ToHeart<再会> 投稿者: 沙司
 マルチがいなくなった。学校での試験運用期間が過ぎたからだ。
「・・・」
浩之は喪失感に襲われていた。
浩之にとってマルチはほうっておけない存在であり、また妹のように思っていた。
ロボットであり、人間っぽい行動のすべてがプログラムや学習機能の成果なのだとわかっていても。
「・・・」
あかりはそんな浩之を見るのがつらい。
あかりにとってもマルチは妹のような存在であり、可愛く思っていた。一時は嫉妬の対象にすらなった。
来栖川電工の社員である父から「なかよくしてやってくれ」と言われなくても。

 そんな浩之にずっと付いていたあかりにふと、浩之が話し掛けた。
「あかり、ごめんな。なんか、妹が突然いなくなった気がしてな。もう、大丈夫だ。約束を思い出したし」
「ううん、でも浩之ちゃん、その約束って?」
浩之は久しぶりの笑顔をあかりに見せた。
「ああ、マルチの妹たち・・・マルチの妹たちが出たら必ず買うって約束さ。そして俺はマルチの妹たちの行く末を見なきゃな。」
「うん、そうかぁ」
複雑な表情をしてしまうあかりだったが
「浩之ちゃん、私も協力するから。絶対するから。」
すぐ真顔になりそう言った。
「?ああ、たのむぜ」
不思議そうな浩之だった。

 それから数日後、幼馴染の壁を乗り越えた二人がいた。

月日が経ち、浩之とあかりは同じ大学に進学した。当然のごとく雅史も一緒だったが。

そして、就職し3年ほど経ったある日、二人は結婚した。
結婚式には、二人の友人たちが久し振りに勢ぞろいした。
志保は高校の卒業以来だった。渡米してジャーナリストとして頭角をあらわしてきたというが相変わらずであった。
芹香は来栖川グループの中で陣頭指揮を取っているという。通訳(?)には綾香がつき、セリオも補佐している。
レミィは高校卒業後も日本に残り大学卒業後、母校の教師となった。
葵はエクストリームの団体設立に参加し、初興行までもう少しというところまできた。
琴音は浩之の協力もあり超能力に対するコンプレックスも取れ、制御する術を身につけた。今は普通のOLだ。
智子は大阪で証券・金融関係に就職し活躍している。
理緒は新聞社に勤め、貧乏からは脱出したようだ。
雅史は理緒と同じ新聞社に勤めながら社会人サッカーチームに所属している。理緒ともいい仲であるらしい。
教会から二人が出てきた。
一斉にはやし立てる志保たち。照れまくっている二人。
涙をためたあかりの投げたブーケはなぜが雅史が受け取っていた…。

