命(ミコト)・・・最終章『心』 投稿者: 紫炎
命(ミコト)・・・最終章『心』

ここは白い部屋…ここは悲しい場所…ここは生きることも許されなかった孤独な2人の眠った処
「てめえがミコト…てめえが全部っ!!!!!」
チリ…
「えっ!?」
「うっいやああああああ」
眠っていたはずの琴音ちゃんが悲鳴を上げた
「なっなんだっ」
「駄目だよ浩之君…ここで感情をむき出しにしちゃあ……彼女も苦しがってる」
「これもお前がっ?」
「違うよ…君さ…君がやったんだよ、ここで生の感情を出さない方がいい…これは忠告だよ」
俺がやった…?なんのことだ……?
「なんの…?」
「もう一度言うぞ…んっ、いや君には無理か…場所を移そうか?」
チリ…チリチリ…
なんだ…この変な感じは?
「行こう…」
「おい…ちょっと待てよ!!」

カタ…カタカタ
「何よ…これ?」
「………(汗)」
綾香と芹香はサブコンピュータルームでミコトへのアクセスを試みていた…だがそこにあったのは
「ミコト…5月9日…データ消失…魂を完全にロストしている…そんな馬鹿なっ!?」
魂のロスト(消滅)…それはミコトの存在が無くなったことを意味する…つまり今現在ミコトは存在
していないハズである
「……・・(ぼそぼそ)」
「えっ…現在のミコトのデータコードが出たっていうの姉さん?」
「………(コクン)」
「検索…かけてみましょ……何か出てくるかもしれない」
「………(ぼそぼそ)」
「そうね…私たちがやらないとね」

「無理ですよ…長瀬主任」
ここは来栖川グループ本部ビル…屋敷から輸送されたマルチがミコトとのアクセスを開始した
「ミコトのコードではないと……」
「はい…これは人工的に造られたソウル(魂)ではありません」
「それじゃあ、まさか…」
「魂のコードは間違いなく人間のものです…そして研究所から検索した結果、同一のものが一件
ありました」
モニター上には一人の人間の名前が出ていた

『月島拓也…享年18歳』

ガシャンッ
「ここは?」
「ようこそ僕の部屋へ…」
コードだらけの無機質な部屋…ミコトが連れてきた部屋はそんな場所だった
「ここがお前の部屋…?」
「そう…ほらこれが本当の僕さ」
ミコトは部屋の中心のカプセルを指した…その中にあったのはグロテスクな脳みそだった
「!?」
チリ…チリ…チリ
「ふふ…電波を感じるだろう…ここは一番電波の濃い領域だからね、君にももう使えるハズさ」
チリ
「何を?」
「電波だよ、『オゾム電気パルス』…ここではそう呼ばれてるらしいね…『プロジェクトTo Heart』も
この電波によって形成されてるんだ」
チリチリチリチリ…
「それで…?」
頭の中が何か変だ…
「この電波は人の精神に影響を及ぼし、操ることも可能となる…もっとも普通の人間には不可能
なんでね…こうして電波を発生させる媒体を用意して、使用者に波長をあわせた電波を放出させる
のさ…つまり今は君に合わせてある」
チリ……
「人と人を繋ぐ『プロジェクトTo Heart』…そういうことか、俺がその電波で互いの意識を
繋ぐ役目ってことか……それで?」
「はっ?」
「それでてめーは何をしようってんだ!!」
それが疑問だった…全部が疑問だ…俺をここに連れてきたことも、本社を裏切ったことも、
あの浩之を撃ったことも、それに…こいつは何者だ?
「消滅…かな」
「…えっ?」
「終わらせたいんだ…全部……消したいんだよ、このザラザラした世界を……」
「お前…何を?」
消す…?…こいつ何をいってるんだ?
「それで安心して眠れる…知ってるかい?…電波の影響範囲は人の生死すら操る…そして
セリオのハッキングによって僕は世界中に電波を振りまくことができる」
チリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリ……
「お前は…」
「世界は終わる…僕は世界に巨大な足跡を残して眠りにつくんだよっ!!!!
ははははははははははあははははははははははあははははあははははは!!!!!!」
チリチリ…バリッ
「てってめえええ!!!」
「はははは…は…ん?…どうやら電波が安定してきたようだね…よかった…君にも手伝って
もらうよ、世界は広いからね…だがその前に」
チリッ
「うぐっ!!?」
身体が…熱い…!?
「君にも狂気の扉を開いてもらう…そして僕の人形になってもらうよ」
こんな奴に…
「そして、ともに終末を造ろう…」
こんな奴に…負けて…
「さあ…」
「負けてたまるかあああああああああああああ」
ドゴッ
「なっ!?」
ズササササササササッ
「うあああああああああ!!!!」
ガッ、ドガッ、バキッ、ドゴッ…
俺のパンチがミコトにヒットしていくっ!こいつだけは…こいつだけはっ!!!
パンッ
「えっ?」
止められた…俺のパンチはミコトの顔面寸前で押さえられてしまった…
「痛いよ浩之…パートナーだろ」
「うるせええええええ!!!!!!!!!!!!」
ガァァァァァンッ
「!?」
ザッ
「今だ浩之っ、さがって!!!!」
「雅史っ!!」
「ちいっ!!!」
ダッ
ミコトが奥の部屋に逃げていく
「待てっミコト!!」
「んっあっちは………?」
「どうした雅史?」
「ん…いや…行こう浩之」
「ああ…」

