−遊撃宇宙戦艦セリオン・第二十一話『真相』− 投稿者:紫炎
ゴゥウウン…

「なんやあれ、ボロボロやないか!?」
 火星軌道上にある人工衛星『TH−99』、
そこは来栖川グループの極秘実験場であるとともに宇宙海賊
『To Heart』の住処でもあった。
「なんでもエルクゥの一番隊とやりあったらしいからね、大破
しなかったのが不思議なくらいだよ」
 その衛星内の戦艦デッキを眺める雅史と保科、二人の心境は
複雑だった。なぜなら…
「独立戦闘型戦艦セリオン、まさかここにくるとはね。」


−遊撃宇宙戦艦セリオン・第二十一話『真相』−


 前回、千鶴の艦隊との激戦の末、辛くも戦闘に勝利したセリオン。
しかしその機体は傷つき、補給すらままならず、どうにかこの衛星まで
たどり着いたのである。しかし、その手引きは来栖川の人間の綾香では
なく連合軍司令の緒方英二によるものだった。

「どういうことです?」
 矢島は緒方に聞かざるを得なかった。『To Heart』と緒方…いや軍とでは
何かしらの繋がりがあった、それどころかスポンサーである来栖川でさえ
敵であるハズの『To Heart』を支援、もしくは黒幕だったと矢島にも推測できたから
である。
「どういうって、こういうことさ…すべては来栖川の機密保持のため、実際
『To Heart』が襲った艦は来栖川の物資補給艦のみ…わざと奪わせることに
よって秘密裏にこの衛星に物資を運んできたんだ」
「じゃあセリオンを襲った理由はっ!?」
「同じことだよ、セリオンの核であるタリスマン…あれを極秘裏に持ち出すには
積んだ戦艦を拿捕するのが手っ取り早い。予想外だったんだろうな、セリオンが
まさかあれ程やれる戦艦だったなんて」
「…!?」
(なるほど…俺のような元軍属のダメ男を艦長にしたのも、そのためだったか。)
 当時舞い上がっていた矢島は自らが艦長になれた思惑など考えもしなかった…
だが確かに実戦経験もないような若造を艦長に据えるなどおかしな話である。
 乗組員もよく考えれば、経験もないぺーぺーばかりだったしまともに艦として
動かしたいのならばキャリア組が多く乗っているのが当然のハズだ。
「あのエルクゥとの戦争も来栖川にしてみれば、とっくに予測していたらしいな。
失敗作だったアクアプラスも戦争が始まった当初から企画だけは見え隠れして
いた。」
「………」
「それもすべてはここにいる黒幕1人で動かしていたことだ」
 緒方の視線が目の前の扉に注がれた。
「現来栖川グループ会長は不在のため、代理としてセバスチャンがその席に
ついているが事実は違う。『会長』は存在する…それが……」

 キィイイイ…ガシャンッッッ!!!!!

「…………」
 扉は開かれた。そしてそこにいたのは…

「お久しぶりです、『来栖川芹香』さん」

 かつて来栖川エンストラードホテル事件の際、死亡したと報道されていた
8人の内の1人『来栖川芹香』であった。
「…綾香さんのお姉さん…ですか?」
「………(コクリッ)」
「3年前、来栖川の所有するホテルで事件があった。その事件によって
来栖川の所有していたホテルは半壊、死者は藤田浩之、藤田あかり、
佐藤雅史、松原葵、姫川琴音、保科智子、来栖川芹香、藤井冬弥の
計8名であると報告されている。」
「それは綾香さんから聞きました。だが浩之は生きていた。この芹香さんも…」
 そうだ、あかりさんも俺は確認している。『アレ』はまったくのデタラメのハズ
だ。
「当時、あのホテルでは結婚式が開かれていた。新郎、藤田浩之と新婦、
『藤田』あかりの…その結婚式は来栖川の全面バックアップで行われてね、
新婦の胸にはあの頃ではまだ珍しい宝石程度にしか考えられていなかった
タリスマンのペンダントがかけられていた。」
「………」
「あかりさんの…胸に……」
「そしてその場に奴等が現れた、エルクゥ…奴等は迅速に行動し、まだ人の
まばらだった時を狙い、道を閉ざし、花嫁のペンダントを奪った。花嫁の命
もろとも奪い去った!!」
「え…?」
 矢島は緒方の言葉に懐疑的な目をむけた。
「花嫁が死んだ?」
「そう、死んだ…その後、奴等は1人射殺されたのを抜かして逃走、
その際2人の人間に重傷を負わせた」
「ちょっと待ってくださいよ緒方さん…だって俺見たんすよ、あかりさんが
乗っている機体を!!」
「偽者だっ」
「嘘だっ!!!」
「嘘じゃないよ…あかりちゃんは僕の目の前で死んだんだから…」
「なっ…お前は……」
 振り替える矢島の前に雅史がいた。
「あかりちゃんは死んだ、君が戦ったあかりちゃんの機体は疑似人格による
オート制御マシンなんだ」

