ヤタガラスどもの逆襲(後篇)  投稿者:マイクD

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 そしてメインイベントの決勝トーナメントが始まった。

 一戦目、ナイジェリア戦。
 人間離れした身体能力と音感リズムを持ち、筆者などは
「さすがはジャングル、サバンナの中で生まれ育ち、槍でサイを追っかける狩猟民族」
と偏見もはなはだしい見方で捉えているチームだが、所詮は彼ら以上に人間離れした
ストライカーどもを有する、我ら日本代表の敵ではなかった。
 結果5−0。圧勝。
 
 ベスト8、準々決勝。対パラグアイ。
 前大会に引き続き、連続出場を遂げたパラグアイだが、FWには際だった個性は見られず、
総合的なチーム力は平凡である。大方の予想は予選リーグ敗退と見られていた。
 しかし、ドイツサッカーにも似た粘り強さと、守備の強固さで何とか危なげながらも
予選突破。ダークホースとしてトーナメント進出を強かにしなやかに進めた実力と
勝負強さ。それはフロックではなかった。
 さらに加え、このチームには恐るべきGK、キングが君臨していた。その名は、
ホセ=ルイスフェリックス・チラベル=ゴンザレス。GKというポジションにありながら
FK(フリーキック)、PKを撃ち、得点を狙う異色のGK。全身に漢(おとこ)オーラ
を放ち、存在感をムンムンと漂わせる希有のGK。様々な逸話と問題の嵐を巻き起こす、
嵐を呼ぶ漢。元FWだったというし、これもまた人でなし列伝の一人に加わる事必定の
プレイヤーである。それが彼、チラベル。
 素顔をご存じの方ならおわかりの筈。ほとんどヤクザ顔をしたジャイアン。
 しかも名前がホセである。ゴンザレスである。
 こんなのに道端で、「自分と、茶でも一杯どうですか」なんていわれると、
「すんません、僕が悪かったんです、兄貴」と土下座してしまうかもしれない。
 それにもし、こんなのがお父さんだったらどうしよう。
 だって毎朝起きる時、あの顔で、
「朝、朝だよー」
と体を揺さぶられるのである。死んだ振り必定である。
 とまあそんなことはどうでもいいのであって、サッカーの話だ。戻る。
 
 予想通りというべきか、当初ヤタガラスどもは再三ゴールを襲うが、パラグアイDF陣
の粘り強さ、そしてチラベルの神懸かり的ゴールセービングにより、前半戦は0−0の
まま折り返す。後半戦も同じく、日本は押し気味に試合を進めるが、パラグアイDFは
ことごとくヤタガラスの攻撃を阻止。苦戦を強いられる。
 
 が、サッカーの女神はヤタガラスどもに微笑んだ。
 後半も終了の5分前、九品仏が打ったヘディングをチラベルは手で弾き、跳ね返ったボールを、
月島兄がそのまま転がったボールめがけてスライディングで突っ込み、ゴールへ押し込も
うとした。しかし恐れを知らないチラベルは体を反転させ、シュートを阻止しようと
体ごと投げ出す。普通のプレイヤーなら、ここでキーパーを避け躊躇するところだろう。
何しろ相手はチラベルである。顔面凶器の男である。普通は、ビビる。
 しかし、月島兄はちがった。ここ一番の貪欲さと根性において、正しく名ストライカー
としての素質を発揮した。何しろ彼は妹と共に最悪な環境の中で育ち、最低な苦渋を舐め
てきた男である。負けん気が弱い筈がない。月島兄は躊躇することなくボールとチラベル
の両手目がけ、スライディングで突っ込む。人でなしとしての面目躍如。
 体と体。
 意地と意地。
 汗と汗。
 全てが重なり合い、激突。
 漢と漢がぶつけ合った意地はボールにのりうつり、宙を踊る。
 そしてボールは舞を舞った後フィールドに落ち、バウンド。ボールはころころと転がり、ゴールラインを越えた。
 
