「de・ni・mu」ver.3 投稿者: 美咲萌え紫陽
前書き〜☆

 この物語は、WAの主人公 藤井冬弥と同じ苗字だった“美咲萌え紫陽”が
復習の為に書いた文章です。
 誓いを砕きます!!よって、設定変えまくってます。(笑)
 しかも、ネタバレまで含んでいるという、凶悪さ。(爆)
ただ、美咲シナリオに関して「もし、こうだったら…」
という部分が大きいです。…セキニン…取れません。(笑)


でば、本文

		「de・ni・mu」

第三話 「告白の色 〜紅〜」

 
 「あの人、なんだか綺麗でしたね」
 森川さんが、ぽーっとした顔で言った。
やっぱりはるかみたいな女の子って、女の子にはかっこいいもんなのだろうか。
 「うん、そうだね」
 彰まで。ま、この男の場合、女の子っぽいからな。うん。

 ガラガラガラ
決して森川さんが、塩水でうがいをした訳ではない。
 「こんにちわぁー」
 コーラス部の人達と思われる集団が、誤った日本語表記で入ってきた。
俺は美咲さんを探したが、そこにその姿は無かった。


 ふと、空を見上げる…
また、思い出した…あの頃の事。
 その後、俺達は一緒に練習に参加し、森川さん…由綺と文化祭に参加した。
美咲さんは、ポスター書きとか、その辺を手伝わされただけのようで、練習に
は来なかった…“様子見”と称して、偶に顔を見せたが。
問題は…その練習の時…由綺としばしば目があったこと…。
 コーラス部は部員不足で、俺達手伝いを合わせてもせいぜい12人程度だった。
ましてや真面目に手伝ってくれる人間は、そうそう居なかった(由綺目当ても
多かったらしい)ので、練習は大抵6人だった。
しかも、
 「横に並んでても淋しいから、円形になろうよ」
なんて部長が言い出すから…。

 俺は思いっきり由綺の目の前で歌うハメになった。はじめは恥ずかしいだけだった。
が、その内、由綺の瞳を見ながら歌う事に“安堵”を感じはじめた…それが毎日。
 文化祭の前日…練習が終わってから、俺が渡り廊下の所で『ぽ〜』っとしてると、
不意に上から声をかけられた。由綺だった。

		俺は由綺を見上げる

 夕日の紅に染まろうとする空、それに落ちんとする由綺、
 それをさりげなく映し出す窓、そこに居る半透明の由綺、
 スカートを舞い上げんとする風…
 全ては由綺の為…今の由綺を映し出す為にだけあるように感じられた。

 「冬弥君、こっちおいでよ!気持ち良いよ!!」
 「い、いま行く…」

 由綺の声…俺は吸い込まれるように由綺の所に駆けていった。

 「冬弥君、明日、文化祭だね」
 「うん…」
 「緊張してる?」
 「ちょっと…」
 「ねぇ、イイコト教えてあげよっか?」
 「なに?」
 「いつも先生が言ってたよね。養成校では言われなかったんだけど、あの先生
 良いこと言うよね」
 「…」
 「冬弥君は、歌うときに何考えて歌ってる?」
 「…歌の内容…かな?
 「…そう、先生この間『歌うときには、自分の大好きな物の事を
考えるといいんだぞー』 とか言ってたよね?」
 「うん…」
 「わたし、いつも歌うときに…」
 「…」
 ゴクリ
 「『冬弥君の事』考えてるんだ…」

 それが由綺の告白だった。
大胆で、かつさりげない…純愛を思わせる…告白だった。
 その時、思った『由綺の為に、美咲さんへの想いは忘れよう…』と。


 第四話	「ともだちの色 〜蒼〜」

 俺はTVに目を移した。
8年前の芸術祭で優秀賞をとった由綺…俺の側にはもういない由綺。
そんな彼女は、今現在ドラマに出演中である…最愛の夫である『緒方英二』と…。

