「鍋」 ACT 2 投稿者:シャアのじんじろ毛


<あらすじ>
 年末を隆山すごそうと、柏木耕一は千鶴たち四人姉妹の待つ思い出の地へと向かう。隆
山についた耕一は鶴来屋で名物の鍋料理をご馳走してもらうことに。ほのぼのとした中で
鍋を囲む耕一たち。だがそのせっかくの団らんの一時も、隣の部屋から聞こえてきた声で
破られることに。
 「この鍋は出来損ないだ。とてもじゃないが食べられない」
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「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!!
思い出しただけでも腹立つううううーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!」
湯を拳で思い切り叩きながらわめく梓の罵声が湯船に響きわたる。野蛮なやつめ。
「ちょっと梓、落ち着きなさい。みっともないわよ」いたって冷静な千鶴さんの声。
しかし態度には陰りが見える。
「だあって千鶴姉さあ・・・・・・あんなこといわれてくやしくないの?」
口をとんがらせてブーたれる梓。スネちゃまかお前は。
「私だっていい気分はしないわよ。でもね、お客様の中にも色々な方がいらっしゃるわ。
お気に召さないとおっしゃる方も・・・・。お客様のいうことにいちいち文句をつける
もんじゃないわ」千鶴さんの大人の意見。
「そうはいってもさあ・・・・・・・やっぱやりきれないじゃん・・・・・・」
悔しそうにつぶやく梓。気持ちは分かるが、ここまで土着意識の強い奴だとは
思わなかった。鍋をバカにされたことが自分の身内をバカにされたように感じるとは。
しかしこの思いはみな同じだろう。千鶴さんも、楓ちゃんも、初音ちゃんも、
そして俺も。
ここは鶴来屋名物の展望露天風呂。隆山の町と海を大きく見渡せる、最高の場所にある。
しかも、混浴。コンヨク。Konyoku。こ・ん・よ・く。もう一度しつこく「混浴」
そして連れ添うは美人の4姉妹。死んでもいい・・・・・・はずなのに。
本来ならばオヤジモードはいりまくり状態で、男にとって冥利に尽きるシチュエーション
なのだが、俺の心はもやもやしたものを拭いきることはできなかった。梓同様に。

隣の部屋から聞こえてきた一声。あの声で楽しく鍋を囲んでいた俺たちの団らんは
冷水をあびせられたような状態となった。鍋もほとんど手をつけられなくなり、
箸の動きもとまり、場は思い切り盛り下がるものとなった。
激情型の梓などは「ぶち殺す!」とばかりに隣の部屋へなぐり込みをかけるような
勢いがあったのだが、千鶴さんになだめられ何とか矛を収めた。未練がましそうだったが。
初音ちゃんにいたってはそのまましょんぼりしてしまい、首をうなだれて下にうつむいてしまった。
この娘は昔から何かあると萎縮してしまい、青菜に塩状態になってしまう。
見ているだけでかわいそうなくらい小さくなる。
千鶴さんも見た目は穏やかで何も気にしていない様子だが、こめかみに青筋三本立てていた
のを俺は見逃してはいない。
この中で唯一、終始変わらなかったのは楓ちゃん一人。何もなかったかのように
ぱくぱく豆腐や野菜を食べていた。
それでもどこかに陰りを感じたのは気のせいだろうか?

