「そらいろの、涙」 ここ数日、しばらく雨ばかり続いていたのに、今日は晴れだった。 いつにも増して明るく感じる太陽、その光線、反射。 未だ乾ききれない水溜まりには、私と、浩之さんの顔が映っている。 「浩之さん」 「なんだ、マルチ?」 「ほら、わたしと浩之さんが映ってますぅー」 「おっ、マルチの後ろに空があるじゃねぇか」 「あっ、本当ですぅ〜、わたしなんだかお空に落ちていきそうですぅ」 「ははは、そんな訳ないだろ…でも、きれいだな…」 その言葉を聞いて、わたしは体がちょっと熱くなってきた。うぃぃぃん…。 「え…?」 「いやさ、空がきれいだな〜って」 浩之さんは、鼻をこすりながら後ろを向いてしまった。ちょっと残念。 「でも、マルチと一緒に居てからだぜ!」 「…?」 ゆっくりと…そして、カクッと首を傾けてみる。 「マルチと一緒だから、空もキレイなんだ」 「浩之さん…」 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ…ガチャ!! 「ヤベェ!遅れるぅ!!」 「へ…ふぁ…!あっ、ごめんなさい!!!わたしったら…」 「いいよ、マルチ…目覚し3つかけといて良かったな。」 「あ…今、朝食の準備しますから!」 そう言って、立ち上がったツモリが、そのまま布団の上に倒れてしまう… 「あっ、いいよ!最近マルチ疲れてんじゃねぇのか?」 「え、いえ、わたし、平気ですから…」 「ほらほら、無理しないで、もうちょっと休んどけよ!!」 「あっ、はい…すみません…」 「ほんじゃ、言ってくるからな!」 「あ、浩之さん、傘…」 わたしは、ポンッと傘を投げた。ちょっと勢いが足りなかったけど、 浩之さんは、身を落としてキャッチしてくれた。 「おっ、サンキュ、マルチ!」 バタン! 「わたし、どうしたんだろう…」 ここ最近、朝…起きられない、同じ夢ばかり見る。 それだけじゃない…お掃除の時もなんだか、身体が重い気がする。 どうしたんだろう…わたし。どうなっちゃうんだろう…わたし。 このままじゃ浩之さんに、マタご迷惑をお掛けしてしまう… 「あっ…」 パタン… 突如、目の前が滲んだかと思うと、風景が90度変わってしまった。 : 気がつくと、浩之さんのが目の前にいた…。 どうしたんだろう? 顔を伏せてしまって… そういえば、頬が暖かい。 なんだか、濡れている… 何だろう? マルチ、わかんないよ… 「浩之さん…」 わたしは声に出したツモリだった…が、声にならなかった。 どうして!? 「浩之さん…」 「浩之さん…」 「浩之さん、浩之さん!浩之さん!!浩之さん!!!」 駄目…嫌、また目の前が滲んできた。 でも、それは先に感じたものとは違ってた…わたしの…涙だった。 「マルチ…」 ふと、目の前でうつむいて居たはずの浩之さんが、こっちをみて言った。 「マルチ…泣いてる…」 そうおっしゃった、浩之さんの顔は、涙でぐしょぐしょに濡れていた。 「ひ…ろ……ゆき…さ…ん…」 わたしは、渾身の力を込めて、声帯にあたる部分を震わせた。 「マ…マルチ!!」 浩之さんが抱きついてきた。 「ひ…ろ…ゆ…き…さん…よ…か…った…」 私も、浩之さんに精いっぱい抱きつく。 その時、ここが研究所であることがわかった。 浩之さんの涙越しに、研究所の窓が見えた。 その窓の向こうには、“何度も夢に見たあの青空”が広がっていた。 「ひ…ろ、ゆ…きさん…」 「何だ、マルチ?」 その声は、泣いていたが、とてもやさしくてあたたかい声だった。 「ほら…ひろ…ゆき…さんの涙…」 「あぁ…」 「そら…いろ…だよ」 「…」 「きれ…いな…きれい…な、そら…いろ…です…よ…」 「マルチッ!!!」 浩之さんは、私を力強く抱きしめてくださった。 ちょっと…痛かったけど。 「そらいろの、涙」(完) 紫陽 う〜ん…なかなか繋がらなかったんで、 その間に、もう一作書き上げました。(^^; そのせいか、ちょっと急展開かも。(笑)http://www.try-net.or.jp/~shiyou/