心、優しさ 第二話 二章 投稿者:セリス


この話は、連載の形を取ってはいますが、各話ごとの関連性はありません。
ただ、各章で区切ってありますので、「第二話・一章」を読んでいただけないと、
ストーリーが分からないでしょう。
前章までの話を知りたい方、ぼくあてにメールを下されば、お送りします。
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夜の公園は結構不気味だ。
昼間は何でもないものが、妙に怖く見えたりする。
「・・・浩之さん、なんか、怖いですね・・・」
俺の隣を歩くマルチが、心細そうに言う。
「まあ、少しはな。綾香、先輩はどこにいるんだ?」
「すぐそこよ。だいたい、たいして広い公園でもないでしょ」
「ま、そうだけどな。・・・ん、あの人か?」
公園の街灯の下にたたずむ人影が見えた。
「そうよ。・・・姉さん、お待たせ」
「・・・・・」
お久しぶりです、そう言うと先輩はお辞儀した。

ぺこっ。

「あああ、そんな丁寧にお辞儀してくれなくてもいいって。でも、ほんと、久しぶりだね」
俺は慌てて言った。
「あの、はじめまして。私、HMX−12型、マルチです」
マルチが自己紹介した。
「・・・・・」
「マルチ、先輩は、私は来栖川芹香です、って言ってる」
「よろしくお願いしますね、芹香さん」
「・・・・・」
「こちらこそ、だってさ、マルチ」
「・・・あのさ、姉さん。準備できたんでしょ? なら、実験を始めたら?」
綾香が話を元に戻した。
「ああ、そうそう、そうだよ、先輩。実験始めようよ」
先輩は、わかりました、と言うと・・・

ごそごそ・・・。

懐から、なにやらあやしい棒を取り出した。
「・・・先輩、その棒、何? ・・・え、これは無から有を作り出すために必要なものです、って?
 つまり、実験に使うってこと?」

こくこく。 <先輩が頷いた

「で、俺は何を手伝えばいいの?」
「・・・・・」
「ちょっと、浩之! そこにいたら邪魔よ!」
綾香が俺をにらんだ。
「え? 何が邪魔なんだ?」
「・・・・・」
「え、地面を見て下さい?」
言われて地面を見てみると、ちょうど俺が立っているところに、あやしげな魔法陣が描かれていた。
「・・・あ、ごめん!」
俺は脇に移動した。
先輩は・・・
「・・・・・」

スッ、スッ、スッ・・・。

棒を宙に舞わせ、なにやらあやしい動作をし、そして・・・
「・・・・・」
その棒で魔法陣の中央を叩いた。
すると・・・

ポンッ!

突然、白い煙と共に、魔法陣上に怪しげなモノが現れた。
それは、やたらでっかい缶詰だった。
大きさとしては、ドラム缶の半分くらいか。
「・・・先輩、それ、何?」
表面に「Leaf」と書かれているのがより一層謎だ。
と思ったら、

ポンッ!

出た来た時と同じように、白い煙を残して消えてしまった。
先輩はまた怪しげな動作をすると、魔法陣の中心を叩いた。

ポンッ!

今度は妙な生物が出てきた。
なんとなく、ハムスターに似ているような・・・?
これもまた、すぐに消えてしまった。

ポンッ!

今度は時計が出てきた。

ポンッ!

