堕説・痕 分岐1 第十話 投稿者:セリス


ウィーン、ウィーン、ウィーン・・・。

「非常事態。非常事態。実行員二名が被験者甲と共に反逆。三名は
BブロックからAブロックへ進行中。非常事態。非常事態。実行員二名・・・」

「こっちです、耕一さん!」
「ああ!」
緊急非常警戒態勢の中、俺達三人は中央研究室を目指す。
「まだ遠いのか、研究室は?!」
「あと少しです・・・はっ!」
横道から出てきた警備兵に祐介が電波を浴びせる。
「耕一さん、前!」
「来たな! ・・・たあっ!」
電波のきかない敵は、俺が殴り飛ばして気絶させる。
「まったく、次から次へとわいてくる! きりがないぜ!」
「あと少しです!」
「耕一さん、見て下さい! 後ろ!」
拓也の声に後ろを振り返ると・・・
「くそっ、また来やがったか!」
「かなりの人数です! みんな電波がききません!」
「・・・二人とも下がってろ。・・・だあああっ!」
俺は天井を薙ぎ払った。

ドドドドドッ!
ガラガラガラ・・・。

天井が崩れ、通路が瓦礫で塞がれた。
「お見事! さすがです!」
「よし、先を急ぐぞ!」
「はい!」
俺達は再び走り出した。


その頃。
「あれ・・・? どうしたんでしょう? なにか、いつもと違います・・・」
研究所内に入ったマルチは、いつもと違う、慌ただしい雰囲気を感じ取った。
「アナウンスが流れてますね。・・・えっ、非常事態?! 大変です、すぐに
スタッフの方に事情を教えていただかないと・・・」
マルチは慌てて走り出した。


「あの扉です! あそこが中央研究室です!」
「扉には電子ロックがあります! 耕一さんの力で開けて下さい!」
「あれか?! ・・・よし!」
俺は走りながら右腕を振りかぶった。
そして、

ブォンッ!

袈裟切りに扉を払った。

ピシ・・・。
ガタガタガタッ・・・。

狙いは違わず、扉は切り裂かれ、崩れ落ちた。
「よし、入るぞ!」
「はい!」
俺達はそのまま飛び込んだ。
「・・・待っていたよ、諸君」
室内には、あの白衣の男がいた。
こんな状況なのに、不気味なくらい冷静だ。
「貴様が何を企んでいるのか知らないが、エルクゥの力を悪用させるわけにはいかない。
おとなしくしろ!」


「僕達の持つ電波の力を使えば、人の記憶を操作することができるんです」
「記憶を操作?! ・・・あまりほめられたことじゃないな」
「僕もそう思います。ですから、この力、もう二度と使うつもりはありませんでした。でも・・・」
「使わざるを得ない、というわけか・・・」
「・・・この力を使えば、研究所の人を殺さなくても済みます」
「僕達に関することを忘れてもらえばいいんですから」
「・・・そうだな」

「耕一さんも会ったでしょう、あの白衣の男。彼こそ、この研究所の最高責任者なんです。
ですから、彼の記憶を消し、ここのコンピュータのデータを破壊すれば、この研究所は
破壊されたも同然です」
「つまり、頭を狙えばいいってことだな?」
「はい、そうです」


「おとなしく・・・? それは君達のことではないのかね?」
「何? どういう意味だ?」
「・・・・・」
男は俺を無視すると、祐介達の方を見た。
「なかなかやるじゃないか。さすがの私も一度は騙されたよ」
「・・・。やはり・・・」
「ふ、気付いていないとでも思っていたかな? ご期待に添えなくて申し訳ないが、
とっくに分かっていたのだよ。君達には芝居の才能はないな。もっとも、その分
電波の力があるのかもしれないがね」
男は余裕たっぷりといった口調だ。
「・・・やけに余裕があるじゃないか。この状況、どう見てもお前が不利なんだぜ」
「私が不利? そんな言葉はこれを見てから言ってもらいたいね」
そう言うと、男はパチッと指を鳴らした。
すると・・・

ゴーッ!
ガシャーン!

