流れ転ずるもの 投稿者:SRS
 お昼休み。もう半分がた過ぎている。
 先輩との遅い昼食。もう中庭には誰もいない。
 ベンチに仲良く腰掛けるふたり。オレと来栖川先輩。
 もそもそとマイペースにお箸を動かす先輩。おいしそうにいただいている。
 小さなお弁当箱。
 もう食べ終わってしまっているオレは、そんな先輩の様子をながめている。
 オレの視線に気付く先輩。
 浩之さんも食べますか――オレは首を振る。
 いいからゆっくり食べていなよ――こくん、うなずく先輩。
 邪魔にならないよう、オレは背もたれに肘掛け、頭を後ろに傾けると空に目
を向ける。ゆっくりと形を変えていく雲の姿が瞳に映る。白い塊は淡い輪郭線
に包まれて、ぼんやりと流れている。青すぎる蒼穹が、透明な心に気持ち良く
なじむ。
 ごちそうさまでした――先輩が食事を終える。
 なあ、芹香先輩。
 ……はい。
 膝枕、いいかな。
 ……。
 ベンチに寝そべる。心地よい先輩の弾力を直に感じる。
 さっきまで真上にあった空と向かい合う。さっきまで向かい合っていた先輩
の顔を見上げる。
 ちょっと困ったような表情。
 浩之さん、もう少し、頭をずらしてください……そこは、痛いです……。
 ああ、ごめんよ――オレは素直に、いわれた通り頭の位置を変える。
 先輩はオレの額と髪に手を添え、微笑をたたえてオレを見つめる。
 その表情を見ているうちになんだか嬉しくなってきたオレも、笑顔を返す。
 いままでの先輩だったら、困った顔はしても、結局は口にだすことはなく、
自分が我慢して終わっていただろう。我慢しているという自覚さえなかったん
じゃないだろうか。
 最近の先輩は表情豊かだ。
 空をのぞむ。
 先輩もかわいらしいおとがいを反らせて、オレが見ているものの後を追う。
 空はどこまでも澄んで、雲は一時として同じ場所にはとどまらない。
 すべては流れていく。すべては転じていく。
 雲も、先輩も、そしてオレも。
 オレは、よりよく変わっていけているだろうか。
 先輩の微笑みを信じていよう――きっとそれが答え。
 チャイムが鳴り響いた。ここじゃないような、どこか遠い響き。
 昼休みの終わり。
 さ、いこうか――オレは身を起こすと、先輩に告げた。
 こくん――先輩もうなずいて、ゆっくりと立ち上がった。
                                (了)

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 人間だから、感情に流されることもある。
 過ちをおかすこともある。
 自覚した瞬間から、変わっていける。
 そう信じたい。

 迷惑をかけた皆さん、ごめんなさい。
 気にかけてくださった皆さん、ありがとう。
 これが「答え」です。