「チンパンジーの前世紀、俺はただのサルだった」と歌ったのはBeckだったか、俺、藤田浩之の場合、そのまんまそのフレーズがあてはまる。
只のサルだ。カニクイザルという名の。
俺はカニが大好きだ。どのくらい好きかというと、親の死に目にあうよりもカニ、あかりよりもカニ、あかり、志保、雅史と北陸にカニを食いに行こうと約束しながらも、雅史は約束日がサッカー部の試合で来れないということになり、結局その話はご破算。俺は一人黙って、北陸までカニを食いに行った、というくらいカニを愛している。
故に、葵ちゃんから「北海道の親戚からカニが送られてきたので、先輩良かったら家まで来られませんか?ご馳走します」という言葉を聞かされた時、俺はその場で小躍りし、思わず校舎の4階から飛び降りてしまう程だった。
取るもの手に付かず、漂白の思ひさめやらづとはこのことをいうのか。俺はその日、カニのことで頭が一杯になり、何も他に考えるものはなかった。
葵ちゃんの話によれば、その日綾香と坂下も呼んだということらしいが、相手は全員女の子。そんなに食うことも無かろう。
「いやーん。あたし、カニなんて手が汚くなるから食べられなーい」
とか、いうのがオチであろう。ふっ、よろしい、この藤田浩之が全て処理して使わす。
しかし
「ちぇいさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「ほあちゃあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「バリガリボリガリバキバキバキバキピシバシドシゲシフンヌ!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
見れば葵ちゃんは毛ガニを手刀で叩き割り、綾香は片手で甲羅を握り潰し、坂下に至っては甲羅ごと丸々歯でかみ砕いて食べてる。口をべちょべちょにしながら。
「あれ先輩食べないんですか?とっても美味しいですよ」
「カニはね、やっぱりミソよね、ミソ。このとろおりとした芳醇な旨味が・・・」
「バリガリボリガリバキバキバキバキピシバシドシゲシフンヌ!!!!」
お前ら、おっさんかい。
とりあえず体育会系の、それも格闘技をやってる連中と、カニを食うのはよそうと思った。
(完)