『殺戮、欲望、憤怒、悲哀、・・・安堵』 投稿者: 健やか
はじめに
 このSSは長文です。お時間に余裕のある方、どうぞ読んでいって下さいませ〜。
 ちなみに、『痕』のネタバレやや含みます〜。

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りー、りー、りー・・・・。

虫の鳴き声が聞こえる。

・・・そう、聞こえるのだ。

殺られたと思っていた。

助からないと思っていた。

だが・・・。

       『殺戮、欲望、憤怒、悲哀、・・・安堵』

目が、醒めた。
俺は、水の上に浮かんでいた。
全体が、痛い。
全身から流れる血液は、水面を漂い、まるで赤潮のような濁りを見せる。

「ぐ、ぐ、ぐ・・・」

あれから、どれくらいの時間が経ったのか・・・。
確か、柏木耕一という、同族の男と戦ってから。

「くっ・・・」

俺は、水門の側の木に引っかかっていた。
どうやら、体の傷は、大方塞がっているようだ。
しかし、内部まで回復している・・・とまではいかないようだ。

「くはぁ・・・・・っっっ!!!!」

俺は、渾身の力を込めて、木に上がった。
あまりにも長く水に浸かり過ぎたせいか、身体が異様に重い。
おまけに、血液が足りないために、冷え切っている。

(く・・・何とかして、血液を補充せねば・・・!!!)

考えられる最適の行動は・・・。
・・・食事。
そうだ。
まずは喰うことから始めなければ。

行動を起こした。
少しだけ鬼の力を解放し、野生の動物を、狩る。
無論、あの時の戦いのように、美しい命の炎が見れるわけではない。
今行っている『狩り』は、生きる為なのだから。
本能が望む、嗜好としての狩りではない。

・・・『狩っ』た『獲物』を『喰う』為のものだ。

しばらく狩りをしているうちに、かなり移動したようだ。
此処が隆山なのかも分からない。
相変わらず周りは木々に囲まれ、満月が煌々と頭上を照らす。

「ふぅ・・・」

俺の手には、野ウサギや狸が握られている。
ついさっきに狩ったものだ。

(さて・・・)

俺はどうやってコレを喰うかを考えた。
生のままでもいけそうだが、流石に気が引ける。
かといって、今手元に火や調理器具といったようなものはない。
それに、もう俺は自分のいた場所には戻れない。
いけ好かない同僚や、貴之の居たマンションがある世界へは・・・。

俺は、とりあえず民家を探すことにした。
問題は、この近くにそんな物があるかどうか、だが。

(これから、どうするか・・・)

恐らく、警察は先の事件を、俺のやったこととは考えん。
というよりも、考えられんだろう。
・・・しかし。
俺は警察へは戻れん。
俺は自分の内にある『鬼』を受け入れた。
・・・そうだ。
俺は『鬼』を自分だと・・・もう一人の俺ではなく『俺自身』だと。
・・・認めてしまったのだ。

退職届は、後で郵送なり何なりで送ればいいだろう。
きっと、長瀬に送れば上手くやってくれるだろう。
そうすれば・・・。

「・・・?。あれは・・・?」

光が見える。
・・・民家だ。
・・・しかも、誰か・・・人が居る。
俺は導かれるように近づいていった・・・。

「あら・・・?」

俺に気付いた。
・・・娘だ。
暗がりでよく見えないが、薪をまとめているのか。

「・・・」
「こんな夜更けに、此処に人が来るなんて・・・。山で迷われたのですか?」
「いや・・・」
「ともあれ、お疲れでしょう、中へどうぞ・・・」

俺は徐々に近づいてゆく・・・。
・・・どくん、どくん、どくん・・・。
意識のしすぎか、何故か自分の鼓動がやけに大きく感じる。
・・・本能の衝動は・・・爆発しない。

「・・・何を持っていらっしゃるのですか・・・?」
「・・・ウサギと狸だ」
「あら、猟師さ・・!?、どうなさったんですか!?、凄い血が・・!!」
「・・・大丈夫だ。傷は大方塞がっている」
「あああ・・・、お、お父さん・・・っ!!」

娘は動揺しながら、家の中に居るらしい父を呼びにいった。

(やはり、世話になるのはよすか・・・。いらぬ付き合いは避けたいしな)

