初音のな・い・しょ☆ 投稿者:鈴木R静


   初音のな・い・しょ☆ 

 
 理想の妹を絵に描いたような美少女、ちょっぴり甘えん坊の初音ちゃんが、
憧れの「お兄ちゃん」にあんなことやこんなことをされて……。

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 耕一お兄ちゃんは変わってしまった。あの日を境にして。
 それはふたりだけの秘密。
 お姉ちゃんたちにはとても話せない。心配をかけたくなかったし、第一そん
なことをしたらお兄ちゃんに……。
 今日も夕暮れ時がやってくる。お姉ちゃんたちはまだしばらくは帰ってこな
い。お兄ちゃんとわたしだけの時間。
 本当はイヤなのに、でもわたしの心の奥深く、身体の芯を探れば、自分がそ
れを求めているのがわかる。言葉でいくら否定しても、感情がそれを裏切る。
 耕一お兄ちゃんは変わってしまった。ううん、それとも……。
 変わってしまったのはわたし……。
 認めるのが恐い現実。
 ただ、オレンジがかった薄暗がりだけが、確かな意味あるものとして、逃れ
えぬ狂宴の始まりを告げるばかり。

「ふふ、初音ちゃんはかわいいな……」
 わたしはビクリと身をすくませる。
 お兄ちゃんが、そんな台詞を口にするのは、いつもよくないことを考えてい
るときだ。
「どうしたんだい、まだ馴れないのかい。……もう何度もヤってるってのに…
…」
 そういってニヤリと笑う。
 その言葉にわたしは顔中を真っ赤にして、うつむいてしまう。
 ここは、わたしの部屋。いるのは、耕一お兄ちゃんとわたしのふたりだけ。
「確か……初音ちゃんはココが弱いんだよね」
 あっ、そこはダメ! 叫びたいのに、声にならない。
 お兄ちゃんの掌はそんなわたしの気持ちをあざ笑うかのように、容赦ない挙
動で的確にわたしを責めたてる。
「あふぅ」
 自分が漏らした吐息に恥ずかしくなって、さらにほっぺたが熱くなる。
 頭が混乱して、なんにも考えられない。
 しばらくそんなわたしの様子をおもしろそうに眺めていた耕一お兄ちゃんは、
「さあ、次は初音ちゃんの番だよ」
 となぶるような口調でいった。
「えっ?」
 知らず潤んだ瞳を、お兄ちゃんのほうに向けるわたし。
「もう、初音ちゃんも子供じゃないんだ。……どうすればいいか、わかるだろ
う?」
「で、でも……」
 もうわたしのほとんどはお兄ちゃんのものになっているのに……。
 かつてわたしだったもの、初音だったものは、もうお兄ちゃんの色に染め上
げられているのに……。
「ふふふ……、せいぜい楽しませてくれよ」
 耕一お兄ちゃんはそれがわかっていて、すでにわたしの領域はお兄ちゃんで
いっぱいになっているのがわかっていて、なおそうやってわずかに残ったわた
し自身で、自分を興がらせてみろ、と苛めるのだ。
 耕一お兄ちゃんは変わってしまった。あの日――わたしが、ちょっとした好
奇心、ほんのわずかの出来心で、お兄ちゃんとトランプゲームをして遊んでし
まったあの日を境にして。
 神経衰弱で八連勝、つまりお兄ちゃんにとっては八連敗という事実が、大学
生の耕一お兄ちゃんの精神にどれほどの痕(きずあと)を残したか。ゲームで
の勝利に無邪気に喜んでいたわたしには、気付きようがなかったのだ。
 お兄ちゃんは次の日、すぐさまどこからかオセロ一式を調達してくると、わ
たしと有無をいわさず勝負を開始した。
 強かった。
 さすがに自らが選んだゲームだけあって、耕一お兄ちゃんはわたしなんか、
全然かなわないほどの腕前だった。
 それから毎日、お兄ちゃんはこの時間帯になると、オセロ盤をかかえて、わ
たしを負かしにやってくるのだ。
 お兄ちゃん……もう許して……。
 あの頃の優しかった耕一お兄ちゃんはどこにいったの……。
 ――それはまだ癒えぬ……痕(きずあと)。
 わたしは、何度か瞬きすると、そっと滲んだ涙をぬぐった。
 外では、いよいよ濃さを増していく薄暮が、夜のおとないをさえざえと謳っ
ていた。
                                (了)