えりまきとかげ 投稿者: 紫陽
「えりまきとかげ」

筆:うに

 目の前が琥珀色に見えた…。
ちらちらと落ちる木の葉のせい。
ふと、隣が気になり目を送る…誰も居ない。
 「ふぅ…」
私は大きくため息をついた。
 この季節…不意によぎるこの淋(さみ)しさはなんだろう?
 「うぅん…」
少し伸びをして、もう一度周りを見渡す。
 「あ…」
私は気弱な声を発した。
 日焼けした男の子に、メイドロボットがすぐ後ろに立っていた。本当にすぐ後ろ。
もうすこし大きく伸びをしていたら、当たってたかも。
 「いよぅ!琴音ちゃん」
 「こ…こんにちは…」
私はすこしたじろぎながらも、挨拶を返した。…この人ってちょっと苦手。
 「琴音さんっていうんですか?はじめまして、わたし、マルチっていいます。」
 「えぇ、は、はじめまして。」
 「いやぁ、見事な秋晴れだねぇ…こういう日はやっぱり、もみじ狩りと…」
 「あの…すいません、私…急いでるもので…」
 「あっ、琴音ちゃん…」
 「琴音さん、さようなら!」

 「ふぅ…」
もちろん、本当は急いでなんかいない。あの場から逃げ出すには、この方法しか
無いと思ったから、私はそうした。あの人…いつもしつこいんだもんな…。

 ………ちょっと…うれしいけど。


 私はベンチに腰掛け、そしてHOTコーヒーをすすった。
 「ふぅ…」
熱いため息が、少し寒くなってきた空気に白い濁りを加える。
 「ふぅ…」
もう一度、
 「ふぅ…」
もう一度…
 「ふぅ…」
もう一度。
 コーヒーにミルクを注ぐかのように、空気に溶けていく息。
私はそれを見ながら、ぼ〜っと何かを考えはじめていた。

 何を?何を考えているの?

わからない…でも、何かを考えなければ、気が落ち着かなかった。

 何を考えよう?
動物のこと?植物のこと?自然のこと?ヒトのこと?あの人のこと?あの人のこと?
あの人のこと?あの人のこと?あのひとのこと?あの人のこと…??????

 でも…人と関わり合うのは嫌…

“辛い”もん…

誰も…不幸になんかしたくない。

私?私は…

 「ことーねちゃんっ!」
 「あっ」
不意に後ろから、何かを巻きつけられたような気がした。
 「す、すみませんー」
さっきのメイドロボット…
 私は後ろを見上げた。
そうすると“あの人”は上から覗き込むようにして、“私”を見ていた。
 「すまねーな、驚かしちまったようだなぁ。」
 「い、いえ、そんな事…それよりもこれ…」
私は首に巻かれた毛糸をかざしながら言った。
 「あ、これか?これはな…」
 「わたしが作ったんですぅー」
 「へぇ…」
私はそれを見て、ちょっと微笑ましい気分になった。だって…
 「でもよ、マルチぃ、そりゃぁマフラーっていうよか『えりまきとかげ』みたい
だぜ。」
 「ふぇ〜ん、作り方の通りにやれば、出来ると思ってたんですけど…あはは」
 「うふふ」
 私は、もう一度コーヒーをすすると…
 「ふぅ…」
 “最後”のミルク。
 「ねぇ…マルチちゃん…だったかな?」
 「あ、はい?」
 「今度、教えて上げようか?」
 「え…何を?」
 「マフラーの編みかた。」
 「ほ、本当ですか?ありがとうございますぅー」
 「うふふ」
 「良かったな、マルチ」
 「でも、その代わり、これは頂戴ね…えりまきとかげ」
 「あはは」
苦笑いするマルチちゃん。
 「次は、琴音ちゃんがついてるから大丈夫…なっ!」
励ます“あの人”。
 私はゆっくりと立ち上がると…
 「それっ!」
持っていた空缶を、思いっきり宙に向かって投げた。
 「おっ!」
 「あっ!」
それを見送る二人。

 カラーン…

 空缶は、軽快な音を立てて、ごみカゴの中に転がり込んだ。

「えりまきとかげ」(完) 1998.4.9 紫陽

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