れっつご初音寿司!! 投稿者:沢村奈唯美


「へい、らっしゃい!!」
 内側からガラスを張ったいかにも寿司屋の門前ーーーみたいな引き戸をからから
 開くと、そんな威勢のいい、どう聞いても女の子な声が耳に飛びこんできた。
 聞き覚えのあるその声に、柏木耕一がふと目をあげると
「なんにしやしょう!!」
 続けてカウンター−寿司屋の場合なんていうのかよくわからないが−の奥から
同じ少女の声。
 は、初音ちゃん!!???
 耕一の目に飛び込む、信じがたい光景。
 板前姿の柏木初音が、そこに居た。
 数ヶ月ぶりの再開である。初音は可愛い妹のような存在だったズである。
 しかし、サンダーを取り巻く環境は、いっそう過酷なものへと変化していくのだった・・
 と云うなんだかよくわからないが多分「Aランクサンダー」などと云うマニアックな
ネタだろうと思われる思考が一瞬、耕一の頭の中をよぎった。
「なんにしやしょう!!」
 従姉妹の豹変ぶりに目を丸くして入り口で立ちつくす耕一にとどめの一撃。
 
 ずばぁぁぁぁぁぁぁっっ!!

 初音のチェーンがうなりをあげて耕一の体にからみつく。
「うはぁぁぁっっっ!!」
 思わず苦悶の声をあげる耕一。店内に居た客が一斉に振り向く。
「おうおうおうおおう!!  ちょっとてめー、この『初音寿司』を冷やかしに来た
ってんじゃねーだろーなァ??  あ?」
「は、初音ちゃん、よすんだ・・・。僕たちは争うべきじゃない・・・」
 なんだか説明口調ばりばりでやたら不自然な会話をかわすふたり。
「ふふ、ムダだぜ、耕一。いかなエルクゥと言えど、このチェーンの呪縛から逃れる
事はまかりならん!」
「なっなにいいいっっっっ??」
 ああ、なんだかいつものパターンになってきた、と店の奥で千鶴が退避行動を開始した。
「ふっふっふ。このチェーンは対人造生体用に新潟県の魚沼に特別に注文させて作らせた品。
 いわば特注品なのだ!!」
「特注品!!」
 耕一の額に汗がにじむ。
「さぁ、殖装シテミロッッッッ!!  耕一!!  いや、Aランクエルクゥ!!」
 初音の頭でアンテナがひょこひょこ揺れていた。アンテナ? いや、あれは・・
 触覚かッッッ!??
 耕一のこめかみにも汗がにじむ。
 だとすればっっ!
「貴様、初音ちゃんではないなっ!!」
 なんかもうちょっと明確な根拠が欲しいような気がしないでもなかったが、
 とりあえず云ってみた。
「ノーノーノーノーノーノー」
 首を左右にゆっくりと揺らして、『羊たちの沈黙』のレクター博士のまねなんかしてみたりする初音。
「確かに私は柏木初音ではない。だがしかし!!  同時に確実に柏木初音でもあるのだ!!」
「聞いた風な事を!!」
 と、突然その時、店の玄関をどんがらがっしゃーんと突き破って、少女がひとり、店内に乱入して
きた。
「大丈夫かッッ!! 耕一ッッ!!」
「梓ッッ!」 
 柏木梓。日本政府が作り上げた対宇宙人サイボーグであり、かねてより柏木家に潜入調査を続けて
きたスリーパーである。
「レズビアン・ボンバァァァァッッッッ!!」
 梓の叫びと共にまばゆい白光が辺りを包む。
「ギショォォォォォォォォォっっっ!!」←初音。
「未だ、耕一、変身だっっっ!!!」
「お、おうっ!!」
 耕一はどこからともなくさきっちょに意味もなくハート型のわっかがついてるバトンを取り出した。
 いつの間にか体操着姿に衣装も変わっている。
 下は紺色のぶるまぁだ。
 ああ、ぶるまぁ。この透き通るような心地よい調べ・・・
 きらきら光る胸の「かしわぎ」ネーム。
 耕一は「なんだかとっても可愛いステップ」と「明るい笑顔」でバトンを振り回す。
 
  エルクゥエルエル ドクデンバー
  アダルトタッチで、可愛い可愛い千鶴さんにナレーーーっっ!!

 千鶴さんになってナニをするつもりなのだろう。
 少年マンガによくある展開を考えて、梓と初音は首を振る。
 考えなかった事にした。以前にも似たような事があった気もする。
 デジャブだろーか。
「えへ。私、千鶴ーーーー」
 気がつくと、目の前に千鶴が居た。
 しかもなんかかわいらしい。体操着はそのままだ。ぶるまぁもそのままだ。
 ごとPさんあたりに描いて貰いたいなーー、なんて思わせるような格好だ。
 おまけに、衣類のサイズは何故か小さめだ。変身の影響で縮んだらしい。
「ふ」
 変身千鶴が歪んだ笑みを口元に浮かべた。
「ふははははははははっっ!! やった、やったぞ!!! ついに手に入れた!!」
「なっなにぃぃっっ!?  どうい事だ、耕一っっ」
 異変に気づいた梓が、変身千鶴に噛みついた。
「ふっ、まっていたのだよ、この時を。これで楓ちゃんと一緒にお風呂に入って、あの無いチチを
この手で存分に・・・・ふふ。はははははは」
 高笑いする変身千鶴。
「こ、耕一〜〜ッッッ、きさま、必ず殺してやるッッ」悔し涙を浮かべながら初音。
「貴様ぁぁぁ、あの夏毎晩揉んでた千鶴姉のチチには飽きたらず、楓のチチまでもっっっ!!」
「うっ!!  貴様、なっ何故それをっっっ!!」
 ふっ。梓の笑みに寂しさのエッセンス。
「毎晩毎晩、聞こえてくるのサ、あたしの耳にな・・お前に文字通り倒された、
千鶴姉の哀しい叫び声がなッッッ!!」
「姉貴〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!」初音が泣いた。男泣きだった。いや、初音は女の子だが、
この際、そーゆー細かい事は無視する事にした。
 抱き合う姉妹。
「いいだろう、耕一。存分に揉んで見ろ、あらん限りの力で楓の胸をな・・。
だがしかし!! あたしもこのままでは済ませんっっっ!!」
「ほぉ、どうすると云うのだ、梓よ」
「今日より柏木梓は串焼き屋を経営するっっっ!!! そしてッッ!!
 ばっっっっ!!
 突如、どこにあったんだかよく分からない黒いカーテンを翻すと、そこに現れる
女体の神秘。
「見ろォォォォォッッッッ!! 耕一ッッッ!! 
       これが串焼き『梓』のおすすめ『楓』コース(4千円)だァァァァッッッ!!」
「なにぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!」

    ぴーーーーーーーーーーーーー。
   あ、ここ、18禁頁だから、描写しちゃってもいいんですね。
   でも、楓ちゃんファンに殺されそうだから、やめときます。
     
「はぁはぁ」
 耕一の息が荒い。
「ちっ、ちくしょう!! オボエテローーー!!」
 脱兎のごとく、店から出ていく耕一。
 こうして、『初音寿司』の危機は去った。

 鶴来屋の会長がぶるまぁ姿で街中を走り回っていたという怪情報が巷間に流布したのは、
その数日後の事であった。


☆★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
 
Merry×3 X’mass最終話、、、ではありません(笑)

穂高さんの雅史の話、良かったですーー。