2年後。
あかりは産院のベットの上にいた。横にはすやすやと寝ている女の子の赤ん坊がいた。
「ふふっ・・・浩之ちゃんにそっくり・・・」
そうあかりがつぶやいた時、浩之が入ってきた。
「おっす、あかり。弥生は元気か?」
あかりの両親の強い希望もあって、二人の子供の名前は「弥生」に決まった。あかりの両親が昔、大変世話になった人の名らしい。二人も異存はないのでそう決まった。
「うん、浩之ちゃん似だもの。元気よ」
すっかり緩んだ表情の浩之は弥生を抱っこしていた。
「浩之ちゃん・・・」
あかりが不意に浩之を呼ぶ。
「ん、なんだ?あかり」
「うん、これ」
キャビンの引出しから取り出した預金通帳と本人証明カード(この時代の印鑑の代わり)を出すと浩之に渡す。
弥生を抱っこしながら、不思議そうな顔をしながら通帳を開いてみると大きな金額が書かれている。
「あかり・・・こんな大金・・・どうしたんだ?」
驚きの表情を隠しきれない浩之はあかりに質問する。
「うん、それね・・・浩之ちゃん、覚えている?マルチちゃんがいなくなったあと、私の言った言葉」
「?」
「ふふっ、<浩之ちゃん、私も協力するから。絶対するから。>っていったんだよ。」
「・・・ああ思い出した・・・」
「浩之ちゃんがマルチちゃんとの約束を思い出したときから約束の為のお金を貯めていたのは知っていたの。」
浩之とマルチの約束・・・マルチの妹を購入する、そしてマルチの妹たちの行く末を見る・・・しかし、マルチの妹たちの価格は高く、簡単に買えるものではなかった。コネを使っても苦しい価格だ。
「あのね、同じように私もお金を貯めていたの。私もマルチちゃんに逢いたいから。」
「・・・」
「そしてね、そのお金を智子ちゃんに運用してもらったの。そしたらうまくいったみたい。」
浩之はじっと弥生を見ている。
「浩之ちゃんが貯めてきた分を入れたら十分マルチちゃんを買う頭金にはなるよね。」
浩之はじっと弥生を見ている。
「浩之ちゃん?弥生のお金はちゃんとあるから大丈夫だよ?浩之ちゃん?」
浩之はじっと弥生を見ている。
弥生は小さな手を浩之の顔に向けてぱたぱたとさせていた。
弥生を見る浩之の目には涙が浮かんでいた。
弥生をそっと置くと、今度はそっとあかりを抱きしめた。
「えっ、浩之ちゃん?」
「・・・ありがとうな、あかり・・・ありがとう・・・」
浩之は泣いていた。
「浩之ちゃん・・・」
あかりもそっと浩之を抱きしめる。
弥生はじっと二人を見ていた。

「あぁ、やめてくださぁい」
2歳になった弥生は掃除の邪魔をするのが気に入ったらしくぱたぱたと掃除機のまわりで走り回っている。
「弥生ちゃん、そうじさせてくださぁい!」
「まるちちゃんがあそんでくれるなのぉ」
弥生は今度はマルチのまわりをぱたぱたと走り回りだした。
 浩之はマルチが再び来た日のことを思い出していた。
あかりと弥生が産院から自宅へ戻ったあとに浩之はマルチの量産型、つまりマルチの妹を購入した。
しかし、納められたものはあのマルチ本人(?)だった。中には開発主任の手紙が添えられておりこう記してあった。
 <マルチシリーズをご購入くださいまして誠にありがとうございます。
  今回納品いたしましたマルチは、あなたが高校生のときに仲良くして
  いただいたマルチそのものです。
  研究所に保管しておくのもなんですから一番かわいがっていただいた
  あなたに購入していただければと思い勝手ながら送りました。
  どうぞ、私達の娘をよろしくお願いいたします。
  P.S メンテナンスは完璧に施しております。
      また、ソフトウェアも当時のマルチです。
        来栖川電工 メイドロボット開発室一同>
急いで、マルチを起動した浩之は緊張してマルチが目覚めるのを待った。
そして・・・
「浩之さん?浩之さん?浩之さぁん!」
目を覚ましたマルチは一回つまずいた後浩之に飛びついた。
「マルチなんだな、本当にマルチなんだな!」
「はい!あかりさんもお元気そうで!」
「うん!マルチちゃんも!」
あかりは涙を流しながら答える。
「えっ、この赤ちゃんはもしかしてお二人の赤ちゃんですか?」
「そう、弥生っていうんだ」
「弥生ちゃんですか、よろしくですぅ」
弥生はマルチの方に手を伸ばしきゃっきゃと笑っていた・・・
 回想から我に返った浩之は再び弥生とマルチに視線を移す。
マルチは困った顔をしながら弥生に付き合っている。
隣に座ったあかりとふたりでやさしい顔で見つめる浩之だった。

<End>

 こんばんわ、沙司です。2回目の投稿です。これも元ネタはゲーム談話室にカキコしたものを書き直ししたものです。
次は、WAのSSでいこうかな思うとりますがいつになるやら。
感想レスはまた今度にいたします。実は読んでいないんです(涙)
 りーふ図書館行ってきました。私の前回のSSが載っていました。なんかとっても嬉しくて。ありがとうございます。
で、申し訳ありませんが沙司は「ざじ」と読んでいただけると幸いです。
 それではまた。沙司でした。