結局俺たちは食事を終えると、そのまま温泉へ行くことになった。
「混浴」という甘美なる言葉を連想するとき、健全たる男子ならばお約束として、
必ず頭に思い浮かぶであろうイケナイコトを想像してしまうものであるが(そうだろ!?)
残念ながら千鶴さんたちが湯船に登場したその姿は、
千鶴さんはハイレグがかった白のワンピース水着、
梓はいかにも活発で健康的な競泳用のワンピース、
楓ちゃんと初音ちゃんはスクール水着。
しかも楓ちゃんはスイマーキャップにゴーグルといういでたち。なにゆえ?
確かに最近の女の子たちが温泉に入るときに、
水着を着用するのはめずらしいことではなくなった。これはこれでけっこううれしい。
しかしおれとしてはやはり。ちっ。
ちなみに水着のスタイルに作者の趣味が入っているのはご容赦を。
「そう言う耕一だって水着つけてんじゃん」突っ込むな、梓。

「しっかしまだ収まりつかないなー・・・」しつこい梓。
「誰だろなー、あんなこといったの。かなり性格悪そーな声だったけど」
だったら時代劇の悪役俳優はみんな性格悪いのか。
「誰が言ったかもうわかってるよ!」梓。
「誰?」
「評論家の唐山筑前先生よ」千鶴さん。
「唐山筑前?あ、聞いたことある。なんかたくさん本だしてる有名な美食家の・・・」
唐山筑前とは毒舌で有名な美食評論家で、
昼のワイドショーなんかにもよくコメンテーターとして出演し、新聞や週刊誌などに
数多くの料理エッセイや評論を書いている文化人である。
メディアでの露出度が高いため、世間での著名度も高い。
しかし実のところ、毒舌というよりも自分の気に入らない料理や店の悪口を言うことに
生き甲斐を感じ、全力を尽くすという極めて性格の悪いゴロマキ評論家だということを
俺は知っている。もっとも歯に着せぬその口調があの評論家の人気の一つでもあるの
だが。大体ワイドショーなんかに平気な顔をして偉そうにしゃべる文化人にろくな奴
などいない。
「それにしても唐山筑前みたいな有名人もここに泊まっているなんて・・・・」俺。
「でもそれだけじゃないんだよ」梓。
「ええ・・・・・・」何か言いたげな千鶴さん。
「誰か他にいるのか?」
「木之八のオヤジもきてんのよ」木之八のオヤジって誰?
「それは・・・・・・・」千鶴さんがぼちぼちと語り始める。

千鶴さんの話によると、ここ隆山にも再開発と銘打って
新興の資本が入り始めているとのことらしい。数ある新興勢力の中で
最も資本力を持ち、勢いガあるのが木之八賢一という男が率いる
院網グループなのだそうである。この院網グループがここ最近、
この隆山の町に林立する鶴来やグループ関連の会社や商店を買収し、
鶴来屋グループの周りを浸食し始めたというのだ。
院網グループとは全国規模でのチェーンホテルの経営で、
わずか14,5年といった短期間で急速に力をのばしてきたレジャー企業である。
経営や経済にに疎い俺ですらその名前は耳にしたことがある。
豪華な料理、絢爛なショー、最新鋭の宿泊施設とレジャー設備といった具合に、
まあありきたりといえばありきたりなことを売り物にしているが、それだけで
業界トップを争うほどの競争力を得たわけではないだろう。
新興ならではの性急さと強引な経営方針、当然よからぬこともやってきたに違いない。
ま、よからぬというのは俺の勝手な想像だが、どこかに胡散臭さを感じずにはいられないのは
周囲の意見もも一致するところだろう。
「それに最近は本館にも露骨な嫌がらせを始めて・・・」千鶴さん。
「例えば?」
「ロビーに人相の悪い男の人たちをたむろさせて、他のお客様にちょっかいを
かけたり・・・・・」やっぱり。
「それじゃまるでヤクザじゃないか」
「それだけじゃないんだよ。あのオヤジ、千鶴姉やあたし、
それに楓や初音にまで」梓。
「どうするんだ?」
「じいーーーーーーっと見るんだよ、あたしたちを!」
「は?」
「なめるように全身くまなく見てさ、品定めでもしてるみたいに!
あああっーーーーーーー!言ってるだけで気色悪くなってきた!!」
鳥肌を立てる梓。なんだか聞いてるだけでムカムカしてくる。
「もうやめましょう、梓。せっかく耕一さんが訪ねてきて下さった夜なのに
こんな話をするなんて。ごめんなさい耕一さん、不愉快な話をして」
「謝らないでよ千鶴さん。俺の方こそ全然知らなかったよ」
「いいえそんなこと・・・・・・」うつむく千鶴さん。顔が赤く染まっているのは
湯に浸かってのぼせているせいか。
千鶴さん、そして今まで隣でじっと黙って話を聞いていた初音ちゃんは
落ち込んだ顔をする。そんな顔はみんなには似合わないよ。
そんな中、一人絶叫する奴がいる。梓だ。
「がああああああーーーーーーーーー、やめやめ!辛気くさいのはもうやめ!」
自分で話を振っておいて何を言いやがる。
しかしポジティブなところは梓の良いところだ。
「うーむ、でもやっぱり収まりがつかないなー・・・マジむかつく。耕一!」
「な、なんだよ」
「殴らせろ!」
梓の理不尽な一撃が俺の顔面を直撃する。ちょっとでもこいつのことをいいなと思った
俺がバカだった。
俺はそのまま湯船に身を沈めた。
その横ではばちゃばちゃと湯船でクロールを泳ぐ楓ちゃんの姿。ある意味怖い光景。

