−遊撃宇宙戦艦セリオン・第十八話『さよなら』− 投稿者: 紫炎
「柳川拓也、あなたにはセリオンのパイロットをやってもらいます・・
契約通り、あなたの仲間の・・阿部貴之の面倒も見ましょう、それと
あなたの言葉が確かならそのエルクゥという奴等ともいつか接触
できるハズよ」
「断る理由はないな、来栖川のお嬢さん・・」
それが彼、柳川拓也と最初に交わした言葉だった・・・


−遊撃宇宙戦艦セリオン・第十八話『さよなら』−


エルクゥと宇宙連合軍の戦いから半日・・・セリオンのクルーたちは来栖川グループからの
連絡もなくただ宇宙を漂流していた。
「もーどうしたらいいのかしら!?」
「はあ・・まあこっちに取材来たのは正解だったわ、今ごろ地球にいたらどーなってたか
分からないし」
「『後は野となれ、山となれ』ですねぇ!」
違うぞレミィ!!・・・とその場の誰もが思ったが口には出さなかった。
「それで艦長、今後はどうするつもりだ?」
「・・そうですね、後半日ほどここに留まって連絡がない場合は火星のポイントまで
戻りましょう」
矢島の返答に柳川は「そうか」と答えただけで黙ってしまった。
「・・・・柳川・・なんか顔色悪くない?」
「別になんでもないさ・・」
「そう?」
綾香の問いにも柳川は力なく答えた、よく見るとたしかに顔が青ざめている・・・と、
その時セリオが会話に割り込んできた、
『艦長、救命信号を出している船を発見しました』
「セリオ、それでどこの船なんだ?」
『形式はSSS−X、名称『エディフィル』です』
「SSS・・スリーエスっていったら軍の極秘ナンバーじゃない!?」
志保が会話に割り込んできた。
「なんで民間人のアンタがんなこと知ってんのよ!」
「志保ちゃんニュースに不可能はないわっ、軍のコンピュータをハックしてきゃあ
簡単に分かるわよ!!」
(この女は・・・)
綾香の冷たい視線をよそに志保は自慢気に答えた。
「んなのいいからセリオ、回収しろよ・・・戦闘から逃げてきたヤツかもしんないし」
『了解!』
そして数十分後・・救出された船からは緒方英二と柏木楓の姿が見えた。

「いやー助かった、逃げるときに受けたダメージで航行に支障がきちゃって
あのまま彼女と心中ししちゃうかと思ったよ・・まあそれでもよかったけど・・」
緒方は冗談めいた口調で話し始めた。
「いや・・それにしてもお会いできて光栄ですよ緒方司令!」
「光栄ってほどのモンじゃないさ、今は敗軍の将ってやつだしね・・あ、そちらの綾香お嬢さんにはお会い
したことがあったね」
「はあ、でも今はただのセリオンのクルー、来栖川のお嬢さんじゃないですから・・・」
「君も大変だねえ、まあ今はお家騒動どころじゃないが」
「それでどうなんですか?」
「ああ・・・」
矢島の言葉に緒方が反応した、
「戦況は最悪だ・・軍は・・・・もう駄目だろうな、だがまだ勝ち目はある!」
そういった緒方は頑丈そうなアタッシュケースを取り出した。
「それは・・・?」
ガチャッ
「切り札さ・・・これをある処に持っていく、我々に残された道はこれしかない」
そのケースの中にあったもの・・それは牙のような形をした結晶・・『タリスマン』だった、

カタ・・

「ん?」
綾香が後ろを向くと柳川が背を向け歩いていった。
「柳川・・・」

(見たか・・)
「ああ・・あの楓という女にヨーク、そしてタリスマン・・間に合うな」
(仲間を裏切ることになるぞ)
「もう時間がない・・俺はまだこのまま朽ちるわけにはいけないんだ」
柳川の顔は苦痛に満ちていた。
「だから俺は俺の望みを止めない、あの日から俺はそのためだけに生きてきた
んだ」
(・・・それを私に手伝えと?)
(エディフィル、聞こえていたか)
(はい・・)
「協力してもらうぞ・・お前もヤツとの因縁浅からぬようだしな」
かつての因縁を持つ3人・・そして彼らは今、過去の清算をするための覚悟を決めた。


「柳川拓也・・ね」
そこはセリオンのラウンジ、すでに消灯時間は過ぎていてあたりは暗くなっていた。
「まあ・・今までにいなかったタイプだけどね」
すでに綾香の年齢は23を向かえ、かつてのように恋にはしゃげるほど子供ではないと
思っていたが今回は少し違ったようだ。
「あの男には何度もむかついたし、危険きわまりないのよねぇ・・・はっきりいって
彼氏にはしたかぁないわ」
その一人言はこれまで何度したことだろう・・
「はぁアイツがもっと普通だったらなぁ」
乙女心は複雑だということである、
「そういえば柳川、この間ここで悩んでなかったっけ?・・珍しく・・」
「珍しくて悪かったな」
「へっ?」

ガタッ!!

