ホワイトアルバム 第6章 途切れた紐 投稿者: しもPN
ホワイトアルバム 第6章 途切れた紐

「由綺くんに何をしたんだ」
 結局、このスキー場付近に由綺の傷を完治させるような
しっかりした病院がなかったため冬弥は英二を呼ぶしかなかった。
 そして英二は到着すると開口一番にこの言葉を投げつけたのだ
った。
「僕だって由綺に傷なんて付けたくないです…できれば…」
「君は由綺くんのことを何もわかっていないんじゃないか」
 英二から放たれた言葉は重く…そしてあまりにも辛辣な
言葉だった。
「彼女…由綺くんは…アイドルなんだぞ…君はそれを
踏みにじろうと言うのか…」
「そんな…僕は由綺…由綺のためを思って…」
 そう言った後…冬弥の心の中に一陣の風が吹き抜ける。
 それは…まるで冬弥の迷いを象徴するような気持ちの悪い
風だった。
 風はまるで…俺だけが悪いのじゃないと言っているようにも…。
 風はまるで…由綺ゴメンなと彼女にあやまっているようにも…
思えた。
「冬弥くんだけが悪いんじゃないんです」
 冬弥が言葉を失っているといきなりロビーの入り口の方から
声がする。
 そちらを見てみると…ダークブラウンの髪を肩まで伸ばし目の
くりっとしたどちらかというと綺麗系の女性が立っていた。
「美咲さん…」 
 そうそこに居たのはさっきまで彰と一緒にスキーを楽しんでいた
美咲だった。
 彼女だけが先に戻ってきたのだろうか…少しはあはあと早く
呼吸をしながら…冬弥の方に近づいてくる…弟を見る姉のような
優しい目をしながら…。
「誰かね…君は?」
「冬弥くんと由綺ちゃんの1年先輩で…そして友達の美咲です…」
「………」
「あの時私一部始終見てました」
「えっ…」冬弥はいきなりの美咲の話しを聞いて驚いた。
 そしてこんな疑問に囚われる、なぜ…俺と由綺からだいぶ
離れたところでスキーをしていたはずなのに…なぜ…。
 だがその疑問は疑問として残ったまま…彼女の口は言葉を
紡ぎ出す…はあはあと息を吐き出しながら…。
「由綺ちゃん、ちょっとあせりすぎて一人で転んだんです…
由紀ちゃんも冬弥くんとひさしぶりに会えてうれしかったから
…それでちょっとはしゃぎ過ぎていたこともあって一人で………」
「………!」
「お願いします…冬弥くん…冬弥くんだけを責めないで…
私もそして由綺ちゃんも…みんな…みんな少しずつ悪いんです
…だから…冬弥くんだけを責めないで…」
 美咲はそれだけ言うと泣き崩れるかのように倒れそうになる…
それを急いで支える冬弥。
「美咲さん」
 美咲さんはなぜ一部始終を知っているのだろうか…それになぜ
美咲さんだけ…ここに。
 彼女は腕の中ですこし涙を浮かべながらもすこしずつ落ち着きを
とりもどしていたが…彼女の顔を見ても疑問は解けるはずもなく
…ただ少しの間そうしているだけだった。
「冬弥…くん…来なさい…少し外に出て話をしよう」少し自分も
大人げ無かったのを恥じるかのような顔をして英二は外に出ること
を勧める…。
「えっでも由綺が…」
「すぐ済むから」
「えっでも…」少し心配そうな顔をして冬弥は今度は美咲を見る。
「あっ私なら大丈夫だから」始めて抱擁をした男女が知人にその
姿を見られたかのように腕の中から離れる美咲。
 そして、由綺ちゃんなら私が見ていてあげるからと言い、2人を
見送る彼女…少し心配そうな目をしながら…。

 フロントから出ると外は雪が降り積もり、まわりは道路、
街路樹、電燈、そして電柱までも雪の化粧をされ少し銀色に
染まっている。
 英二はその雪道をしばらく歩いていたがいきなりこう切り出す。
「由綺くんと…別れてくれないかい」
「えっ」
 冬弥はこの言葉に戸惑った…今までのことが走馬灯のように
蘇る…始めて出会った教室、一緒に勉強をした図書館、帰りに
一緒に立ち寄った公園、そしてスキー…どれも最高の想い出…
 答えは一つしかない…NOという答えしかないはず…だ。
「………」だが冬弥は何も言えなかった…そう何も…
しばらくすると英二から言葉が繋がれる。
「別に今回のことを責めているんじゃないんだよ…青年」
「今回のことは、あの可愛い女性の言う通りだったと思う…彼女
の目、恋をしている目だったから…」
「恋…」
「いや、それはいいんだそれは…悩んで成長していくものだよ…
若者は…」
「でもね、由綺くんには傷ついて欲しくないんだ…彼女を必要
としている人がたくさんいるから…」
「それにね…君がこれから彼女の足を引っ張る可能性だって
あるだろ…」
「………」
「恋は盲目だ…だから美しい…でもね…それで由綺くんが仕事を
できないようになるのを僕は恐れているんだよ…どうかね…青年」
「………」
 冬弥は答えが見つからなかった…俺が由綺を傷つける?
 だが頭のなかに否定できない何かがあった…そう何かが…
だから冬弥は何も言えなかった、そして英二の言葉は続く…。
「別に本当に別れろと言っている訳じゃないんだよ」
 彼は冬弥の肩に手を置き優しそうな表情をした。
「どう言うことですか?」
「つまりだ、これから3ヶ月彼女から会わないで暮らして欲しい
んだ…なるべく彼女には電話もさせないようにするから」
 なぜ3ヶ月なんだ冬弥の頭には疑問が現出する。
「どうして3ヶ月なのですか?」
「それはだね3ヶ月後に最優秀新人賞の選考があるんだよ、
これに決まれば彼女も大きな一歩が約束される…だからそれと君
の離れても愛情が薄れないか…それだけの強い糸で
繋がっているかを調べるのも兼ねて会わないで欲しいんだよ」
 英二の言葉は穏やかだったが冬弥に悩むことすら許させないよ
うな圧倒的な雰囲気があった。
 そう冬弥は蛇に睨まれた鼠のようになっていた。
 それでもただ一言だけ言葉をついて出た。
「3ヶ月たったら必ず由綺の元にもどりますから…必ず」と。
 その後、冬弥と英二はペンションに戻り、その後由綺は英二の
ベンツで病院まで運ばれていった。
 その遠ざかっていく車の姿を見ながら、冬弥は何かプッッと
糸のようなものが切れたような感じを持った。
(つづく) 

 えーと久しぶりのWAです。
楽しんでくれるとうれしいです…。^0^
後、感想ありがとうございました。
また感想書きますね…。
…そして10回はやはり行きます…。

では…^^;