命(ミコト)…第12章 投稿者: 紫炎
「アイタイヨ…ヒロユキチャンニ……」
「会えるさ…きっと…俺が会わせてやるよ」
「ウン…アエルヨネ…コンナニオモッテルンダモノ…」
「そうさ…だから心配しないで待ってろよ、あかり!!」
「アリガトウ………」
「…………」
「?…ドウシタノ?」
「……いや、なんでもない…」
「ソウ…」
駄目なんだ…俺は浩之じゃないから…俺の目の前にいるあかりを救うことは出来ないんだ
俺は…俺は誰にも求められてないただの人形に過ぎないから……

命(ミコト)…第12章『−涙−』

「先輩っ、綾香っ!?どうしたんだよ、なんで二人ともいきなり倒れたんだよ?」
ガチャッ
「!?」
「よお、浩之…元気だったか?」
「お前は…?」
俺以外のほとんどが制止した屋敷…先輩の部屋…そしてヤツはここに来た
「こいよオリジナル…てめーを待ってるヤツがいるんだ…縛りつけてでも来てもらうぜ!」
ヤツは俺と同じ顔、同じ姿をした…おそらく先輩たちをこんなにした……こいつが
「てめーが先輩たちをっっっっ!!!!!!」
ダッ
俺は飛び出しヤツの顔面に殴り掛かろうとした
パンッ
したが…
「くっ!?」
俺のパンチはヤツの顔面一歩前で受け止められてしまった
「止めとけよ…先輩たちには手を出さねー、だから暴れるなよ…お前にはまだやらなきゃなんねー
ことが残ってんだから」
「なんだよそりゃ?」
「言っただろ…てめーを待ってるヤツがいるんだよ…」

「どうですか長瀬主任?」
「いやーまずいなぁ…セリオのやつ、専用回線使ってコントロールされてやがる…
こっちから接続するのは不可能ですな」
ここは来栖川グループ本社…長瀬主任を含めた開発陣がセリオを停止させようと
死力を尽くしていた
「それじゃあ…」
「いやまだ…手はあります…あまりあの子をこういうことには使いたくないが」
「あの子…?」
開発者の一人が聞いてきた
「ええ、HMX−12『マルチ』…ミコトと同じコードを持つあいつなら……」

「まずいことになっちゃいましたね…あかりちゃんはブロックするのが遅れてつかまっちゃうし」
ここは来栖川家…みんなが連れ去られた屋敷に彼らはいた
「うむ…だが行き先は分かっておる、行くぞ小僧…あやつらは来栖川エレクトロニクスの
研究所に向かったハズじゃっ!!!」
「はいっ!!!」
雅史とセバスチャン…対『プロジェクトTo Heart』用のプロテクトを施した彼らはみんなの救出と
すべての決着を付けるため…再び戦場に足を踏み入れようとしていた

カツ、カツ、カツ……
「まさか、お前らの本拠地がこことはね…ちょっとびびったぜ!?」
俺は今来栖川エレクトロニクスの研究所に来ていた、屋敷からわずか10分ほどの所に
こいつらがいたなんてな…迂闊すぎたか…
「設備はいいからな、ばれなければここほど最適な場所もないのさ」
「ふーん、でっ俺に会わせたいヤツってのはどこにいんだよ」
「お前…あかりと雅史を覚えているか?」
「ああ?…なにいってんだよ…さっきまでいっしょに」
「そいつらじゃないっ!?」
!?
さっきまでと違い、俺の前にいるこいつの目つきが変わった…こいつの目…多分本気で怒ってる
…それがなぜか分かった…俺と同じ…そう同じ存在だから、そして同時に自分の間違いにも
気付いた
「そっか…覚えてるぜ…あかりはすぐ逝っちまったけどよ…雅史とは2ヶ月いっしょにいたんだ
…忘れるハズねーさ………」
「ここだ…入れ」
俺達は一つの扉の前に来た
「なんだよ…この部屋は?」
「神岸あかり…お前を好きな…もう一人のあかりの部屋さ」