 フィールドに寝転がり失点を無念がるパラグアイの戦士たち。
 チラベルも同様。顔を手で伏せ、空を見上げ怒号した。
 しかしチラベルはやはり"兄貴"だった。すぐさま起き上がり、倒れている味方の手を
取り叱咤激励、ゲームに戻り点を取り戻せと喝を入れる。兄貴はどこまでも漢であった。
 
 だが、時間は許さなかった。
 審判が試合終了のホイッスルを高らかに吹き上げる。
 結局ゲーム終了まぎわに月島兄が決めた1点が決勝点となった。
 パラグアイの命運は尽きた。
 1−0。辛勝。

 ベスト4、準決勝。前回優勝国のフランスとの一戦。
 開催国日本同様、前回優勝国のフランスには特典として地区予選が免除され、無条件で
本戦に進む事が許されている。その為フランス国内でも実戦数の少なさから、余り期待さ
れてはいなかったのだが、このチームにも強力なストライカーが存在した。その名は
ニコラ・アネルカ。かつてイギリスのプロクラブ"アーセナル"に所属し、チームを移籍
する際"ラツィオ"、"ユベントス""レアル・マドリッド"といった名門クラブが獲得に
名乗りを挙げ、プロリーグ戦開幕間際になってレアルが45億円という高額金で持って
獲得に成功した、などといったドタバタ劇を演じた悪名名高きストライカー。また、
相手の五臓六腑を貫く饒舌の持ち主としても知られており、充分に人でなしとしての
条件も兼ね備えている。名ストライカーの匂いを漂わせている。ドリアンの香りとともに。
さらにトリコロールチームには、前回優勝を経験したジダヌ、ジョルカエフなどといった
名選手も健在で、経験差から言って日本不利は有利と見られた。
 だが、ヤタガラスどもはそんな世論など一蹴の元に粉砕した。この試合、なんと柳川、
大志の二人がアベックでハットトリック(一試合に一人で3得点決める事)を決めたのだ。
 "シャンパンサッカー"の異名を取り、可憐なボール裁きがフランスサッカーの真骨頂。
が、一度崩れると脆さを露呈してしまうのが彼らの弱点だった。日本のペースに引きずられ、
なすがまま。ノーガードで顔面を打たれるボクサーの如き有り様となる。
 そしてタイムリミット。
 王者フランスは沈黙。
 その高慢ちきなおフランス人どもの頬に、ヤタガラスどもは鬼太郎ビンタを連打した。
 6−0。トリコロールニワトリ、大破。

