心、優しさ 第三話 一章 投稿者:セリス
ある日曜日。
特にすることもなく、俺は居間でテレビを見ていた。
キッチンからは、マルチの鼻歌が聞こえてくる。
うららかな春の日差し。
・・・いや、もう晩春と言った方がいいか。
塀の上には、ひなたぼっこに興じるどっかの猫。
スズメの鳴き声。
「ああ・・・。平和だなぁ・・・」
俺はこの平和な、幸せな日常に、この上ない幸福感を感じていた。
だが、俺のこんなささやかな幸せをぶち壊す、招かれざる客が現れた。
「ちょっと! その言い方は何?! まるでドラ○エのモンスターみたいじゃ
ないの!」
「うるせえな。俺の幸せをぶち壊すような奴は、誰だろうとモンスターと同義
なんだよ」
「・・・あかりでも?」
「あかりは俺の幸せを壊したりはしない。だからモンスターじゃねぇよ」
「あたしだって、別にあんたの幸せをぶち壊す気はないけど」
「その気がなくてもぶち壊すだろ、お前は」
「きぃぃ、何ですってぇ?!」
「だいたいだな。いつの間に上がりこんだんだ? 勝手に人の家に入ってはいけません、
って小学校で習わなかったのか?」
・・・言うのが遅れたが、いつの間にか、志保が俺の前にいた。
相変わらず、根拠のない自信に満ち溢れた顔をしている。
「だから、その言いぐさは何?! 根拠のない自信ですってぇ?!」
「人のモノローグを読むなよ。で、いつの間に上がりこんだんだ?」
「まったく・・・。あんたは一度礼儀作法ってものを勉強した方がいいわね・・・」
「・・・あの、浩之さん」
ぶつぶつ言う志保の後ろから、マルチが顔を出した。
「おう、マルチ、どした? 昼食の支度、できたのか?」
「いえ・・・。私が志保さんをお招きしたんです」
「え? マルチが?」
「はい。この間のメンテナンスの帰り、偶然志保さんにお会いしまして。それで、
浩之さんに御用があるとお聞きしたものですから・・・」
「わざわざあんたに会いに来てあげたのよ。感謝しなさいよね!」
「そっか、マルチが呼んだのか」
「はい・・・。あの、浩之さんに言わないでくれ、と言われたものですから・・・。
隠していて申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げるマルチ。
「いや、いいよ、マルチ。マルチは悪くない。悪いのは志保だ」
「ちょっと、何であたしが悪いのよ?!」
志保は俺の言葉を聞き、聞き捨てならぬと反論する。
「・・・あのな。今のマルチの言葉から言うと、いつの間にかお前が俺のそばに
いた理由にはならないんだけどな」
「ぎくっ!」
「・・・こっそり忍び込んだんだな?」
「・・・や、やーね、忍び込むなんて人聞きの悪い。ちょっと・・・その・・・
まあ、確かにチャイム押さずに入ったりはしたけどさ・・・」
「それを忍び込むって言うんだろうがぁ!」
慌てて言い訳する志保に思わずつっこむ。
「ま、まあ、いいじゃない。あたしとあんたの仲でしょ?」
「いつ俺とお前がそんな仲になったんだよ・・・」
「あ、志保さん、これ何ですか?」
「えっ、それは、そのう・・・」
志保の後ろにいたマルチが、後ろで組まれた志保の手の辺りを見て声を上げた。
「・・・志保。後ろに何持ってるんだ?」
「・・・や、やーね、何も持ってないわよ」
「マルチー。志保、何を持ってるんだー?」
「カメラですー、浩之さん」
「ちょ、ちょっとマルチ!」
息の合った俺とマルチの連携プレイ。
「カメラぁ? ・・・志保。おめー、今度は何企んでるんだ?」
「だ、だからぁ・・・。そんな人聞きの悪い言い方やめてって言ってるでしょ? 
知らない人が聞いたら勘違いするじゃない」
「勘違いじゃなく、真実だと思うが・・・」
「なんですってぇ?!」
「・・・ごまかすな。今度は何の用なんだ?」
俺はもう騙されない。
前にも、こんなふうにいきなり志保が来て、酷い目・・・かどうかはわからないが、
とにかくめんどくさい事があったのだ。(第一話参照)
「・・・べっつにぃー。ヒロの写真って、その筋に高く売れるのよねー」
すっとぼけた顔でごまかそうとする志保。
本来なら聞き流して本件を聞くべきなんだろうが・・・。
「ちょっと待てい。なんだ、その筋ってのは? 聞き捨てならんぞ、その言葉は!」
志保の言葉は聞き流せなかった。
それが志保の手だとは分かっていたんだが・・・。
「だから、その筋よ。ヒロの写真を欲しがるような筋。いやー、これが結構ボロい
儲けになってさぁ」
上手くごまかせたと思った志保がいつもの調子でしゃべり始める。
「あああ、浩之さんも志保さんも、落ち着いて下さいぃ・・・」
そんな俺達の間でおろおろしているマルチ。
「だから、その筋ってのは何なんだ! 気になるじゃねーか!」
「あたしもねぇ。今はバリバリやってるけど、フリーになった直後は色々資金面で
苦労してさぁ。いやー、結構儲けさせて貰ってるわよ、浩之」
意味深にウィンクする。
それを見た俺は、激しい目眩を覚えた。
「失礼ね! こんな美女のウィンクを受けて目眩するなんて!」
「ああ、浩之さん、大丈夫ですか?」
「・・・もういい。もういいんだ、マルチ・・・」
どこかで聞いたような気がするなぁ、と自分で思うセリフを言いながら、俺は
マルチに身体を支えてもらい、志保に向き直った。
「・・・で、本当の用事はなんだ? まさか俺の写真を撮りにわざわざ来たわけじゃ
ないんだろ?」
「まぁね。あたしも忙しいし、もう資金面でも苦労してないしね」
俺の疲れ切った表情を見て、志保も真面目に話し出した。
だったらなんでカメラ隠してたんだ、と思ったが、それは口には出さなかった。
「ま、あんたには色々世話になったからね。いい物をあげようと思ってね」
「いい物? いや、物貰うより、まずは車返すぜ」
「車? ああ、いいのいいの。もう所有権もあんたに移ってるしね。今更返して
もらったりしたら、また面倒な手続きがいるわ。そっちの方が迷惑よ」
「・・・そっか。じゃ、ありがたくもらっとく」
志保の好意だ。
俺は素直に受け取ることにした。
「で、今日の用件はこれ。はい、あげる」

