−遊撃宇宙戦艦セリオン・第二十五話『レプリカワールド(楽園)』− 投稿者:紫炎
「撃てっ、撃て撃てぇっ!!!」
 ここは衛星のポイントA-04、この建造物の中心に近い場所である。
「馬鹿どもがっ、そんな弾が私に効くと思うかっ!!」
 その赤い髪をした少女は閃光のように弾の軌道を見極め、進んでいった。
「どこだセリオンの人間たちっ、貴様らを狩りにこの柏木梓が来たぞぉっ!!!!」
 

 同時刻、衛星中央制御室…
「勝手なこと言ってるわあの馬鹿!」
「あの女がそうなんですか?」
 怒りをあらわにしてモニタを睨む保科に琴音が質問する。
「そうやっ、アンタは見てへんかったようやが、3年前のあの日…浩之に重傷を負わせ、
神岸さんを殺したのは間違いなくアイツやっ!!」
「………どうします?」
 そう静かに琴音は尋ねる。
「決まってる。私らが殺るんやっ!…アイツだけはたとえこの命が消えようと許すことは
できんのやっ!!!」


−遊撃宇宙戦艦セリオン・第二十五話『レプリカワールド(楽園)』−


「なんで、私がそこにいるのよっ!!」
 志保は目の前にある光景に愕然としていた。

「おら、あかり急げよっ!!」
「待ってよ浩之ちゃん」
「ヒロォッ今走ってるのはあんたが遅刻したせいなんだからね!」

 今まさに志保の前で高校時代の浩之、あかり…そして自分自身が
『登校』している。かつての自分たちがそこにはいた。
「ちょっとアンタッ!?」

 カスッ…

「えっ!?」
 志保がこちらに向かってくる『志保』の手を握ろうとするが、わずかな
感触の後、そのまますり抜けてしまった。
「この感じ…まさか……」
「接触型立体ホログラム…この場所は巨大な虚像空間なんだよ志保」
「雅史っ!?」

 志保が声の方向に目を向けるとそこには雅史と矢島がいた。
「ここにある『本物』は浩之だけだよ。今見える学校も人間もすべてはニセモノ、
宇宙海賊『ToHeart』もそのほとんどが嘘で構成されている」
「それって一体…」
「壊れてしまった浩之を救うためだそうだ」
 口を閉ざしていた矢島がボソっと呟いた。
「あかりさんを失ったショックで年齢を退行してしまった浩之を救うために造られた
要塞がここなんだ。ここは壊れた浩之のための『楽園』」
「??…言ってる意味が分かりません?」
 レミィはよく分からないといったそぶりで尋ねた。
「…ヒロは…もう、戻らないの?」
「精神的なものだけじゃない、エルクゥにやられた身体を補うために全身にエルクゥの
細胞を植え付けたんだ。そちらにいた柳川さん同様にね。」
「…………」
 月島と香奈子がゆっくりと顔を下げた。同じ仲間、しかもパイロット同士であった
柳川には二人も思うところがあるのだろう。
「浩之が今のままで生きていられる時間は後5ヶ月…」
「くっ!?」
 志保が突然走り出した。
「おい、待てよ志保!」
 続いて矢島も志保を追う。
「…………」
「さて…」
「………」
「ここらで俺たちはセリオンを退場させてもらうかな…なあ、香奈子」
「ええ、拓也さん…佐藤さん、私たちの機体はここにありますか?」
「あります、二人とも今までご苦労さまでした…」
 月島と香奈子の二人に雅史はゆっくりと頭を下げた。
「え…え…?どういうことですか?」
 レミィは一体どうしたことかと雅史と月島たちを交互に見ている。
「えっと、宮内さんでしたっけ?」
「あっハイ!」
「艦長には『今までありがとうございました』とお伝えください。それと『さよなら』と…」
 香奈子はさびしそうに、だがゆっくりと確実にそのセリフを言った。





 一方…


「…ひゅう…」
 今だ葵、vladの二人は動いていなかった。
「どうしました、来ないのならこちらから行きますよ」

 ジリ…

 わずかに葵が足を進める。
(…どうする?どうする?)
「………」
(いや、大丈夫だ…俺は俺の力を信じるんだ。たとえ目の前の
この女がどんな化け物だろうと…俺は負けない!!)
「………!?…」
「悪かったな…時間をかけた」
 そういうとvladはゆっくりと腰を落し、その両腕を前に出した。