『まさか…無人機……?』

「あの時のは…それじゃあ……」
「その後、あの事件で死んだと思われていたメンバーで『To Heart』は
動き出した」
 緒方英二が冷めたように言い放った。
「それもすべては『藤田 浩之』という男のためにね。彼は今…」
「緒方さんっ!!」
 雅史は普段は出さないような大声で緒方を制止した。
「ん、なんだい佐藤君?」
「彼には僕から話します…アナタは来栖川さんと今後の話を…」
「ん、そうだね…」
「行こう、矢島君」
「あ、ああ…」
 雅史は矢島を連れ、その場から去っていった。
「ふう、それでは芹香さん」
「…………」
「どうせ予測してたんでしょ、今までの事をすべて…」
「……(コクッ)」



 カツカツ…

「おい、雅史っ!!」
「えっ!?」
 長い廊下を歩き出してからかなりの時間がたっていた。
「なんか話すことがあるんだろ…言えよ!」
「うん、そうなんだけど…何から話そうか?」
「…あかりさんは……」
「ん…ねえ矢島君?」
「えっ?」
「高校のときは楽しかったよね…」
「なんだよ、いきなり…うーーん、一概に楽しかったとはいえないが…」
「少なくとも浩之には楽しかったんだよ、辛い現実から逃げ込んじゃうほどに…」
 雅史は悲しげな顔をして呟いた。 
「逃げた?」
「あのとき以来、浩之は狂ってしまった…あかりちゃんを殺したエルクゥに挑み、
傷つき、そして目を覚ましたとき、浩之の心は17に戻っていたんだ」
「……!?」
「精神も肉体もボロキレのようになって傷つき、辿り着いた先が高校時代だった…
あかりちゃんや志保やみんなのいたあの頃に」
「そんな…」
「今の浩之にはあかりちゃんが必要なんだよ、だから用意したんだ…これで分かった
でしょう?…あかりちゃんはここにはいない。それと…」


 カチャッ…


「佐藤…?」
 突然雅史が腰に下げていた銃を矢島に突きつけた。
「セリオンの闘いはここで終わりだ、後は僕らに任せて欲しい。だから…」
「そんなことがっ!?」
「抵抗しないで、この引き金は軽いから…」



 同時刻…


「セリオンを発見しただと…」
『はい梓様』
 ここは梓の旗艦『アズエル』、柳川との闘いに負けた梓はそのエルクゥの
本能に支配され、血を求めていた。
「分かった、かおりはそのまま待機してな…すぐそちらに向かう」
『はいっ!』
 そのかおりの声とともにウィンドウが消えた。
「そういうわけだ…お前たち」

 ザカッ!!

 梓が声をかけると、その後ろから三つの影が現れる。
「目標は火星A−98ポイントの人工衛星、乗り込んで皆殺しにかけるぞ」

「「「はっ!」」」

 そして静かに『アズエル』は軌道を火星に向け、出発を開始した。


続く…


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うう、本家が動いてないなあ…ども紫炎です!
なんか本家即興が今だに復旧してないですねえ…だからと
言うわけでもないんですがこっちでも投稿させていただきます!

今までの連載はウチのHPか図書館にありますので、よかったら
見たって下さい!!

でわ〜〜〜〜!!!

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5164/