すっ。

志保が差し出したのは、「エクストリーム全日本選手権本試合観戦チケット」だった。
ちなみに、まともに買うと一枚六〜七千円くらいする。
「・・・志保。これって、もしかして・・・」
「そう。葵ちゃんが出てるやつよ。あんたも見たいでしょ?」
「そりゃ見たいけど・・・。でも、いいのか?」
「いいのよ。あたしはプレスの特等席で見られるから」
志保はマルチを見た。
「とーぜん二枚あるからね。もちろん隣同士、さらにアリーナ席! どう、嬉しいでしょ?」
「わ、私も行っていいんですか? はいっ、嬉しいです!」
本当に、心から嬉しそうに笑顔を浮かべるマルチ。
・・・おのれ、志保。
マルチを取り込むとは、卑怯者め。
これで、俺は受け取らないわけにはいかなくなったではないか。
「さ、ヒロ。長岡志保さんの好意、ありがたく受け取ってよね」
知ってか知らずか(いや、絶対に分かっててやったんだ)、笑顔を浮かべてチケットを差し出す。
「・・・ああ、ありがとよ」
やむをえず、チケットを受け取る。
「じゃ、そういうことだから。大会があるのは来週の日曜よ。ちゃんと来るのよ、いい?」
用件は済んだとばかり、そそくさと帰り支度を始める。
「あ、ああ。分かった、来週の日曜だな? 必ず行くよ、な、マルチ?」
「はいっ、楽しみです、浩之さん! 志保さん、ありがとうございます!」
・・・マルチがこんなにも嬉しそうにしてるんだ。
まあ、いいかな。
「じゃ、あたしはこれで。来週の日曜よ。忘れるんじゃないわよ!」

・・・バタン。

志保はチケットを渡すと、さっさと帰っていった。
「うーん・・・。あいつ、ほんとに何しに来たんだろ。わざわざチケット渡すためだけに
来たのか? まさかなぁ・・・」
俺が頭をひねっていると。
「あ、そうでした、浩之さん。お昼ご飯の用意ができました」
マルチがふと思い出したように言った。
「そっか。じゃ、とりあえずは昼食にするか」
「はい」
俺はマルチと一緒にキッチンへと向かった。
「・・・うーん。志保のこと、何かひっかかるんだよなぁ。何か不自然な感じが
したんだけど・・・。何だったかなぁ・・・」


                            第三話 一章 了


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マルチ:今回のゲストは、葵さんです。
綾香 :そのくせ、後書き対談は私達だけどね。
マルチ:綾香さんも出す予定だそうですよ。
綾香 :そりゃあね。エクストリームの話となれば、出しやすいでしょ。姉さんはどうなの?
マルチ:未定だそうです。
綾香 :ふーん・・・。
マルチ:とりあえず、武闘シーンなんかはまったく書く自信がないので、すごく不安だそうです。
綾香 :もともと自信持てるようなSS書いてるわけでもないくせに。
マルチ:あうう、それは・・・。
綾香 :だいたい、今回の話って、「志保がチケットをくれた」の一言で済む内容じゃない。それをこ
   んなにもダラダラと無駄に長く書けるなんて、これはもう一種の才能ね。
マルチ:綾香さん、きついですぅ・・・。
綾香 :で、二章はいつ頃書くの?
マルチ:「・・・善処します」だ、そうです。
綾香 :つまり、決まってないってことね。
マルチ:あと、「オタスケェヴァン」というSSにかなり影響受けてるそうです。
綾香 :ああ、ドラエヴァのあるページにあるSSね。ほんっと、つくづく影響受けまくる奴ね。
マルチ:ドラエヴァ、SS書く上で、すごく参考になるので、是非読んでみて欲しい、だそうです。
綾香 :これは、本当にお勧めね。下のリンクから行けるわ。
マルチ:では、また。


>NoGodさん
感想ありがとうございました。
個人攻撃みたい・・・ですか。
洒落のつもりで書いたんですが・・・洒落になってなかったみたいですね。
また、暴走してしまったようです。
すみません。
久々野彰さん、すみません。

>runeさん
いきなりメール送りつけたのに、ちゃんと対応していただき、ありがとうございました。
今回話を書き上げられたのは、runeさんからのメールのおかげです。
どうもありがとうございます。