綾香が飛び上がって後ろを見るとそこには柳川が立っていた。
「やっやっやっやっやっやっや・・柳川ぁぁああ、いつからそこにいたのぉぉおおお!!!!」
「今きたところだ・・そんな大声で騒ぐな」
「あ・・・そう・・ん、アンタなんでパイロットスーツなんて着てんの?・・・もう寝る時間でしょ?」
「・・・ちょっと訓練をな」
「ふーーん、エースパイロットも陰ながら努力してるってワケ?」
綾香は冗談まじりにそんなことを言った。
「そんなところだ・・それじゃあな」
「うん・・お休み柳川!」
「・・・・」
「柳川・・?」
「来栖川・・あのな貴之のこと・・・」
柳川は綾香に何かを言いかけた。
「何よ?」
「・・・俺が死んでも守ってやって欲しい」
「どうしたのよ柳が・・・・・!?・・あ、アンタまさか・・」
「じゃあ俺行くぞ」

カタ・・・

「あ・・待ってよアンタまさか、行くつもりじゃないでしょうね!」
「行くってどこへ?」
「とぼけないでっ!!」
綾香は気づいてしまった・・柳川の決意を・・・
「・・・エルクゥたちを・・そしてその頂点にいる柏木耕一を殺す・・それが俺がセリオンに
来た理由だ・・」
「今行っても犬死にするだけよっ!なんでそんなに焦ってんのよ!!大体アンタ最近・・・」
「今日、メディカルチェックをしてみた・・」
柳川は唐突に話し始めた、
「・・メディカルチェック?」
「この身体でエルクゥの力を使うには無理があるらしい、細胞の寿命が尽きかけていて・・
なにもなければもって後一ヶ月だそうだ・・」
「・・え・・・嘘・・・」
綾香は軽い悲鳴にも似た声をあげた・・
「・・・それも何事もなければだそうだ・・・なあ来栖川、俺は後何度闘えるんだ?」
「柳川・・」
「このまま俺は死ぬしかないのか!!望みも叶わずにっ!!後何度戦場にでて、
何度闘えばヤツに会える?・・何度敵を殺せばいい?そして俺は・・・」
柳川が綾香を見た、その顔は綾香が初めて見る表情だった、
「俺は・・後何度、朝を迎えられるんだ?」
「私は・・・」
「俺のチャンスはこれで最後だ、それに俺はあの日誓った願いを止めることは出来ない」
「それでも私は・・」
「だから俺は行くよ・・これでさよならだ」
柳川はそう言ってこの場から立ち去ろうとした。
「待ってよ・・待ちなさいよ!!」
「来栖川?」
「アンタ、たった一人で闘って勝算あるの?」
「・・・・ある・・・・・わずかだがな」
「なら、私と約束してよ・・『絶対帰ってくる』って・・」
「・・来栖川・・・・」
「約束・・」
「ああ、分かった・・約束だ」
そう言った柳川の顔はわずかに微笑んでいた。

カシュウゥゥウ・・・

「来ましたね」
ここは楓のヨーク『エディフィル』のコクピット、
「遅くなってすまない・・それで首尾は?」
「タリスマンはすでにヨークに取り付けてあります・・クマデバリスも積みました」
モニターにはメインエンジンルームに取り付けられたタリスマンがあった・・
緒方から奪ってきたモノである。
「そうか、じゃあ行こう・・タリスマンを装備したヨークなら5,6時間もかからんだろう?」
「はい・・」
(柳川・・他人とのつながりなんて持たない方が気が楽なんじゃなかったのか?)
「ダリエリ、黙ってろ」
(まあ、我には人のことなど分からぬがな・・)
[・・・ふん・・・・別にお前らと対して変わらないさ」
「どうしました?」
そんなダリエリと柳川の会話を楓は不思議そうに眺めていた。

「なんだって、楓ちゃんと柳川さんが二人でセリオンを出たって?」
『はい・・緒方氏の持ってきたタリスマンも奪い、地球に向かっていきました。』
「なんだってそんなことを・・・」
深夜、突然の報告にセリオンでは緊急招集がかけられた。
「楓ちゃん・・・死ぬ気か・・・・」
緒方は遠く地球の方を見てつぶやいた、
「そんなことないですよ、柳川さんもいるんだし・・ねえ綾香さん!!」
矢島がそういって後ろを向いたがそこに綾香の姿はなかった。
「綾香さん・・・?」

「馬鹿・・・」
綾香の部屋、彼女は写真を見ていた・・それはセリオンが出撃する前に撮った
集合写真、中央の矢島をはじめとしてみんなが笑顔を浮かべていたがそのなかで
ただ一人、そっぽを向いてる男がいた。
「本当に・・馬鹿だよ・・・・」

ピチャッ

綾香の瞳からは自然に涙がこぼれ落ちていた、彼女にはもう分かってしまったの
かもしれない・・生きることに不器用だったあの男がもう2度とここには戻ってこない
ことに・・・・・


続く・・・


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どもでーす、セリオン18話っすぅ。
とりあえず、後、19、20話でひとくぎりです。
その後はどーいう展開になるか考えてませなんだ
が頑張ろう!
でわでわ!!!




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