そう思い、立ち去ろうとしたとき、家の中から娘の父親らしき人物が出てきた。

「おう、おう。こいつぁ酷い。ま、中へ入んな」
「・・・」

こうなれば、いちいち断るのも面倒だと思い、俺は素直に入った。

                  ・
                  ・
                  ・

パチパチ・・・。
囲炉裏から上がる火の粉が、何故か魅力的に見える。
俺は、何を見ているのか・・・。

                  ・
                  ・
                  ・

中に入ってみると、かなり昔の民家の装いが見て取れる。
それ程古く、また、人間臭かった。
長年使われてきた、年期を感じさせる柱。
高い天井に、滑らかに滑る障子。
昔の家は、この様な感じだったのだろうか・・・。

(また、古風な・・・)

そう思わせる、居間の中央にある囲炉裏。
そこに吊された鉄瓶が、ゆらりと蒸気をあげている。

「どれ、とりあえず手当をしてやろう」

そういった娘の父は、薬箱から包帯や薬剤を取り出していた。

「・・・すまない」
「はっはっは、遠慮はいらんよ。困ったときはお互い様じゃて」
「・・・」

喋り口調もそうだが、顔を見るとかなりの年期が感じられる。
彫りが深く、見た目は若く見える。
だが、その顔からは積み重ねられた経験からか、どっしりとした落ち着きを感じる。

「・・・? 何じゃ、じっとこっちを見おって」
「いや、すまない。・・・癖のようなものだ」
「・・・」
「・・・」

警察にいたときの性か、会話の対象者を凝視する癖がついた。
一般的にはあまり良い癖ではないが、警察ではどうしても必要になってくることだ。
一度身体で覚えたことは、なかなか直らないものだ。
・・・もう、必要ないというのに。

「よし、これで良かろう」
「・・・すまない」
「・・・。さて、お前さんが持ってきたものを調理するか」

そういって、娘の父は炊事場に向かった。
居間の囲炉裏では、先ほどから娘がずっと汁物を温めている。

「・・・もう少し、待って下さいね。すぐ出来ますから」
「・・・ああ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「あ、あの・・・」
「・・・なんだ?」
「あのような時間に、狩りをなさっていたんですか?」
「・・・ああ」
「でも、夜は危ないですよ? 足場も良く分かりませんし」
「・・・」
「あ、うちも父が猟師なので、その・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・猟師、か・・・」
「あ、は、はい! それでこんな山奥に住んでるんです。電気も何もないでしょ?」

そう言って、えへっ、と娘は笑った。
娘は非常に純粋らしい。
俺が受け答えをすると、その都度喜んで応えてくる。
何か、とても懐かしい気がした。

・・・まるで・・・。

「おう、出来たぞ」
「あ、お父さん。お鍋の方も、温まっているわよ」
「ほほ、では、早速入れるか。・・あ〜・・・」
「・・・柳川。柳川祐也だ」
「おう。柳川さんには申し訳ないが、入れるのは狸だけじゃぞ」
「・・・?」
「ウサギも一緒に入れると、臭みが出るからの。ウサギ肉は、後で燻製にしよう」
「え、良かったの? お父さん・・・」
「ま、かまわんじゃろ」
「何かまずいのか?」
「え、あ、今はまだ、禁猟中だから・・・」
「ま、特に訳有りのようじゃし、今回だけはしゃあないじゃろう」
「・・・すまないな」
「はっはっはっは。さ、出来たぞ。食え食え」
「・・・はい、どうぞ♪」
「・・・頂きます」

その後、いいだけ喰った俺は、用意された寝床に、すぐに就くことにした。

                  ・
                  ・
                  ・

はあっ、はあっ、はあっ・・・・・!!!!
悪夢だ。
俺の中の本能が、暴れ、叫び、這い出そうとする。
・・・落ちつけ。
・・・落ち着くんだ。
しばらく待てよ・・・。
なぁ・・・。
そうすれば・・・。
そうすれば、もう一度あいつらと・・・。
同族の、美しい命の炎を持つ奴らとやり合わせてやるさ・・・。

・・・待てぬ。
・・・待てぬ。
・・・まてぬ。
待てぬ待てぬ待てぬ待てぬ待てぬ待てぬ待てぬ待てぬ待てぬ待てぬ待てぬ待てぬ待て
ぬまてぬまてぬまてぬまてぬまてぬまてぬまてぬマテヌマテヌマテヌマテヌマテヌマ
テヌマテヌマテヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッッッ!!!!!
あの娘を、喰らうのだ。
そう、あの娘を。
美味そうではないか。
あの娘の腑を。
あの娘の乳房を。
あの娘の子宮を。
あの娘の・・・。

「うううおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!」

がばぁ!!!
・・・俺は布団をはねのけていた。
はあっ、はあっ、はあっ・・・・。
息が上がる。
体中が熱くなり、細胞が活発に動き出す。

メキメキミキィッ・・・!!!!!
腕が徐々に鬼のものと化す。

「落ち着けと言っているっっっ!!!!!!!!!!!」

俺は叫び、自分の腕を、もう片方の手で床に押しつける。
ぐぐぐぐぐ・・・・ぐぐ・・・ぐ・・・・・・・・・。
暫くして、俺の腕は覚醒を止めた。
しゅうううううぅぅ・・・・・。
徐々に腕が小さく、元の形に戻っていく。
その時。

「あの、大丈夫ですか?」
「!!」

障子の外から声がする。
娘だ。

「あの・・・柳川さん?」
「・・・大丈夫だ・・・」
「・・・そうですか。何かあれば、すぐに仰って下さいね」
「・・・・ああ」

そして、人の気配が消えた。

「ふう〜・・・」

まさか、娘の部屋まで聞こえるほど、大きな声が出ていたのか?

(あまり、長居はしない方が良いな・・・)

俺はそう思い、もう起きることにした。
とりあえず、用意された衣類を着る。
此処はいろんな猟師が利用するので、大概の物は揃っているそうだ。
そして、顔を洗おうと外へ出た・・・。

「あ・・・」
「・・・はやいな」
「え、あ、はい、お早うございます」
「・・・?」
「あの、お身体大丈夫ですか?」
「・・・ああ。お陰様でな」
「そうですか」

そういうと、娘はホッとしたような顔をする。

「・・・何故そこまで気に懸ける?」
「・・・昨夜から、魘(うな)されてらしたから・・・」
「・・・」
「あっ」

俺はその場を立ち去った。
何故か・・・辛かった。
あの場所にいるのが。
・・・俺は、何かを無くしてしまったのだろうか・・・。
そんな気がした。

                  ・
                  ・
                  ・

外に出た。
流石に山の中にあるだけあって、空気が冷たい。
それに、心地よい程度の湿気も含んでいる。
空を見た。
青空が広がっている。
・・・清々しい。
純粋にそう思った。

(・・・俺にも、まだ人間味が残っている、ということか)

妙に納得して、顔を洗おうとした。
その時・・・。

「!!!」

きぃ・・・・・・・・・・・・ぃぃぃん

(これは・・・エルクゥの信号!? どういうことだ!?)

確かに感じた。
しかも、今までの奴ら・・・柏木一族とは・・・違う!!!
別のエルクゥだ!!

きぃぃぃ・・・・・・・・・ぃぃぃぃん

「くっ!!」

信号は強くなる。
感じる。
奴らの思考を。
遠い空から来た、奴らの思考が。

『狩りだ・・・・』
『狩りをするぞ・・・』
『命の炎を・・・』
『より咲かせるのだ・・・・!!!』

「・・・ちっ」

信号を感じたのは、この山一体からだ。
何匹ぐらいいるのか・・・。
信号を得た感触では、五、六匹といったところか。
しかも・・・近い。
こちらが気付いたということは、奴らも勿論俺に気付いている。
どちらにせよ・・・。

「やるしかない、ということか。・・・ふん。望むところだ」

腹を決めた。
とことんやってやろうじゃないか。
そして、俺は力を解放し始めた・・・。

俺は、信号が近い奴に向かって、全力で駆け出す。
景色が後ろへ飛んでゆく。
邪魔な木々を薙ぎ倒し、ひたすら目的地へ突き進んでいく。
ふと、声が聞こえた。

「・・・・ぃゃぁぁぁぁ!!!!!」
「!!」

・・・娘の声だ。
間違いない。
どうやら、別の奴が家を襲っているらしい。

「・・・ちぃ!!!」

すぐに方向を変え、力を全開にして、跳んだ。
ひょおぉぉっ・・・・だあぁぁぁんん!
俺は、ひとっ跳びであの民家に戻ってきた。
そこには。

・・・娘の父が転がっていた。
下半身と上半身が見事に別れている。
娘は・・・。
見あたらない。
どこかに隠れているのか、それとも・・・。

「ぐるるるるる・・・・・」
「・・・」

・・・敵だ。
名も知らぬ、エルクゥ。
今の俺の、倒すべき、敵。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!」

名も知らぬエルクゥは、吠えると共に跳躍し、上空から全体重をかけて攻撃する。
俺は。
立ったままだった。
敵が腕を振り下ろした瞬間、俺も動いた。

ザシュウウウゥゥゥゥッッッッッ!!!!

