぬあの顔でvladをなぶり続けているのだ。
「まだ…動いてる…駄目?…ですよね。こんなの生きてちゃいけないんだ…
藤田さんを苦しめている『存在』なんて会っていいハズがない!」
「や…助け……」
 わずかにvladの口から声がもれる。
「ふふ…あはははははははっ、しゃべらないで下さい!!」

 ズガンッ!!!

「グキャッ!?」
 葵の拳によってvladは残りの歯とともにその顎を破壊された。
「止めなさい…」
「こんなの…許さない…私はコイツらが生きていることを許さない!!全部殺してやる!!!!」
 綾香の声は葵には届かない。だがそれでも綾香は続けた。
「もう止めなさい、葵!」
「潰して、殺して、砕いて、全部殺して………」
「もう駄目よ葵っ!!!!」
 
 バッ!!

 綾香は葵の腕を掴んで制止した。
「…もういい、終わったの…」
「全部殺して…そして……」
「もう、そいつは死んでるから…」
「藤田さんを追って私も死ぬの……」
 


−遊撃宇宙戦艦セリオン・第二十六話『痕』−



 タッタッタッタッ…
「ふむ…まさか移動手段がすべて停止しているとはな」
 九品仏大志は悪態を吐きながら中心へ、中心へと走っていった。辺りには所々人やエルクゥの
死体が転がっている。8:2ほどで人の方が多い。
「この分ではすでにほとんどの人間は殺られていそうだな…吾輩ももう少し早く駆けつけていれば…」
 実は大志はエルクゥが来たことも気が付かず、自室でミトの続編が出ることに歓喜し踊っていたのだ。
ちなみに大志の部屋はエルクゥは侵入したポイントに近く、それゆえESPのいる地点まで短時間で
辿り着いたのである。
「しかし…誰か生存者はいないのかっ!!」


『うわぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!』


「!?」

 突然、悲鳴が先の通路から響いてきた。
「いたっ!!」


「ハァ…ハァ……」
「ふん、貴様らが俺を殺すだって、寝ぼけているのか?」
「黙れぇええ!!!!」
 この衛星のガードであった兵士は手に持った銃を目の前の男に突きつけた。だが…
「いないっ!?」
「この程度も見えないのか?」
 一瞬にして男は兵士の裏に回っていた。
「う…ぁあ……」
「邪魔をするなっ!!」

 グシャッ!!!!

 その男のアームロックによって兵士は頭部を破壊され、生命を停止した。
そのことからも男が強大な力を有していることが読み取れる。
「さて…急ぐか」
「待て待て待て〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!」
 男が立ち去ろうとすると目の前に大志が飛び込んできた。
「ん?」
「ここでのこれ以上の狼藉は許さぁぁああん!!!!」
 一瞬にして大志は全身をバネにして、上段からの蹴りを見舞った。
「ふんっ…」
 だが男はその蹴りを『片腕』で受け止め、そのまま壁に叩き付けた。
「ぐっ!」
「なんだお前は?」
 その大志を冷たく見つめた男はそう切り替えした。
「くぅ…貴様こそ、ただのエルクゥじゃ…ないな」
 大志は苦しそうにうめいてその男を見た。
「俺か…俺の名前は柏木耕一、エルクゥの王たる者だ!!」
「貴様が…」
 大志は呼吸を整え、ゆっくりと立ち上がり構えた。
「…吾輩の名は九品仏大志、貴様が殺した柳川拓也の同志だ!」
「お前が柳川の…そうか……」
「貴様はっ!!」
 大志はそのまま飛び出そうとした。だがその足が動くことはなかった。

 ゾクッ…

(な…んだ?)
 足が、身体が、全身が動かない、いや動けない、それは心の奥底から
伝わる恐怖、本能とでも言うべきものが大志の身体を押さえつけていた。
「お前…」
『ふふ…分かるのか?』
「誰だ?」
『柳川の名の前ではヤツは死んでいるからな…私は…』


『真なるレザム、<グイン>』


「真な…るレザ…グイン?…って!?」
 大志は多少注意力を解いた時だった…
「消えた?」
 一瞬にしてそのグインと名乗った男は消えていた。去ったのではなく
言葉通りその場から姿を消したのだ。
「なん…だったんだ?」





「はぁ…はぁ……」
「落ち着いた?」
 綾香は葵を抱きしめ、ゆっくりと聞いた。
「綾香さん…3年前……」
「え?」
「どこにいました?」
 一瞬、綾香には葵の言葉に意味が理解できなかった。
「3年前…あっ!?」
 3年前、それは藤田たちの結婚式…
「私は…日本にはいなかった。あの頃の私は1人で南米を回っていて…」
 その当時、綾香は1人武者修業と称して世界各地の格闘技をめぐって歩いていて
連絡すらつかなかったために、綾香が藤田や姉の訃報を知ったのは半年も後のことだった。
「私はあの日、藤田さんの前にいました。幸せだよって…笑って…だから私も喜ばなきゃって
思って…」
 そう語っている葵の瞳に精気はない。
「それでも…涙が溢れて…藤田さん優しいからなぐさめてくれて…それで」
「…葵」
「その後…あかりさんが死んだ。一瞬、嘘みたいに舞って落ちて…私は気がついたら
飛び出してた」
 綾香は何も言えなかった。いや…声が出ない。
「でも飛び出すべきじゃなかったんです。私は相手の力も計れずに挑んで、そして藤田さんが…
私の身代わりに……」
(なんで…)
「だから…私は許せない。あかりさんを殺して…藤田さんを傷つけた『アイツら』も私も…」
(なんで私はそこにいなかった!?)
「絶対に許せない…」
 そう言った葵を目にして綾香は後悔ですらない念にかられ、涙を流していた。
「私は…」
(なんで私は何も知らずのうのうと生きていたの?…なんで誰も教えてくれなかったの!?)
「私はそんなことすら知らなかった…」
 綾香の小さな…鳴咽にも似た、だが精一杯の叫びがそこにはあった。
「私はそこにいなくちゃいけなかったのに…たとえどんなことがあっても守らなきゃ
いけなかったのに…どうして私は……」
 そして綾香は知った。自分が大切にしていた『すべて』がすでに無くなっていたことに…
それはあまりにも遅すぎた事実で、ただ泣くことしかできなかった。かつて大切なモノの一つで
あったハズの少女の抜け殻を抱きながら………


『綾香さん!』



 もうあの頃の笑顔は頭には浮かばない。





続く…

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 なんか気分的にカノン引きずっててダーク路線まっしぐらです(^^
そんなワケでvladさん、チャットで公言した通りボコボコにさせていただきました(^^
ちなみにESPさんはガウスで攻める予定、お覚悟を(笑)

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5164/