 8年前の芸術祭の前日…俺は、偶々通りかかった由綺の家の前で、
英二さんと由綺が居るのを見た。

 「由綺…」
英二さんは由綺の身体を抱きしめていた…
 「えっえっ?…え…あ…」
 その次の瞬間、唇と唇がふれあうのを見てしまった。
唇が離れた…由綺、泣いていた。
彼女は、自分が泣いているのに気づいて目をそらした…こっちを見てしまった
…俺の方を。

 「と、冬弥君…」
 気のぬけた声が聞こえてきた。
 「青年!」
 英二さんの驚いた声が聞こえてきた。
 「由綺…」
 俺の唖然とした声が聞こえてきた。
 ブーンという街灯の音が聞こえてきた。
 冬の寒さによる、空気音が聞こえてきた。
 俺の呼吸音が聞こえてきた。
 俺の鼓動が聞こえてきた。
 全てが見えてきた。
 心に入ってきた。
 わかった。

 「と、冬弥君、違う、違うの…あっ…あっあぁ」
 そのまま英二さんにすがりついてしまう由綺。
そこで英二さんを弾かずに居たことは、俺にとって幸いだった。

 「由綺、ごめんな…」
 それだけ言って、俺は闇の中を駆け出していった。
俺のあさはかさ…が原因だもんな…あの時…由綺の愛を受けてしまった俺の…責任…

 「おいっ、青年、待て!!」
 英二さんの声が聞こえた。後ろを駆けてくる音が聞こえる。
 「いやっ、行かないで!!」
 由綺の声も聞こえた。これは英二さんにだろうか、俺にだろうか?
 「…」
 ふと、俺の頬に伝わるものを感じた。これは俺に対する悔しさからだった。


 芸術祭の当日…


 RRRRRRRRRR…RRRRRRRRR…

 ガチャッ
 「はい、河島です」
 「はるか…?…俺。」
 「あれ、冬弥?芸術祭…行かないの?」
 「関係者以外入れないんだよ」
 「そう…でも、冬弥、行かなきゃ」
 「由綺の事、もう良いんだ」
 「えっ?」
 「もう、良いんだ」
 「だめだよ、冬弥」
 「そう、俺が駄目だったんだ…」
 「なに言ってるの?」
 「なぁ、今から会いに行っていい?」
 「えっ…」
 「色々、話そう…」
 「でも…」
 「話せるの…お前だけだからさ…」
 「…」

 その後、俺は公園でメルセデスを待った。
 「あれ、とうや?」
 「彰…」
 トモダチ。
 「どうしたのさ、こんな所で…。芸術祭は?」
 不安そうな顔。
 「まだ時間あるから…」
 嘘。
 「そう…ならいいけど」
 「なぁ、彰」
 「なに?」
 「美咲さん、最近どう?」
 「えっ、最近って…割と元気なんじゃないかな」
 幸せな笑顔。いいな…こいつ。俺も…純粋に片思いを…
 「なぁ、彰」
 「なに?」
 「知ってた?」
 「なにをさ…」
 「俺、高校の時から、美咲さんの事好きだったんだ」
 「…」
 険しい顔。無言。
 「でも、由綺に告白されて…迷ったんだ。そして、由綺…」
 「…」
 「ところが、由綺は職場の上司と…」

 ボコッ
顔面を、彰の拳が覆った。
 「彰…」
 俺は頬を押さえながら立ち上がった。
 「僕だって…僕だって…」
 「…泣いてる」
 「とうや、見損なったよ」
 「…」
 俺は何も出来なかった。
情けない国から情けなさを広めにやってきた…それが俺…ははっ。
 「くっ…」
 そのまま走っていってしまう彰…。
 俺はその背中を見つめていた。
 そのままベンチによろよろと腰掛ける。