風呂からあがった後、俺たちはのぼせた頭を冷やそうと、
めいめい好きなところへ遊びに行った。
楓ちゃんと初音ちゃんは星が見たいと言って外へ。この寒いのに。
俺と千鶴さん、梓の三人はロビーへ行ってビールを飲むことに。
じじ臭いという突っ込みは却下だ。
「耕一、あれやろうよ」ロビーの端に置いてあるゲーム機を指さす梓。
そのゲーム機はアイスクライマー。なぜこんな懐かしいゲームがここに?
「あ、あたしもやるー。なつかしー」昔かなりやりこんでいたとみたぞ、千鶴さん。
そこへ、
「これはこれは柏木の若女将、相変わらずお美しい」うわ、下品な声。女将とはなんだ。
「あっ・・・・・・これは木之八会長。ようこそいらっしゃいました」
お辞儀をする千鶴さん。嫌そうに。こいつが木之八か。
「いえこのたびはこちらの唐山先生を接待しようとお宅の旅館をつかわせていただきましたよ」
自分とこのホテルを使えばいいのに。
「はあ、このたびは当館をご利用いただきありがとうございます」
木之八の隣に立つ和服姿の長髪オヤジにお辞儀をする千鶴さん。
こいつが唐山筑前だ。千鶴さんが挨拶をしても唐山は返事すらしない。ごう慢な奴め。
「いかがでしたでしょうか、今宵のお食事は。お気に召しましたでしょうか?」
そんなこと聞くことないのに。
「いかがでしたか先生?」木之八。いやらしい顔をしながら。
「・・・・・・・・」無言の唐山。なんか言えコノヤロ。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
しばしの沈黙。そして、
「・・・・・ハァーーーーーーーーーーーーーーーイ!!」ん!?
「まあーーーーーーーーーるで、ダメ!おダシも、具も、お魚も、なーーーーーーんも、ダメ!」
いきなり何てことを言いやがる。
「ど、どういうとこがだめなんですか!?」うろたえながらも何とか聞き出す
千鶴さん。なかなか根性がある。
「それはね・・・・・」
「・・・・・それは?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「自分で考えんさい!」だあああーっと全員でずっこける。吉本新喜劇か。
「だあーーいたい、何でこのアタシがいちいち幼稚園児にモノ教えるように懇切丁寧に
アおイチにアおイチにとアソコからココまで教えなきゃなんないのよ。
アタシはね、芸術家よ芸術家。アーティストよアーティスト。いいこと?
ちなみに嗚呼血州斗じゃないからね。あらいやだ、これじゃどこかの頭の悪い族
みたいじゃない。ウゥオォッフォホホホホホホホホホホホホホ!」怪鳥の様な雄叫び。
「いいことそこの小娘よくお聞きなさい。鍋料理はね、もっとビューティフルかつ
エレガント、そしてフレキシブルにソフィスティケイトされたお料理よ。わかる?わかる?
Do you understannd?ウゥォッフォホホホホホホホホ!ねえ、ビビアン?」何じゃそれは。
何なんだこのテンションが以上に高いオヤジは。訳わかんないこといいながら
腰をくねくねくねらせやがって。そのイケてない長髪を振り乱しながらお姉言葉を
しゃべるのはやめろ。それに言葉の使い方全然無茶苦茶だぞ。
「フレキシブルにソフィスティケイトされた料理ってなんなんだ。
おまけに最後のビビアンてのは何だ。ン?横につれてるチャウチャウ犬がビビアン?
うげ、こんなのポチやゴマで十分だ。あ、そういえばチャウチャウって食用だっけ。
唐山のテンションの高さはそのまま爆裂状態を維持し、周りはその勢いに飲まれて
ぐうの根もいえない。俺もこいつが何を言っているのか全く理解できないままだ。
だがどうやら食卓に出された鍋をまったく気に召さなかった確かで、そのことを
延々と千鶴さんにぶちまけていた。むかつく。よく千鶴さんはがまんしているものだ。
そして唐山の横には千鶴さんの体を全身なめまくるように見るスケベ面の木之八が。
くそこのやろ、俺の千鶴をそんな汚れた目で見るんじゃねえ。汚れるだろが千鶴さんが。
それにしても千鶴さんはよく耐える。いくらここの責任者とはいえ、何でこんな
理不尽な辱めにあわなきゃならないんだ。
「大丈夫ですから・・・・・・」口はそういっても顔を見ると全然大丈夫そうじゃない。
顔が蒼くなってる。
そしてもう一人、全然大丈夫そうでないのが俺の横で体を震わせていた。
顔が赤いのは千鶴さんとは違うが。
そして、大魔神が目を覚ます。
「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
堪忍袋の緒は、切れるために、あるんだあああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

