心、優しさ 外伝5 〜マルチの涙〜 投稿者:セリス
注意!
今回の話には、「To Heart マルチシナリオ」のネタばらしがあります。
それをご承知の上、お読み下さい。
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ある静かな夜。

「浩之さん、お休みなさい」
「ああ、お休み、マルチ」
俺とマルチは同じベッドの中で、一日最後の挨拶をした。
そう、俺とマルチは、一つのダブルベッドで眠る。
変な意味じゃない。
俺達にとって、別々に眠ることの方が変なんだ。
そうして、俺はいつものように、心地よい眠りへと誘われていく。
マルチの温かさを感じながら・・・。


だが、この夜は、いつもとは違った。
一度眠りについたら朝までぐっすり眠れるはずの俺だが、この夜に限っては
そうではなかった。
夜中、ふと意識が戻ったのだ。
時計を見るのさえ億劫だが、窓の外がまだまだ暗いことから、夜明けまでだいぶ
あるらしいことが分かる。
そのまま目を閉じてしばらく待ってみたが、やはり眠れない。
珍しいこともあるものだ。
かと言って、起き出す気もない。
俺がぼんやりしていると・・・。
「・・・ひっく・・・ぐすん・・・」
マルチの声が聞こえた。
その声に促されるように、マルチを見た。
・・・その時。
光る物がマルチの目から流れ、ベッドに落ちた。
・・・それは、マルチの涙だった。
「・・・マルチ?」

・・・ぽたり。

マルチは、また涙を流した。
眠っているはずのマルチ。
・・・なぜか、悲しそうな顔をしている。
・・・眠ったまま、涙を流し続ける。
「マルチ? ・・・どうしたんだ?」
俺は小さな声で問いかけてみた。
マルチがすぐ起きるようなら話を聞き、眠りが深いようなら、わざわざ起こす必要も
ないと思ったのだ。
「・・・」
マルチは、ゆっくりと目を開いた。
その瞳には、・・・いつもマルチの心を表す瞳には、たくさんの涙がたまっていた。
「・・・あ、ひ、浩之さん・・・」
「マルチ? ・・・怖い夢でも、見たのか?」
俺は優しく言った。
「・・・ひ、浩之さぁぁん!」
マルチはいきなり抱きついてきた。
「お、おいおい、マルチ、どうしたんだ?」
「・・・ひ、浩之さん・・・・うっく・・・」
マルチはまだ泣いている。
「マルチ・・・」
俺もそれ以上何も言わず、マルチを抱きしめた。
「ひ、浩之さん・・・浩之さんですよね、ちゃんとここに居て下さいますよね・・・」
「ああ、マルチ・・・。俺はここにいる・・・。どこにも行きはしない・・・」
マルチの頭を優しく撫でる。
「浩之さん・・・。浩之さぁぁぁん!!」
マルチはそのまま、しばらく泣き続けていた。


「・・・私・・・夢を見たんです・・・」
「夢? どんな夢なんだ?」
マルチも、いくらか落ち着いたようだ。
マルチの頭を優しく撫でる。
「とっても・・・悲しい夢です・・・」
「泣きたくなるくらいにか?」
「はい・・・。浩之さんと、お別れする夢でしたから・・・」
そこでまた、涙を一滴流す。
「俺と・・・?」
「私が、浩之さんとお会いして・・・そして、お別れする夢です・・・」
「・・・高校の頃の話だな」
「はい・・・。でも、違うんです。私、笑顔でお別れできたのに・・・。夢で見たときは、
あんまり悲しくて、笑顔でお別れできなかったんです。私、たくさん泣いちゃいました・・・。
スタッフの方達の所へ行きたくないって、我が儘言って、浩之さんを困らせてしまいました・・・」
「マルチ・・・」
「浩之さん。私、おかしいんでしょうか? あの時は・・・、つらくても笑顔でお別れ
できたのに・・・。今はもう、できないんです・・・。浩之さんと離ればなれになってしまうと
思っただけで、悲しくて悲しくて、涙があふれてきちゃうんです・・・」

・・・ぽたり。

マルチはまた涙を流した。
俺は胸をつかれ、ただマルチを抱きしめた。
「馬鹿だな、マルチ。おかしくなんか、ない。それが普通なんだ」
「・・・」
マルチを抱きしめる腕に、マルチの涙がかかる。
温かい、涙だった。
「俺だって、そうさ。絶対にマルチを俺以外の奴の所になんか行かせない。そんなことになったら、
俺も悲しくて悲しくて、どうしていいか分からなくなる。だから、絶対マルチは俺のそばから
離さない」
俺はマルチを抱く腕に力を込めた。
「・・・はい・・・ありがとうございます・・・ふふっ・・・」
マルチは泣いていたが、少しだけ笑った。
「・・・マルチ?」
「夢の中の浩之さんも、同じ事をおっしゃいました・・・。いつか絶対会えるから、そうしたら
もう絶対離さないからな・・・。そうして、泣いている私を、優しく抱きしめて
下さいました・・・」
「マルチ・・・」
・・・俺も、少しだけ泣いていた。
俺の涙は頬を伝い、ベッドへと落ち、マルチの涙と重なった。
「ああ、俺はマルチと一緒にいたいから・・・。だから、絶対に離さない。たとえマルチが
嫌だって言っても離さないからな・・・」
「・・・はい・・・。ずっと、おそばにいさせて下さい・・・」

静かな夜。
優しい時間が、俺達を包んでいた。




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夜中に目が覚めて思いついた話です。
眠いんで、寝ます。
では。