心、優しさ 第二話 一章 投稿者:セリス


ある日の夜。
俺は居間でテレビを見ていた。
いつも見ている連続ドラマだ。
タイトルは、「東鳩高校の奇跡」。
とある高校を舞台にした恋愛ドラマだ。
ドラマが中盤にさしかかった頃・・・。

ぷるるるる・・・。
ぷるるるる・・・。

電話が鳴った。
「はーい」
マルチは返事をしたが、キッチンで夕食の後かたづけをしている最中だ。
「ああ、いいよいいよ、マルチ。俺が出る」
俺はマルチにそう言うと電話に向かった。
「そうですか? すいません、浩之さん」
「気にすんなって」

カチャッ。

「はい、藤田です」
『・・・』
「・・・え、来栖川って・・・」
『・・・』
「やっぱり、来栖川芹香先輩!」
『・・・』
「お懐かしゅうございます、って? そうだね、久しぶりだね」
『・・・』
「え、魔法の実験をしたいから、手伝って欲しい? それはいいけど・・・」
『・・・』
「今日これから?! でも、もう夜だよ。先輩は大丈夫なの?」
『・・・』
「大丈夫? ならいいんだけど。で、どこに行けばいいの?」
『・・・』
「近くの公園? ああ、あそこ。わかった、すぐに行くよ」
待ってます、という先輩の言葉で電話は切れた。
来栖川芹香先輩か。
懐かしいな。
高校生の頃は親しかったけど、先輩が高校を卒業してからは、全然会ってなかった。
まあ、それも当然だろう。
俺はただの貧乏学生、向こうは日本経済界のプリンセス。
もともと、住む世界が違うんだ。
親しかったことの方が変なんだ。
・・・おっと、物思いに耽ってる場合じゃなかった。
公園に行かないと。
・・・・・。
マルチは、連れていってもいいのかな?
ま、いいか。
大した問題じゃないだろう。
「おーい、マルチー」
俺はマルチを呼んだ。
「はーい、お呼びですかー?」

ぱたぱたぱた・・・。

マルチがやってきた。
「マルチ、後かたづけは終わったのか?」
「はい、ちょうど今終わったところです」
「そうか、いいタイミングだ。これからちょっと出かけないか?」
「はい、お供いたします」
マルチはあっさり答えた。
「・・・おい。こんな時間からどこへ、とか、何の用事があるのか、とか思わないのか?」
俺はちょっと面食らったので、きいてみた。
「はい。浩之さんがそうおっしゃるんです、お出かけする用事があるんでしょう。私が
お供できるのなら、させていただきます」
マルチはにっこり微笑んだ。
「・・・マルチ、お前はほんとにいい子だな・・・」
俺はマルチを抱きしめた。
「・・・あ・・・」
「マルチ・・・」
「・・・ご主人様・・・」
「・・・」
「・・・」


「来栖川芹香先輩、ですか?」
「ああ。高校の頃の先輩だよ。マルチも一度会ったことあるだろ?」
公園へ向かいつつ、来栖川先輩のことについてマルチに話すことにした。
「え・・・。うーんと・・・」
「ま、覚えてなくてもしょうがないな。ほんの少しだけだったしな」
「・・・あの、いつお会いしたんでしょうか?」
「ほら、俺がジュースを買おうとしてて・・・」
「・・・ああ、思い出しました! 黒髪の方ですよね?」
「そうそう。あの人だよ」
「その方に、お会いするんですね?」
「ああ。魔法の実験を手伝って欲しいってさ」
「魔法の実験ですか? すごいですねー」
「なんたって、そこら辺のインチキなんかとはひと味もふた味も違うからな。全部マジだからな」
「失われた秘術を復興させようとされてるんですね」
「・・・なんか、どっかできいたようなセリフだな」
マルチと一緒だと、ほんとに時間の経つのが早い。
もう公園に着いた。
「さて。先輩はどこにいるのかな?」
俺があたりを見回した時・・・
「浩之ー!」
誰かが俺を呼んだ。
「・・・?」

