魔法の力を信じるかい? 投稿者:鈴木R静



   魔法のチカラを信じるかい?

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 ふぅー、今日もやっとつらい勉学の時間が終わったぜ。
 オレはホームルームの終了と同時に、速攻で荷物をまとめると、教室から飛
び出した。
「えーと、お、いたいた。おーい、先輩」
 廊下では、いつものように来栖川先輩が、待っててくれていた。
「ごめんな……いつも待たせちまって」
 ふるふる。
 先輩は軽く頭を振る。
 なぜか芹香先輩のほうが、オレのクラスより終わるのが早いのだ。うーん、
実はいい先生かもしれない。ぜひ来年は当たりたいぜ。
「じゃ、今日も一緒に帰るとすっか」
 オレが歩き出そうとすると、
「……」
 先輩はオレの袖を柔らかく引っ張った。
「えっ、これから部室に行きませんかって? そりゃいいけど、何かあるの?
……ええっ、魔法の儀式?」
 こくん……とうなずく先輩。
「ううん、そうだなあ……」
 魔法――と聞いて、オレの脳裏に、あのホレ薬の一件が蘇った。あのとき、
先輩――いや、芹香とオレは、初めて結ばれたんだ。いまでも思い出すと、芹
香の健気さ、可愛さ、そしてなによりお互いに確認しあったあの情熱的な愛の
営みに胸が熱くなる。
 その先輩が、魔法の儀式に誘っている。……なんだか、イケナイことを期待
しちまうぜ。
「……よし、じゃあ、行こうか」
 オレが決断すると、来栖川先輩は、はい、と無表情――でもこれは嬉しいと
きの顔だ――で首肯した。

 オレたちは、いまやすっかりお馴染みになった例のオカルト研究会のあるク
ラブハウス棟にやってきた。
「でもさー、先輩。今回はいったいどんな儀式をやるんだい?」
 オレが質問すると、先輩は、秘密です、とささやいた。
 むむっ、そんな風に言われると、ますます興味がわいてくる。
 そして、ききぃ、と微かな音を立てて、部室のドアが開かれた。
 その先には、これまたお馴染みの、昼でも薄暗い、別世界の雰囲気に満ち満
ちた光景が広がっている。
 いつも思うんだが、このクラブハウスを利用している他の生徒たちは、まさ
か自分たちの使っている同じ建物内に、こんな妖しげな一角が存在しているな
んて、夢にも考えてないんだろうなあ。ましてや、そこで日夜、黒魔術が執り
行なわれているなんて。
 どうぞ、という先輩の声で、オレは室内に足を踏み入れた。
 ロウソクが灯され、部屋の空気が一段と神秘の色を濃くする。
 あれ?
 オレは床に大きく描かれた魔方陣に目をやった。
 なんだか、図柄が以前見たときと違う……。
 細かな文字(?)なども変わっているのかもしれないが、何よりも注意をひ
くのは、それが赤や青、黄といったカラフルな色で塗り分けられていることだ。
 オカルトチックな重苦しい部室の装いに、こいつだけが妙に浮いているよう
な……?
 そんなオレを後目に、何やら部屋の片隅でごそごそとやっていた来栖川先輩
は、やおら向き直ると、ぽそぽそとつぶやいた。
「えっ、掌を出してください? って、あの先輩、その儀式っての、オレも参
加するの?」
 こく……そう肯定する先輩の瞳は、ひたすらまっすぐにオレのことを見つめ
ている。
 ええい、乗りかかった舟だ。芹香先輩、信じてるぜ。
 オレは、わかったとうなずくと、黙って言われた通り手を差し出した。
 来栖川先輩は、朱色の顔料を含ませた毛筆を取り出すと、オレには理解でき
ない何かの記号めいたものをゆっくりと掌に書き込んでいく。
 右手……そして左手。
 オレがよくわからないままに、とりあえず自分の両の掌に、ふ〜ふ〜と息を
吹きかけながら、その不思議な文様を眺めていると、
「……」
「ええっ!? 両方の足の裏も出してくださいって?」
 先輩はさらに驚くようなことを言った。
 うう……これからいったい何が始まるんだ?