 そして、決勝戦。場所は横浜国際遊戯場。もとへ、横浜国際球技場。
 運命の対戦相手は、青き稲妻イタリア。
 W杯優勝過去3回。世界最強のプロリーグと言われる"セリエA"。愛すべきチームが
負けると電車を本当に脱線転覆してしまうほどで、警察に逮捕された時のコメントが
「俺たちはカルチョに人生を賭けてるんだ。電車の脱線なんてハナクソみたいなものだ」
そんなもんに人生賭けて電車転覆させていいんですかとツッコミたくなるくらい熱狂的な
ティフォージ(サポーター)。それらに根深く結びつく伝統。まさしくブラジルと並ぶ、
世界最強のサッカー王国。
 元々イタリアは守備を固めてカウンターを狙う、という守備重視戦術重視の傾向が強い
国で、特にDFラインは世界最強の強固さを誇った。さらに試合運びの巧さとマリッツィア
(ずる賢さ)。即ち、駆け引きに長けていた。
 掛け率はイタリア1.45の、日本98.55。世論は完全日本不利のイタリア圧勝。
 事実キックオフ直後、アズーリ(イタリア代表の俗称)は巧みなボール裁きとダイレク
トパス(一度もボールを止めることなくパスを回す事)を展開する。そして5分後、
イタリアのセンターフォワード、クリスチアン・ヴィエリは日本のDF陣の壁を力ずくで
こじ開けるようにねじ伏せ、強力なシュートを放つ。結果失点。0−1。
 しかし、狩猟者どもは(あ、本物が一人いたな)何事もなかったの様に飄々とし、
九品仏に至っては余裕の笑みを浮かべ、鼻でせせら笑っていた。
 そしてヤタガラスどもの反撃が始まる。
 1点目はセットプレイから決まった。敵DFが月島兄の足を後ろから削り、フリーキッ
クの指示を与えたのだ。
 キッカーはキック力チーム随一の柳川。右サイド。ゴールまで30m弱の距離。
直接ゴールを狙う事も出来る。が、目の前には敵DFが横一列に並び、壁を作る。
 ここで日本ベンチは選手一人を交代し、矢島を投入。そして柳川は矢島を壁となった
敵DF壁の間に立たせた。
 柳川は蹴った。鬼の力で、渾身の力でもって。
 ボールは壁に向かって直進、猛烈な威力で伸びてゆく。
 ボールの勢いは止まない。
 遠くから見ると火を噴いているかの様。本当に火を噴いているのかもしれない。
 そしてボールは見事、矢島の顔面にぶち込まれる。
 血を吹き、頭を吹き飛ばされる矢島。
 矢島に当たり、角度が変わるボールの弾道。
 しかし勢いは止まず、ゴール右角へ進む。
 反応する敵ゴールキーパー、ぺルッツィ。しかし、わずか数ミリ、指先が届かない。
 ボールはゴールネットを揺らし、中にこぼれ落ちた。ぺルッツィの巨体と、ボールに
付いた矢島の血と鼻水と共に。
 1−1。同点。
 得点者、矢島。ヘッドによるゴール。
 よかったな、矢島。得点出来て。

「よかねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 前半を折り返し、半死半生と化した矢島はタンカで運ばれ、ベンチは後半から二人目の
交代を告げる。交代したのは藤井冬弥。矢島以上の役たたずにして人でなし。
 しかし役たたずとはいえ、ナニとハサミは使い様。使い勝手もあるというもの。
 散々役たたずと罵られ、『最低』と人に言われ続け、ゲームのユーザから忌み嫌われて
きた冬弥である。こんな特徴も個性も根性もない奴に何が出来るかと疑いの目で見る者も
いるだろう。
 と、判断するのは早計、早合点というものだ。一事を万事として人を評価するのはよく
ない。例えば今あなたの隣に座っているかも知れない友人。もし彼、もしくは彼女がオカマ、
レズだとしたら、あなたはその友人をどういう目で見る様になりますか。人には他人に
言えない趣味が一つくらいは在るというもの。とやかく言うのはよくない。オカマにも
人権は在るのだ。人権は認めなくてはいけない、と日本国憲法にも表記されてある。
オカマに人権を認めるといった条項が本当にあるかどうか知らないけど、オカマには
オカマとして、プライドとポリシーを持っている。筆者などよくオカマに出くわす。
オカマが多いタイでオカマにキスされたことがあるし、電車の中でオカマに痴漢された経験が
あるし、教育問題について深い考察をしようと新世界の映画館で女教師が出演して、
何故か途中で裸になるという映画を見に行った時も、厚化粧をしたオカマのおっさんに
終始つけ回されたことがあるし。こう考えてみてみると、筆者はオカマに追い回されて
ばかりの気がする。ふと考えてしまう。自分はオカマ受けしやすいのだろうか、オカマと
しての素質があるのではないのだろうか。いやだ、そんなのやだ。筆者は女性が大好きだ。
全裸の女性なんて特に好きだぞ。眼鏡をかけて三つ編みの女子高生に、裸エプロンなんか
してもらうともっと嬉しいぞ。裸にYシャツなんてさらに嬉しいぞ。ついでにいうと、
メイドさんなんてもっと好きだぞ。スチュワーデスも大好きだ。女教師も大好きだ。
人妻なんてもう最高だぞ。でもSMはちょっとやだな。痛いの嫌いだし、熱いのもやだ。
スカトロもちょっと敬遠したいな。
 何を言ってるのか筆者もよくわからなくなってきた。サッカーの話に戻る。
 