(レスリングスタイル!?)
 その場で見ていた綾香は動揺した。本来のエルクゥのスタイルは
かぎりなく野獣に近い。動きは単調ではあるがその絶代なる破壊力をいかん
なく発揮できうる戦法なのである。自らですら安易に破壊できるエルクゥの力
に格闘と呼びうるモノはあまり存在しない。その中でも特に寝技、関節技
などは皆無といってもいいだろう。握れば壊せる『力』を持つ者たちにその
ようなモノが必要であろうか?…だがそれ故に綾香はエルクゥたちを撃退
出来たのである。綾香にとってはいかようにスピードがあろう攻撃でもその
軌線が見えるならばなんの問題もなく合気の技でかえせたのだから…
(だけど…『アレ』はマズイ…)
 だが今、目の前にいるvladはあえて打撃のみで攻めるのではないレスリングを選んだ。
エルクゥとしてありえない『ソレ』は間違いなくエルクゥの戦闘ではあまり威力を発揮することは
ない。なぜならエルクゥの攻撃は自らの防御すら軽く看破してしまう威力なのだから…技に
持っていく以前に破壊力のみで攻めた方が良いというのは安易に予想できる。つまりエルクゥが
レスリングで挑むということは『綾香』などのようなエルクゥに対抗できうる人間に対してのみに
有効なスタイルなのである。

「葵っ!!」
「…大丈夫です。私負けませんから」
(分かってるの?、組まれたら終わりなんだよっ!)
 綾香の心配をヨソに、葵は変わらぬ表情でvladを見据えた。
「…大した自信だな、そこの女はすでに俺の力が分かっているようだが…」
「アナタの実力ならすでに見切っています」
「…くっ、減らず口を…」
「・・・もう一度聞きますよ」
「?……」
「来ないのならこちらから行きますよ…よろしいですね?」


 プチッ…


「葵っ!?」

 瞬間、vladは走り出した。そしてその右腕を葵の左腕に狙いを定め、
前に突き出す。

「!!…」

だが葵はその腕に気にすること無く懐に入り込んだ。
「プロレスをナメ過ぎてるっ!!」
 綾香は思わず悲鳴を上げた。綾香の目には葵のソレは自殺行為以外の
何者でもなかった。
「覇ッ!!!!!!」
 vladが掴んだと同時に葵の掌底がミゾオチに入る。
「グフッ!?…うぐっぁあああああ!!!!」
「それじゃ駄目だ葵っ!」
「………」
「くっ…耐えたぞ!」
 vladは苦痛に満ちた表情ではあったがしっかりと両腕に力を入れ、
クラッチを決めた。
(いける、このまま折る!!)
 心の片隅でvladがそう考えたとき、葵が動いた。
「無駄です…」
 
 ブチィッ!!

 分からなかった…vladには今何が起こっているのか分からなかった。
ただ自分の決めていたハズの腕は跳ね上がり、宙を遊んでいる。それだけは分かった。
「えっ?」
「レスラーのクラッチをブチ切った!?」
 そう、綾香の言葉通り葵はただ単純な『力』だけでvladの腕を振り解いた
のである。エルクゥが人間の、しかも女の腕力に屈したのだ。

 そして膝…

「うぐっはぁああ!?」
 防御すらできずvladは葵の膝蹴りを顔面にモロに受けた。
「…ぐっぅうああああ!!」
 堪らずvladは両腕を前に構え、防御をとる。だが、

 グシャッ!

「!?…」
 正拳突き、人の出しうるパンチの中でも最速とされる拳がその防御すら
貫通して顔面に叩き付けられる。その、やはり信じられぬことだがその拳に
よってvladは体勢を崩し、地面に倒れた。そして…

(嘘っ…だろぉおお!!!!)





 …ッガァアアアアアアアンッッッッ!!!


 3度目の頭部への攻撃、それは渾身の力を込めた『踵落とし』である。
(…カラ…カラ………音がする?)
 口の中で砕けた歯の鳴る音、それがvladの鼓膜には痛いほど響いた。
(やば…殺され……)
 vladは無意識か意識か、あるいはそのどちらかかもしれないが生命の危険を
感じた。だが身体は動けど3度の頭部へのダメージのため平衡感覚は乱れ、
文字どおり地面を這って逃げようとした。
「ブザマですよ」

 ガシッ…

 ゆっくりと葵はvladを掴む。
(…寝技?)

 意識も朦朧としているvladにもこれから葵が何をしようとしているのかは
よく分かった。それは技に熟知しているvladだからこそ読めたことだ。
もっともそれで事態が変わるわけではない。ただ先が読める分、恐怖が先立った。
(これは…)

 グッググッ…

(脇固め!?)




 ッボキィィイイイイイッッッッ!!!!!!!!!


 その鈍い骨の砕けた音と共に、vladは自分の悲鳴が聞こえたような気がした。



続く…



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 ども紫炎です!今回と次回でvladさんは完膚なきまでに叩き潰されるので同姓同名
の某方はご注意(何を?(笑))下さい!
むう、どうも21話から予定より長く続いているなあ…ああ、それと今回の
葵の攻撃は餓狼伝の某氏の道場破りより拝借。
分かった方はニヤリとしてくださいね(笑)

それではバイバ〜イ!!

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5164/