タッタッタッタッタッタッ
「なげえ廊下だな…」
奥はずっと廊下が続いていた…
「この奥は…バイオロイドの保管所だよ…月島拓也…何をするつもりだ」
「えっ…だれだ、月島って?」
「ミコトの本当の名前だよ…2年前事件になった集団衰弱死…1つの街をゴーストタウンに変え
この世を去った男…それがあいつの正体だよ浩之!!」
「!?」
「んっここだ…」
目の前には巨大な扉があった…
「でけえ…おいこれどうやって開けるよ…?」
「どいて…浩之……」
「雅史…?」
「月島拓也のあのボディも通常の規格とは離れてるからね…これぐらいの扉なら片手でこじ
開けられるよ…そして今の僕も普通とは違う…」
ガチッ…
ギッギイイイイイ
「まっ雅史…!?」
「電波の力で…僕の身体のリミットは外されてしまった…」
ガシャンッ
「そうだろう…ねえ月島さん」
そしてそこに奴がいた…壁にはいくつかのカプセルが埋め込まれていた
「君がここまで来るとは思わなかった…電波の通じない君と神岸君が僕の唯一の
誤算だったからね…いろいろと細工したんだが」
「案内がいたんでね…引っかからずにこれたんだ」
「ふふ…だがもう遅いよ…今電波を世界中の送ったから…後は命令を下すだけださ」
「くっ浩之…電波を呼び戻して!!!」
「えっ俺が…」
「佐藤雅史…貴様!!」
「あんたの相手は僕だよっ!!!」
ガッ
雅史の回し蹴りがミコトにヒットした
「くっ…」
「行くよっ」

キィィィィィィィィィィィィィィィイン
ここは来栖川エレクトロニクス開発研究所前…そこにはあかり、志保、保科、レミィ、理緒、葵
がいた
「なっなんや…これ?」
「建物が光ってマス」
「ちょっとー違うわよ、放電…放電してるんだわっ!!!」
「藤田さんたち大丈夫でしょうか?」
「藤田君…!?」
「大丈夫よ」
あかりがぼそっと言った
「あかり?」
(大丈夫だよね浩之ちゃん…きっと戻ってくるよね)

