行動 投稿者:健やか


    ―――――――――来栖川重工・革新技術研究局―――――――――

「・・・よし、こんなもんだろう。」
「では、次のファクターへ移行します。」
「ああ。」

『M−1バイオチップ』。現在長瀬らが開発している『生きた機械』の名称である。
これが完成すれば、人類は劣悪な環境下でも生存していくことが出来る。
しかし、問題がないわけではない。まず、全身が深緑色になること。
これは全滅か生存かの選択にさほどの影響は無い。問題はもう一つの点・・・。

「雌雄同体か・・・。全く、厄介な問題だ。」

そう、このチップを使用した人間は例外なく雌雄同体になってしまう、ということだった。
長瀬らはそれを改善すべく、ここ一ヶ月はカンズメに近い状態で研究を続けていた。

「男女それぞれの被験者のデータ、でました。」
「ん。報告してくれ。」
「はい、ホルモンバランス、DNAレベル、染色体レベル、全て正常です。
 性別にも変化ありません。」
「・・・成功、か。」
「やりましたね、長瀬さん!」
「ああ。これでお前らも好きなあの子と別れずにすむな。」

そう言うと、研究所の中かドッと笑いに包まれた。だが、長瀬の気持ちは晴れない。

(実用化か・・。自分たちで作ったとは言え・・『機械』を自分の体に組み込むことに
 なるとは・・・。我々も『心を持つ機械』になる訳だ・・・。)

そう考えると、長瀬はどうしても分からなくなることがあった。

(俺の御先祖は・・アンドロイドに『心』を持たせて、未来に何を夢見たんだ・・?)

その問いに答えるものは・・・いない。

      ―――――――――来栖川重工・社長室―――――――――

「ん?」
カチャッ、キィ・・・。
「あ、き、君は・・・!?・・どうして・・・?」
「・・・ちが・・う。せ・・かさんじゃ・・・ない。」

空少年は驚き、過去生産されたアンドロイドで、唯一『心』を持つ『彼女』に近づく。

「と、とにかく、話を聞かせ」
ドンッ、ドンッ、・・・・ドンッ、・・・・・ドサッ。

部屋に血飛沫のカラーリングが施された・・・。

     ―――――――――来栖川重工・中央ロビー―――――――――

(今日は人がいないな・・・。)
そう思いながら、タバコを吹かす。
ピッ、ポーン。・・・どうやら誰かがエレベーターから降りてきたようだ。
(まぁ、俺には関係ない。)
「・・長瀬・・さん?」
(!?)

長瀬は思わず、タバコを落としてしまった。しかし、気にせず声の方へ向く。

「き、君は・・『マルチ』!!!・・・なぜここに!?」

しかし、目の前にいるアンドロイドは血に染まり、虚ろな目をしていた。

「・・違う・・長瀬さん・・・じゃ・・ない。」
「いや、私は確かに長瀬だが・・・。(!!)もしかして、君を作った『長瀬』の事を
 言っているのか・・?」
「・・・(こくり)。」
「・・その人なら、もう亡くなったよ。それより、君の格好・・。」
「亡く・・なっ・・た・・・?」
「ああ。それよりも君の・・・。」

そう言った長瀬は、なにやらぶつぶつと呟く『マルチ』を見て、一つ気付いた。
(疑似アナログ機能が・・・『マルチの心』が・・故障しているのか?)
全身のあちこちが汚れ、人工皮膚の損傷が激しい。内部のソフトウェアに異常を
きたしている可能性は大いに有り得る。
(『心』が故障しても、体は機械だ・・・。駆動は続ける、ということか。)
そして長瀬は、彼女の呟きに耳をうばわれ、愕然とした。

「・・・あかりさん・・芹香さん・・長瀬さん・・・・浩之さん、ひろゆきさん・・
 ・・みんな・・どうし・・て・・私以外・・は・・・みんな・・・。」

(・・そうか・・・。この百年近くは・・・たった一人で過ごしていたのか・・・。
 『心』とはいえ・・所詮はプログラムされた疑似アナログ機能・・・。長い間
 たった一人でいることの悲しさに『心』の方がついて行かなかったのか・・・。)

長瀬は決断した。

「マルチ・・・私が直してあげるよ・・。君を。」
「・・・・・・。」
ドォォン!!
「・・・ぐはっ。」

倒れた長瀬の傷口から血が溢れ、池を作ってゆく・・・。
(くっ。・・・フラレたか・・。・・・まぁ、いいか。いずれは『心を持つ機械』に・・
 『マルチ』に似たものになるんだ・・。直せる者のいない、『壊れる』前に死ねるなら
 悪くない。)
そう思いながら、遠退く意識の中で、マルチの呟きだけはやけにはっきり耳に届いた。

「浩之さん、ひろゆきさん、ヒロユキサン・・・。くる・・しいです。何・か・・・・
 とても・・・。こんな・・ことな・ら・・こう・・・なるの・なら・・・ば・・・。」

「・・・・コ・コ・ロ・ナ・ン・テ・イ・ラ・ナ・カ・ッ・タ・・・・・・。」

                                   (完)
       ――――――――――――――――――――――――――――
筆者あとがき
 始めに断っておきますが、僕は別にマルチが嫌いな訳でも、嗜虐趣味があるわけでも
 ありません(笑)。むしろマルチは好きなキャラですし、そんな子がホントにいたら
 友達になりたいとも思います。この小説は、「一つの形」と割り切ってほしいです。
 (一部の超マルチファンが恐いんです・笑)

 とりあえず、『時代』『精神』と書いてきた話はこの『行動』で終わりです。
 三日間SSを荒らしてしまった様に思いますが、ネタも尽きましたし、暫くはまた
 読者に戻ります。テンポが速かったので、穴埋め的な物を書くかもしれませんが
 当分は無いです。最後に、読んで下さった方、本当に有り難うございます。
 率直なご意見ご感想を頂けると嬉しいです。それでは。