卒業式 投稿者:セリス
・・・ンカーンコーン・・・。

鐘が鳴っている・・・。
何の鐘だ・・・?
・・・。
・・・ああ、思い出した。
今日は、卒業式だった。
俺がこの高校に入学してから、二回目の卒業式。
来栖川芹香先輩の、卒業式・・・。


卒業式なんて、つまらないものだ。
名前も知らない人が卒業していく、それだけだ。
わざわざ、俺達に見送らせて、何の意味があるんだ?
何の想いも込められない見送りなど、無意味じゃないか。
・・・去年の卒業式の時は、そう思っていた。
でも・・・。
今年は・・・。


『・・・来栖川芹香、前へ』

事務的に名前を読み上げる教師の声。

静かに立ち上がる先輩。

ゆっくりと、穏やかにステージへ向かう。

ステージ前で立ち止まり、一礼する。

一段ずつ、階段を歩く。

ステージ上で待つ校長の前へ。

再び一礼する。

卒業証書を渡される。

最後の一礼。

緩やかに階段を下りる。

元の席に戻り、着席。


俺は先輩の一挙手一投足を見ていた。
・・・ただ、見ていた。
それだけだった。


卒業式は、滞りなく進められ、無事終了した。
卒業生達は、俺達在校生に見送られ、卒業式会場だった講堂を出ていった。
泣いている人も多かった。
・・・彼等は、もう二度と「ここ」に来ることはないんだ・・・。
俺も、幾分感傷的になってきた。
・・・あいつの影響だな、これは。
寂しがり屋で泣き虫だった、あいつの・・・。
ほんの少しだけ、視界が滲んだ。
手で拭おうとしたとき、ちょうど、芹香先輩が通っていった。
ぼやけていた目では、芹香先輩の顔はよく見えなかった。


卒業式が終わった・・・。
俺達二年生は、会場の後かたづけをしなければならない。
それぞれが教師の指示のもと、片づけを開始する。
俺は、卒業生が座っていた椅子の片づけをした。
芹香先輩の椅子はどれなのか・・・分からなかった。
あれほど見ていたはずなのに・・・。


三十分ほどで、講堂から卒業式が消えた。
わずか、三十分だった。


教室で、教師から解散の指示がでた。
卒業式は終わりだ。
明日からは、またいつも通りの日常が始まる。
少し人数が減っただけの、いつも通りの日常・・・。


俺は、中庭前の廊下を通って帰ることにした。
特に意味はない・・・自分ではそう思っていた。
だが、・・・何かを期待していたのかもしれない。
誰かが、いつものように、俺を待っていてくれるのではないか・・・。
(・・・馬鹿だな。いまさら、何を言おうっていうんだ)
呟き、中庭には目を向けずに通り過ぎようとした。
・・・。
できなかった。
中庭から、俺を呼ぶ「声」が、聞こえたから。
俺は中庭へのガラス戸を開いた。
・・・やはり、芹香先輩はいた。
いつもの場所から、俺を見ていた。


先輩・・・芹香は、何も言わず、ただ俺を見ていた。
俺も、何も言わず、芹香を見ていた。
俺達の距離は、1メートルもない。
手を伸ばせば、すぐにでも触れられる距離だ。
だが、俺はそれ以上近づくことができなかった。
芹香も、俺に近づこうとはしなかった。
俺達の間には、目に見えない、途方もなく大きく強固な壁があった。
それを壊すことは・・・できない。
できないのだ。
俺も芹香も、それが分かっている。
だから、・・・こうして見つめ合う事しかできない。
芹香の目が潤む。
形のいい唇が、何かを紡ぐ。
壁に遮られ、俺の耳には届かなかったが、目が聞いた。
俺も、口を動かした。
壁は無限の隔たりを作り出していたが、芹香には聞こえた。
それで、いい。
・・・。
俺達はそのまましばらく、見つめ合っていた。
いつもなら邪魔に入る忠実な執事も、今日ばかりはこなかった。
だからこそ、俺はこの言葉を言うことができた。
たとえそれがどんな意味を持っているとしても。
言わなければいけないことだから。

「卒業おめでとう、先輩」


その声は、風にのり、近くで待機していた白髪の執事の耳にも届いた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

時期的に、「ちょっと早いかな?」とも思いましたが、卒業SSです。
ぼくとしては初めての、芹香がヒロインのSSです。
一応、ここで終わりです。
この下は、付け足しです。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「・・さん、浩之さん・・・」

ゆさゆさ・・・。

誰かが俺を呼んでいる。
「・・・ふあぁ、誰だ・・・?」
目を開けると、そこには、俺の愛しい女の子がいた。
「浩之さん、晩御飯の支度、できました」
「・・・おう、ありがとよ、マルチ」
俺はぼんやりと辺りを見回した。
いつもの、俺の家の居間だ。
「・・・なんか、変な夢みたなぁ・・・」
「変な夢、ですか?」

ピーッ。

やかんの吹きこぼれを教える甲高い音。
「あっ・・・! 浩之さん、ちょっとすみません!」

ぱたぱたぱた・・・。

キッチンへと駆け戻るマルチ。
「ふあぁ・・・。何であんな夢見たんだ・・・?」
その時。

ぷるるるる・・・。
ぷるるるる・・・。

電話のベルが鳴った。
「ああ、いいよいいよマルチ。俺が出る」

ガチャッ。

「はい、藤田です・・・えっ、先輩? これから魔法の実験をしたいから手伝って欲しい?」


                    to be continued 「心、優しさ 第二話」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

レスです。
> 久々野 彰さん
デンパマンで好きだったキャラ・・・やっぱ、マルチと言いたいとこですが・・・。
瑠璃子かな。最終話で「なんだ、いい子じゃないか」と思いましたし。
イメージ的には綾波レイって感じでした。
終わりの方はどうなのかって? ふふん、学園エヴァのレイですよん。

> dyeさん
ホワイトデーSSですか・・・。
うーん、どうでしょうね(^^;
焦げたチョコって美味しいんですか?

> まさたさん 『シンデレラ』
耕一は、千鶴さんの言うようなことを本当に考えて・・・いたわけないですよね、やっぱり。
マルチが眠っていた頃の夢、ですか?
考えたことないです(^^;
書いてみようかなぁ・・・。

> 風見ひなたさん 『鬼畜セリオ物語』
マルチとセリオの友情がいいですね。
葵・・・(ぎくっ)
なんとか頑張ってみます。

> 西山英志さん 『雨霽れて、月は朦朧の夜に』
さすがです。
柳川を、ただの悪人で終わらせないあたり、職人芸って感じです。
タイトルもいいですね。

> UMAさん 『TVで観戦 オリンピック』
おおおおお、マルチとあかりだぁぁぁ!
素晴らしい!
マルチとあかりをこんなにも自然に描けるなんて!
また、このシチュエーションで書いて下さい!

> ゆきさん 『電車に揺られて』
パラサイト・イヴ、全然知らないんですが、ちゃんと読めました。
耕一が死ぬほど恥ずかしい男になってますね。
お花畑・・・臨死体験?(笑)

> Hi-waitさん 『−戦−』
ほのぼのしてていいですねー。
弘法大師は大した知恵がなかった・・・素晴らしい解釈です。
Lメモへの参加法は、Runeさんにお聞きするといいです。