「がああぁぁぁぁぁっっっっ!!!」

敵の腕が、もぎ取れていた。

(・・・弱い)

これならば、柏木耕一の方がよっぽど強い。
攻撃は力任せ。
動きはトロい。

「ぐおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」

俺は一つ吠え、とどめを刺そうとする。
敵もそれが分かったのか、渾身の力で反撃を試みる。

どすんっっ・・・・。

鈍い音と共に、俺の腕が丸々敵の身体に突き刺さる。

「ぐ、お、お、ぉ、ぉ、ぉ・・・・・ぉ・・・」

同族の、美しい命の炎が燃え上がる。
・・・やめられぬ・・・。
心の中で、俺の欲望が、得も言われぬ快楽がわき起こる。
・・・これだから、やめられぬ・・・
美しい命の炎は、俺の全てを魅了する。
だが。
俺は、この炎に何を求めているのか・・・。

「・・・・」

しゅうううぅぅぅぅ・・・・。
俺は、元の身体に戻っていた。
娘が気になる。
どうやら、外にはいないようだ。
殺されたのか?
だが、それらしき残骸は見あたらない。

家の中を探す。
居間。
娘の部屋。
炊事場。
・・・いない。
ふと気付き、自分があてがわれていた部屋に行く。
・・・いた。
部屋の隅で、震えながら泣いている。
すっと中にはいると、娘はビクッとし、そしてゆっくりと顔を上げる。

「・・あ、ぶ、無事だったんですね! い、今変な怪物みたいな、そいつが笑って」
「・・・落ちつけ」
「は、はい。あの、それで、父が私の叫び声を聞いて・・・ぐすっ・・中に入れと」
「・・・」
「あ、そういえば父は・・・? 無事なのですか?」
「・・・いや。死んだよ」
「・・・え?」
「・・・亡くなった。間に合わなかった」
「・・・」
「・・・」
「・・・う・・・そ・・・」
「・・・」
「嘘でしょう? どうして突然、こんな・・・!」
「・・・」
「なんなんですか、あれは! 一体、どういう・・・」
「山を降りろ」
「・・・え?」
「もうすぐ此処ら一体は、血の海だ」
「・・・」
「奴らは人を『狩る』生き物だ。人が動物を狩るのに似ている」
「・・・」
「奴らと動物との違いは、ただの楽しみで人を狩る、ということだ」
「・・・」
「・・・お前の父には悪いことをした。だが、仕方がない。今更どうしようも」
「貴方・・・」
「・・・」
「貴方は一体、何なんですか? 何故そんなことを知っているんです?」
「・・・俺は・・・」
「・・・」
「奴らと同じなんだ。人じゃあない。『鬼』なんだ」
「・・・おに?」
「ああ。大昔の、伝説とかでよくある、鬼だ」
「・・・」
「・・・」
「・・・よく・・・」
「・・・」
「・・・良くは分かりませんが、貴方の言葉を信じて、山を降ります」
「・・・それがいい」
「・・・父は・・・?」
「・・・」

俺は娘を表へ連れだした。

「ああっ・・・お父さん・・とう・・・さん・・ううううっ・・うわあぁぁあん!」

娘は泣いた。
今やただの塊と化した、肉親の遺体を抱きしめて・・・。
俺には・・・。
今の俺では、どうしようもない。
それに、心も痛まない。
実際は、悲しいのかも知れない。
だが、今まで悲しいことがありすぎた。
今更ながら、自分の無感情さを実感する。

「行くぞ。時間がない。他の奴も、すぐにこっちに来るはずだ」
「・・・っっ・・・はい。あの、父の遺体は・・・」
「・・・今は埋葬している暇はない。悪いが、安全が保障されてからだ」
「・・・」
「行くぞ」

俺は娘を連れて、山を走った・・・。

                  ・
                  ・
                  ・

「ぐるるるるる・・・・」
「ぐおおおおお・・・・」
「ぐおぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっっ!!!!!」