カチャッ
キイイ……
白い部屋…この部屋の印象はそんな感じだった、そして部屋の中心にいたのは……
「ダレ?」
あかり……あかりがそこにはいた…様々なコードを身体と接続して…ただ座っていた
「あかり…?」
「ヒロユキチャン…ヒロユキチャンナノ?」
あかりが俺の声に反応した…だがその目は虚ろなまま、あたりを捜している
「あいつ…目が見えないんだ、俺たちが回収したときにはもうほとんどの機能が壊れてて
魂をあのボディに移し替えたんだが手後れだった」
「それじゃあ…」
「いつ止まってもおかしくない状態だ…ただお前に会いたいって願いだけで生きてる…」
「イルノ…ヒロユキチャン?…ネエ返事ヲシテヨ……ココハ暗クテ寂シイノ…」
「……あかり、俺は…」
「ヒロユキチャン…ヤッパリソウナンダ…コノ感ジ、ヒロユキチャンダ…会イタカッタ…
ズット、ズット、ズット待ッテタ」
あかりは俺の声に反応して笑った…目の前にいるのは本当のあかりじゃない、分かってる…
それでも俺にはこのあかりも…ニセモノなんかじゃないってなぜか思えた
そして俺も笑った…目からは涙が溢れてきたけど気にならなかった…
「会いに来たぜ、あかり…ワリーな、遅れちまって…寝坊しちまってさ、こんなんじゃまた学校
遅刻だな…」
「ウン…ヒロユキチャン…ワタシガイナイトダメナンダカラ…」
「バーカ、生意気いってんじゃねーよ…でも、まあいつもサンキューなあかり」
「ヒロユキチャン…マタ一緒ニ学校イコウネ…マタオ弁当ツクッテ持ッテイッテアゲル、ソレデ…
マサシチャンヤ、シホ、ヒロユキチャント一緒ニ…ヤック行ッテ…カラオ…ケ行ッテ…
ソレ……デ…」
声が途切れてきた…
「もう…限界なんだ…浩之、あかりを……」
「それで…それでの続きなんだよ…言えよあかり…」
自分の声が震えてる…
「ソレデ…ウン?…ゴメン…ヒロユキチャンノ…・・声…聞コエナクナッテ…キチャッタ…
私ヲ抱キシメテクレルカナ…ヒロユキチャン?…ヒロユ…キチャンノ体温…感ジテ…タイ」
「あかり…」
「駄目…カナ?」
俺は何もいわずあかりを抱きしめた…あたたかった…俺達と同じ……
「ヒロユキチャン…ヒロユキチャンハ……アッタカイネ…私トハ違ウネ…」
「違わねーよ…同じだ…同じなんだよ……あかり…お前はあかりなんだよっ」
あかりの体温がどんどん下がっていく…何も俺にはしてやれなかった…こいつは
ずっと俺を呼んでたのに…ずっと俺を待ってたのに……
「デモ・・ソレデモ……私ガ人間ジャナクテモ…幸セダッタヨ…短カッタケド…幸セダッタヨ…
コウシテヒロユキチャント一緒ニイラレ…ルンダモノ…コンナニ幸セナコトッテナイヨ……」
どうして…自殺なんかする前に気付いてやれなかったんだろう…
「あかり…」
どうして…あんな姿になってまで会いにきたあかりに何も言えなかったんだろう
「…泣イテルノ…ヒロユキチャン?」
どうして…終わったり、なくしたりしてからいつもそうだったと気付くんだろう…
「ばーか…」
そう言って…いつもの様に俺はあかりのおでこを小突いた…
「イタイヨ…ヒロユキチャン…モウ…ソレジャ私モウ寝ルネ……ナンカ…イッパイ喋ッテ
疲レチャッタ…」
「ああ…お休み、あかり……次に起きたときにはもっと…いい夢見ろよな…」
こんな…悲しい現実じゃない…いい夢を…
「ウン…オヤスミ…ヒロユキチャン……イイ夢ミレルトイイナ…」
…あかりの手がゆっくりと沈んでいった…
こうしてたった二ヶ月しか生きられなかったあかりという名の少女はとても
幸せそうな顔で眠りについた…起きることはない、永遠の眠りに……

「ねえ浩之……クローンが否定されたわけ…分かるでしょ…」

遠くから、昔聞いた綾香の言葉が聞こえたような気がした…

続く…