 とにかく、藤井冬弥である。
 役たたずと思われた彼は、思わぬ場で、思わぬ才能を発揮し始めた。
 左サイドを走る彼は味方からパスを受け、ドリブルで疾走を始めたのだ。
 イタリアのDF陣は素早くチェックを始め、3人がかりで冬弥を取り囲む。
 しかし冬弥は一瞬のスキを突き、間を器用にするりと抜けてドリブルを続ける。ゴールに向かって。
 おいおい、筆者もこいつが岬くんもびっくりなドリブルを披露するなんて知らなかったぞ。
設定に無理があるんじゃねえのか。
 筆者も知らなかった事だから、月島兄も、柳川も、大志も、矢島も、他のチームメイト
も、この試合を観ているサポーターも、そして当然この文章を今読んでいるあなた、読者
も当然知らない。大変意外な、そして、嬉しい誤算だった。
 さすがはこのSSに出演しているリーフキャラの中で、唯一主人公を張った男である。
それは伊達ではなかった。
 冬弥はまだドリブルを続ける。
 
 そしてついにペナルティ・エリアに突入。
 地獄で勝新太郎に乳首を舐められる様な表情を作り、追いすがるイタリアDF陣。
 天国で裸の夏目雅子に乳首を舐められる様な表情を作り、サポートする味方。
 沸き返り、歓声をあげる8万の大観衆。
 冬弥はそのままゴール目がけ、シュートを放とうとした。

 この時全てが凍りついた。時も、味方も、敵も、観衆も。
 視線はある一点に向けられていた。そこには、冬弥がぺルッツィの眼前で腹を抱え倒れている姿が。
 一瞬にして何が起こったか。誰もその諸行がわからなかった。
 しかし審判だけには唯一見えていた。一部始終を。
 ペルッツィがいきなり冬弥の腹めがけ、ボディーブローを豪打したのだ。
 後に彼はインタビューでこう語った。
「あいつの顔を見ていたら、急にムカつくものが湧き出てきた」
やっぱりな。
 しかしどうあろうと、反則は反則。しかもペナルティ・エリア内での出来事。
 駆け寄る審判。そして一枚のカードをペルッツィに提示した。
 それは赤い色。レッドカード。即ち、即退場を意味するもの。
 そして審判はペナルティポイントを指差し、日本にPKを与えた。
 必死に抗議するイタリア勢。しかし審判の決定が覆る筈もない。
 こうして日本に得点のチャンスが生まれた。
 タンカで運ばれる冬弥。彼は今だ、腹を抱えている。
 よかったな、冬弥。役たたずにならなくて。

「よくねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 GKが退場になったイタリアはフィールドプレイヤーを一人下げ、ジャンルカ・トルド
を新しいGKとして出し、PKに備える。
 日本側はPKの準備を始める。キッカーは誰あろう、九品仏大志。
 体験された事のある方ならお判りだと思う。PKというプレイが、ボールを撃つ側も、
ゴールを守る側も、大変プレッシャーのかかるものだということを。何しろかつて、
この得体の知れないプレッシャーに負け、どれほどの名プレイヤーが苦汁を飲んだ事か。
ジーコも、プラティニも、ロベルト・バッジォも。しかもこの舞台はW杯決勝戦。
この1点で勝敗が逆転する。並の神経の持ち主ではプレッシャー負けしてしまうのは必定だった。

 しかし、

「…くくく、おたくのパワーをあなどるでないわ!くらえ、ファイヤーーーショーーーーーーーーーーット!!!!」

 この男にプレッシャーという文字は、まったくの無意味だった。

 ボールは鋭くゴールネットに突き刺さり、さらにネットを突き破り空へ舞い上がった。
 日本はついに逆転に成功、ゲームを引っ繰り返した。
 2−1。得点者、九品仏大志。PKによるゴール。