 こうして両手両足をオレンジのまだらに染められたオレは、少々不安な面持
ちで、先輩の次の指示を待つことになった。
 いつのまにか黒いトンガリ帽子にマントという魔法使いルックに身を固めた
来栖川先輩は、革装の本を手に、神妙な顔――といってもやっぱり無表情なん
だけど――でオレのほうを見ている。
「……」
「えっ、魔法陣の中央に立ってくださいって? おう、立ったぜ。え、これか
ら言いますから、その通りに手や足を置いてください? どこに? 魔方陣の
指定した場所?」
 ちょ、ちょっと待ってよ、先輩。ええと、何だって?
 それでは……いきます、しかし芹香先輩は自分のペースで、そう宣言すると、
そのままなし崩し的に魔法の儀式とやらを始めてしまった。
「……右手……赤……ツァダイ……」
 はい? オレは動けない。右手や赤はいいとして、ツァダイってのは何なん
だよー。
 オレが固まっているのを見た先輩は、ささやくようにもう一度、同じ言葉を
繰り返した。
「いや、あの……先輩。そのツァダイってのがよくわからないんだけど……」
 そう言うと、先輩はちょっと困ったような表情になった。そんな顔も可愛い
ぜ、先輩。
 その後詳しく話を聞いてみて、どうやらそれが、この魔方陣上に配置された
記号みたいな模様――なんでもヘブライ文字とかいうものだそうだ――の発音
のことらしいっていうのは何とかわかったのだが、しかしそれがわかったから
といって少しも問題は解決されていないのが少し悲しい。だって、意味がわか
ったからといって、結局オレはその文字が読めないんだから、やっぱりどこに
手を置いていいかは依然謎のままなのだ。
「そうだ! 先輩。読み仮名振ってくれよ、読み仮名。そしたらオレにも理解
できるだろ?」
 すると先輩は、しばらく考えた後、わかりました……とつぶやいて、部屋の
片隅のいろいろなオカルトグッズが置いてあるところから白チョークを持って
くると、カキカキと各文字にルビを振り始めた。
 うう……すまねえな、先輩。オレがオカルトにうといばっかりに……。
 もう、藤田っつぁん、それは言わない約束でしょう。
 芹香……お前は優しい娘だよ……うう……ごほ、ごほ……。
 などと頭のなかで時代劇ミニシアターを演じていると、
 終わりました、という先輩の冷静な台詞がオレを現実に引き戻す。
「そっか、よし、じゃあ、改めて始めっか」
 オレの言葉に、先輩は、こく……とうなずいた。
 そして儀式は再開された。言われた通りに右手を赤くペイントされた場所の
ツァダイ……とかいうところに合わせる。
 しっかし、こりゃどう見てもツイスターゲームだよなあ。先輩は、カバラと
かいうのをベースに日本のこっくりさんを参考にして、魔方陣の各所にそれぞ
れ、タロットカードと照応させたヘブライ文字を配置した、独自の儀式魔法だ
って言ってたけど。
「先輩……これって両手両足以外の身体の部分が、魔方陣に触れちゃいけない
んだろ?」
 オレが念のため訊いてみると、
 先輩は、こくこく……と首を縦に振って、よくわかりましたね、と答えた。
 やっぱり。
 しかしどんな魔法を行なう気かは知らないが、こんなので本当に効くんだろ
うか。――いやいや、先輩はいつだって冗談なんかじゃなく真面目なんだ。こ
のオレが信じてやれなくて、どうする。先輩だって言ってたじゃないか、信じ
る力があれば、きっと魔法はかなうって。
「で、次は?」
 オレがうながすと、突然先輩は妖しげな本を、開いたまま魔方陣そばに置く
と、左手……青……ヨッド……とつぶやいて、自らも陣内に入ってきて、同じ
ようにゲーム……もとい儀式に参加してきた。
「うわっ、ちょ、先輩。芹香先輩もやんの?」
 オレが狼狽して叫ぶと、やります、となぜかちょっと顔を赤らめて、先輩は
言った。
 ……むふー、こいつぁ、おいしい儀式になりそうだぜ。
 あれ……でも……。
「そういや先輩、先輩は手足にペイントしてないだろ? いいのかよ?」
「……」
「えっ、文様を書き込むのは対象者だけで、施術者はそのままでいいって? 