次はPHS。

・・・先輩はその後も次々と怪しい物を出し続けた。
「わあー、芹香さん、すごいです」
マルチは子供のように目を輝かせている。
「・・・なんか、これなら、俺が手伝うことなんか、ないんじゃないか・・・?」
俺が思わず呟いた時。
「・・・いいのよ。十分、手伝ってくれてるわ」
いつの間にか、俺の隣に綾香がいた。
「手伝ってるって、何を? 俺はただ黙って見てるだけだぜ?」
「それでいいのよ。それだけで、十分なの」
綾香の言葉の意味がよく分からない。
「どういうことだ? 教えてくれないか?」
「・・・いいわよ。そろそろ話してもいいかな、と思ってたとこだしね」
綾香は俺をまっすぐに見た。
「姉さんね。ここ最近、落ち込んでたの。魔法の実験なんて、全然してなかった」
「どうして落ち込んでたんだ?」
「・・・姉さん、ある学校に通ってるんだけど、そこには姉さんを理解してくれる人が
  いなかったのよ。まあ当然なのかもしれないわね、お嬢様学校にオカルト好きなんて、
  いないでしょうから」
「・・・・・」
「姉さん、一人だったのよ。あなたに出会い、理解してくれる人がいる、という
  素晴らしさを知ってしまったから、余計につらかったでしょうね」
「・・・・・」
「だから。あなたのように、姉さんのする事を理解し、見守ってくれる・・・。それだけで、
  十分なの」
「・・・俺はそんな大した事はしてないぜ」
それだけ言うのが精一杯だった。
「・・・あ、あの、浩之さん・・・。芹香さん、終わったそうです・・・」
マルチが控えめに声をかけてきた。
先輩の実験が終わったらしい。
「・・・・・」
先輩は、ご協力ありがとうございました、と頭を下げた。
「・・・先輩・・・」
そのまま、実験の後かたづけをする先輩。
「今日は来てくれてありがとう、浩之」
「・・・綾香・・・」
「実は、今日のこと、私が考えたのよ。姉さん、寂しそうだったから、浩之に会わせて
  あげようと思ってね」
「俺に・・・?」
「ええ。あなたは唯一姉さんを理解してくれた人だもの」
「・・・」
「姉さん、あなたのこと、結構気に入ってるのよ。よかったわね、色男!」
いたずらっぽく笑う綾香。
「おいおい、冗談はやめてくれよ」
「あら、冗談なんかじゃないわよ。ほんとのことよ。そして・・・」
綾香は俯き、黙り込んだ。
「・・・綾香、どうした?」
「・・・そして、わたしも・・・」
振り向き、俺を見た。
何かを言おうとした、その時・・・。

ついっ。

先輩が俺の服のすそを引いた。
「え、先輩、どうしたの? ・・・後かたづけが終わりました、本日はどうもありがとう
  ございました、って?」
再び、深く頭を下げる先輩。
「あああ、そんなに丁寧にしてくれなくてもいいって。うん、無事に終わったんだね。
  良かった良かった」
「・・・・・」
先輩が綾香を見た。
「・・・わかったわ、姉さん。じゃね、浩之。私達はこれで帰るわ」
「あれ、そういえば、お前、何か言いかけてなかったか?」
「・・・なんでもないわ。気にしないで」
そう言う綾香の表情は、どこか寂しげだった。
「じゃあね、マルチ。しっかり浩之の面倒をみるのよ」
「はいっ、お任せ下さい!」
「・・・あのな」
「ふふっ。・・・少しだけ、うらやましいかな・・・」
「え? 何か言ったか?」
「ううん、何も。それじゃあね」
綾香は明るい笑顔で別れを告げた。
その時。

キキキーーーーーーッ!

激しくタイヤをきしませながら、お馴染みのリムジンが姿を見せた。

ガチャッ!

あのセバスチャンが、慌てふためきながら出てきた。
「お嬢様方! このような時間まで・・・」
「あら、セバス、ちょうどいいタイミングじゃない」
何か言いかけたセバスチャンを綾香が遮った。
「私達、これから帰ろうと思ってたの。さ、帰りましょ」
「いえ、私が言いたいのは・・・」
「・・・・・」
「ほら、姉さんも帰ろうって言ってるわよ」
「・・・かしこまりました。大旦那様も、お待ちでございます。どうぞお車の方へ」
セバスチャンがリムジンのドアを引き、かしこまった。
「じゃーね、浩之、マルチ」
「・・・・・」
先輩と綾香がリムジンに乗ろうとした。
「先輩!」
それを見たとき、俺は、思わず呼び止めてしまっていた。
「・・・・・」
先輩は、ゆっくりと振り向いた。
「・・・」
何故呼び止めてしまったのか、自分でも分からない。
ただ、そうしなければいけないような気がしたのだ。
「・・・・・」
先輩は、じっと俺を見ている。
「あの、浩之さん、どうされたんですか?」
不思議そうなマルチ。
「あ、いや、その・・・」
俺は少し困ったが、今の気持ちを素直に話すことにした。
「・・・先輩。また、実験とかやることがあったらさ、声かけてよ。俺、大したことは
  できないけど、側にいることくらいはできるからさ」
「・・・・・」
先輩は、やはり無口だったが、潤んだ瞳で俺を見ていた。
「あら、やるじゃない、浩之」
綾香も優しく微笑んだ。
「お嬢様方、お帰りになりませんと・・・」
「そうね。またね、浩之」
「・・・・・」
セバスチャンに急かされ、二人はリムジンに乗った。
「藤田様。お嬢様の事、よろしくお願いいたします」
そして、俺に深々とお辞儀した。
「お、おいおい、俺は・・・」
「では、私めは失礼させていただきます。お元気で」