大魔神、怒る。その名は、柏木梓。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ACT 3 へ続く

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はい、2回目の投稿です。前回から10日目のACT 2 でした。

実は今回お詫びしなければならないことが3つあります。

一つ目。前回のACT 1の感想をいただいたにもかかわらずまるっきりレスしなかったこと。
ARMさん、西山英志さん、久々野 彰さん、前回は本当に有り難うございました。
そして大変申し訳ございません。感想もらいっぱなしでなんの返事も出さなくて。
新参者でど素人のこの僕にコメントしていただいたとき、本当に嬉しかったです。
またよかったら感想やって下さい。

二つ目。大変ペースが遅れたこと。
本来ならどれだけ遅くとも「初音のないしょ!」の発売日までには間に合わせてやろうと
目標を立てていたのですが、なにぶん職持ちの身の上でなかなか書けなく・・・・・
決して夜な夜な毎晩飲み歩いてべろべろによって帰って書けなかったり、
某ファミレスのゲームで髪の青いショートカットの酒好きのお姉さんに萌えて
いた訳では決してありません。信じて下さい。本当です。本当だってば。本当だ。

三つ目。禁じ手を使ったこと。
禁じ手かどうかわかりませんが、今回リーフキャラとは全く関係ない
オリジナルのキャラを使ってしまいました。
久々野さんもご指摘されておられましたが、今回某マンガに登場する偉い人を
登場させるつもりだったのですが(これもたいがい反則ですが)、
土壇場になって急遽あのようなオリジナルキャラを造ってしまい、あのていたらく。
かなり不本意なことなのですが、どうか笑ってお許しいただけますよう。

物語もようやく動き始めましたし、もう少し僕のエゴにつきあっていただけたら幸いです。

ではまたACT 3でお会いいたしましょう!(でもいつになるんだ?)