ふ〜ん、なんだかズリイなあ」
「……」
「え、ごめんなさい? バカだな、そういう儀式なんだろ? 謝る必要ねえっ
て。ホント、芹香は可愛いなあ」
 そう言って、オレがまだ空いている左手で、来栖川先輩の艶やかな黒髪に包
まれた頭を軽くグリグリすると、先輩はさらにぽ〜と顔を赤くして、でも困っ
たような瞳で、こっちをじいーと見つめた。
 くぅぅーー、先輩、健気すぎるぜ。
 しばらくお互い不安定な体勢で、相手の双眸に映った己自身を確認しあった
後、オレたちは続きをすることにした。
「……右足……黄……ザイン……」
「……右手……青……ラメド……」
「……左手……赤……カフ……」
「……右足……青……タレス……」
 ふたりで交互に手足を置いていく。だんだんきつくなってくる。
 ああ、先輩の太股がオレの足にからみついて……気持ちいい。……いかんい
かん、オレは何を考えてるんだ。神聖な儀式の最中に……ってまてよ、先輩の
専門は黒魔術だろ? だったらこれは邪悪な儀式なのか?
 そういえば、なんだか気温が下がってきたのか、少し肌寒いような……。
「……右手……赤……ヴァウ……」
「……左手……赤……アレフ……」
 あっ、先輩の胸のふくらみが、オレの腕に押しつけられて……だめだよ、先
輩、そんなにされたら……オレ……。
「……右足……黄……ギメル……」
 オレの耳朶に先輩の吐息がかかる。くうー、たまんねーシチュエーションだ
ぜ。
「……左足……青……サメク……」
 はふぅ、と切ない声がしたので、オレは姿勢的に厳しかったものの、なんと
か顔をそちらに向けてみた。
 先輩が潤んだ瞳でオレのほうを見ている。オレたちの顔は、互いに十五セン
チと離れていない。奇麗な、フランス人形のような美貌が、オレの目の前にあ
った。
 はううーー、芹香ぁー、そんな切ない、そそるような顔つきをしないでくれ
えーーー。
 ドクンドクンと鼓動が破鐘を打ったように騒ぎたてる。かぁーと血が上って
くるのがわかる。それに比例して、理性のたがが緩んでいく。
 先輩っ。誘っているのか? 誘っているのかぁぁぁーーー!?
「…………左手……黄……ケス……」
 体勢もいまや、予断を許さない状況になってきている。オレたちは魔方陣の
上でいやらしく絡まりながら、奇跡的なバランスで、かろうじてお互いの身体
を支えあっている。オレの体躯は俯けになって、すでに床にほとんど接地せん
ばかりに近づいている。
「せ、せんぱいっ! オレ、そろそろやばいぜ……まだ、終わんないのかよ?」
 先輩は、もうすこしです、と上気した表情でささやいた。
「…………左足……青……メム……」
「…………右手……赤……ベス……」
 やばい、やばいっ! 最後までもつのか、オレ! もう……もう……辛抱た
まらーーん!