俺達と男との間でガラスのシャッターが閉まった。
「貴様、逃げるつもりか?!」
俺はガラスを破ろうとした。
だが、

ガシッ!

鈍い音がしただけで、ガラスにはひび一つ入らなかった。
「ば、馬鹿な?! エルクゥの力でも破れないだと?!」
「無駄だよ。このガラスは硬化ベークライトで特殊コーティングされた超強化ガラスだ。
戦車砲でも穴は開けられんよ」
ガラス越しに男の声が聞こえた。
「貴様、何のつもりだ?!」
「君達はほんとにせっかちだな。落ち着きという言葉を知らないのかね?」
「・・・・・」
「まあいい。私としても、早く実験をしてみたいからね」
「・・・実験?」
男は再び指を鳴らした。

ウィーン・・・。
コツ、コツ・・・。

壁の一部が開き、中から女の子が出てきた。
いや、ただの女の子ではなかった。
その子は・・・
「ロボット・・・?」
祐介が呟いた。
そう、その子からは、感情というものが感じられなかった。
ただひたすら、無表情なのだ。
「そう。これこそ、我々が総力を挙げて開発した最新型のプロトタイプだ。
君達には、こいつの性能テストにつきあってもらおうと思ったのだよ」
男の得意げな声が聞こえる。
「さあ、起動しろ! セリオ2!」
男の声に従い、ロボットの目に光が灯った。


「え、えーと、ここは、どこなのでしょう・・・?」
マルチは、研究所内で道に迷っていた。
「あうううう、どうして私ってこうなんでしょう。セリオさんなら、絶対道に迷ったり
しないのに・・・」
あたりをキョロキョロ見回す。
「あっ! ドアが崩れてます! あのままにしておいては危険です! すぐにお掃除
しないと!」
マルチは、耕一達のいる「CYBERNETICS CONTROL」の扉へと向かった。

ドゥッ!

「ぐはっ!」
セリオ2のパンチをまともに食らった俺は、壁に叩きつけられた。
なんとか体を立たせ、セリオ2の方を見る。
祐介、拓也はすでに気絶させられていた。
「おいおい、もう終わりか?」
男の声が聞こえる。
「長瀬、月島はともかく、君まであっさりやられるとは思わなかったよ。セリオ2はまだ
全性能の三十パーセントも使っていないんだ。これでは性能テストにならんよ」
「・・・・・!」
俺は何も言わず、セリオ2に向かって突進する。
そのまま勢いを乗せたパンチを放つ。
常人には避けるどころか見ることすらできないスピードだ。

スッ・・・。

セリオ2はいとも容易く避ける。
そして、俺の背後から強烈な一撃を食らわせた。

ドグオッ!

俺はそのままガラスに激突する。

ドガッ!

「・・・くっ!」
なんとか立ち上がり、セリオ2と対峙する。
「・・・・・」
セリオ2も俺の前に立つ。
・・・強い。
俺の力では、まるで歯がたたない。
さらに、俺はもう力を百二十パーセントまで出しているが、セリオ2はまだ全性能の
三十パーセントも使っていない。
俺では、絶対に勝てない。
それくらい、セリオ2は強い。
あまりに強すぎる。
「おいおい、どうしたんだ? 勝てないなりに、せめて抵抗ぐらいはしてくれよ。そうでないと、
見ているこっちもつまらないんだよ」
男は氷のような冷笑を浮かべて俺を見ている。
「・・・・・」
俺が絶望の闇に沈みかけた時だった。
「セリオさん?!」
どこかで聞いたような声が響いた。


                                   第十話 了


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セリオファンの皆様、すいません。
カミソリレターは勘弁して下さい(^^;

>鈴木静さん
「魔法〜」面白いです。
芹香シナリオの後日談なんですね。
鈴木さんの芹香さんへの愛が、ひしひしと伝わってきました。

                                  セリス

P.S. 下のページに、ぼくの小説を全話置いてもらってます。
      「全部まとめて読んでみたい!」とか思って下さった
      おやさしい方、ぜひ来てみて下さい。

http://www2.big.or.jp/~tanseiho/kotei/leaf.html