このごろ、よくナンパされる。
声かけてきたのは、サラリーマン風の男の人。
顔はまぁまぁ、かな・・・誰かに似てるけど。
援助交際目的だとやばいしなぁ…でも、お金持ってそうだし。
―――その証拠に、スーツも、結構良い仕立ての物を着てるし。
ま、様子見とくか。
「うん。
待ち合わせしててぇ。」
これは嘘。
だって、今日は一人で来てんだもん。
「でも、おっそいんですよねぇ。」
『待ち合わせ』『けど遅れてる』
こう言っておけば、つきあう事も逃げる事も、できる。
「ふ〜ん。
じゃあ、待ち合わせの相手がくるまで、つきあって。」
・・・やっぱり、ナンパか。
援助なら、このへんで値段交渉するはず―――って言っても、あたしも経験はないんだけど。。
ま、30分から一時間もつきあってあげればいいかなぁ。
一応、友達にピッチで連絡しておく。
『だいたい、30分後に電話してね。』―――そう言っておけば、何かあってもすぐアリバイ作れるし。
とりあえず、近くの喫茶店に入る。
その人は、ブラックコーヒー。
じゃ、あたしも、と言おうとしたら、すかさずホットミルクとミックスサンドをオーダーされた。
「なんでかってに・・・」
「うるさい。
コドモはコドモらしく、ミルクでも飲んでなさい。」
何こいつ。
元はといえば、あんたがあたしをナンパしたくせに。
「ねぇ、おじさん。」
あたしが、そのナンパしてきた奴に話しかける。
“おじさん”っていったのは、さっきのおかえし。
「・・・その“おじさん”っての、止めてくんない?
おれ、まだ20代だぜ。」
「え?うっそー。
てっきり、30代かと思った。」
だって、20代でそんないい服やカバン持てないよ。
「ほんとほんと。
こうみえても29才だぜ。」
「なら、同じようなものじゃん。」
ぷぅっ・・・おもわず、ふくれる。
「ちがうよ。
15才と16才。
19才と20才が違うってお前が思ってるなら、な。」
・・・言い返せない。
「じゃ、会社入って何年目?」
「ひみつ。
―――ガキは?」
・・・なにぃ?
「この志保ちゃんをつかまえて『ガキ』ですって?
しっつれいしちゃうわねぇ?おじさん。」
ガタッ。
思わず、立ち上がる。
「へぇ〜お前“志保”って言うの?」
ニヤニヤ・・・。
くっそおやじ・・・。
なんか、むかつく。
「じゃ、お前の事、“志保”って呼んでやろうか?
さすがに“ガキ”って呼ぶのもアレだろうしさ。」
ニヤニヤ。
もともとたれ目ぎみなのに、笑うともっとたれる。
この顔、やっぱどこかで見覚えがある。
「・・・わかったわよ。
じゃ、あんたは?」
あたしがそう言った後、少し考えて、
「ん、いいよ。
お前が呼びたいように呼べよ。」
こいつ、名前教えない気かしら。
「じゃ、“おじさ・・・」
「それ以外。」
ちぇっ。
「ん〜・・・それだと・・・」
メガネ・・・は、かけてないし。
やせても、ふとってもないし。
サラリーマン・・・ってのも、そのまんまか。
「わかったよ、じゃ、“かずひろ”か“かず”がいい。」
観念したらしい。
「ふぅん・・・あんた、『かずひろ』っていうの?
じゃ・・・」
“ひろ”って呼ぶよ。
あたしは、そう言った。
そいつ―――ひろ、は、最初のうちは嫌がってたけど、そのうち、しぶしぶ了承した。
「ねぇ。これから、どうするの?」
あたしは、ホットミルクを飲み干して、ひろに聞く。
「ん。
じゃ、食事でもするか?」
ひろは、ブラックコーヒーを飲みながら、そう言った。
「え?だって今、ミックスサンド・・・」
「ばぁか。
これっぽっちで足りんのか?
お前。」
確かに。
タマゴサンド1枚とツナサンド1枚じゃ、足りないって気もするけど…。
「じゃ、きまり。
行こうぜ。志保。」
喫茶店を出る。
春とはいえ、やっぱ、寒いな。
そう思った時。
「ほら。
・・・これかけとけ。」
パサッ・・・あたしの肩に、暖かい物がかかる。
「・・・何これ?」
「見りゃ判るだろ?
・・・ふつー。」
それは、ひろのスーツのジャケットだった。
「・・・ありがと。」
ボソ…っという。
「ん?
聞こえないぞ、志保。」
あたしも、聞こえないフリをする。
あったかい。
「・・・なんかこれ、タバコのにおいがする。」
照れ隠しのために、そんな事を言う。
「ああ。
俺、よくタバコ吸うしな。」
そんな事を言ってると。
Pi.pi.pi.pi.pi.....
あたしのピッチが、けたたましく鳴った。
その電話は、友達だった。
『志保。約束の電話だよーん。』
「あ、美咲、ありがと。」
こういう電話かけてくれる友達って、超大切だよね。
だって、やな奴にナンパされても断れるし。
『うん。
どういたまして。
それより…』
「ん?何?」
すかさず聞き返す。
『どうなの?
ナンパしてきた奴。
かっこいい?』
お約束って感じ?
