神聖ハシモト王国 投稿者:鈴木R静


   『神聖ハシモト王国』


鈴木「やあ、紅の薔薇の人、鈴木R静と――(以下R)」
ワルチ「メイドロボットのワルチですっ(以下W)」
R「そういえば今日はね、ワルチ」
W「……うん?」
R「SS作家のdyeさんから、『PATH :THE_HARMONY』について、こんな感想メ
ールをいただいたんだ」
R&W「dyeさん、お手紙ありがとうございますっ」
R「じゃ、ポイントだけ紹介するね。『……ですが、あとがき読む限りでは「
格闘」の門をくぐられるとか。私の(浅い)読みでは、あかりor志保(橋本or
矢島でも可!)を主人公とした第3の「○○チ」登場と思ったんですが……』
……ていうお便りなんだ。dyeさん、リクエストありがとう!」
W「……それって別にリクエストでも何でもないと思うけど……」
R「(無視)というわけで、今回は『神聖ハシモト王国』っていうSSを書い
てみたんだ。今回はいったいどんなドキドキ、ワクワクが待っているのか、い
まから楽しみだねっ」
W「ちょ、ちょっと待ってよ、鈴木さん」
R「ん? なんだいワルチ?」
W「少し気になったんだけどさ、『PATH :THE_HARMONY』って、すごく前のお
話だよねえ? いったいそのお手紙、いつ届いたものなのさ?」
R「いつって……それは……その……」
W「(すばやくメールの日付を盗み見て)あー、これって受信日時が97/
12/13になってるじゃないか! 一カ月も前だよ! どうしていまごろに
なって」
R「……あの……その……」
W「まさか、感想メールいただいたのはいいけど、返信レス忘れてて、気づい
たら間が開きすぎちゃってて、いまさら送るのもなんだかきまずい、でもこの
まま無視するのも心苦しい……とかいう、そういうオチじゃないだろうね」
R「……君、詳しいね」
W「まあね、ボクは鈴木さんのことだったら何だって知ってるよ」
R「こいつぅー、このお・ま・せ・さん☆(そういってワルチの胸のあたりを
つんつんつつく)」
W「……! ばかぁー、ナニするんだよ!」
 げにょ!!(←ワルチの正拳突きが、はいってはいけないところにめりこん
だらしい)
W「冗談でもこういうことはやめてよね。……ボクには心に決めたご主人様が
いるんだから」
R「ははは……、ワルチはやっぱり可愛いなあ(吐血)」
 ……鈴木@レッドブラッツ、ロリの宿命に殉ず。

 それでは、本編をどうぞ。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「納得いかねーっつーんだよ」
 そう小さく叫ぶと、橋本は、目の前の何人もがかけられる大きな机を、どか
っと力任せに殴りつけた。
 お昼時の図書室に粗野な音が響きわたり、幾人かの生徒が何事かと振りかえ
る。
「な、な、な、何の話っスか?」
 彼の後輩にあたる矢島が、橋本の機嫌をとりつくろうようにいった。
「決まってんだろが、藤田のことに」
「藤田……スか」
 藤田浩之――矢島と同じクラスの生徒で、だから橋本にとっては後輩という
関係になる。
「……くそがっ!!」
 橋本が机の脚を蹴りつける。常人なら眉をしかめる振動があたりにまき散ら
される。
「ちょ、ちょっと先輩、もうちょっと落ち着いてくださいよ……場所もアレな
んスから」
 場所……その言葉に橋本の無理に忘れようとしていた、あの屈辱的な記憶が
蘇る。場所も同じ図書室で、これまた後輩の長岡志保という、かなりルックス
もいい、世馴れた感じの娘にちょっかいを出そうとして、彼は藤田に無様にも
ノックアウトされたのだ。矢島はそんなこととは露ほども知らない。
 腹の底から沸き上がってくる小昏い憤怒の焔に、橋本はぎりぎりと歯噛みを
禁じえない。
「いったい何をそんなに苛立ってるんスか……?」
「これがムカつかずにいられるかってんだ! どいつもこいつも、いいオンナ
はみんな、藤田にばかりなびきやがって……」
「そ、それは……」
 何といっていいものか答えあぐねて、矢島はもぐもぐと口を動かすにとどま
った。
 そういえば以前、矢島も、同級生の神岸あかりにアタックし、見事に玉砕し
たことがあった。思えばこのときも、藤田浩之がからんでいたんじゃなかった
だろうか。もっとも、このことは矢島のなかではすでに遠い過去の話として追
憶の彼方に霞んでしまっており、いまの彼に何らの感傷も起こさせることはな
かったのだが。それよりも、いま、彼が密かに胸中に想っている人物は他にい
るのだ。そう、それは案外近くの人物かもしれなかった……!
「なんで藤田ばかりがモテやがる! なんで俺じゃねえんだ!!」
 理不尽な怒りを発散させまくる橋本の様子に、なんとか彼を鎮めようと矢島
は必死にない頭を振り絞った。
「……そうっスよ!」
 突然矢島がすっとんきょうな声を上げた。
「ああ!?」
 不審げな視線を向ける橋本。
「メイドロボっス!」
 矢島の口調が熱を帯びる。
「藤田にあって、先輩にないものといったら、メイドロボットっスよ」
 まだよくわからないといった表情で、しかし少しく興味をそそられた感じも
たたえて、橋本は矢島に視線をそそぐ。
「ひとむかし前の車がそうだったように、これからのモテる男の必須アイテム
っつったら、メイドロボっスよ。メイドロボットオーナー……それは男の富と
権力の象徴なんス」
「そうな……のか?」
 はっきりいって橋本はこの手の話にはあまり詳しくない。
「そうっス! でないと先輩が藤田ごときに比べてモテないことの説明がつか
ないっス!」
「でも、おまえ、俺たちまだ高校生だぜ? 藤田だってメイドロボなんか持っ
てねえだろ?」
「いや……それがそうでもないんスよ……何でも噂じゃ、この前学校に試験運
用とかで来てた……ええと、そう、あのマルチとかいうメイドロボのご主人様
に、藤田がなったらしいんスよ……!」
「なにぃ!?」
 マルチのことなら橋本も覚えていた。ちょっと幼さの残る、しかしそこがま
たなかなか可愛らしい印象の、たしか来栖川製の最新の試作メイドロボットだ
ったはずだ。
「く……またしても藤田のやつ……」
 ややおさまりかけていた顔色に、再び朱が加わる。
「だ……だから、先輩もメイドロボのオーナーになればいいんスよ。そうすれ
ば、先輩もモテモテまちがいなしっスよ!」
 慌てて矢島がいい繕う。
「馬鹿野郎!!」
 橋本は頭ごなしに矢島をどなりつけた。
「せ、せんぱい……!」
 ショックのためか、やや蒼ざめて橋本を見つめる矢島。
「ガキの遊びじゃねえんだぞ、どこにそんな大金があるってんだ!!」
 そのまま橋本は、この話はこれでしまいだといわんばかりに、ことさらに荒
々しく図書室を出ていった。
「……せんぱい」
 その橋本の消えていった先を、いつまでも見つめ続ける矢島の瞳には、心に
期するものを感じさせる熱い感情のうねりが、ひそやかに、しかし消しようも
なく激しく燃え上がっていた。