「ふははははははははははーーー!!吾輩は無敵なり!!!おたくに、桜井あさひに、栄光あれーーーーーーーーー!!!」

 困った男である。


 形勢は一転、日本側に移った。
 イタリアは退場者を一人だし、10人でプレイしなければならない。1人とはいえ、
大変なハンデを背負う事になった。しかも1点をリードされ、プレッシャーは嫌が上にも
覆い被さる。何しろぶざまな負け姿をさらす事になれば、国に帰る時空港で腐ったトマト
や卵を投げられ、非難轟々責められる国である。しかも彼らには過去W杯優勝3回という誇り、プライドがある。
新興国にぶざまな負け姿をさらし、地に這いつくばされる様な事は断じてあってならない。
立場は不利とはいえ、『誇り』、それのみが彼らを振るいたたせ闘志を燃やす、唯一の松明だった。
 
 しかし、松明は消えた。
 月島兄にボールが渡り、ゴール前めがけドリブルで突進を始めたのだ。
 慌てふためくDF陣。先程の失点シーンが、彼らの脳裏にかかる。
 5人がかりで月島兄を止めようとする、DFと中盤の選手たち。
 周りを囲まれ、パスもままならぬ月島兄。ボールを奪われるのは必至と見られた。
 
 だが、月島兄はただの男ではなかった。

「瑠璃子…お兄ちゃんに力を貸しておくれ…」

そっと呟く月島兄。さすがはシスコンキング。土壇場になっても妹の名を忘れはしない。
 それはともかく、月島兄は笑った。普段からあるのかないのかわからない様な目をして、
笑っているかと思いきや実は怒っていたという、表情を読みにくい男ではあるが、
とにかく、彼は笑った。にやりと。

「ふふふ………みんな、こわれてしまえ!!」

 ちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりと放つ毒電波。Mr.毒電波の
面目躍如たるプレイである。毒電波の餌食となり、その場で卒倒するイタリアDF陣。
皆、股間を押さえ、中にはその場で射精する者もいる始末。
 倒れ、そして壊れたDF陣を後ろ目に、月島兄は軽々とDFを突破した。残るはGK。

 しかしトルドも並のGKではなかった。すぐさま月島兄のコースを察知し、シュートを
撃っても真正面に来るよう態勢を整える。
 だがここでは月島のポストプレイが勝った。
 何を思ったのか、月島は誰もいない筈のエリアにボールを流したのだ。
 そこに突っ込んで来たのは、鬼、柳川裕也。
 この男にフリースペースを与えては、もはやお終いである。

「…さあ、見せるがいい…、貴様のその深遠の炎を、戦いの魂を…」

 狩猟者として生まれ、狩猟者として戦いの場を望み、狩猟者として戦いの場で死を望む男、
柳川。もしかしたらリーフキャラの中でもっとも、ストライカーとしての素質に長けた男
かも知れない。充分過ぎる人でなしだし。
 迷いはなかった。真正面から、GKめがけボールを放とうとする。
 その時柳川は気配を感じた。後ろから己を襲う、何かに。
 それは先程まで前線に張っていた、敵センターフォワード、ヴィエリだった。
 ヴィエリは危険を感じ、全速力で自陣に戻り、柳川めがけ後方からタックルを仕掛けて
来たのだ。彼もまた人でなしである。プライドも何もかもはき捨て、後方からのタックル
は反則と知りながらも、柳川の足を引っかけようとした。この非常時、なりふりかまって
はいられない。
 しかし反応は柳川の方が寸時早かった。

「…無駄だ、どけ」

 柳川はヴィエリのタックルを素早くかわす。そしてヴィエリを腕で振りほどいた後、

「…見せてやろう、真の鬼の力を…!」

 柳川の中の"鬼"が作動した。そして鬼の力で、GKの至近距離から渾身の力を込めて
シュートを撃ち下ろす。ボールはGKへ向かい、まっしぐらに突き進む。
 がっちりと真正面からボールを受け止めるトルド。だがボールの威力は殺されず、回転
はGKの腕の中で続いている。威力は殺されることなく、ボールはそのままGKごと
ゴールの中へと入っていった。