「ん。まあまあ。」
『よかったじゃん。
じゃ、今夜はウチに泊りってことにしとく?』
・・・・・・。
「んー、じゃ、そうしといて。
もしかしたら、ほんとにそっち泊まるかも、だけど。」
『おっけー。
じゃ、もし来るんなら、もう一回ピッチに連絡してね。』
「うん。じゃぁねー。」
プツ。つー.つー.つー・・・。
電話を切る。
「待ち合わせの友達?」
ひろが聞く。
タバコを喫ってたらしい。
「うん。今日は来れないって。」
「ふうん。
・・・そう。」
そう言いながら、タバコを消す。
へぇ・・・携帯用灰皿だ。
「じゃ、食事いくか。」
「うん。
・・・オゴリよね?」
「もちろん。」
けど、食事の前に、違うところに連れて行かれた。
そこは・・・。
「いらっしゃいませ。
・・・あ、和宏さん。こんばんわ。」
美容院・・・違うか、洋服もいっぱいあるし。
あたしは、思わずキョロキョロする。
「こら。キョロキョロすんな、志保。」
かるぅく、こづかれる。
「だって・・・」
こんなとこ、来た事ないんだもん。
そう言おうとして、やめた。
なんか子供扱いされそうだし。
「こっち来い。」
ひろが、手招きする。
「なによ。」
手招きされた方向に行く。
そこは、色とりどりの化粧品や、服が並んでいる部屋だった。
髪の毛や、メイクは、そこの店員らしい女性がやってくれた。
指示を出しているのは―――。
「あ、チークもっとぼかして。」
なんと、ひろだった。
鏡の中のあたしを見る。
そこには、さっきまでの、生意気そうなあたしがいなかった。
そのかわりに、とても綺麗に着飾ったあたしがいた。
「うん。
似合うじゃん。」
にやにや・・・。
「じゃ、仕上げは・・・。」
そういうと、急に真面目な顔をして。
あたしの顔にいきなり近づく。
「・・・。」
あたしの唇に口紅を塗ってくれた。
今までも、口紅は塗った事、あった。
でも、男の人に塗ってもらうのは、はじめてだ。
なんか、変な気分・・・。しかも、シャネルだ。
「はい。できあがり。
―――何、ボーッとしてんだよ。」
「・・・べつに、ボーッとなんかしてないわよっ。」
あかんべーっつ。
「・・・おいおい、せっかく綺麗にしてやったのに、それじゃ台無しだぜ。」
「ふんっ。」
プイっ、と、そっぽ向く。
「・・・ま、その方が、お前らしいか。
じゃ、食事に行こうぜ。」
「うん・・・あっ!」
つまずいた。
ピンヒールなんて、履きなれてないから。
その瞬間。
「ふぅ。
よかった。」
ひろが、抱き止めてくれた。
「・・・そうか、おまえ、高校生だもんなぁ。
こんな高いピンヒール、履きなれてないか。」
また、いつものニヤニヤ笑い。
「うっさいわねー・・・悪かったわね!!」
ぷぅっ・・・。
思わずふくれる。
「ほら、つかまれよ。」
そう言いながら、手を差し出す。
「・・・ありがと。」
ボソ…っという。
「はい、聞こえるように言おうね。」
クスクス笑いに変わる。
「ありがとうございました。」
ちゃんと、言う。
「はいはい。
素直でいい子だね。」
そう言いながら、微笑む。
今までの、ニヤニヤ、でもなく、クスクス、でもなく。
ちょっとだけ、ドキっとした。
「ほら、行こうぜ。」
そう言うと、手を差し出す。
「・・・わが、親愛なる志保姫。」
・・・・・・。
「あんた、キザって言われた事ない?」
「ううん。
俺の知り合いって、みんなお上品だから。」
くす。
「わるかったわね。
お上品じゃなくて。」
にらむ。
「・・・ヒギンズ教授の気持ちが判る気がする。」
「なに、それ。」
・・・『ヒギンズ教授』?
「・・・“マイフェア・レディ”って、知らない?」
「うん。」
<fin>
というわけで、あとがきです。
小説を書いてみました。感想をお待ちしてます。
(と、いいつつ、実は“中書き”だったりする。)
(このパターンって、何回目だろう・・・)
この話は、最初『RAKUGAKI』と言って、内容もまったく違うもので
した。
その後、色々ありまして(笑)、こういう形になりました。
ここまで、書きながら、変化していったのもめずらしいかもぅ。
で、初めての完全続き物。
ちょっぴり,
『どきどき…わくわく…どきどき…<(C)島袋 寛子,SPEED>』
って感じ(笑)。
この“ひろ”さんは、どうでしょうか?
作中でもありましたが、
『男は、遊びに飽きると育てたがるもの』
ですよね。あ、一部女の人も、か。
こういうの、古くは『源氏物語の“光源氏の君”』からありますからね。
だから、ロリコンにも『幼女(少女)期限定』もあるし。
『幼女(少女)性の漂う女の子(女性)嗜好』の他にも。
『幼女(少女)を青田買いして、自分好みに仕立て上げる趣味』っていうの
もあるんじゃないかな、と。
(でも、ロリコンショップやビデオって、その嗜好の人にはたまんないだろ
うけど・・・。)
(そうじゃない人には、痛々しいし、暗い気持ちになりますよね。関係ない
けど。)
でも、今現在のナンパってどういう風に声かけるんでしょう。
最後が4年前だしなぁ・・・確か。
あと、援助交際ですが。
前に勤めてた所のバイトのお嬢さん(茶髪にピアス、ほころびのようなほっ
そい眉で、ひそかに『うそ眉』と呼んでいた)が、
「ふつーに歩いてると、いきなり声かけてくる。」
らしかったそうです。
これのタイトルは、そのまんまかなぁ、とも思います。
『マイフェア・レディ』だもんね。
志保は、どこに連れてかれるんでしょうか(笑)。
そして、何かされるんでしょうか(笑)。
それは、私のみ知る、ってところでしょうか。
では今日はこの辺で。
by.鈴木『季節の変わり目の風邪っていやね。』夕美