 ――その日の、放課後。
「橋本くーん、教室の外で誰か呼んでるわよ」
「あん? なんだ……男、女?」
 橋本のクラスで、彼に来客があるのを伝えてくれた級友の女生徒は、なぜか
その問いに微妙な顔をして、一瞬、いいよどんだ。
「――?」
「あ……その、えーと……そ、そう……メイドロボ、メイドロボットよ」
 そのまま彼女はこの件に深入りするのを避けるように、そそくさと退散した。
「メイドロボぉ〜?」
 ますます混乱する橋本だったが、とにかく呼ばれている以上いってみるほか
ないので、席をたって教室を抜け出すと、廊下に出てみる。
「――!」
 そしてたしかに橋本は見た!
 彼を待つ人物、もといメイドロボットの姿を……!!
「おまへ……矢島……!」
 そこには、髪を鮮やかなショッキンググリーンに染め上げ、耳には白いイヤ
ーカバーをつけた、後輩、矢島の……いや、何度も繰り返すまい、見事な一体
のメイドロボットの雄姿があった!
「ご主人様……俺……いや、私の名前は矢島ではありません。今日からはヤジ
マッチと認定、呼称してください」
「ヤジマッチ……」
 ヤジマッチをまじまじと凝視する橋本の胸を、魂を、揺さぶる、込み上げて
くるものがあった。
「突起物がやたら照れるっス」
「……ば……ばかやろお……おまえってやつは……」
 橋本の視界がぼやける。
 見つめあうふたりの男たち。
 そのあわいいっぱいに満ちた想いの奔流は、どんな欺瞞や、ささいな仲違い
も流し去ってしまう。そう、いまのふたりをつなぐものは、相手のことをしか
考えない、自分はどうなってもいいという、ピュアな心だけだった。
「ご主人様……」
「ヤジマッチ……」
 ふたりの距離がすっと縮まり、そして――、
 がすっ!
 奇妙に鈍く、重い響きが、かすかに立ちのぼった。
 橋本の右が、えぐりこむようにメイドロボの鳩尾をとらえていた。たまらず
廊下に崩れ落ちるヤジマッチ。
 全身全霊をかけた一撃に、軽く肩で息をする橋本。
「はぁ……はぁ……いいか、二度目はないぞ……」
 それだけいい残すと、橋本は振り返ることなく、去っていった。
「うう……ご主人様……愛が……愛が見えないっ……ス……!」
 地に倒れ伏したヤジマッチの頬を濡らす、一筋の涙。
 どこかの開け放たれた窓から吹いてくる一陣の風が、ふたりの間の埋めがた
い溝を思い知らせる。
 鳴呼、ふたりの漢たち、生まれたての雛鳥のような主従の……明日は、どっ
ちだ!?
                                (完)