「そもそもなんであんたは世界を壊そうなんて考えたです?」
ガッ
雅史とミコトの死闘は続く
「うるさいっ、死んでいた僕を呼び出したのはお前たちだぞっ!!好きにやってなにが悪いっ?」
ズシュッ
「うぐっ…なにいってるんですか、結局は妹さんのためでしょうっ!!」
「瑠璃子はっ」
ズカッ
「ぐっ!?」
「妹さんが死んで、みんな死んで…自分だけ生き残ってる…それがあなたには許せなかった、
同時にのうのうと生きている僕らも許せなかったんだ」
「ぐっうああああああ」
ガシッ
雅史はミコトの手を掴んだ
「あなたなりの贖罪のつもりですか?…でもあなたの妹はそんなことしても許してはくれませんよ」
「お前に瑠璃子の何が分かるっっっっ!!!!」
バシッ
「くっ…まだ分からないんですか?…電波とは魂を形作るもの…だからマルチちゃんたちも
この存在によって生まれることができた…そして電波に満ちた空間内ならたとえ死んだ人間の
魂も存在できる、僕は彼女に導かれた」
「!?」
「瑠璃子さんはいつだってあんたのそばにいたんだっ!!!」
ガタッ
「瑠璃子…?」
(ようやく気付いたねお兄ちゃん)
ミコトは振り返った…そしてそこにいたのは…白い髪の女の子だった

チリチリチリ…
「くっううああああ…・」
チリッ…
「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
バッシュウウウウウウ……・
「くっはあはあ…」
シュウウ…
「ご苦労様浩之…うまくいったみたいだね」
「雅史…電波っていうの…結構疲れるぜ…精神的に」
「うん…帰ろうか浩之」
「ああって…ミコトは?」
「あそこ…」
雅史が指指した先にはミコトと白い髪の女の子がいた
「あの子は…」
「月島さんの妹だよ…彼がもっとも愛して、そして殺した女の子…」
「このカプセルの中の娘と同じ……」
「えっ?」
雅史が振り向くとそこには生身の瑠璃子がいた…
「あの人、生き返そうとしたんだ…これバイオロイドじゃない…完全なクローンだもの」
「これで終わったんだな雅史?」
「うん、そうだねっ」
『いたっ!!!!浩之に佐藤君っ』
「えっ!?」
突然目の前のモニターに綾香が写った
「あっ綾香?」
『浩之聞こえる?…すぐにこの研究所から離れてっ、ここ自爆するわよっ!!!』
「はっ?」
『本社が強引に命令を発動させちゃったのよ…あいつらすべての証拠を隠滅させる気だわ、
ともかく早く逃げてえええ!!』
ブツッ
「てっおい綾香っ?」
「切れちゃったね…逃げるしかないよ浩之」
「こんな漫画みたいな展開…くっ琴音ちゃんたちを助けにいくぞ雅史っ!!!」
「もう助けたよ…近くにいた浩之もどきにあかりもどきも外に置いてきた」
「そうかっおいミコトっ!!」
「ん…お前達だけで行け…僕にはやることがある」
ミコトは短くそう言った
「でもお前…」
「行こう浩之…」
雅史が俺にそう言った
「……分かった…てめーにゃまだ言い足りないことが結構あったんだけどな」
「あのバイオロイドの浩之な」
「ん……?」
「死んじゃいない」
「えっ?」
「浩之っ急ぐよっ!!」
雅史が俺の手を引っ張った
「さよなら…浩之君」
「じゃーな」
これが俺とあいつの交わした最後の言葉だった

数日後
焼失した研究所から一人の女の子が救出されたと聞いた…カプセルの中に入っていたため
奇跡的に無事だったという…多分…ミコト…月島拓也のやることとはこのことだったんだと思う…

雅史とあかりは来栖川の専門病院で治療を受け新学期には復帰できるらしい
バイオロイドの雅史が起こした事件は、未成年だということもあってその顔は公表されておらず、
また来栖川の力もあってうやむやに終わりそうだ…

その来栖川グループだが何人かの人間が事件の責任をとって止めさせられたらしい…
先輩は少し辛そうに俺に教えてくれた…

バイオロイドのあかりはもう動くことはなかった…事件の関係者のみで簡単な葬式をした…
そして浩之の方は運動回路を撃たれてただけだったので、長瀬主任が修理をして普通に
動けるようになった……だけどコピーの魂を有しているあいつの寿命はあと半年程度の
ものらしい…科学の限界…主任はそういった
あいつ、今いっしょに暮らしている琴音ちゃんにはまだ伝えてないといっていた…俺もそれで
いいと思う…今はまだこの幸せな時間を感じてほしいから

今、俺は…普通の生活に戻った…すべてが終わり、日常という退屈な時間がまたやってきた…
退屈で幸せな時間が…

そして俺は…

END…