 しばらくの間、公園の安らぎに身を任せる。

 「冬弥〜」
 背後から突然、声をかけられた。普段なら声を上げて驚いただろうが、
今は無気力に腕をだらしなく下げたまま、目線すら変えなかった。
 「ねぇ、冬弥?」
 右斜め上から差し込まれた顔に対し、俺はやっと目線だけで返事をした。
 「冬弥、怪我してる」
 「…」
 「どうして、こんな風になってしまったんだろうね…」
 「あぁ…」
 「…」
 「…どうして…」
 「…」
 「…だろうね。」
 はるかは、無表情のまま言ってのける。
こころの中で、『“こんな風”なんて無いのかも…』と言っている気がした。
 「…」
 「…」
 沈黙が闇と心を貫く。
 「ねぇ、冬弥」
 それを最初に破ったのは、はるかだった。
もっとも、今の俺には決してそれは出来ないが。
 「…」
 返事すらも、目線でしか返せない。
 「芸術祭…行かなきゃ」
 「…」
 「はい、これ…乗ってって」
 そう言ってはるかは俺にメルセデスを差し出す。
 「…」
 「…」
 しばらく、俺をはるかは見つめ合う…
今の俺には、こころが溶けてしまいそうな時間だった。
 「…あぁ」
 俺はやっと返事をすると、そのままメルセデスにまたがった。
 「ロック…忘れないでね…」
 はるかは、笑顔で俺を見送る。
 「…あぁ」
 最後の返事だけが夜の公園にこだまする。

 それから…俺はどうなってしまったのだろう。
良く憶えていない。ただ必死でペダルをこいだ時の感情だけが、淡く残っている。
いや、待てよ、そうだ…


 会場に着くと…弥生さんが居た。
 「…」
 「何の御用でしょうか?」
 いつも通りの機械的な動作で、俺に対峙する。
 「…」
 俺は何も言う事が出来ずに、そのまま黙り込む。
そうすると、『ふっ』と弥生さんは笑って
 「緒方プロデューサーがお待ちです、どうぞお入りください」
 どうやら、最初のセリフは、俺をからかっていたようだ。
 「英二さん…が…!?」
 俺は向き直り、驚いた表情を向ける。
 「ええ、その通りです」
 「失礼…します」