ガチャッ。
ドドドドド・・・。

セバスチャンは運転席に戻ると、素早くリムジンをスタートさせた。
後部座席からは、先輩がいつまでも俺を見ていた。


「帰っちまったな、二人とも」
「はい」
公園には、俺とマルチだけが残った。
「俺達も、そろそろ帰るか。もう夜も遅いしな」
「はい、帰りましょう」
俺達は公園を出た。

帰り道。
「浩之さん。芹香さんが最後に言われた言葉、聞こえましたか?」
マルチが、そんなことをきいてきた。
「最後に言った言葉?」
「はい。芹香さんが車に乗られる直前に言われた言葉です」
「・・・うーん、聞こえなかったな。何て言ってたんだ?」
「芹香さん、『ありがとうございます』って、言われてましたよ」
「・・・ありがとう、か・・・」
俺は夜空を見上げた。
満点の星空。
「芹香さんって、綺麗な方ですね・・・」
マルチが、少し落ち込んだ声で言った。
「・・・」
俺はマルチに視線を戻した。
「・・・」
マルチは、下を向いて歩いている。
俺は苦笑して、
「あーあ、腹減ったな。マルチ、帰ったら何か作ってくれよ」
そう言いながら、マルチの頭を撫でた。
「・・・は、はいっ!」
マルチは嬉しそうに笑った。


                            第二話 了


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綾香 :はあ、長かったわね。
マルチ:え、何がですか?
綾香 :前章との間隔よ。二週間も経ってるのよ。前章の話、覚えててくれた人、いるのかしら?
マルチ:は、はあ。
綾香 :まあ、なんとか第二話も終わったからいいけどね。
マルチ:そ、そうですね・・・。
綾香 :それよりもね。最近、セリス、「痕」再プレイしたんだけど・・・。
マルチ:はい。
綾香 :それで、千鶴さんが気の毒になってきたんだって。
マルチ:気の毒に、ですか?
綾香 :そう。千鶴さん、SS登場率は高いけど、いっつも偽善者だの、料理が下手だのって
   いう、オチをつける為のキャラになってるじゃない?
マルチ:そ、そうかもしれませんね。
綾香 :千鶴さん、偽善者なんかじゃないわよ。みんなのため、仕方なくなの。本当は一番つ
   らいくせに、顔で笑って心で泣いてるの。
マルチ:・・・うう、可哀想ですう・・・。
綾香 :なのに、偽善者っていうイメージばっかり強くなってる・・・。
マルチ:・・・(しくしくしく)
綾香 :このセリフ、セリスには言う資格ないのよね。だから、あたし達に代弁させてるの。
マルチ:・・・(ぽろぽろぽろ)
綾香 :まあ、みんな分かってるんだろうし、わざわざ言う程の事でもないんだけどさ。
マルチ:・・・(ぐすぐすぐす)
綾香 :たまには、千鶴さんがヒロインで、幸せになれるような、そんなSSがあってもいい
   んじゃないかって、そう思ったんだって。
マルチ:・・・うう、だ、だったら、セリスさんが書けばいいんじゃないですか・・・?
綾香 :自信、ないんだってさ。
マルチ:・・・(しくしく)(ぽろぽろ)
綾香 :あ、ちょっと湿っぽくなっちゃったわね。じゃ、今回はこれくらいで。またね。
マルチ:・・・ああ、綾香さん、それは私のセリフですよう・・・。ぐすぐす・・・。


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