ゴールが決まるとともに、柳川は天高く、咆哮のうねり声を上げた。

「ふふ、美しい魂の灯火だ……」

柳川さん、いいかげんこっちに帰って来て下さい。

 3−1。追加点奪取。得点者、柳川祐也。
 


 試合終了のホイッスルがフィールドに鳴り響いた。
 大歓声のウェーブが巻き起こるスタンド。
 ベンチからフィールドへ一気に飛び出してくる控え選手達とスタッフ連。
 がっくりと肩を落とすイタリア勢。
 そして、歓喜の雄叫びを上げるヤタガラスども。

 ここに優勝は定まった。
 日本はわずか出場2回目にして、世界規模の国際大会において、勝利と名誉を、純金の
ワールドカップトロフィーを手にしたのだ。それは日本サッカー、否、アジアサッカー界
始まって以来の大快挙でもあった。
 宇宙世紀0080、地球連邦軍とジオン共和国との間に、休戦協定が結ばれた。

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 だがその翌日、国際サッカー連盟(FIFA)は、日本の優勝を取り消した。

 それは、

『非紳士的行為による勝利の簒奪』

という、判った様な判らない様な理由からによるものだった。

 だが、言われてみればもっともであった。
 何しろ日本の面子は、

 電波使い
 鬼
 おたく
 女たらし
 矢島

 人でなしの群。文字通り、『人間じゃない連中』ばかりで占められている。
特種能力による勝利の簒奪。彼らが大会開催中、試合の中で行った諸行。
 
 それは――――

 DFの動きを止めるのに電波を使い、
 鬼の力でマーカーを無理矢理振りほどき、惨殺し、
 隣でマークしている選手に向かい、自分の贔屓のアニメを布教し、洗脳に勤しみ、
 アイドルという、人が羨む彼女がいるにも関わらず、他の女に手を出し、食べてしまい、
 神岸あかりに求愛し、見事玉砕する
 
 この様な連中に由緒正しきW杯を傍若無人に暴れ回され、秩序をかき乱され、
揚げ句に優勝まで掻っ攫われてはFIFAの面目が立たなかった。FIFAは何としても
彼らの勝利を否定しなければならなかった。ひょっとすると有力なサッカー強国の協会
からの圧力があったのかもしれない。
 とにかく、こじつけがましいが、難癖をつけられ、日本の優勝は取り消された。

 処分はそれだけではすまなかった。
 日本サッカー協会はFIFA、及びアジアサッカー連盟から除名処分を受けたのだ。
 さすがにこれは日本側もFIFAに抗議を申し入れた。が、申し入れは即却下された。

 優勝を取り消され、怒り噴騰に達したのは日本のウルトラ(サポーター)達だった。
 彼らはその報道が伝わるや、直ちに結集。冬弥と矢島を襲いにかかった。

「「何で俺たちだけなんだーーーーーーーーーーー!!!」」
と再び憤りの言葉を挙げるのは、冬弥と矢島の二人。

 君らはそういう星の下に生まれたんです。それに他の3人は恐いだろうし。

「「ド畜生ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」

 哀れ、冬弥と矢島はウルトラ達の手にかかり、袋だたきにされた。

 それだけでは済まなかった。
 ウルトラは日本サッカー協会の建物を急襲。上層部幹部を捕まえ、これもまた袋だたき
にし、つるしあげにした。そして協会の建物を放火した。
 炎上する協会ビル。周りを囲み
 サンバを踊るウルトラ達。
 協会ビルを被いつくす業火は、3日3晩にわたって燃え盛った。

 かくして、日本サッカー協会は崩壊、日本サッカーは三度、冬の時代を迎える事になった。


 銀河の歴史がまた1ページ…




『ヤタガラスどもの逆襲』(完)