 中へ通されると、そこにはマス・コミに囲まれた由綺の姿があった…
それを少しの間だけ見つめて、俺はさらに進んだ。

 「いよっ、青年」
 英二さんは、俺のイメージには不似合いの服装でそこに居た。
 「なんでしょうか…」
 「やっぱり来たな」
 「…」
 「来ると信じてたよ」
 「…御用というのは?」
 「まぁまぁ、そうせかすなって」
 面倒臭そうな表情が俺に向かって放たれた。
 「はい…」
 「ケリを…つけないか?」
 相変わらず、英二さんの表情はふざけた様子だったが、
どことなく迫力に満ちていた。
 「え?」
 「由綺との…」
 「…」
 「ここなら、誰も来ないさ」
 英二さんは両手を広げて、周りを見渡す。
それに対し俺は…
 「…帰ります」
 俺は元来た方へ、身体を向けようとする。
 「おっと青年、逃げるんじゃない」
 英二さんは、俺の肩を掴んだ。そして身を乗り出すようにして、俺の顔を覗き込む。
 「ケリ…つけないとな、俺、由綺ちゃんの返事聞く勇気ないからね」
 「返事…?」
 「そう、返事。俺は由綺に告白した」
 英二さんは俺の肩から手を放し、向きを変え、天井の隅の方を見つめている。
 「…」
 俺はただ無気力に、英二さんのポケットに入れられた手を見つめた。
 「でも、あんな事があったろう?…だから返事は今日でいいって言ったんだ」
 「俺には、何も言う権利なんて…」
 「甘ったれるんじゃない!!」
 叫んだ英二さんは形相が変わり、俺を睨んでいた。
俺は、体中に恐怖のようなものが走り、すこし震えていた。
 「いいか、青年…お前は由綺の愛に応えた…そうだな?」
 「…」
 「それでいて、恋人…にまでなったわけだ」
 「…」
 「お前、由綺のこと…好きなんだろ?」
 「…」
 「なぁ、好きなんだな?」
 「…答える権利なんて、俺にはありませんよ」
 俺は自嘲的に笑ってさえ見せた。
 「なにィ…青年」
 さっきまで睨んでいた英二さんだが、それにより磨きがかかったような気がする。
 「俺は…他の人が好きなのに、由綺に」
 ボコッ
 「う…」
 「失望したよ…青年」
 何が起こったのか一瞬わからなかったが、やがて腹部に鈍い痛みが走り出し、
状況を把握した。英二さんは、俺を殴った…ボディブローで。
 「要するに…由綺はお前に遊ばれていたわけだ」
 「!!」
 俺はキッと英二さんを睨み返した。
 「由綺は…これを知ったら誰よりも怒り、苦しみ、哀しむだろうな…」
 「…」
 俺は歯ぎしりをしながらも、何も出来なかった。
 「そう、誰よりも…だ」
 「…」
 そして俺は脱力する。
 「もし、お前に由綺を想う気持ちが、少しでも残ってるなら、俺を殴ってみろ!!」
 英二さんはもの凄い迫力で、自分の腹部を差して叫んだ。
 俺はふりかえると…
 「…帰ります」
 「お前のような奴に…由綺は渡せねぇ!!」
 ボコッ
 「ぐぁ…」
 背後からの、最後の一発はキツかった…俺は痛みすら感じずに、
ただ、だるさを感じながらその場に伏した。
 「あばよ、青年」
 俺の視界の中で、英二さんの背中が揺らぎながら過ぎてゆくのを、確認した。


 そこから先は、全然憶えていない。
ただ、目が覚めると公園に眠っていた。

 朝の寒い空気の中、目を開けると蒼い空の中には…
 「はるか…」
 「冬弥、起きた?」
 はるかの顔は相変わらずの笑顔だった。
今、その笑顔が限りなく懐かしく、いとおしく思える。
 「あぁ…」
 俺は目を細め、額に手を当てた。
まぶしい…
 「大丈夫?」
 「うん…」
 「…」
 「…」
 はるかはしばらく俺の事も見つめてくれていたが、不意にそっぽを向き、
 「ロック…忘れたでしょ…」
 「え、何の?」
 俺は間抜けな顔をはるかに向けた。
 「自転車の…ロック…」
 はるかは、目線だけをさらに斜め上に上げて言った。
 「あっ…」
 思い出した。
 「ゴメン、はるか、俺」
 何とか立ち上がって詫びようとしたが、身体が思うように動かなかった為、
身体をばたつかせたに過ぎなかった。
 「大丈夫、盗られてなんかいないから」
 「…ごめんな」
 「いいよ」
 また、はるかは俺の方をみつめてくれた。
 「…」
 「…」
 俺は、はるかを見つめている内に、ある事に気が付いた。
 「目…赤いぞ」
 「そうかなー」
 はるかはだらんと、蒼い空に目線を移した。
 「なぁ…」
 俺は、はるかの首に手を当てた。
はるかはこちらに向き直る。
 「なに?」
 そしてはるかの大きな瞳は、俺の視界を吸い込む。
 「帰ろっか」
 俺は精一杯笑って言った。
 「…そうだね」
 はるかも、澄んだ微笑みを見せてくれた。
 「よっと」
 また、俺は身体をばたつかせた。
 「あっ、冬弥、立てる?」
 「肩…貸して」
 ゆっくりと立ち上がり、そしてはるかの肩に手を回す。
 はるかはしばらくしてから、返事をくれた。
 「うん…」

 それ以来、はるかとは話しをしなかったような気がする…8年間も…か…。

第五話につづく…