ワンダフル入浴 投稿者: 沢村奈唯美

 滴る水滴は上を向いた顎から胸へと、ビリヤードのボールみたいに喉を伝い、天井からの月光の様に黄色い照明に煌めく跡をつけながら彼女の肌を転がっていく。
 息苦しくなるようなバスルームの空気は、日本っていう温暖湿潤気候の中で部分的な亜熱帯。言うなれば、梅雨のジャングル。シャワーから吐き出さているのは摂氏40度の激しいスコール。全世界が待望していた熱い雨が、智子の頂点を避けて、左右の胸の内側へ流れ集い滑り挟まれて、ひと流れの川になる。
「そんなジロジロ見られたら恥ずかしいやん……」
 眼鏡を外しているというのに視線に敏感な智子は、後ろを向いてしまった 。さっき洗いっこした時にボディーソープを塗りたくった鏡はもう湯気で曇ってしまている。バスタブの中からは脚、背中、ヒップ、アラビアの商人みたくに栗色の髪に巻き付けたタオル、それくらいしかみえない。
「なーに今更はずかしがってんだよ」
 悔し紛れに言ったみた。ジョークっぽい口調にするのを、OK、忘れていない。
 シャワーの豪雨は降り止まない。智子を逸れた湯の粒はタイルの上でその身を砕く。
 連続で砕けていく音の合間に、智子の声が聞こえる。
「恥ずかしいモンは恥ずかしいの」
 よじった脚で大きな地殻変動を起こすヒップが、あのプレートテクトニクス理論を立派に証明している。バスドラムのように重く苦しい音のするのが自分で分かっている胸の内は、浸かっている湯の熱の所為じゃなくてボクの内部で起こってるマントル対流の所為。
 シャワーを智子が止めた。止めてから立ち尽くして次の行動に迷っている。そう、こっちが何もしなければ、キミの選ぶべき選択肢は一つしかない。
「智子」
 委員長をやっている程賢く聡明なキミだから、名前を呼べばそれだけで次に何をすればいいのかをピンと悟って、ちょっと寄せた眉の苦笑で振り返って、僕の待つクリーム色のバスタブへと体を向ける。   
「ホラホラ、結局見られるんだからさ」
 前面は背面よりも起伏の激しい、けれどなめらかな大理石。埋もれたアンモナイトや三葉虫を、また、ボクは探す。
 近付くキミに僕が笑えばキミは
「ムードが大事なんよ、こういうのは」って笑いながら口に出して、左足を上げて、水面へ爪先を下ろしていく。バスタブの端へ背中を付けて、智子の入るスペースを開け、智子の親指が着水する様を見つめる。
   神秘の森へ天使の降り立つ。
 入浴剤は薄めのライムレモン。背徳の底なし沼にさざめく黄緑の波紋が、ボクの胸を小さく叩いて心の方まで揺り動かす。
 智子が脚を、張った湯の中へ埋めれば、その脚と同じだけの容積の湯がバスタブの壁から床のタイルへと落ちていく。
「ピタゴラスの原理だなー」
 智子が作ったナイアガラの滝を見つめて呟けば、
「アルキメデスやろ?」智子は馬鹿にしたみたくに笑う。
「そーか?」
「そーや」
「オレ、数学苦手だからなー」
 智子が笑う。「どっちかって云うと物理やと思うけど」
 アルキメデスの滝は流れつづけて、智子が正面に体を埋めていく。黄緑の湯の中へ沈んでいく。下腹部から鳩尾へ乳房の下から胸を隠して鎖骨の下辺りまでが埋もれて行く。
 智子の膝がボクの膝に触れた。水の中、擦れる臑。
   ・・・・乱水流・・・・・
「狭い、藤田くん」
 そういう不平を漏らすからボクは脚を開く。智子の体を挟む感じでバスタブの左右の壁面に脚の側面をつける。その動きで、また少し湯が外に零れた。
「はい、どーぞお姫さま」
「うむ、よろしい」
 部分的亜熱帯ジャングルのお姫様はたいそう満足したようで、ボクはその内に頭の両脇にハイビスカスなんかを挿してみたいとすら考えてしまう。今度海にでも行った時なんかいいかもしれないとか思ってしまって、どんな感じかをハッキリと頭に思い描く為に智子の顔を眺め、それで結局は頭から顔からそして智子を全部眺めようとしてしまう。けれどライムレモンが鎖骨から下の観察を難しくしていて、視界不良でアンモナイトは見つからない。それでも目を凝らす探求心旺盛なボクをキミが笑う。
「そーんなに見たいんか? しょっちゅう見とる癖に」
 OK、ソーグッド、ベリーキュート。いい感触。ボクの口元は自然に綻ぶ。
「ムードが大事なんだよ」
 キミは目を閉じて呆れたみたいに息をつき、ボクの顔ではなくて胸の前の水面を見つめて微笑んで、開いたボクの脚の間、黄緑の水底に、合わせた両膝をついた。
   
  激しい水音。アルキメデスの原理で水位が一挙に下がる。
 
 
 
 
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  これがPS版いいんちょシナリオだ!!
  ……な訳ないですね(笑) 

PBMマスターの仕事が終わったので、久々に書いて見ました。
 僕は関東人なんで、神戸弁が変とか、あったら、ごめんなさい。
 なんか、及川光博の「嘘とロマン」を聴きながら書いたら、
 こんなになってしまいました(笑)
  そっりゃもう ワンダフル入浴〜!!♪  

 さて。随分古い話になりますけれど、(すみません)
>久々野さん
 「メリー×3 クリスマス」のラストは、初め、というか同人誌に載せていたバージョ
ンでは初音で終わっていたのですが、なんか、ありきたりかなぁ、と思って変えてしまい
ました。最近は綺麗に終わらせないタイプの作り方が好みなので……というのもあるとは
思いますが………。
 
 そけでは、またいずれ……

http://www.0462.ne.jp/users/nayurin/index.html