早速だった。
山を降り初めて十分もしないうちに、残りの奴らが集まってきた。

「ちっ・・・」
「ひっっ・・・!!!」

娘は完全に怯えていた。
当然だ。
さっき見た鬼が、一度に三匹も現れたのだから。
しかし、娘が一緒では戦えない。
間違いなく巻き込まれて、死んでしまうだろう。
それに、俺自身も自由に戦えない。

「おい」
「は、はひぃっ!!」
「・・・落ちつけ。俺が奴らを足止めする。お前は・・・あそこに隠れていろ」
「えっ・・・でも・・・」
「心配いらん。俺も鬼だ。足止めくらいは何とかする。それに・・・」
「・・・」
「お前の父には世話になった。だから・・・お前の命は、絶対に守ってやる」
「・・・はい」
「・・・分かったら、隠れていろ。そして、隙を見て逃げろ。いいな」
「・・・はい。・・・お気を付けて」
「・・・」

返事の代わりに、俺は自分の本性とも言うべき鬼を解放する。
めきめきめきぃっっ・・・・・!!!
細胞が増殖し、一気に骨格をも変える。

「っ・・・!!」

遠くで見ていた娘が息をのむ。
俺は、前方にいる三匹のエルクゥに向かって駆け出した。

『ほう・・・こいつか。****を殺ったのは』
『我らを相手に、一人で来るとは・・・身の程知らずめ』
『お前の命の炎、見せてもらおうか・・・!!』

「ぐおおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーー!!!!!!」

俺は、戦った。
戦って戦って、意識がある限り、敵の肉が動く限り戦った。
切り裂き、食い千切り、叩き折った。
だが、俺も無事では済まない。
目を抉られ、腕をもがれ、足を砕かれた。
戦った。
例え腕一本になっても、戦った。

一時間後・・・。
そこには、何一つ動く物はなかった。
・・・いや、一人、いた・・・。

・・・娘だ。
娘は、その戦いから、目を離せなかった。
逃げろと言われたが、逃げれなかった。
見なければ、そして、確認しなければならないと思った。
・・・柳川という男の、最後を。

「ぐふっ・・・。に、逃げろと言ったはずだが・・・」
「ううっ、ううううっっっ・・・」

娘は、ボロボロと涙をこぼして泣いていた。
柳川が人のかたちに戻ったとき、彼は既に、原形を留めていない。
・・・まるで、壊れた操り人形のようだ。

「ふ・・・恩は返したぞ。・・・早く山を降りろ。他に・・・仲間がいるかも・・」
「ううっ・・・ひっく・・・うっううっ・・・」
「はやく・・・いけ」
「っっうううっ・・・」
「はやく・・・。俺は、これで満足なんだ」
「・・・え?」
「・・・もう、いいんだ。俺は・・・」

俺は、満足だった。
守りたいと思った者を守った。
それが、俺にとっては大事なことだった。
貴之は、守ってやれなかった。
俺が一番、近くにいながら。
娘は。
俺にとって、第二の貴之だったのかも知れない。
純粋さ。
優しさ。
それら全てが。
俺には、なかったものだ。
持っていなかったものだ。
だから、愛おしかったのだ。
それを持っている人間が。
今考えれば、エルクゥの力は、この時の為にあったのかも知れない。
守りたい者を、守る。
・・・確か、柏木耕一の能力が覚醒したときも・・・。
奴の大事な人物が、俺に殺されかかったときだった。
・・・力の使い方は・・・。
その人物次第なのだ。

今は、娘を守れた。
それだけで、満足だ。
一度捨てた命だ。
こういう使い方なら、悪くない。
ヒロイズムに浸かっている訳じゃない。
死にたいわけでもない。
ただ・・・。
こんな気持ちを手に入れられるなら、後悔はしない。

・・・こんなに大きな安らぎを・・・。



                               < 終 >

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筆者あとがき
 どうもどうも〜〜。お久しぶりでございます〜。此処のHPに来だして早半年。
SSを書くようになって5ヶ月くらいってところですか。今は就職活動で、あんまし
来れなくて、忘れられたり、何じゃこいつはってな目で見られたりしそうですが、
たまに来てますし、SSの感想をメールなんかでくれちゃうと、就職活動も倍がんば
れちゃうかもなんで、どうぞこれからも宜しく〜って、変な日本語(笑)。

 で、このSSですが、柳川君のその後ストーリー僕バージョン(笑)。dye様・・
だったかな?の柳川ストーリーを読んで「あー、僕も柳川書きたいなー」などと思っ
たのが始まりです。タイトル長いのが玉に瑕(笑)。