 先輩も無表情に、でも必死にがんばっている。
 その横顔を眺める。ピンク色の唇。ととのった鼻筋。ちょっと垂れ気味の瞳
……こんなときだけど、やっぱり美人だぜ。こんな人がオレの恋人なんだ……
せんぱい……せりか……。愛しさが抑え切れなくなる。せりか……せりか……。
「あっ!?」
 オレが小さく悲鳴を上げるのと、先輩が、終わりました、と言うのとが、ほ
ぼ同時だった。
 儀式は終わった。
  芹香先輩は施術の疲れに緩く肩を上下させながら、どうしました? とオレ
の顔を覗き込んだ。
「いや、なんでもない、なんでもないんだ」
 オレは無理矢理笑顔を作ると、先輩を安心させるように言った。
 たしかに儀式は滞りなく終了した――はずだ。オレの身体は魔方陣には触れ
ていない……オレ自身の身体は触れてないんだが……あの、その……オレの不
肖の息子が、先輩のあまりにセクシーな攻撃に、その……不覚にもオレの意志
に反して、勝手に独り立ちし……床に軽くソフトタッチした……かもしれない
ということを除いては。
 うーん、この場合、どうなんだろう? 判定はセーフだろうか?
 いや、きっと、オレの剛棒のピンコ立ちより、先輩の終了のコールのほうが
早かったはずだ。そういうことにしておこう。
 ふー、やれやれ。オレは額の汗を拭うと、思い出したように訊ねた。
「そういや、この魔法って、結局は何だったの?」
 それは……。
 先輩のつぶやくような声に耳をすます。それは?
 ――とそのときだった!

「小僧ぅおおおおおおおーーーーーーーーーー!」
 うおっ、この雷鳴のような轟きは!?
「あ、ごほん、失礼。そういえば名前でお呼びするんでしたな。それでは改め
まして……」
 なんだぁ?
「藤田様あああああああーーーーーーーーーーーーー!!」
 ぐおおっ、なんてことしやがる。そんな馬鹿でけえ声を二遍もだすんじゃね
え!
「セバスチャンっ! どこにいやがるっ!」
「ここにございます」
 不意に窓を覆っていた暗幕が、ばさりと引き払われた。
「!」
 薄暗かった室内を、突然襲った陽光の洪水に、オレはとっさに目元を腕でか
ばう。
 とうあっ。掛け声もろとも、逆光を背に黒い影が踊り込んできた!
「……じーさ……いやセバスチャン。おめー、なんだってそんなとこから……」
 たしかこの部室は二階のはずだ。
「ええいっ、そんなことはどうでもよろしいっ! それよりも藤田様、これは
どういうことですかな」
「何が……」
「私はたしかに芹香お嬢様と、末永くお付き合いしてさしあげてください、と
そう申しました」
「お、おう」
「しくぁーーーーーし!」
 くわっ、とセバスチャンが目を見開く。
「それはあくまでお友達としてのお付き合い! このような暗い個室で、男女
ふたりっきりという、ハレンチなものではありませぬぞおおおーーーー!」
 それだけ叫ぶと、セバスチャンは何かに気付いたように、視線をゆっくりと
下に向ける。
 オレもその視線の先を目で追ってみる。
 そこには……いまだ興奮覚めやらず、痛いほどいきりたっているオレの剛直
があった。
「げっ!」
「ふ〜じ〜た〜さ〜ま〜〜〜!?」
 その瞬間、ゆらり、とセバスチャンの肉体が揺らいだ。いや、そう見えたの
は錯覚で、あれは……闘気!? 常人とはかけ離れた域にまで到達した格闘家
のみが持つ、立ちはだかるものすべてを、滅し、殺し去るといわれる恐るべき
オーラだ。
 ぬううぅぅぅーーーーーーーん。
 くっ、凄まじい威圧感だ。
 その刹那、オレは自分が蛇に睨まれた蛙のごとく、身動きが取れなくなって
いるのに気が付いた。
 やばい、呑まれちまってる!? 殺られる?
