『ためいき』
あのね。
やっぱり。
あなたに甘えたくて
ここでこうして膝をかかえていた けれど
あのね。
こうして。
ひとり 待っていても
誰も わたしを 見つけてくれなくて
嘘が ひとつ積もるたび
こころは 水に還るよ?
あのね。
やっぱり。
ひとりで泣いていたくなくて
いつもほとんは あなたを待っていた けれど
あのね。
こんなに。
なみだ も ながれなくって
ここでこうして息をひそめていた。
嘘が ひとつ消えるたび
誰かが いなくなってく
あのね。
やっぱり・・・・
あのね。
やっぱり・・・・
やっぱり。
水門の上に、橋みたいな場所がある。
私はそこで上を見ていた。空ではない。上だ。
霧霞む、山に囲まれた、タルコフスキーの映画にでも出てきそうな情景の中で、見えない空を上に探す私がいる。吐く息が白かったとしても、立ちこめる霧に紛れて目には映らない。
資格を決めるのは、自分自身だ。それだけが、もう、はっきりしていた。
頼れるもの、守ってくれるもの、そんなものが本当に全て何もなくなってしまって、ただ、はっきりしていたのは、それだけだった。
私は口を噤んで、更に息を止め、体の向きを変える。
帰ろう。帰っても、私が寄り掛かれるものなど、何もないけれど。
何もなくても、私は電話をしなければならない。誰に支えられるでもく、耕一さんに電話をして、あなたのお父さんが死んだと、伝えなければならない。
辛いじゃなくて、悲しいじゃなくて、諦めの空疎な溜め息だけが私の肺の奥から登り出てくる。
それを嫌だと思ったら、この先、生きていけないのだ。
電話が繋がったら、私の一言目は多分こうだ。
『あの、耕一さん、柏木耕一さんのお宅ですか?』
耕一さんは応える。
『はい』
もしかしたら。留守番電話かもしれない。
けれど、本人でも留守電でも、次の私の言葉はもう決まっている。
『千鶴です。隆山の』
それから、
それから、
それから。
梓からの電話で、今日は遅くなると伝えられたと、初音が私の部屋を訪れる。
「昨日はゴメン」私は椅子に座ったまま、体をドア口の初音に向けて謝罪する。握った両手は膝に揃えて頭を下げる。
初音は照れたように笑い、手を後ろに回した。
「いいよ。私も悪かったと思うし」
「そんな事ないよ。私、なんだかナーバスになっちゃってて」
何故。
大きく首を振る初音の赤いミニスカートの襞が、時計の振り子のように、ふらりふらりと左右に揺れた。
「余計な詮索しちゃったもん。怒って当たり前」
初音は私のすぐ前でやってきて、ぺたんと腰を下ろす。正座で、私を見上げる。
私は溜め息をつく。
初音の目は大きく、今は、少しだけ潤んでいる。私のことを心配しているのが分かる。
その目を見詰めて、私はそして斜めに頷く。頬に触れたシャギーがこそばゆかった。
「ありがとう」私は言った。「いい子ね、初音」
照れて初音は、嬉しそうに肩を窄めた。
何故だろう。
初音には、こんなに簡単に言えたのに。
*********************************************************
なんか以前より更に間が開いてしまいましたが・・・
『真昼の光は嘘をつく その13』です。
HDD飛んじゃってテキストデータ消失しちゃったんで、
自分の同人誌見ながら打ち込んだり直したりしています (笑)http://www3.airnet.ne.jp/nayurin/