たったった・・・。

「・・・やっほー、浩之。お久しぶりね」
「お、お前、綾香じゃねーか?!」
俺達の前に現れたのは、先輩の妹、綾香だった。
「あの、浩之さん、こちらが来栖川さんですか?」
「いや、違うよ、マルチ。こいつは・・・」
「あら、失礼ね。私の名前も来栖川よ。ま、あなた達は姉さんに会いに来たんでしょうけど」
「ああ、さっき電話があってな。しかし、お前もいるとは知らなかったぜ」
「まあね。姉さん、あれで結構抜けてるとこがあるからね」
綾香は肩をすくめた。
「それより、先輩はどこにいんだ? 知ってんだろ?」
「もちろん。あなた達を迎えに来たのよ」
「わざわざ、ありがとうございますー」
「で、先輩は?」
「ただいま準備中。もう少々お待ち下さい」
「・・・あのな」
「だってしょうがないじゃない。姉さんに、そう伝えてくれって言われたんだもの。
ま、そんなに時間もかかんないって言ってたし、少しお話でもしてましょ」
にっこり笑ってごまかす綾香。
「ま、いいけどよ・・・」
「・・・そういえば、あなたの連れの女の子、うちのHM−12よね」
綾香はマルチを見た。
「はじめまして! 私、HMX−12型、マルチです!」
マルチはぺこんとおじぎした。
「おいおい、大事な事が抜けてるぞ」
「あっ、そうでした! 今は、こちらの方、藤田浩之さんにお仕えしてます!」
「・・・? なんか、ちょっと変ね。HM−12はこんな話し方はしないはずだけど・・・?」
「まあ、色々事情があってね。こいつは特別製なんだ」
「はい。本来は試作機でしたが、たくさんの方の優しさのおかげで、今の私があるんです。私、
皆さんにはすごく感謝してます」
「ふーん・・・。ま、いいわ。この子も幸せそうだしね」
綾香が優しくマルチを見た。
その時。
「ゴロニャーーン・・・」
どこからか黒猫がやってきた。
なんか、どっかで見たような・・・?
「あ、姉さんの準備ができたみたい。じゃ、行きましょ」
猫を見た綾香が言った。
「この猫、先輩が飼ってる猫なのか?」
「ええ、そうよ。前に学校で拾ったんだって。浩之も一緒にいたって言ってたけど?」
「・・・・・」
俺はしばらく記憶を探って・・・
「・・・ああ、思い出した! そういえば、先輩がクソ可愛くもねえ猫を拾ったことが
あったっけ。こいつがあのときの猫か」
「そういうこと。姉さんにすごくなついてるのよ、この子」
「・・・なついてる、って言うのかな・・・?」
「・・・あの、芹香さんが準備できたのなら、行った方がいいんじゃないですか?」
マルチが控えめに提案した。
「ああ、そうよね、マルチ。行きましょ、浩之」
「そうだな。魔法の実験なんだろ? そういえば、何で俺なんだろうな」
「・・・何が?」
「いや、しばらく会ってなかったしな。俺を覚えててくれて嬉しいな、ってことさ」
俺は冗談のつもりで言った。
でも、綾香は・・・。
「・・・」
俯き、黙り込んでしまった。
「・・・綾香? どうしたんだ?」
「あの、綾香さん、どうかなさいましたか?」
綾香ははっとなり、
「・・・え、ああ、どうもしないわよ。さ、行きましょう。姉さんが待ってるわ」
そう言って、笑顔を見せた。
「・・・」
「・・・」
俺達は釈然としなかったが、とりあえずは綾香に従い、公園に入っていった。


                              第二話 一章 了


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>dyeさん
対談あとがきの使用、快諾していただき、ありがとうございます。


マルチ:こんにちは。マルチです。
綾香 :どうもー! 来栖川綾香です。
マルチ:さて、今回のあとがきの趣旨ですが・・・。
綾香 :また、お詫びなのよねー。
マルチ:・・・そうなんです。まず、今回のタイトルを見て下さい。
綾香 :『第二話』なのよね。前回も同じタイトルじゃなかったかしら? 私は出てないけど。
マルチ:はい。以下、セリスさんからの伝言です。
   『このシリーズは一本の長編ではなく、複数のショートストーリーで書いていこうと思い
   ます。なので、「一回=一話」でやるより、「一本のストーリーをまとめて一話」にした
   ほうが、わかりやすいと思うのです。というわけで、前回のタイトルを「第一話・二章」
   に変更します。すいません』・・・以上です。
綾香 :今ごろ言ってもねえ。後の祭りよね。
マルチ:そんな、はっきり言わなくても・・・。
綾香 :それに、その方式、まるっきり『シティー○ンター』じゃないの。
マルチ:あああ、セリスさんがそれだけは言わないでくれと・・・。
綾香 :だいたい、なんであたしがここにいるの? 前回は浩之だったじゃない?
マルチ:はい、セリスさんいわく、『あとがきに誰を出すかは気分で決める』そうですから。
綾香 :ふーん・・・。じゃ、あんたは毎回出るわけね。
マルチ:えっ、どうしてですか?
綾香 :あんたねえ、前回浩之が言ってたでしょ? セリスが小説を書くのは、マルチを書きた
   いからなんだって。なら、あとがきには必ず出すわよ。
マルチ:そ、そうでしょうか・・・。
綾香 :ま、いいわ。で、もう用事は終わり?
マルチ:はい、もうありません。
綾香 :じゃ、あたしは帰るわ。葵に稽古つけてあげる約束してるから。
マルチ:では、私も帰ります。晩御飯の支度がありますから。皆さん、さようなら。