 ――そのとき、
「……」
 いつのまにか、芹香先輩が、セバスチャンの傍らに立っているのが視界に入
ってきた。
「なんですとぉーーー!」
 セバスチャンが何か喚いている。
「なりませぬ、なりませぬぞっ」
「……」
「いいえ、たとえお嬢様のおっしゃられることでも、こればかりは……この者
を成敗せぬことには、このセバスチャン、ここから一歩も動きませぬぞっ」
 なにぃぃーー、なんてことを言ってやがる。
 ああ、先輩、なんとかしてくれー。
 なさけないことに、まったく動けないオレは、もう芹香先輩だけが頼りだっ
た。
 ふるふる、とセバスチャンの言うことに、いやいやをするように首を振って
いた先輩は、何かを決心したように面を上げると、来栖川家の誇る忠実な執事
を、きっ、と見据えた。
「せ、芹香お嬢様……」
 セバスチャンが打たれたようにわなないた。
「芹香先輩……」
 オレも先輩の様相に釘付けになった。
 それは、いつも無表情だった先輩が、いつもその瞳のかげろいでのみ、自ら
の意志を表現していた先輩が見せた、初めての「表情」だった。
 静かな――怒り。
 そして、オレたちに言った。そう、文字通り、オレとセバスチャンの両人に
聞こえるように、言った。
「わたしは……今日は浩之さんと一緒に……校門のところまで帰ります。……
セバスチャン……車の用意をお願いします」
 いつも目の前の人間にしか聞こえないような声で、ぽそぽそと話していた先
輩。ささやくように、つぶやくように、言葉を紡ぎ出していた先輩。そんな芹
香先輩が、オレのために振り絞ってくれた、ありったけの勇気。
「――かしこまりました」
 すでに闘気をとうに消失させてしまっていたセバスチャンは、うやうやしく
一礼すると、今度はちゃんとスチール製の部室の扉から、静かに去っていった。
 その瞬間、オレは呪縛を解かれたかのように、身体が自分のコントロール下
に戻ってくるのを感じ、そのまま、ぺたん、と尻もちをついてしまった。
「……」
「えっ、大丈夫ですかって? いや、今回ばかりはもう、殺されるかと思った
よ」
 もしオレがすでに芹香の純潔を奪ってることがセバスチャンにばれでもした
ら、次の日には間違いなく東京湾のお魚さんたちと仲良しこよしだろう。こい
つは当分はトップシークレットとして凍結決定だな。
「でも、先輩、すごいじゃないか。そういう風にちゃんと他人に言いたいこと
を言えるようになったんだな」
「……」
「え、もうできませんって? どうしてさ。……さっきは浩之さんのことを考
えていたら、無我夢中で?」
 うう、芹香! オレは、がばっと立ち上がると、先輩を強く、強く、抱きし
めた。どうして先輩はそんなにいじらしいんだ!
 突然の抱擁にびっくりしている態だった芹香先輩も、すぐに力を抜くとオレ
に身を預けてきた。
「……せりか……せりか……」
 オレはこの気持ちの十分の一でも伝わるようにと、熱っぽくささやいた。
「……ひろゆき……さん……」
 ぽっと頬を染める先輩。
 窓から差し込む陽射しもようやく翳りだし、オレたちふたりに淡い残照を投
げかけると、魔方陣にひとつの長い影を映し出す。
「…………そういえばさ」
 ふと心に引っかかっていたある疑問を思い出して、オレは芹香に訊ねた。
「先輩の魔法って、どんな内容だったの?」
「……」
「えっ、浩之さんの強さを少しだけ分けてもらう魔法? これからふたりにふ
りかかってくるだろう様々な困難に、打ち勝っていけるように?」
 芹香……オレは不覚にも滲んできた涙を見られまいと、さらにぎゅっと芹香
を両の手に抱きしめた。
 抱きしめながら、さっきの儀式、実は失敗だったらよかったのに……と、芹
香に聞かれたら怒られそうなことを、愛しさではち切れそうな脳裏で、ぼんや
りと考えていた。
                                (了)

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PS1 作中のヘブライ語のカタカナ発音は、適当じゃなく、一応は正確なもの
        です。

PS2  ゴン太くん方式はむずいぜ。